学級日誌



 ある午後のできごと(6月27日)

それはちょっとしたいたずら心から始まった。

昼放課,教室に入ったらT子が私の椅子に座っていた。

それを見た私はT子の座席についた。
「5時間目の授業はT子にやってもらうよ。」と声をかけながら。

いつもならこの一言で,たいていの子は,私を押しのけてあわてて自分の席に座ろうとする。

だがT子は違った。
「うれしい。一度やってみたかったんだ。」とやる気満々。



授業開始のチャイムが鳴った。道徳の授業だ。

T子が教壇に立つ。
みんなニヤニヤしている。このお遊びがいつまで続くか興味津々といった顔で。

「ではみなさん教科書を出して下さい。ええと,今日はどこからだったかな。」T子が私の口調をまねて言う。
「××ページだよ。先生。」
「そうですか。では,A子さん読んで下さい。」

T子先生は,クラスの子どもを順々に指名して教科書を読ませていく。
みんなもT子に合わせてまじめに演技している。
私も指名されたので読んだ。

教材を読み終えたところで,T子先生がいくつかの問いかけをした。
他の子どもたちは手を挙げて意見を発表している。

これじゃあ本当の授業じゃないか。


しかしながら,やはり話し合いは長続きしない。
ずいぶん早く終わってしまったので次の教材に進む。

T子が,また誰かを指名しようとしたら,
「そういえば道徳の授業の時は,いつもfukufuku先生が一人で読んでいるよ」と鋭いつっこみ。

「では,先生が読みます。」とT子は動じない。
そして最後まで一人ですらすらと読んでいった。

その堂々とした読みっぷりに,みんなからの賞賛の声。

再びT子先生は,みんなに意見を発表させたりして授業のまねごとをしていたが,それでも少し時間が余ったので,残りの時間はみんなでゲームをやっていた。



道徳の時間が終わり,次は帰りの会だ。

T子先生が告げた宿題は,いつも私が出している宿題よりずいぶん多い。

子どもたちは一斉に私の方見て,救いを求めようとするが,私は知らん顔。

みんなは仕方なくT子先生が告げた宿題を連絡帳に記入していた。



ああ面白かった。



あっ,しまった!
お父さんやお母さんには言わないよう,口止めしておくのを忘れていた。




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