天下の愚策・地域振興券

Saturday, May 1, 1999


 『地域振興券』 なるものが登場してから、1か月が過ぎようとしている。 果たして、景気は良くなったのか? 残念だが、私にはそうは思えない。


 そもそも地域振興券とは何なのか。 低迷する景気に喝を入れる切り札として、某政党がアイデアを出したものらしい。 最初のアイデアでは、国民全員に金券を配布し、購買を奨励することにより、 物の流れ・金の流れを良くして景気を刺激しよう、というものだったそうだ。 それはそれで、アイデアとしてはまあ良かったかも知れない。 「半年間の期限つき金券」というのも、即効性という話で、一応納得できる。

 しかし、現実に登場した地域振興券は、元のアイデアからは歪曲したものになった。 なんと、配布対象が「15歳以下の子どものいる世帯」と 「生活保護を受けていない老人のいる世帯」に限定されてしまったのだ。 なぜ対象を絞ったか? むろん、財源の問題だろう。それはわからないでもない。 しかし、配布対象の選び方が大問題である。


 景気を刺激するためなら、配布することによって、消費が増える世帯でなければ意味がない。 言い替えれば「不要不急の買い物をしてくれる世帯」でなければならない。 では、「15歳以下の子どものいる世帯」で、消費が増えるだろうか? まさか、だ。

 第一子が生まれる時の世帯主の年齢は、恐らく25〜30歳であろう。 最近は少子化の傾向があるから、とりあえず子どもが一人として、 15歳以下の子どものいる世帯の世帯主の年齢は、25〜45歳だと思われる。 25〜35歳あたりでは、収入はまだそれほど多くないだろう。 子どもは小さいだろうが、幼稚園や保育園は、公立の小学校より経済的負担が大きいのが普通だ。 35〜45歳あたりでは、収入はそこそこだが、子どもは伸び盛り・食べ盛りだろう。 食費や衣料費といった生活必需品の支出が、非常に多くなる時期だと思う。 そうでなくても、家のローンや車のローンがのしかかってくる。 せっせと働いて貯めた貯金を少しずつとり崩して、生活費に充当している姿が見える。

 こうした世帯に「地域振興券」を配布して、果たして支出が増えるだろうか。 一人あたり2万円の金券は、おそらく生活必需品の購入に充てられたことだろう。 結果的には、貯金の取り崩しが多少減っただけで、支出はほとんど増えなかったと思う。 これでは、「景気を刺激する」という、本来の目的には全く役立たない。


 本当に景気を刺激するならば、不要不急の買い物をする人にこそ、金券を配布するべきだ。 それは誰か? 私はこう思う。

すなわち、どう見ても、経済的に余裕のある世帯である。 心情的には、こうした富裕世帯を、さらに富裕にするような行為は、許しがたいと思う。 しかし、景気を刺激するのが目的であれば、こうした人に配布する方が、はるかに効果的だ。

 若い独身者は、収入は少ないが、まだまだ遊びたい盛りで、不要不急の支出には慣れっこだ。 一方、孫がいる人は、子育ても終わり、「可愛い孫に何か買ってやりたい」と思う世代だ。 特に買うものはなくても、使わなければもったいない。 ふだん買わないようなものを購入して、確実に支出が増加するはずだ。

 なぜ、こういう人達への配布をしなかったのか? たぶん、「配布するなら、経済的に苦しい世帯へ」という考えがあったのだろう。 しかしそれは、本来の目的を果たせない、まさに「愚策」と言うにふさわしいものだ。 地域振興券の財源は、当然国民の税金だろう。 たったの2万円、しかも1回限りの金券として税金が戻って来るよりは、 景気が好転して残業が増え、月々の手当てが5,000円増える方が、ずっと良いはずだ。


 「地域振興券」に踊らされた地元の商店の人達も、実に気の毒だ。 「私の店はお釣りを出します」と宣言して、対象店から外された青森の八百屋さんがあるそうだ。 たしかに、1,000円の金券でお釣りの出ない野菜など、誰も買おうとは思わないだろう。

 ところで、「地域振興券」は、百貨店や大手スーパーでも利用できるようになっている。 全国チェーンで、どこが「地域」なのだろう、という疑問もあるが、それはまだいい。 これらの店では、地域振興券での購入に対して、優待割引券や自店の商品券を出す例が多い。 「お釣り」は出せないが、商品券などは抵触しないらしい。 青森の八百屋さんは、この事実をどう感じているのだろう。


 さて、地域振興券の使用開始から1か月。 誰の目にも、景気が少しも刺激されていないことが、そろそろ明らかになる頃だろう。 「わが党が『地域振興券』を実現しました」と鼻高々だった某政党のトーンもダウンして、 「わが党の趣旨を骨抜きにした政府が悪い」と、下手な言い訳をするだろう。 だが、骨抜きになったものに賛成したのだから、それは連帯責任というものだ。 もちろん、本来の趣旨をないがしろにした政府も、責められて当然だと思う。 くれぐれも反省して、一刻も早く、景気回復の有効な手段を講じて欲しいものだ。


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