やまいもの雑記

ウルトラQ


「ウルトラQ」は、衝撃だった。映画の世界のものだと思っていた本格怪獣特撮がテレビでお目にかかれるようになったのだ。

記憶に残っているものでは「ナショナルキッド」でキッドが怪獣の周りをぐるぐる飛び回っていたような気がする。伝え聞くところだと「月光仮面」でマンモスコングが、「マリンコング」で同名の怪獣がテレビに登場していたらしい。現在からは想像もできないだろうが、とにかく当時のテレビでは劇場用映画のテレビ放送以外は現在の漫画同人誌即売会のコスチュームプレイにすらおよばないようなちんけなぬいぐるみか、書き割りみたいな怪獣がごくまれに登場するだけだったのだ。

たまたま「大怪獣アゴン」を見たのはもっと後のように覚えている。確か「アトミックドラゴン」を略して「アゴン」と呼ばれていた怪獣が、じきに牙を生やして古代怪獣アロンとして「マグマ大使」に登場したからだ。「マグマ大使」はたった一週間足らずの差で「ウルトラマン」に先駆けて国産連続カラー特撮番組の栄誉に輝いている。だから、「ウルトラQ」の後番組「ウルトラマン」の始まるちょっと前に「大怪獣アゴン」を見た、というのが根拠だが、単発の「大怪獣アゴン」を正確にはいつ見たのかなんて完璧にあやふやである。

初めて見たのは第七話「SOS富士山」だった。学校で話題の怪獣番組がどうしても見たくて、「W3」を見たがる兄を父に説得してもらったような気がする。

あの、不気味な音とともにわけのわからない模様がぐるぐる回りながら「ウルトラQ」という文字になっていくオープニングが始まった。何やら無気味なテーマ音楽に重々しい口調のナレーションが入る(それが石坂浩二だと知ったのは、少しあとになってから)。トラックが捨てていった土砂が集まって岩のような怪獣が現れ、富士の樹海で行方不明になった青年との対決……。

ゴルゴスのS2器官(笑)を警官から奪った短銃で青年が撃ち、倒れた怪獣から引っ張り出したボウリングのボールぐらいの球を空に投げ上げて短銃で撃って砕くシーンは、いまだに脳裡に焼きついている。

その次に見たのが第八話「クモ男爵」。ドライブ先で避難した洋館が、男爵と娘が蜘蛛に化けたという伝説のあるクモ男爵の館で、避難した人たちがつぎつぎと巨大な毒蜘蛛に襲われる。うしろから迫る毒蜘蛛などの描写が当時はひたすら怖かったが、先日LDで見直したらあまりたいしたことはなかった。映りの悪い白黒テレビがよかったのだろうか。日本人もまだ大半が無邪気だったし。

毎週見せてもらったわけではなく、しばらくは「W3」のいいところが終わったあとでラストシーンだけちらっとのぞくのが続いた。妹が「クモ男爵」に脅えたのかもしれない。次にまともに見たのは第十四話「東京氷河期」。

元日本軍戦闘機乗りの父親(まだそういう人が働き盛りだったころである)が出稼ぎに出て音信不通になり、その息子の少年が東京に父親探しにやってきて、南極の温暖化のため北極へ移動途中のペギラが真夏の東京を氷づけにするのに巻き込まれる。ペギラを撃退するには南極の苔からとれたペギミンH(森山塔には無関係である)という物質が有効という。主人公の万条目がそれをセスナでペギラにぶつけようとすると、浮浪者(実は上京してきた少年の父親)がセスナを乗っ取ってペギラに向かう。が、発射装置が壊れて攻撃できず、ついに操縦を誤ってペギラにセスナごと突っ込む。ペギラは東京を去り、少年は父の遺骨を胸に故郷に帰っていく。

なんでペギラが温暖化しても氷の世界の南極をおん出て赤道直下を通る気になったり(まあ高度が高ければ気温は低いが)真夏の東京に立ち寄る気になったかとか、東京を氷づけにできるほどの威力の冷凍光線をどうして南極で使わなかったかとか、さまざまな疑問はこっちへ置いといて、この元戦闘機乗りが自分たちを襲撃してきた脅威に対して果敢に立ち上がり、まあ操縦を誤ったのと自ら選んだのの差はあれ、敵に対して突っ込んでいって起死回生の致命傷を与えるパターン、映画「インディペンデンスデイ」のクライマックスにそっくりだと思うのだがいかが。

てなわけで、初回放送ではこの後「ガラモンの逆襲」「宇宙指令M774」「海底原人ラゴン」「変身」などのラスト数分だけ見ることができたと記憶している。

実際のところ、初回放送の頃には幼すぎてとにかく怪獣が出てくればいいや、みたいな見方しかしていなかったと思う。しかし後年見直してみると、現在と比べての特撮技術はともかく、人間対怪現象の実にSFSFした物語が展開されていた。

16ミリフィルム全盛のテレビドラマに35ミリフィルムを使ったり、すべての撮影を終了してから放送順序を決めるなど、実に贅沢な作り方をしていたと聞くし、もう世の中が変わらない限りこんなテレビ番組は見ることはできないのではなかろうか。

そういえば、アメリカにふた月近く出張してたときに見た向こうのケーブルテレビでは、「じゃじゃ馬億万長者」「わんぱくフリッパー」「トムとジェリー」「それ行けスマート」「インベーダー」「超人ハルク」などが新作とおぼしき番組と一緒にゴールデンタイムからプライムタイムに放送されていた。目先の新しさや刺激を追い求めず、いいものは時代を超えて何度でも見るという習慣を身に付けない限り、日本のテレビ番組に明るい未来はないぞ、たぶん。

うう、忙しさにかまけて一月ぶりの更新か……。
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