さらば、Outlook

Saturday, May 8, 1999


 PIM (Personal Information Manager) というカテゴリのソフトがある。 簡単に言えば、個人のスケジュール管理、すなわち会議の日程や、 やるべき事柄を整理して、 時間が来ればそれをユーザーに知らせてくれるソフトだ。

 世の中に PIM ソフトは実に多い。 大手ソフトメーカーはこぞって発表しているが、どれも高価なものだ。 そのためか、個人が作成したシェアウェアなども相当に多い。 ベクターのサイトで検索しても、 数十種類が簡単に見つかると思う。


 私がPIMソフトに求める条件は、優先順位の高いものから、 以下のようなものだ。

  1. スケジュールが簡単に入力・修正できること。 マウスドラッグで時間の範囲を設定したり、 日程を変更したりできることが必要。
  2. アラーム機能があること。 これが出来なければ、PIMソフトの意義はないに等しい。
  3. ソフトの動作が軽いこと。 アラーム機能を使うためには、パソコンが動いている間は、 継続して動作している方がいい。 都合で終了した時でも、再起動が気楽にできるものがいい。 他のソフトの動作を遅くするような、重たいソフトは困る。

 先月まで私は、Microsoft Outlook97 を使っていた。 理由は、会社では Microsoft Office97 を標準的に使用しているから、である。 つまり、たまたま手元にあったという事だ。 それ以上の積極的な理由はない、と言っていい。 では、Outlook は、上記の3条件を満たしているだろうか。 第1・第2の条件に関しては、ほぼ合格だろうと思う。 しかし第3の条件に関しては、どう考えても落第点だ。


 Outlook は、鈍重で有名な Microsoft Exchange (いわゆる「受信トレイ」、別名 Windows Messaging Subsystem) をベースにしている。 Exchange 自体は、各種のメール、FAX などを統合的に扱う、 Windows95 に付属した情報交換用ソフトである。 MAPI (Mail Application Protocol Interface) と称して、 従来、Windows95 の各種アプリケーションからの「送信」という処理は、 基本的にはすべて Exchange を経由することになっていた。

 ただし、現在の Windows98 では、 Outlook Express が標準メールソフトとなっている。 Netscape に大きく後れを取ったインターネット対応を、 一気に挽回するべく無償提供された、Internet Explorer の付属ソフトだ。 "Express" には「手っ取り早い・簡易な」という意味がある。 名前のイメージで、Outlook と関係がありそうに思えるが、 OutlookOutlook Express は、全く別のソフトである。 どのくらい違うかを自動車に例えるならば、 「乗り合いバス」 と 「スポーツカー」 くらい違うだろう。 インターネット・ハイウェイを快適に飛ばすのが目的なら、 スポーツカーの方が適しているのは言うまでもない。


 多くの人が知らないのだが、Outlook の本体は、Exchange そのものである。 Exchange の外側に、予定・仕事・メモなどの機能を追加して、 外観を変化させて PIMソフトとしたものが、Outlook なのである。 その証拠に、「アプリケーションの追加と削除」で「受信トレイ」を削除すると、 Outlook は見事に動かなくなる。 このまま受信トレイを再インストールしても、 Outlook は正常に動作しない。該当者は絶対やらないこと。 Outlook の再インストールで直ればラッキー。

 Exchange は、Pentium 以前の非力なパソコンでは、 起動に1分くらいかかって普通だった。 私の個人用のパソコンは Pentium 150MHz を搭載しているが、 だいたい20秒はかかる。Outlook だと、もう少しかかる。 使うのが嫌になっても当然だと思う。


 そんなに嫌なソフトを、なぜ今まで使ってきたか。 答えは、私の求める第1・第2の条件をともに満たす PIM ソフトが見つからなかったからだ。 私はシェアウェアを何種類か試してみたが、どれも今ひとつ物足りなかった。 私が試用した範囲では、第1の条件である、 マウスでのドラッグが可能なものは皆無だった。

 多分その時点でも、市販のソフトには条件に合致するものがあっただろう。 しかし、どれもが数万円の高価なソフトであり、 もし期待を裏切られた場合を考えると、 どうしても二の足を踏んでしまう。 そして、悶々としながら、嫌いな Outlook に頼らざるを得ない日々が続いた。


 ところがこの4月16日、表計算ソフトの 1-2-3 などで一世を風靡した Lotus (ロータス) が、 「Organizer (オーガナイザー) 2000」 を発売した。 Organizer 自体が著名な PIM ソフトであることは、以前から知っていた。 高価ゆえに「二の足を踏んだ」ソフトのうちの一つである。 しかし、Lotus は、3,980 円という、戦略価格を設定してきた。 広告を見れば「M 社製 PIM ソフトと、同等以上の機能で、この価格!!」とある。 これはまさに、私のために作られたようなものだ。

 翌17日は土曜日。私はあるコンピュータショップに行ってみた。 私以外にも、悶々とした日々を送っていた人が多かったのだろう、 陳列棚にあったのは、輸送用の空箱の山だけであった。 もう一軒のコンピュータショップへ行って、ようやく現物を手にした。 パッケージは CD-ROM ジャケットサイズ。 マニュアルは別売りで、添付されていない。 3,980 円では、余計なものは付けられないだろう。 輸送コストも下げなければならない。だが、使うにはこれで十分だ。 後で聞けば、携帯電話接続セットと一緒に買った人がかなり多いらしい。 携帯電話の短縮ダイヤルまで扱えるのが、いかにも今日的だ。


 第1・第2の条件をクリアしていることは、すぐに納得できた。 使ってみて感じたのは、軽快さだ。 起動自体はそう早いわけではないと思う。 しかし、各種の操作に Outlook のような鈍重さが感じられない。 それ以上に感じたのは、ユーザーインターフェースの楽しさだ。

 Organizer の画面は、3穴型のシステム手帳を模倣している。 革表紙のシステム手帳が、ウィンドウ一杯に広げられたようなデザインだ。 しかも、革表紙の色やデザインが、自由に変えられるのだ。 「カレンダー」「連絡先」といった選択も、 システム手帳のインデックス紙を模したタブで行う。 色もカラフルで、もちろん変更も自由にできる。 Outlook はデザインも素っ気もなく、グレー一色の世界だった。 色がつくだけで、こんなに扱う気分が変わるのかと、改めて感じた。

 サウンドも面白い。 マウスでページをめくるたびに、「シャパッ!!」と紙をめくるような音が出る。 アイテムをごみ箱に放り込むと、「ボォーッ!!」と紙を燃やすような音が出る。 音声合成で、アラームに「そろそろ時間です」などと設定することもできる。 Outlook のイルカ君には、とても出来ない芸当だ。 実用性はともかく、このような機能があること自体が楽しい。

 実は、私の求める第3の条件とは、物理的な軽快さだけではなく、 使う楽しさを求めていたのだ、ということに気がついた。 Organizer は、私の3つの条件を全てクリアしてくれた。


 PIM ソフトとして十分に使えそうなのがわかったので、 Outlook にあったデータを、Organizer に移し変えることにした。 しかしこれはかなり難作業だった。 インポートユーティリティはあるが、あまり役に立たないと言っていい。 設定項目が違い過ぎる。場合によっては、手作業で入力し直した方が早い。 だが、1回きりの作業なので、あまり支障にはならない。

 Organizer を使い始めた次の日、Outlook がへそを曲げて起動しなくなった。 単に再インストールしても駄目だった。実はこれも過去に何度もあったことだ。 以前なら、何とかして立ち上げようと苦労したものだが、今回は違う。 ちょうど愛想が尽きたところでもあり、さっさとアンインストールしてしまった。


 Organizer を使い始めて3週間。 実際使ってみると、結構癖があり、バグではないかと思われる現象も出てきた。 だが、もう Outlook に戻る気はしない。見る気もしない。 Outlook は結局、ソフトを使う楽しさを、私に何も与えてくれなかった。 「使う楽しさ」、業務用ソフトでは軽視されがちだが、 実は非常に重要なことだと思う。ソフトを使うのは人間なのだから。

 私のパソコンに Outlook はなくなったが、 本体である Exchange は手放せない。理由は FAX のためだ。 Microsoft FAX は、Exchange がないと動作しないのだ。 世の中には、より優れた FAX ソフトも沢山あるだろう。 しかし、私の使い方では、せいぜい年に数回送信するだけである。 毎日使う PIM ソフトと同列には論じられない。 だから、Outlook はもう要らない、Exchange で十分。 さらば、Outlook


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