申し込み編


し込みは複雑だし、窓口は混雑しているし、などという風評に惑わされた小生はその手の書籍や雑誌を読み漁った(ほとんどは立ち読みだったが)。そして、申請書類のものものしさに恐れをなしたのである。評判どおりの難解さ!小生の脳裏に、運転免許証更新の際にいつも対峙する、あの交通安全協会のおばちゃんの厭味ったらしい声や、悪魔のような表情が蘇ってきた。「ああ、これダメ。ここにも記入して」、「呼ばれたらすぐ来て。忙しいんだから」、「写真持ってきたんだったら、なんであの列に並んでたの?」ああ!

DSUも買ってしまった。もはや引き返すことはできない。窓口でどんな態度をとられようと敢然と立ち向かうぞ。小生は断固たる決意を胸に秘め、近所の営業所へと膝を震わせながら向かった(情けない)。

営業所の中は上を下への大騒ぎ、かと思いきや、小生の他に客は誰もいない。窓口らしいテーブルが四つほどあって、各々にピンクの制服姿の女性が所在なげに座っている。小生が入っていくと誰が応対するかでひともめあったほどだ。

中でも年配の女性に招かれて、小生はその女性の前の椅子に腰をおろした。もう一人の長い髪サラサラの若い女性の方が小生の好みだったのに残念だ。いよいよ決戦が始まる。小生は身構えた。手は緊張で汗ばんでいる。

まず、電話番号をきかれる。小生は腹の底から絞りだすように、電話番号を伝えた。相手を威嚇する、なかなか凄みのある声。いい調子だ。こういうことは出だしが大切なのだ。相手になめられてはいけない。

女性は小生の電話番号を入力すると、小生の名前を読み上げ確認してきた。そこまで調べあげているとはあなどれない相手だ。続いて、例の申請書類が目の前のテーブルに置かれた。いよいよだ。と、その女性は自分でどんどん記入していく。小生がDSUのマニュアル持ってきたことをほめてくれたりもして(「マニュアルを持ってきて頂けると記入が楽なんですよ」)。わずか十分ほどで書類は完成した。小生が記入したのは自分の名前と住所だけだ。

「それでは二週間後に工事に伺います」女性の声をぼう然と聞きながら、小生は営業所をあとにした。

申し込みに行く際にはDSUのマニュアルを忘れないこと。それに、自分の名前と住所を書けるようにしておくことが肝要だ。

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