積ん読書庫


伊平次とわらわ

坂田靖子・著
潮出版社・刊
全2巻
1993年から1996年にかけて『月刊コミック・トム』に隔月連載されていた漫画「墓守伊平次」をまとめた本。当初「わらわ」と呼ばれる犬はゲストキャラのつもりだったらしいが(第1話を読んだ印象)、そのままレギュラーになってしまったための改題と思われる。

平安のころ、とある村で墓守をしていた伊平次のところへ高貴な女性のようにしゃべる犬が現れる。この、自分のことを「わらわ」と呼ぶ犬が結局伊平次のところに居着いてしまい、一人と一匹が墓守であるがためにいろいろの怪奇現象と出会う様を描いた国産ファンタジー漫画。

伊平次は、墓守をしているためにしゃれこうべや骨とのつきあいが深く、少々の幽霊や妖異にも簡単に動じない。至って楽観的で、わらわのわがままに文句を言いながらも付き合うお人好し。わらわの方は、野良犬に霊魂が宿ったらしく、人と会話ができる。育ちの良さなのかとてつもないわがままだが、その言葉遣いや行動は憎めない。

ことに最近その傾向が強いが、坂田靖子の漫画にもあまり悪人は出てこない。この漫画でも、まあ中にはあれだけど、悪意の人間も妖怪もあまりいない。それでも魅力的な話が続き、読みおわるとほっとしてしまう。実に何ともほんわかしていて暖かい。

それと、ここまでやっていいのかと思うほど省略された描線。でも、ちゃんと表情が現れているのがすごい。

掛け合い漫才のような会話も楽しく、殺伐とした漫画の多い昨今、心の底からほのぼのできる漫画のひとつである。

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