「レディファースト1」

は別にフェミニストでも女性礼賛者でもないが、女性には道を譲ることにしている。特に前方に危険があると察知したときは必ず女性を先に行かせる。私ほどレディファーストを徹底して実践している男子は少ないだろう。

かつて、アメリカに出張で行ったときのこと、宿泊先のホテルの一階ロビーでエレベータを待っているとおばちゃんの一団がどやどやとやって来た。おばちゃんはどこの国でもおばちゃんで、見ためと話す言葉が違いこそすれおしゃべり好きなのである。瞬く間にロビーはおばちゃんたちが発する奇声、嬌声で充満した。

エレベータがやってきた。おばちゃんたちはおしゃべりを止めることなく、どかどかと乗り込んでいく。レディファーストの本場だ。私は先に来ていたにもかかわらず、もちろん道を譲った。

一台目は満杯となり、おばちゃんたちのしゃべり声とともに上昇していく。すると、すぐにその声がエレベータ脇の階段の方から聞こえてきた。なんと、おばちゃん達はすぐ上の二階でエレベータを降りたのである。そこで何かのパーティーが開かれるらしい。

わずかひとつ階を上がるのにもアメリカ人はエレベータを使うのである。文明国なのである。
--二台目が到着して第二陣が乗り込んでいく--
文明人は頭脳が第一であり肉体を動かすことなどもっての外なのであろう。そのくせ、公園でジョギングしたりする。もっとも、その公園までは車で行くに違いない。隣家を訪れるのにも車を使うのだろう。車にガソリンを入れに近くのスタンドへ行くときも絶対に車だ。これは断言できる。
--三台目も出発した。乗り込むときにひとりのおばちゃんが私ににっこりうなずいてみせた。日曜日だというのに私はその時スーツを着ていた。出張は身軽にがモットーなので、普段着など持っていなかったのである。そんな私をホテルの従業員とでも思ったのだろう--

かくして、私は四台目のエレベータに乗って、やっと三階の部屋にたどりつくことができた。やれやれ、レディファーストとは辛いものである。

そういえば、この章で私、別に怒っていませんので悪しからず。

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