パソコン通信 (ニフティ) は廃れるか?

Sunday, January 11, 1998


   最近、パソコン通信の最大手・ ニフティサーブ が、かなり思い切ったインターネット・シフトを始めた。一番目立つのは通信料金の大幅値下げだが、その他にも、インターネットから通常のブラウザでパソコン通信と同じ内容を見られる 「インターウェイ」 、個人会員のホームページを開設する 「メンバーズ・ホームページ」 など、新たなインターネット向けのサービスを始めている。パソコン通信からではアクセス出来ない、インターネット独自のコンテンツも出現してきた。

    ニフティサーブ は会員数200万人を遥かに越える、日本最大の通信サービスである。 Windows95 フィーバーとともに始まったインターネットブームに対抗するために、GUI (グラフィカル・ユーザー・インタフェース、マウスやアイコンを使って視覚的に制御するもの) を採用した独自のブラウザ 「ニフティマネージャ」 を各社のプリインストールパソコンに搭載し、簡単に入会できるようにした事が、2 位の BIGLOBE や、3位の (既にサービスを停止した) ASCII ネット を、会員数で大きく引き離した理由であろう。

   その ニフティ が、パソコン通信からインターネットに重点をシフトしている理由は何だろうか。それは 「パソコン通信よりもインターネットの方が、ユーザーを獲得しやすい時代になった」 という点に尽きるだろう。事実、最近 ニフティ に新たに加入する会員の話を聞くと、まずインターネットに入会し、それから ニフティ を始めた、という人が非常に多い。過去の傾向とは全く逆である。 ニフティサーブ が、パソコン通信のみにとどまる事に危惧を抱くのは当然であろう。

   では、パソコン通信は、今後廃 (すた) れていくのであろうか? 私の考えは 「NO」 である。


   パソコン通信を 「通信プロトコル (方式・約束事) の一種」 と考えれば、今後は次第に領域が狭まって行くであろう。主流はインターネットと同じ、TCP/IP (Terminal Control Protocol / Internet Protocol) 接続であると思う。

   一方、 ニフティ を始めとするパソコン通信が採用している方式は、テキストベースの通信を拡張した、それぞれ独自のものである。最低限キャラクタ端末とモデムさえあれば通信が出来る、というのはテキストベースの通信の大きな特徴だが、これは端末側の高機能化で、次第に不要になりつつある。むしろ、リアルタイム音声や動画といった新たな形態のデータ通信が必要になるが、独自方式でサポートを続けるのは、ローカルファイルとインターネットがシームレスになりつつある状況の中、かなりの負担になることは否めない。

   ただしパソコン通信そのものは、インターネットに比べてはるかに安全で確実である。通信の信頼性はパソコン通信の会社により管理されている。インターネットのように、どこをどう通るのか全くわからない、といった不安はない。電子メールも確実に管理されている。通信速度も安定しており、インターネットのように回線の混雑に左右される事はない。パソコン通信のプロトコルは、今後も信頼性を重視する特定の用途においては、依然として残っていくであろう。


   さて、パソコン通信をプロトコルとしてでなく 「会員制のコンテンツプロバイダ」 と考えれば、むしろ現在よりその重要性は増すと考える。一例として、 ニフティ のフォーラム/電子会議室と、インターネットのニュースグループとを読み比べてみれば、内容の充実度の差は歴然としている。

    ニフティ のフォーラムは、ニフティ と契約した SYSOP (システム・オペレータ) が主催し、登録された会員のみがアクセスすることができる。SYSOP には、フォーラムの規程にふさわしくない発言を削除したり、より適当な会議室に移動する権限が与えられている。当然会員にも、発言にあたってフォーラムの規程に従う事を要請されている。こう書くと堅苦しいようだが、実はこれが非常に重要なのである。 一定の管理のもとでの整然とした発言は読みやすく、必要な情報の検索も容易である。

   またこれは一般に公開されていないが、フォーラムの SYSOP は ニフティ に対しいわゆる 「場所代」 を支払い、アクセス数 (別のカウント方法かも知れない) に応じた収入を得ているようである。アクセスが減少すれば収入も減少するから、SYSOP はアクセスが増加するように、会員にとって興味のある話題が、常にフォーラムに溢れているように努力しなければならない。魅力を失ったフォーラムは淘汰されるから、 ニフティ には常に魅力的なフォーラムだけが並んでいる事になる。

    ニフティ のフォーラムにはたいてい、常連の会員がいる。パソコンが好き、電子会議室で話をするのが好きな人達であり、会員暦も長い人が多い。電子会議室で何か質問をすれば、たいていこうした人達からの回答がある。回答があるからまた次の質問が来る。多くの電子会議がこのような好循環にあり、不適当な発言者は、SYSOP が削除することなく自然淘汰されていくことが多い。内容の質が高くなって当然である。


   インターネットのニュースグループが、ほぼ無管理状態であることは誰でも簡単にわかる。テーマ別に分割されているはずのニュースに、無関係な内容が簡単に割り込む。ネズミ講紛いの勧誘、法律違反の画像、他人の迷惑を考えない巨大なファイル、悪質な誹謗中傷、コンピュータ・ウィルス、何でもある。こうした有害なコンテンツが、管理者によって削除されることなく、いつまでも残る。誰でもアクセス出来ることと相反する関係だが、無関係なコンテンツの山から必要な情報を抽出する労力も馬鹿にならない。

   質疑応答はどうか。誰かが質問を投げかけると、まずその人が使用している通信ソフトに対してクレームが付く、というのが非常に多い。 ニフティ ではせいぜい 「機種依存文字を使うな」 で済む。発言ヘッダの管理がホスト側で完全に行われているから、トラブルが少ないのである。残念ながら、インターネット用のニュースリーダー (ソフト) は不完全なものが多い。大手のソフトメーカー製のソフトでさえも、各種のトラブルの種をまき散らすように出来ている。こうした本来の趣旨とは異なる話題の進行で、アクセスする意欲をなくすユーザーも数多いはずである。

    ニフティ にはコメントリンクという強力な機能が、ホスト側で用意されている。ある発言に対するコメント (回答) は、元の発言を全く引用しなくても済む。会員が元の発言をたどるのが容易だからである。しかしインターネットのニュースグループでは違う。ソフトの対応がまちまちであるため、元の発言をたどれないユーザーを意識して、該当箇所を引用する必要がある。全文引用も頻繁に行われる。2〜3発言前まで引用されている場合もある。当然通信時間も長引き、ユーザーは同じ文章を繰り返し読まされるが、そうしないと話題の進行がわからないのであるから、 「長文引用をやめろ」 とも言えないのである。


   こうして見てみると、パソコン通信、とりわけ ニフティ は今後、通信プロトコルをインターネット互換の方式にシフトしつつも、「会員制コンテンツ」 としての姿勢を維持し続けるであろうことが推測される。何かに拘束されるのが嫌な人は最初から入会しないだろうが、通信に何かの価値を求めようと思うのであれば、 ニフティ に入会する人は今後も増え、当分廃れる事はないであろう。


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