Tuesday, January 6, 1998
97年も押し迫ったある日、『Microsoft 社が Web ブラウザ (インターネット閲覧用ソフト) を OS (Windows) と抱き合わせ販売しているのは違法である、とアメリカの裁判所が認定した』 とのニュースが飛び込んできた。かねてより Microsoft 社は、『Internet Explorer (以下 IE ) は OS (Operating System、いわゆる基本ソフト) の一部であり、抱き合わせ販売ではない』 と主張し続けていたが、これが全く認められなかった格好である。
IE は果たして OS の一部なのだろうか。議論が複雑になるので、OS は Windows95 に限る事にしよう。さまざまな意見はあろうが、私の見解はこうである。
「Web ブラウザは OS の一部ではない。しかし IE は OS の一部である。」
禅問答のようだが、これには理由がある。また、その理由こそが、私が無条件に IE の使用を他人に薦められない理由でもある。
IE はアプリケーションソフトとして見れば、Webブラウザの一つに過ぎない。しかし、IE をインストールしようとすると、自動的に Windows95 のシステムファイルの一部を書き換えるように出来ている。なぜならば、IE が実現しようとする機能の一部が、Windows95 が当初 (日本での発売は1995年10月) 想定した機能を越えており、その対策として、Windows95 を変更 (アップグレード) しているからだ。単体では正常な動作ができず、バージョンに合わせたOSの変更モジュールを同梱している、というのが、IE の正体なのだ。
たとえば、Windows エクスプローラのツリー表示の、ウィンドウの境界で隠れている部分にマウスカーソルを移動すると、隠れているフォルダ名がポップアップ表示される。この機能は、Windows95 の初期版にはなく、IE3.0 以降をインストールするか、最初から IE3.0 以降のインストールされた Windows95 で追加される機能である。IE3.0 以降では、画像の部分にマウスカーソルを移動すると説明 (HTMLタグに"ALT="で設定されている、画像の代わりに表示される文字列) がポップアップ表示されるが、恐らく全く同じ機能を使っているはずである。
他のWeb ブラウザ、たとえば Netscape 社の製品はどうであろうか。最新の Netscape Communicator 4.0 (Web ブラウザ、メール、ニュース、エディタ機能を統合したアプリケーション、Web ブラウザ部分は "Navigator" と呼ばれる) は、IE4.0 とほぼ同等の機能を備えているが、OS の機能で不足するものは独自の DLL (Dynamic Link Library、実行時にアプリケーションソフトから呼び出されるサブルーチン) や、Java (Sun Microsystems 社が開発、コンピュータ言語であると ともに、一種の OS でもある) で開発しているようだ。決して OS には手を加えていない。と言うより、手を加える権利がないのである。
言うまでもなく、Windows95 は Microsoft 社が開発した OS である。だからバージョンアップするのは開発元の勝手、で良いのだろうか。OS は基本ソフトであり、アプリケーションソフトの動作に大きな影響を及ぼす。一般社会で言えば 《法律》 に該当するようなものである。《法律》 が好き勝手に変わってしまっては、社会に大きな混乱が起こるのは当然である。実際、『IE をインストールしたら Windows の動作がおかしくなった』 とか、『今まで動いていたソフトが動かなくなった』 などという話があちこちで起こっている。
もちろん、法律が時代に合わせて改正されていくように、OS が時代に適合するために改訂されていく必要があることは否定しない。しかしそれは十分慎重であるべきと考える。Web ブラウザの機能に合わせて、ユーザーの知らぬ間に OS が変わってしまった、では困るのである。少なくとも、ソフト開発メーカーに対して 『ここがこう変わります』、ユーザーに対して 『こう変わりましたので注意して下さい』 とアナウンスがあるべきと思うが、Web ブラウザの新機能ばかりが強調され、OS が変更されている事に関しては、何らアナウンスがないのが実情である。
そのようなわけで、私は現在、Microsoft 社の最新版である IE4.0 は使っていない。実は IE4.0 もしばらく使ってみた。しかし、一部のアプリケーションで不具合が出るため、現在はアンインストールしている。常用しているのは Netscape Communicator 4.03 であり、サブは IE3.02 である。Windows95 が OSR2 (OEM Service Release 2、パソコンメーカー専用に供給されている Windows95 の改訂第2版) であり、当初から IE3.0 がインストールされていたためか、幸い IE3.02 では支障は起きていない。
Netscape Communicator 4.03 にもいろいろな不具合があり、不正処理で終了する事もよくある。誰にでもすぐわかる不具合が、いつまでたっても修正されないという不満もある。総合的に見て、技術的には IE 4.0 の方が上かも知れない。しかし、Netscape の方が OS に手が加わっていない分だけ安心できる。少なくとも、OS が Web ブラウザと道連れで不正終了し、再起動でも修復できなくなる、といった致命的な障害は考えにくいからである。
私は、よくあるような 『Microsoft 社が (Bill Gates氏が) 生理的に嫌いな人間』 ではない。Windows95 にしろ、Office 製品にしろ、IE にしろ、非常に高い開発力で作られた優れた製品であることは十分に認めている。しかし、今日のパソコンの隆盛に多大な貢献をした OS の開発メーカーとして、Microsoft 社はもう少し自覚と責任を持って、慎重に対処してもらいたいものだと考える。
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