インターネットは世界の廊下

Tuesday, November 24, 1998


 インターネットに、いわゆるホームページ…正しくはWebページと言うべきだろう…を開設しているために、見知らぬ方からメールをいただく機会が多い。その中でも一番多いのは「金儲けの話」などの勧誘メールである。かなりの方が、攻撃的メールを受け取る危険を避けるために、『ページにはメールアドレスを記載すべきではない』との意見を持っているが、私は、自分のメールアドレスを記載するのは、見ていただく人への礼儀の一つだと思っている ので、今のところ非公開にするつもりはない。幸いにして今のところ、悪質なメールには出会っていない。今後はわからないが…。


 さてご存じのように、私のWebページでは、 高橋由美子 さんを紹介しているページがある。もちろん彼女は、日本国内ではたいへん人気のある女優兼歌手であるから、日本の方々からメールをいただくのは当然なのだが、ここ数年、海外の方からのメールが非常に増えてきた。日本のアイドルの写真集やCDが比較的容易に入手できる台湾・香港の方からはもちろん、最近では、アメリカやカナダの方からもいただくようになった。そうしたメールは、もちろん英語で書かれている。

 そんなメールの中の一通に、このようなことが書かれてあった‥‥‥『大変すばらしいページだと思います。でも英語で書かれていたら、もっとすばらしいページになると思います。』‥‥‥。このメールを見て、私は目の醒める思いであった。私は今まで何をして来たのだろう、と。


英語のソフトウェアで見ると文字が化ける例 日本語で書かれたページを、英語しか読めないソフトウェアで見るとどうなるか。右の図の通り、上の日本語の文章が、シフトJISなら中央、JISなら下のように化けてしまい、全く読めないのである。もちろん、このページも例外ではない。

 われわれ日本人が、英語で書かれたページを読む場合、語学力のある・なしは別として、とにかく人間の書いた文章として見ることはできる。いくら英語が苦手とはいえ、中学・高校とさんざん勉強させられてきたのであるから、単語を拾い読みすれば、ある程度の意味も知ることができるであろう。しかし、英語しか読めないソフトウェア…それが世界の最大多数でもある…でアクセスしている海外の方は、単語を拾い読みすることさえ出来ないのだ。かろうじて画像からページの概要を理解して、ページの作者にメールを送ることしか許されないのである。


 よく、『インターネットには国境がない』 と言うが、その言葉の意味を本当に理解している日本人は、実はかなり少ないのではないだろうか。そう思ったのは、先のメールを読んで、ふと周囲の…いつもアクセスしている日本国内の…ページを読んでみると、英語で書かれたページを準備している例は非常に少ない。世界的に有名な超一流の企業でさえ、英語のページを全く準備していなかったのである。正直言ってこれは驚いた。

 私は、インターネットにページを掲載することは、世界の廊下にポスターを掲示しているようなものだ、と思う。日本人の作ったページだからと言って、日本人だけが見るわけではないのだ。ところが日本語のページは、いわば専用の眼鏡を使わなければ見られない特殊なインクで印刷しているようなもので、眼鏡を持っていない人には、非常に奇異なものに映るであろう。そうした人の中に親切な方がいて、『あなたのページは少し変ですよ』と、メールでわざわざ教えていただいたようなものだ。『私は英語が出来ないから…』と逃げるわけにはいかないと思った。


『よし、日本語のページを英語に翻訳しよう。』と意気込んだのはいいが、残念ながら、英語をすらすらと書けるほど語学に堪能な訳ではない。少々ずるいかも知れないが、ここは一つ翻訳ツールを導入しよう、と考えてパソコンショップへ行った。すると、世の中なかなか捨てたものではなく、私と同じような考えを持つ人が少しずつ増えたようで、以前は英日翻訳、つまり英語のページを日本語で読むための製品しか見かけなかった翻訳ツールの棚に、数は少ないが日英翻訳の製品が並ぶようになっていた。ただし、需要がまだまだ少ないせいか、英日翻訳の製品よりかなり高価な物が多く、定価数万円といったものが多い。

 その中で、1万円でお釣りの来る製品を見つけたのでさっそく購入した。エー・アイ・ソフトが発売している 『英語も日本語も訳せ!!ゴマ Ver.3』 である。エー・アイ・ソフトという会社は、他のソフトメーカーがあまり手がけない、多少アマチュア感覚の製品を多く手がけている。私にとっては日本語入力の 『WXG』 や、ディスクツール 『Disk Explorer』 などでおなじみである。


 さて、『訳せ!!ゴマ』 であるが、Ver.2までは日英翻訳のみだったようであるが、Ver.3になって双方向の訳が可能になった。しかし使っているうちに、これがなかなか曲者であることがわかった。一通りの英訳はしてくれるものの、訳文にはくせがあり、語彙も不足している。英語力があまりない私が見ても、「そんなはずはないでしょう」と笑ってしまうことが多い。たとえば、『抱腹絶倒』 というのを訳してみると、『抱 abdomen 絶倒 』 と出る。『腹』 しか訳してくれず、他はさじを投げてしまうわけだ。

 そのうちに、日本語の持つ複雑な語彙をそのまま訳させようとするのが、そもそも無理な相談である、ということに気がついた。それならば、なるべく平易な日本語に変更してから英訳させてみよう、という方針に変更することにした。すると、『腹を抱えて笑う』 は、『《主語なし》Having the abdomen it laughs』 となった。はて…アメリカの漫画 『Felix the cat』 でも、腹を抱えて笑うシーンが出てくるが、果たして 『Having the abdomen...』 で意味が通じるのだろうか。私はアメリカ人になったことがないのでわからない。まして、読んでくれるのは 『Felix the cat』 を見たことのあるアメリカ人とは限らない。世界中の人が見ているのであるから、あまり自信のない言い回しは避けることにした。結局、 『抱腹絶倒』『a laughter(笑い)』 にまで簡約されている。微妙なニュアンスはどこかに飛んでしまっているが、誤解を与えるより、はるかにましだろう。


  そんな訳で、まずは参照数が一番多いであろう、高橋由美子 さんのCDの解説ページから、一通りの英訳を完了した。たったこれだけでも、1ページにつき3時間以上はかかっている。前途多難である。これだけ苦労して、実際どのくらいの人がページを見てくれるのかはわからない。しかし少なくとも私は、日本人としておそらく初の 高橋由美子 さんの英語ページを作り上げた人物として、長く歴史に刻まれることだろう…なんてことはないだろうな。


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