Shave!

ひげそりの哲学

Apr.1999(追記/Jun.1999/Oct.2004/Sep.2006/Apr.2012/May 2013/Feb.2014/May-Jul.-Aug.2016)
- ジレット・センサーから、 ジレット・プロシールドまで -


おぱく堂主人・白龍亭主


●深剃りを求めて…

 実はT字型のカミソリ歴はそんなに長くない。
* このページを公開した 1999年では、電動シェーバー歴 19年+T字型カミソリ歴 9年だったから「長くはない」と書いたが、2012年に追記した時点では、カミソリ歴 22年に達し、冒頭文と実態が合わなくなってしまった。ということで、冒頭の一行を取消。……最終追記の 2016年では、カミソリ歴 26年。それを全部書いているから、このページは長文だ。
 ひげが生えはじめたのは中学一年の頃だったが、いきなり電動シェーバーを使った。これはモデルチェンジを繰り返しても替刃の互換性が保たれていたために、二十代後半まで十数年使い続けることができた。途中T字型のカミソリも試したが、結局「電動ほど深剃りができない」という予想外の事実に幻滅して、電動では剃れない産毛剃り用にしか使わなかった。(電動でも機種によってはまるで深剃りができないとは、この時は知らなかった)

 そう、自分が求めているのは深剃りなのだ。
 ひげを剃った後に手で触ってみて、ひげの感触が一切ないツルツルの状態が気持ちいい。こういう話をすると、なぜか「スケベ♪」とか、ひげじゃない方向まで勝手に想像されてしまうこともあって心外なのだが、あくまでひげそりの話である。
 そんな深剃りへの要求から、新しい電動シェーバーを買った。
 これがもう、とんでもなく凄い深剃りマシン。ちょっと皮膚に押しつける力が強いと血だらけになる。ひげが深く剃れてゆく感触は快感だったが、血だらけになるのはやっかいだった。おそらくメーカーもそれを問題と思ったのだろう。ある時から替刃の切れ味が鈍くなった。皮膚に強く押しつけても血だらけになることはなくなったのだ。そのかわり、いまいち深剃りができずに快感が失われてしまった。

 そんな欲求不満な日々は、予想に反してT字型のカミソリによって解消された。
 電動シェーバーの充電池がへたってきてすぐに充電切れをおこすようになり、欲求不満が極限に達した頃、2枚刃をサスペンションで支えるというT字型カミソリのCMを見た。メカマニアの直感としてこれは深剃りできそうな気がしたので早速購入。予感は的中し、電動に負けない深剃りをT字型では初めて経験した。これが、ジレット・センサー。これ以後、電動派をやめてT字派に転向した。
* その後、電動シェーバーがどのように進化をしたのかも知らないし、電動かT字か、という比較をするつもりはない。ヒゲが濃くて日に何回も剃らなければならない人はどこにいても剃れる電動しか選択肢はないだろうし、充電めんどくせぇ〜とかいう怠惰な人間はT字しかなかろう。人それぞれ好きにすればよいのだ。つまり、T字派に転向した自分ではあるが、このページは他者に転向を勧めるものではない。


●理想のカミソリとの出会いと別れ

 ジレット・センサー(1990年〜/以下センサー、又は旧センサーと略す)は、それ以前の製品と比較して軽く、なにやら頼りない印象だった。しかし使ってみると、宣伝文句どおりどんな角度で皮膚に当てても2枚刃が皮膚に追従して、軽いタッチで深剃りができる。T字型カミソリの新次元を開いた、といってもよい製品である。
 これは自分にとって理想のカミソリ♪
 その後何もなければ、センサーをそのまま使い続けていただろうし、ライバルのシック製品を使ってみることもなかっただろう。自分が求める深剃りができればそれでいいのだから。しかし、予想もしない方向に事態は展開してしまったのである。

Gillette Sensor

 問題は、センサーの改良版として登場した、センサー・エクセル(1994年〜/以下エクセル)
 刃の直前にギザギザの起毛板があって、これがひげを立たせるために更に深剃りが可能とのことだった。深剃りと聞けば黙ってはいられない。早速買った。
 確かに軽くあてるだけで深剃りができる。
 というより起毛板があるために刃が皮膚に軽くしか当たらない構造になっている。旧センサーも軽いタッチで深剃りができたが、エクセルのそれは刃が当たっている感触すらほとんどない異次元の軽さ。皮膚を傷めずに深剃りができるという意味でこれは画期的な改良には違いない。……だが、自分の求める深剃りとは違ったのだ。

 何が違うのか?

 軽く当てるだけで一定レベルの深剃りができる。これは良い。だが、それ以上のレベルの更なる深剃りをしようとすると、起毛板が邪魔になる。それを押して無理やり超深剃りをしようとすると力が入りすぎて怪我をしやすい。というか、実際に怪我をしたのだが。
 また、起毛板があるために刃が常に一定の角度で皮膚に当たる。理想の刃角度を保持できるという意味では画期的改良ではある。何も考えないで剃るには良いが、たとえば、あごの下のように半径の小さな曲面では刃を当てる角度を変えるなどの色々と工夫して剃らないと究極の深剃りはできない。エクセルはそういう逸脱した剃り方を許さないのである。

 替刃が併売されているうちはそれでもよかった。
 ところが、旧センサーの替刃が近所のコンビニから消えてしまうに及んで「こりゃまずいぞ」ってことになった。とりあえず遠方の店で旧センサーの替刃を買いだめはしたが、旧製品となってしまった以上、在庫がなくなれば終わりである。

 事ここに至って、ライバル製品のシック・FXハイパー(1996年〜/以下FX)を試した。
 曲がる2枚刃が皮膚の微妙な曲線に追従する、とのキャッチフレーズだったが、はっきり言ってこれは旧世代レベル。センサーが開いた新世代カミソリを知ってしまったら、このレベルでは満足できない。
 もっとも、ジレットもエクセルで変な方向に行ってしまったため、エクセル対FXという勝負なら、甲乙つけがたいとは思う。


●哲学の違うふたつの流れ

 買いだめしておいた旧センサーの替刃もいよいよ尽きてしまった。しかし天は我を見放さなかった。
 新製品である。

 先に買ったのはジレット・マッハシン3(1998年〜/以下マッハシン3)
 ズバ剃り3枚刃、という変なキャッチフレーズの製品だが「3枚刃」というところが切れ味の鋭さを期待させる。その期待に対して実際は……。
 方向性としては「軽く深剃りができる」というエクセルの流れにある。
 これも例の起毛板のおかげだろう。だが、エクセルよりはるかに進化している。相変わらず一定レベル以上の深剃りをしようとすると苦労するのだが、その一定レベルがはるかに高いところにある。また、替刃がスイングする支点が起毛板の位置に移動しているため、無理矢理力を入れて怪我をすることもなくなった。
 そして、これまた皮膚に対する刃角度を徹底的に保持する方向にあるのだが、考えてみれば、逸脱した剃り方を許さないこの設計があってこその3枚刃なのだ。そうでなければ、3枚もある刃がちゃんと皮膚に接しないことになってしまう。

Gillette Machsyn3 and Schick Protector 3D

 エクセルでは自分の求める深剃りには程遠かったが、マッハシン3はかなり満足できるレベルになった。
 だが、やはり究極の深剃りのためには逸脱した剃り方をしたい時もあるし、異次元ともいえる軽いタッチも楽ではあるが「剃った」という達成感がない。そこで、再びライバルのシック製品に手を出してみることにした。


 シック・プロテクター3D(1998年〜/以下プロテクター3D)は、マッハシン3より先に発売されていたのだが、シックにはFXで悪いイメージを持っていたため買うのを躊躇っていたのだ。
 よく見てみると、プロテクター3DはFXとはまるで違う。
 構造的には、ライバル・ジレットの旧センサーの流れにある。早い話が、旧センサーに左右の首振り機能を追加すればプロテクター3Dになる。ライバルの設計思想を取り入れたという点では敗北かもしれないが、良いものは良いのだ。FXの流れを捨ててこの方向に転換したのは正解だと思う。

 持ってみて最初に感じるのは「重さ」である。
 軽さを追究しているジレット製品より重いだけではなく、同社旧製品のFXと比べてもかなり重い。つまり、わざと重くしているのである。これはジレットとは逆方向の設計思想を予感させる。
 剃ってみて、その予感が的中したことを知った。
 刃が皮膚に当たっているという感触が強くある(旧世代との比較ではさほど強くもないが)。この感触と重さゆえに、剃ったという達成感もある。また、逸脱した剃り方をも許す自由度がある。ジレットとはまさに逆なのだ。ただ、剃り方の自由度からして究極の深剃りではこちらの勝ちだが、軽く剃った時の深剃りレベルはマッハシン3の方が上。


 この両者の違いは、自動車のATとMTの違いに似ている。
 ATは楽だけど、あるレベル以上の走りを求めると自分の思いどおりにならなくて辛いこともある。MTは自分の思いどおりにはなるものの気楽さは犠牲になる。マッハシン3はATであり、プロテクター3DはMTなのだ。旧センサーが開いた新世代カミソリは、ふたつの流れを生み出したのである。

 自分の求めるひげそりに合っているのは、プロテクター3D。
 といっても両方とも買ってしまったし、マンハシン3の「何も考えずに安全な深剃りができる」というのも捨てがたい。プロテクター3Dは自由度の高い分、やる気になれば血の出る剃り方も可能であり、深剃りマニアの自分は無意識のうちにそういうリスキーな剃り方をしてしまうのである(あほ)。CMでは横滑りしても「切れてない」と安全性を主張しているし事実旧世代カミソリより安全だと思うが、横滑りの安全性はともかく、通常使用の範囲での皮膚へのダメージはマッハシン3の方が軽い。しかし、安全性と自由度は両立し難い項目であり「何が何でも安全」という方向じゃないからこそプロテクター3Dは自由な剃り方ができるのだ。

 ……そんなわけで両方使っている。
 まずマッハシン3で全体を深剃りして、あごの下などだけプロテクター3Dで更に超深剃りをする。たとえて言えば、街中はATで楽に走ってワインディングロードではMTで走りを楽しむようなもの。贅沢な使い方ではあるが、自動車を2台買うのと違ってカミソリを2つ買うのは大した出費じゃない。
* この記事を最初に書いた時は、2つ買うことに抵抗はなかったが、後々、カミソリも高価格になり、自分自身の経済的事情も悪化したため、今は2つ買おうとは思わない。


●しかし…

 この両者には問題点もある。
 マッハシン3は刃カバーがない。使う時の安全性はやたらと高いくせに、置いておく時の安全性は考えてないようだ。おかげで余計な気をつかわされる。
 一方、プロテクター3Dにも困ったことがある。くさいのだ(笑)。
 原因は自分の垢だから文句は言えないのだが、刃と刃の間につまった汚れが非常に取りにくい。ジレットは刃周辺の構造がスカスカなので水通しが良く汚れは簡単に落ちる。ところが、ブロテクター3Dは刃が上下左右に3次元的に動くという自慢の構造が複雑であるがゆえに水が通りにくく、かなりの水圧でも流れない。爪楊枝を使ってかきだすしかないが、これまた自慢の横滑り防止用マイクロセイフティワイヤーが掃除の邪魔。結局何もせずに放っておいて、くさくなるのだ。

 この点、旧センサーは問題なかった。
 簡単に外れる問題はあったが刃カバーは一応あったし、マッハシン3ほどではないが水通しも良くて汚れも溜まりにくかった。(ホルダー側の替刃との接点は汚れが溜まりやすかったけど)
 自分はべつに古いものにノスタルジーを感じるような人間ではない。であるにもかかわらず「旧製品の方が良かった」と思うことがある。マンハシン3もプロテクター3Dも物凄く進化した製品であることは確かであり、必ずしもカミソリに関して旧製品が良いとは言い切れない。しかし、自分にとっては結果的に旧センサーを超えるカミソリに出会えないまま。
 旧センサーは良かった、と言いたくなる。
 プロテクター3Dがくさくならなきゃ、こんなことは言わないのに……。


●あ〜(Jun.1999 追記)

 住んでいるところから 1.2km離れたところにドラッグストアがある。
 もっと近くにもあるから、そっちの店には行ったことがなかった。たまたま、その店の前を通った時にトイレットペーパーが安かったので、つい店に入ってしまった。そうしたら「旧センサー」があった。

 なに〜!
 理想のカミソリに再会したのは嬉しい。しかし、今まで試行錯誤してきたことはなんだったんだ。さらにいえば、こんなページを書いて堂々と公開しちゃって恥ずかしいじゃないか…。


●4枚刃で分かったジレンマ(Oct.2004 追記)

 その後、掃除の面倒なプロテクター3Dを離れて、マンハシン3を使い続けた。
 いつしか長い時が流れ、さすがに取りきれない汚れも溜まってきて、替刃だけでなくホルダーごと交換すべき時が来た。使い慣れたマッハシン3の後継品と思しき、微少振動でヒゲを立たせる「M3パワー」にしようかとも思ったが、4枚刃への好奇心が優ってシック・クアトロ4(2004年〜/以下クアトロ4)を選んだ。

Schick Quattro4

 ホルダーを握って驚いたのは軽いこと。プロテクター3Dが重かったので、当然同じ流れにあるかと思ったが、意外やライバル・ジレットと同じような軽さだった。

 そして皮膚に当てる。
 感触が硬い。金属が当っているのだから硬くて当然なのだが、今まで使っていたマッハシン3の感触がソフトだっただけに、ちょっと驚いた。だが、思い出してみればプロテクター3Dもこんな硬さだった。おそらく感触が柔らかいのは、刃をサスペンションで支えているジレットだけなのであろう。
 そんなわけでプロテクター3Dの延長上の剃り味を予想して剃りはじめた。しかし違った…。
 表現が難しいのだが「どこに刃が当っているのか分からない」とでもいう異質な剃り味だった。剃った後の皮膚を触ってみると、自分が求めている「深剃り」がそれなりにされている。しかし、嫌な予感がして「逸脱した剃り方」を試してみたが上手くいかなかったし、皮膚が痛くなった。
 ジレットでは逸脱した剃り方が出来ない原因が起毛板にあったが、クアトロ4にそんなものは付いていない。逸脱した剃り方を許さない別の原因があることになる。ヘッドの観察や剃り方に試行錯誤してゆくうちに、ようやく分かった。

 刃数。

 要するに、刃の数が増えるほど逸脱した剃り方が難しくなるのだ。
 どんな角度でヘッドを当てても刃が皮膚にちゃんと当るのは理屈の上からは2枚が限度。3枚や4枚では皮膚と刃の角度の自由度が減るのは、当然といえば当然。今までそれに気付かなかった自分も情けない。

 確かに刃数が増えることで深剃りの能力は高まるが、剃り方の自由度は反比例して減る。
 4枚刃のクアトロ4は「物凄い豪速球を投げるが、直球以外は苦手な投手」といった感じである。色々な角度で刃を皮膚に当てる「逸脱した剃り方」を求める自分には「変化球が得意な投手」が必要なのだが、かといって刃数を減らせば深剃りという速球は投げられない。これはジレンマである。

 痛くなったのは何故か?
 要するに深剃りを求めて力を入れ過ぎたのが原因なのだが、マッハシン3では同じように力を入れても痛くはならなかった。観察と試行錯誤で分かったのは、刃をサスペンションで支えるジレットの方法が皮膚に優しいということだ。ジレットはセンサー・エクセルで痛い目に遭っているので、サスペンション・システムが深剃りのためだけにあると誤解していた。結論から言えば、シックではジレットほど力を入れて剃ってはいけない、という事になる。

 剃り味以外にもクアトロ4で気になったことがある。
 プロテクター3Dにはあった刃カバーがなくなり、マッハシン3と同じになってしまったのだ。もはや「刃カバーをつけてコップに立て掛ける」という置き方はできないということか。専用の台座ごと置いておけ、というなら仕方ない。今後はそういう置き方をするとしよう。台座に関して言えば、クアトロ4の台座が最も安定しているし使いやすい。

 その後、数日のうちに、クアトロ4を使う上での力加減や、逸脱した剃毛のための刃の当て加減といったものを掴んだ。刃数が多いことで感覚が掴みにくいが、全く逸脱した剃り方が不可能というわけでもなかった。マッハシン3から移行した直後は「失敗だったか…」と一瞬の後悔はあった。しかし今は戸惑いはなく、そこそこ満足できる深剃りを楽しめている。


●ジレンマへの解答、5枚刃+1枚刃(Sep.2006 追記)

 クアトロ4のホルダーも汚れてきて、再びホルダーごと交換すべき時が来た。次は直球より変化球を重視して3枚刃に減刃しようなどと考えているうちに新製品が出た。
 最初にCMで見たのはシック・クアトロ4・チタニウム(2006年〜)
 以前と同じクアトロ4では面白味がないなァとは思いつつ、チタンというところが琴線に触れる。ミーハーな話だが、チタン製と聞くと不要なものでも欲しくなる。実際は高価で手がでないから、不要なものを買わずに済んでいるが…。タイミングがちょっとずれていたら、このチタンを選んでいた可能性がある。

 だが、その数日後にジレット・フュージョン5+1(2006年〜/以下フュージョン5)のCMを見てしまった。
 当初の「減刃しよう」という考えは一気に吹っ飛び、未知の5枚刃への好奇心に負けた。ミーハーな選択だとは分かっているが、どうにもならない。結局、更に「増刃」してしまった。

Gillette Fusion 5+1

 電気による微小振動でヒゲを立たせる「パワー」バージョンもあったが、パワーのない「マニュアル」仕様を選んだ。この選択に対しては「究極の深剃りを求めるんじゃなかったのか?」と突っ込まれそうだが、理由はある。
 カミソリを置いてある風呂場という水周りを考えると、どうも電池を使うものを置くことに抵抗があるのだ。無論、その辺の防水性能は問題ないとは思うが、一つのホルダーを長〜く使うことからして、防水パッキンの経年劣化を考えると今一つ踏み切れないものがある。もう一つは自分のズボラな性格。電池が切れても「ま、いっか」とそのままパワー切れの状態で使いつづけるのは目に見えている。電池交換なんて絶対にやらないに違いない。
 それでも使ってみたいという思いもないわけではないが、ここでは現実を優先した。

 ということで、2年ぶりのジレットである。

 刃を当てると、金属を感じさせないソフトな感触。マッハシン3を思い出す。
 通常に剃った場合の深剃りの程度は十分で何も言うことはない。4枚刃と5枚刃の深剃り度の違いは数値的にはあるのだろうけど、正直、感覚としては分からない。刃数が多いためか、クアトロ4の「どこに刃が当っているのか分からない」感触に近いものがあるが、5枚も刃がある割にはクアトロ4ほど硬質ではなく、クアトロ4とマッハシン3を足して2で割った感じといったところだ。

 例によって「逸脱した剃り方」も試みるが、予想どおり上手くはいかない。やはり刃数が多いと、微妙な感覚がつかめない。

 だが、フュージョン5には「+1」がある。
 ピンポイント・トリマーと称する、1枚刃だ。5枚刃の反対側がこれになっていて、今まで逸脱した剃り方を必要としてきた顎の下などに使うためのもののようだ。
 この1枚刃が意外にも良い。
 今まで剃るのに苦労した部分が気持ちよく剃れる。刃を当てる角度をあれこれ変えて剃るには刃数は少ないほどよい、ということの証明とも言える。顎まわりに時間をかける自分にとっては、表の5枚刃よりも、裏の1枚刃を使って剃る時間の方が長くなりそうだ。
 刃数が多くなることで生じる欠点を、この1枚がカバーしている。豪速球と変化球が両立しないカミソリのジレンマに対する、ひとつの、そして現時点ではベストな解答だろう。もし、この「+1」がなく、5枚刃だけだったら、好バランスな3枚刃のマッハシン3より後退した製品と評価したと思う。

 自動車にたとえれば、今までは「走りも良くて家族もゆったり乗れる」方向を目指していたが、遂にそれも限界が来たということなのだろう。4枚刃や5枚刃というのは、もはやレーシングカーであって、色々な用途に使える代物ではない。1枚刃というファミリーカーを別途用意するのも、必然なのかもしれない。


●まだ進化するのか!(Apr.2012 追記)

 フュージョン5を使い続けて、早数年。
 製品も世代交代して、ジレット・フュージョン5+1・プログライド(2011年〜/以下プログライド)の時代になっていたが、もはや深剃りに満足しているせいもあり、新製品を試そうという気力もなく、替刃さえ手に入ればいい、と思っていた。
 しかし、自分の内なるミーハー心を刺激される事件(?)が!
 つまり、2012年春のプログライド「限定ゴールド・モデル」の発売である。しかも、安っぽい金色ではなく、ツタンカーメンの仮面のような落ち着きのある質感。あるいは、ドバイ仕様のGT−Rのような高級感。う〜ん、これは欲しい!
* シルバーも、ゴールドも、メタリック色は基本的に好きである。ただ、ゴールドに関しては許容範囲が狭く、特定の色合い、特定の質感のものしか受け入れられない。このプログライドは、珍しくも、その狭い範囲内に入る製品だったのだ。

Gillette ProGlide

 ……といった不純な動機で、プログライドにチェンジ。
 刃数が増えたわけでもないし、マイナーチェンジ版だろうということで、以前の製品との違いなど感じられないんじゃないか、と思っていた。だが、進化は確かに感じられた。
 最初に感じる差は、刃当たりの感触の軽さ!
 ジレットはモデルチェンジするたびに、これが軽くなってゆくのだが、プログライドは「そこまでやるか」というレベルに達している。このページを書き始めた頃の製品と比べると、なんとも遠くまで来たものだと、しみじみする。進化への飽くなき追求に、剃っていて思わず笑ってしまったほどだ。
 深剃り、というテーマに限れば、フュージョン5も十分以上のものがあったので、違いはあまり分からない。ただ、異様なまでの軽い感触は、同じ深剃りでも皮膚の負担が更に少なくなった。皮膚が弱いので、非常に助かる。
 よく使う裏の一枚刃も刃当たりの感触が改善されている。
 個性という点では、以前のフュージョン5と同じ。それを更にハイレベルにしたもの、と言ったところか。正常進化、などという陳腐な言葉は使いたくないが、そういう言葉しか思いつかない。フュージョン5とは全く別の何かを求めるのなら物足りないかもしれない。だが、カミソリというものが、これ以上の何か別の個性を持ちうるのか? もはやありえないようにも思うのである。

 剃るという機能と関係ない部分の差はどうか。
 目立つところでは、台座が簡略化している。これを後退と考える人もいるかもしれないが、自分的には歓迎である。以前のは大きすぎて、置き場所に困ったから。
 あと、ホルダーの側面に滑りどめのギザギザが加わった。この位置は──かつてのライバル、シック・クアトロ4には滑りどめがあったが──ジレット的には初か? 自分の持ち方では影響はまるでないが、邪魔でもない。ホルダーはフュージョン5の単なる色違いかと思っていたので、こんなところにも手を加えてあるのか、という驚きはあった。
 ついでに金色について。機能的には色など何でもいいが、なんか「限定版を使っている」という、変な自己満足感があって、気分が良かったりもする。カミソリに限った話ではないが、自分の持ち物は、自分の好きな色を選ぶのも大事なことだと思う。

 追記──しばらく使ってみた感想。
 本体は問題ない。いや、むしろ、ヒゲソリが楽しくてたまらん。意味もなく剃りたくなるが、刃の寿命を縮めるので我慢している。替刃も安くないし。
 だが、台座はよろしくないか。小さくなったのは嬉しいが、水切りが悪くなった。ちゃんと水を払ってから戻さないと、残った水でスムーサーがへたってしまう。台座の排水穴の位置が悪いのか、穴数が足りないのか。じっくり観察してみると、下方の水抜き穴は三つ、刃先とのクリアランスも充分。はて? 以前のフュージョン5の台座と違うと言い切れるのは、上方、水蒸気が抜けにくい密閉感ぐらいか。これが原因? よく分からないが、実際、以前にはなかったスムーサーの急速なへたりが起きたのは事実。
 もっとも、自分の場合は、常時石鹸使用。スムーサーなど無くてもかまわない(むしろ廃止して値段を下げてもらいたいぐらい)から、さほどの問題ではないが。

■    ■    ■

 皮膚への負担軽減と深剃りという矛盾を、いかにして高いレベルで両立させるかがカミソリ進化の要である。
 ジレットは、サスペンション・システムを持ち込んだ。自動車のサスペンションがタイヤを路面に追従させるために必須なのと同様、皮膚の起伏に刃先を追従させる上で圧倒的な効果を発揮する。正確に追従することで、皮膚を不用意に削ることを防ぎ、刃先が髭を逃すことも避けられる。ジレットはこの武器を磨き上げ、フュージョン5〜プログライドに至って、とてつもない境地に達した。

 ライバル・シックは、それにどう対抗するのか。
 結局、シック・ハイドロ(2010年〜/以下ハイドロ)をぶつけてきたわけだが……モイスチャージェルという「潤滑」を前面に押し出した製品である。
 以前は、これについて、あれこれ考察した文章を載せていた。
 だが、いまひとつ整理しきれず、結局は削除。
 確実に言えることは、刃周辺の「構造」というメカニズムで勝負しようという製品でない以上、個人的好みには合わない、ということ。よって、これについては、語らないことにした。
* シックはその後、「潤滑」を極める方向で進化を続けている。深剃りというテーマを追うならば、それもフォローすべきだろうし、素晴らしい製品なのかもしれない。だが、ピストンとシリンダー以外の「潤滑」にはどうしても興味がわかないため、ジレット vs シック、というページ内容はここまで。以下は、ジレットだけの話となる。


●せこい男、それは俺(May 2013 追記)

 プログライドを使って約一年。
 前述したスムーサーの急速なへたりがなくなった。
 改善されたのかもしれないが、自分が最初に買ったのは製品発売からずいぶんと時が経過してからだ。問題があったのだとすれば改善済になっているはずの時期。となると、たまたま悪いロットに当たっただけか。よく分からないが、スムーサーが中途半端に剥がれて邪魔になることがなくなったのは助かる。
 一方、限定ゴールドモデルの弱点も発見。
 金色メッキというものは、通常モデルの銀色より弱いようだ。変色したのか剥がれてきたのか、どちらにも見えるのでよく分からないが、台座にはめる時に摩擦を受ける個所でもなく、自分の手で握る場所でもない個所の金色が腐った感じになってきたのだ。カビかと思って削ろうとしたが、カビではなかった。実用上は困らないが、せっかくの美しい金色が……ってことで、2013年にも出たゴールドモデル(毎年出すなら限定版って感じはしないが)をまた購入してしまった。
* 後年知ったのだが、これはメッキ部分の腐食だった。金色メッキには、ありがちなことらしい。

 ……などとホルダーには無駄遣いをしていて言うのもなんだが、替刃はやはり高価だ。
 剃りのクオリティを考えれば、この値段も致し方ない。それは分かる。だが、しょっちゅう交換するのは、せこくて器の小さいケチな野郎の自分には抵抗感がある。ということで、刃が鈍くなっても、なかなか交換しなかったりする。
* 器が小さい、っていうのは半分は自虐ネタだが、半分は真実だ。人生五十年以上、振り返れば「俺って小さい男だな」と思うことは多々ある。もっとも「こいつ、器でけぇ」と感動するような男もそう多くはいないから、別に自分だけが小さいわけでもなく、悲観的になっているわけでもない。
 究極の深剃りを求めているんじゃなかったのか?
 まぁ、そうだが、プログライドは鈍くなってもけっこう使えるのだ。鈍くなると、さすがに力を入れて剃らないと満足できる剃りにはならない。だが、皮膚に優しく安全性の高いサスペンションシステムのおかげか、力を入れても怪我につながらない。いや、長年、剃りのデクニックを追究してきた自分だから怪我をせずにすんでいるのかもしれないので、他の人に勧めるつもりはないが、せこい剃りも可能とだけ言っておこう。
 もちろん、鈍い刃は快感がないし、見えるところに替刃を置いておくと、交換したいという欲望に負けてしまう。だから、濡れた手では触れないパソコンの近くに替刃をしまってあるのだ。……って、アホだな。
* 器云々ではなく、ただの貧乏根性か。


●せこい男、限界を探る(Feb.2014 追記)

 前章を書いた後、替刃を交換しないままどこまで使えるのか、限界を試していて、軽く怪我をした。
 鈍すぎる刃で無理すれば、剃りの経験値が高くても、危険ということである。改めて考察してみたが、刃がなまくらになれば、どんどん力を入れて剃ることになり、皮膚に押し付ける力が限度を越えれば、サスペンションを底付きした状態で使うことになる。もはや、プログライドの特徴もへったくれもないわけだ。
* 怪我につながらない、と書いたことが嘘になってしまったが、悪いのは自分である。
 ということで「倹約や節約も、行き過ぎるとろくなことにならん」という教訓を得た。

 だが、最初の挑戦は、なんとなく実行しただけで、記録を残していなかった。
 そこで改めて、替刃を交換してから何日間使えるかを、日々記録しながらチェックしなおしてみることにした。

 以下、チェックの結果を書く。
 一日に一回、ツルツル感を得られるレベルまで剃る。そういう条件での結果だ。
* 但し、途中から条件を変更している。詳細後述。
 ちなみに、自分のヒゲは薄い方である。
 若い頃、一ヶ月ほど剃らずにどうなるかを試したことがあるが、それでも、もみあげは繋がらなかった。生える面積は広くはないのだ。さらに、ヒゲそのものの太さもさほどではない。ただ硬度については見た目では比較できないので、男の中での硬軟の程度はわからない。ただ、自分の身体の他の部位の硬度から推定するに、ヒゲも大して硬くないのだろうとは思う。ふにゃヒゲなのだ。
 つまり、ヒゲの濃い男と比べれば、せこい剃りに有利な状況にある。
 一方で、ツルツルにしないと満足できないという性癖ゆえに、一回あたりの剃りで何度も同じ場所に刃を当てるので、その分、刃を消耗する。その点は、せこさと相反する不利な側面だ。

 替刃を新しくした直後は、皮膚にやさしいジレットといえども、さすがに鋭利な刃物の感触がある。軽く剃るだけでツルツルになり、極めて気持ちいい。
 だが、この最高の感触は二日しか持たない。
 3日目 → 鋭利感が消えるが、剃り味は抜群。何の問題もなし。
 6日目 → やや剃り味が衰えたかな、と感じる。
 9日目 → 明らかに剃り味の衰えを感じ、ツルツルのためには少しばかり工夫が必要となる。
* この辺から、同じ場所に刃を当てる回数も増えるため、消耗が急激に進行してしまうことになる。
 11日目 → ×かなり時間をかけて丁寧に剃らないと、ツルツル感が得られず、不満を感じ始める。理想を言えば、この段階で新しい替刃に交換したいところだ。
 23日目 → ××もはやツルツル感を得るのは不可能。どう剃ってもチクチク感が強く残り気持ち悪い。+1枚刃を剃りにくい場所だけでなく、全面的に使ってさらに深剃りに挑むものの、ツルツルには到達しない。当初設定した条件では、ここが限界である。
* 多少妥協的な限界である。ツルツルというものに一切妥協しない人ならば、半月未満で限界となろう。また、ヒゲが薄くてもこれだから、濃い人だと替刃寿命はもっと短いはず。プログライドの替刃は高価(3枚刃モノの倍額)だから、それでこの寿命というのはなかなか贅沢だ。
 24日目 → ツルツル感の得られないひげそりは不快だが、まだ、世間に不精ヒゲと見られないレベルまで剃ることはできるので、チェックを続行する。
 27日目 → 実験として、5枚刃を使わず、+1枚刃だけで剃ってみる。結果だけで言えば、社会的に「ちゃんと剃っている」と認められるレベルだが、皮膚はヒリヒリする。複数刃の「最初の刃がヒゲを引き出して、後の刃が切る」という特性を使わずに深剃りしようというのだから、皮膚の負担が増えるのも当然だ。
 28日目 → 5枚刃+1をフルに使った剃りに戻す。
 29日目 → 再び実験。湯舟に30分以上浸かって湯気で皮膚をふやかし、とことん剃りやすい状態にした上で、5枚刃も+1枚刃もフルに使って、自分の持てる剃りテクニックを最大限に発揮して、時間をかけて丁寧に剃ってみた。結果、深剃りの程度は7日目レベル! やれば出来る……と言いたいが、猛烈なヒリヒリ感に襲われる。カミソリ負け、それも圧倒的な負けである。出血こそしなかったものの、皮膚に医薬軟膏必須レベルの傷がついたわけだから、免疫力が弱っていれば感染症のリスクもあり、全然おすすめできない。
* サスペンション付のジレットでは、本来ありえないほどのカミソリ負けであり、替刃の交換限度は完全に越えてしまっている。
 30日目 → 通常の剃り方に戻し、絶対にカミソリ負けしないレベルに抑える。当然、剃り終えてもチクチク感が残ったままでなので、精神的にはストレスだ。
 38日目 → 日に二回剃りたくなってきた。それだけ、一回あたりの剃りの深さが足りないということだ。
 45日目 → もはや刃が当たっている感触すらなく、石のようである。まさに「なまくら」で、ゆっくり剃るとヒゲが刃にひっかかるため、刃と皮膚の相対速度を速くする必要がある。この状況で「もうちょっと深く」という欲をかくと、出血のリスクがある。深剃りに対する思いを絶たねばならず、精神的には修行だ。
 50日目 → 修行の成果か、深剃りへの妄執を断滅。以後、悟りの境地(?)で「そこそこ剃れればいい」という方針を徹底し、ささっと軽く剃るだけにした。刃の消耗が激減。最初からこのレベルで剃っていれば、替刃の寿命は相当に長いかもしれない。
 64日目 → そこそこ剃るだけでも、工夫をしないと不可能になってきた。
 77日目 → ×××全く剃れなくなったわけではないが、かなり工夫をしても上手く剃れない個所が出てきて、ついに耐えられなくなった。ついでに言うと、著しく臭い! ということで、今度こそ本当に限界。この日の剃りを終えた後、刃を新しくした。
* ヒゲが薄いのでもう少し粘れるかと思ったが、意外にも二ヶ月半が限界だった。

 刃を新しくしてみると、断滅したはずの深剃りへの妄執が戻ってきた。
* 深剃りが可能なのに深剃りを諦めることは難しい。不可能にならなければ諦めの境地にはなかなかなれない。……性欲もまた然り?


●可動式はどうなのか?(May 2016 追記)

 2013年から使い続けたゴールドのプログライドが、落としきれない汚れの付着で、そろそろ不潔感に耐えられなくなり、ホルダー本体を新しくする時期が来た。
 だが、これには迷った。すでに進化版とおぼしき、ジレット・フュージョン5+1・プログライド・フレックスボール(2015年〜/以下フレックスボール)が発売されていたが、これにすべきか、従来の通常のプログライドにすべきか?
 迷った原因は、肌の起伏に追従するためにヘッドが左右に首を振る、可動式という点だ。
 メカマニア的な好奇心に従えば、フレックスボールにしたい。だが、可動式というところに、嫌な予感もする。可動部品には、必ず遊び(ガタ)がある。その分、刃を思ったとおりの位置に精確に皮膚に当てられない可能性がある。遊びを感じさせないほどの精度は、この値段の商品ではコスト的に不可能だから、どうしても避けられない。そこは、どうなのか?

Gillette ProGlide with Flexball

 結局は、フレックスボールを買ったわけだが、決断できたのは、店頭に直接触ることのできる見本品が置いてあったからだ。
 件の見本品があった店は、某特急停車駅近くのドラッグストアで、「さすが、大きな街にある店は違うな…」などと感心しつつ、遊びの程度や、首ふりするヘッド部分のスプリングの強度など、あれこれチェックできたのは大きかった。左右方向の遊びはやや気になったが、前後方向の遊びは思ったより少なく、ヘッド部分を中央に戻す復元力も強すぎず弱すぎず、悪くない。これで、好奇心が不安に勝ったのだ。
* 買った品には「ポーランド製ホルダー/ドイツ製替刃」と書いてあった。全製品がそうなのか、これがたまたまそういうロットだっただけなのかは分からないが、ポーランド製と記された商品は、生まれて五十年以上を経て初めて見た。

 パワーバージョンも存在するが、例によって、マニュアル仕様を選んだ。
* ネット上の評価を見ると、パワーバージョンの「振動」は想像以上に効果があるらしい。電動にすべきだったか、と思わないでもないが、やはり自分は電池交換をさぼりそうだ。
 可動部分は想像以上にコンパクトに収まっていて、従来品とさほど変わらない全長で、ホルダーを持つ手とひげとの距離感は変わらない。この点は、旧製品から乗り換えても違和感はなさそうだ。
* 剃りには関係ないが……落ち着いたゴールドから、ギラギラしたシルバーメッキのホルダーに変わり、フレックスボール部分の熱帯生物を思わせる毒々しいオレンジ色と相まって、やや目に痛い色合いだ。ちなみに、シルバータッチという色違いバージョンもあるが、滑り止め部分が黒から灰色に変わるだけで、何のための色違いなのかよく分からない。……結局、ボール部分も含めた本当の意味での色違いは、後に発売された「プロシールド」で実現された。詳細後述。

 替刃は従来品と同じだから、気になる使用感は、フレックスボールという可動部分一点に絞られる。

 結論から言えば、事前にあれこれ不安視していた事は、すべて杞憂だった。
 従来品では、剃りのテクニックを駆使しなければできなかったレベルの剃りを、あっけなくこなしてくれる。フレックスボール、恐るべし。……だが、予想以上の出来の良さに感動すると同時に、「俺は今まで何のために剃りのテクニックを磨いてきたのか?」という虚しさも感じてしまった。
* 昨日今日ひげそりを始めたばかりの中学生でも、ひげそり歴何十年の達人に近いレベルで剃れてしまうわけだから、嫌になる。……まぁ、わずかな差になってしまったとはいえ、初心者と熟達者との差は、そう簡単には埋められまいよ。
* これをもってしても十分な深剃りが出来ない人がいるとすれば、カミソリ道(?)の修行者としては、「この未熟者めが!」と喝を入れたいところだ。……って、何様だよ。

 剃りの性能は最高だとしても、感触はどうなのか?
 従来品より滑らかに感じるだけで、ヘッドがぐにゃぐにゃ動いている感じはほとんどない。剃る部位によっては、ぐにゃ感がないわけではないが、気になるほどではなく、総じて気持ちのいい感触だ。性能だけでなく感覚的な部分まで最高で、カミソリも凄いところまで進化したものである。
* モデルチェンジのためにする単なるギミックではないのか、と疑っていたが、実際は、ものすごい進化だった。通常のプログライドを使った時に「もうこれ以上はないだろう」と思っていたが、それ以上があったわけだ。通常、いい事しか書かれていない評価というのは信用ならないものだ。だから、自分としては、そういう評価を書きたくない。だが、悔しいけれど、これはもう最高と言うしかない。
* ジレットの公式サイトを見たら、旧製品の通常のフュージョンや、マッハシン3が、下位製品として現在も販売されているのを知った。深剃りを求めて新製品に買い替えてきただけのつもりが、いつの間にか、最上位製品を使っていた。貧乏根性の自分らしからぬ贅沢をしていたと知って驚いたが、最高を知ってしまった後で下位製品には戻れないしなぁ…。
* ライバル・シックは「潤滑」に力を入れているわけだが、このジレット・フレックスボールに「潤滑」機能を追加したら最強だろう。実はそういう製品はある。女性用ジレット、ヴィーナス・スワールだ。最強のわき毛剃りで、男のひげを剃るとどうなるのか? 試してみる価値はありそうだ。……なんて思っていたら、2016年 7月に、プログライド系の潤滑強化版「プロシールド」なる新製品が出た。ホルダーは互換性があるようなので、替刃さえ買えば(←韻)試せるが、その替刃がかなり高価で迷うところだ。……と書いた直後に、プロシールド本体を買ってしまった。詳細後述。

 追記──敢えて欠点を挙げるならば…。
 リスキーな深剃り手法として、ななめ剃りとでもいうべき技がある。皮膚を切るからやってはいけないとされる横すべりに、限りなく近づけて剃るテクニックだ。深剃りには絶大な効果を発揮するが、おすすめできない危険な方法である。怪我をしないためには、刃と皮膚との関係が限界を超えないように、繊細なコントロールが求められる。フレックスボールの場合、首が振れることによって予測不能な要素が加わり、この技がギリギリまで追い込めない。欠点といえば、このぐらいか。
* 過去のカミソリと違い、プログライドの性能レベルでは、そもそも、そんな危険技を駆使する必要性がない。だから、一般的には欠点ではないだろう。あくまで、カミソリ道を極めんとする物好きレベルの話だ。
* ちなみに、個人的なカミソリ道の掟は、「チクチク感が残ったら負け、血が出ても負け」である。さらに言えば、出血しなくても、ヒリヒリする結果になっただけでも、敗北感がある。もっとも、ジレットでは、よほど攻めないと、負けるのが難しいが…。といいつつ、フレックスボールを買った翌日、どこまで攻められるかチャレンジして、やりすぎた。まだまだ修行が足りないようだ。真の達人への道は遠い。
* ネット上の評価を見ると、「鼻の下を逆剃りする時に謎の突起が引っかかる」という欠点を挙げている人がいた。確かにホルダーの下側の替刃に近い位置に突起があるが、これは、フレックスボールを上下で支える軸受けに皮膚が巻き込まれないようにするためのガードだと思われる。自分はまったく引っかからないが、引っかかる人が存在する以上、この突起が邪魔になるような剃り方があるということだ。ということで、どうやったらこの突起が鼻に引っかかるのか、あれこれ試してみた。──結論は、キスと同じ。唇を重ねる時に、鼻と鼻がぶつからないように、角度を少しずらす。ずらさなければ、鼻がぶつかってしまう。同様に、刃をかなり寝かせた状態で、真下から真上に向かってまっすぐに逆剃りすると、確かに引っかかりそうになる。こういう剃り方をする人をプロファイリングすれば、「曲がったことが嫌いで、きっちり 90°でなければ気が済まない実直な性格」ということになる。慣れた方法を変えるのは抵抗があるだろうが、突起がガードだとすれば今後この部分が削られる可能性はないであろうし、現実的に考えて、剃り方を変えるしかないだろう。

 更に追記。
 下手くそな人を想定して、粗雑で荒々しい剃り方を試してみた。サスペンションのないカミソリなら、カミソリ負け必須レベルの無神経な剃り方だ。結果、それでも皮膚に優しかった。しかし、乱暴な剃り方では、ヘッドのぐにゃぐにゃ感が半端ではなく、感触は良くない。荒くれ者には不向きということだ。
* カミソリ負けこそ男の勲章……などというワイルドな人は、そもそもジレットを選ぶべきではない。ライバル・シックの「潤滑」も、ワイルドに反する。高品質なカミソリを使っているようでは、ワイルドを語る資格はない。ついでに言えば、排便排尿でトイレなどという文明の利器を使用しているようでは、ワイルドではない。野グソせよ。
 もうひとつ。
 裏の+1枚刃にはサスペンションがない。その分、気をつけないと肌を痛める。表の5枚刃では剃りにくい個所を剃るのには必須なのだが、そこだけが問題だった。
 だが、フレックスボールでは、1枚刃の「端」だけを使って剃ることで、左右に振れるフレックスボールをサスペンションの代用にできるのだ。この方法を発見したことで、1枚刃剃りが格段に良くなった。1枚刃を多用する自分にとっては、大いなる革命だ。この一点だけでも、ボールのない通常のプログライドには戻れなくなった。
* +1枚刃を使わない人には、ピンと来ない話かもしれないが。
* 前述の女性用ジレット、ヴィーナス・スワールは、サスペンション付5枚刃+フレキシボール(男用と名前が少し違う)+潤滑(モイスチャーグライドリボン)だが、プログライド系と違って裏の+1枚刃がない。丁寧な剃りには必須だと思うのだが、女性用にはそういう需要はないのだろうか? 確かに、わき毛やすね毛は、ひげほどややこしい部位ではないが、ややこしい場所を剃る場合だって、あるだろうに…。


●ヌルヌルの世界へ(Jul.-Aug. 2016 追記)

 2016年 7月、ジレット・フュージョン5+1・プロシールド(以下プロシールド)が発売された。
 プログライド・フレックスボール+潤滑強化、という製品である。「潤滑」といえばライバル・シックの牙城であり、遂に敵地に攻め込んだわけだ。
* ここでシックと比較した方が、記事としては面白くなるだろう。だが、前述したとおり、自分はピストンとシリンダー以外の潤滑には興味がないし、もはや使うことのない「刃サスペンションのないカミソリ」を買う余力もないので、比較はしない。……仮に他製品と比較するとすれば、やはり試してみたいのは、女性用のヴィーナス・スワールだ。

Gillette ProShield Chill (=Cool) with Flexball

 プログライド・フレックスボールを買ったばかりだったが、「ジレットはどこまで行くつもりか?」という好奇心と、色が気に入って、プロシールドも欲しくなった。
 プログライドの毒々しいオレンジと違い、プロシールドは、通常版がレモンイエロー、クール版がスカイブルーという、個人的に好きな色である。プログライドとホルダーの互換性があるので、プロシールドの替刃だけを買う選択もあった。だが、好きな色のホルダーが欲しかったので、プロシールド本体を買うことにした。プログライド・フレックスボールのホルダーはまだ新品同様なのに、またホルダーごと買うのは無駄遣い!?
* ホルダーもいつかは交換が必要なので、その時の予備と思えば無駄ではない。
* プロシールドの替刃をプログライドのホルダーで使うことが可能とはいえ、替刃の色も違うので、違うもの同士を組み合わせると色の統一感がなくなる。ブラジャーとパンツがチグハグなのが気にいらない、という完璧主義の人には、替刃とホルダーがチグハグなのも耐えられないかもしれない。
 ……で、レモンイエローか、スカイブルーか?
 どちらも好きな色だが、ちょうど夏でもあり、新発売の酒=アサヒ「ブルーハワイサワー」を飲んだばかりのタイミングとも重なり、気分的に「やっぱ、青だよな」ということで、クールの方を選んだ。かつて、ゴールドでプログライドを選んだのと同じく、色重視の選択だ。
* ちなみに、日本語では「クール」だが、英語の製品名は「Chill」だ。「冷んやり」という意味の単語。
* 但し、今回は色で選んだことを、ちょっとだけ後悔した。詳細後述。

 使ってみた。
 予想どおり、プログライド・フレックスボール+ヌルヌル。
* プロシールドは「ジレット史上最高に肌に優しい」と謳っているが、何世代ものジレット製品を使い続けてきた男の実感として、そのとおりだと思う。

 剃りの能力、刃の性能は、プログライドと同じ。これについては、使ってみた感想を含めて、特に追記することはない。
 最高である。
* 刃の手前にある起毛板(マイクロフィン)の形状が変更されているから、厳密に言えば、プログライドとプロシールドでは、剃り自体の性能に差があるかもしれない。だが、ヌルヌルの感触の中で、その差を実感するのは至難である。仮に実感できたとしても、僅かな差でしかないとは思うが…。

 問題は、ヌルヌルだ。
 別途に潤滑用のシェービング剤を用意する必要がないというメリットもあり、機能としては素晴らしい。
 刃の前後にジェルスムーサーが付いているがゆえに、別途用意したシェービングジェルを使うのと違って、剃る度にジェルが供給され皮膚上に再塗布されるのも便利だ。
 だが、このジェルは、刃の寿命より先に尽きるだろうから、これらの長所も一時的だ。さらに、シェービング剤を別に用意しているならば、プログライド用より高価なプロシールドの替刃に、値段差に見合う価値を見いだせるだろうか?

 もうひとつ。
 機能という客観的な評価が可能な要素とは別に、感触という主観的な問題もある。
 自分の場合、個人的な好みとして、「ヌルヌルしすぎ…」と感じる。不快なほどではないが、快ではない。すべりが良すぎて、ひげがちゃんと剃れているのか、感触として分かりにくいのだ。
* 人間の快感には、ヌルヌルだけでなく、適度な「摩擦感」も必要なのだよ。
* もしかしたら……潤滑に慣れたシック・ユーザーを取り込むための戦略として、元々のジレット・ユーザーには過剰とも思えるほどのヌルヌルにしたのかもしれない。
* 一方で、剃り始めからスムーサーが溶けるまでのタイムラグがあり、その間は逆に「ヌルヌル不足」だ。……ライバルのシック・ハイドロ系は使ったことがないから本当のところは分からないが、構造を見る限り、シックの方がヌルヌルの立ち上がりが早そうだ。潤滑に関してはまだライバルに一日の長があるのかもしれない。
 さらに、事後の多すぎるヌルヌルを洗い流すのが、シャワー時ならば気にならないが、ひげだけを剃る時は面倒だ。

 追記──「ヌルヌルしすぎる」のは、しつこく剃りすぎる自分の剃り方に原因がある。
 プロシールドを何度も使ってみて、そのことに気付いた。ジェルの供給量が剃る距離に比例するのだから、当然の結果だ。つまり、別途ジェルを用意するのと違い、「潤滑の程度を自分ではコントロールできない」ということでもある。自動は気楽だが、手動と違って思い通りにはならない。カミソリに限った話ではなく、自動車のトランスミッションも含めて、この世にはよくある話だ。
* しつこい性欲……じゃなくて性格、をなんとかしたいところではあるが。
 更に追記──過剰にヌルヌルさせた結果、ジェルスムーサーがあっという間に尽きた。
 プログライドより面積の広いスムーサー跡地は、一転、摩擦要因と化して、プログライド用替刃以下の感触となってしまった。自分の使い方では、プロシールドのメリットを活かせないようだ。
* 過剰に剃りすぎる、というのは下手くそということか。電動からT字カミソリに転向して 26年。それほどの年月を経て、まだそんな未熟者なのか。いやいや、強迫神経症かもしれない。……いずれにせよ、自分の剃り方による替刃インプレは、一般の参考にはならなさそうだ。
* ジェルスムーサーを長持ちさせられるライトな剃り方をする人か、潤滑不能になった時点で替刃を交換してしまうリッチな人。どちらかに当てはまれば、プロシールド。当てはまらなければ、フレックスボール付のプログライド。どちらにするか迷うなら、これを基準に考えればよいと思う。

 機能のメリットと、感触のデメリットを、プラスマイナスで考えると、かろうじてプラスが勝る。だが、価格差という経済性の要素を加えると、自分の場合、マイナスになってしまう。ここをどう考えるかは、使う人の好み次第だから、是とも非ともしがたい。
 自分は今後、プロシールド用ではなく、戻ってプログライド用の替刃を買い続けることになるだろう。
* フレックスボール機能の素晴らしさを考えると、プログライド用よりも更に格下で安価な、通常のフュージョン用の替刃と組み合わせても、満足できる剃りのクォリティ・レベルに達するかもしれない。いつか、試してみるつもりである。……メーカー側からすれば、こういう貧乏根性のユーザーは歓迎できないんだろうけどさ。プロシールド用と通常フュージョン用では、替刃の実売価格が倍ぐらい違うから、選択肢から外すわけにはいかないのだ。

 次に、スカイブルーのクール・バージョンについて。
 お湯のシャワー時は冷んやり感はないし、水でひげを剃る時はそもそも水が冷たい。結局、剃っている最中のクール感は分からなかった。だが、剃った後、やたらとスースーする。ひげそり負けのヒリヒリに近い、刺激的な感覚だ。通常版と比較したわけではないが、これがクールの特徴だろう
* プロシールドについて追記した半年後(Dec.2016)に、レモンイエローの通常版の替刃を使ってみたので、上の文章を微妙に修正。
 好みの問題だが、自分的には、これは不要な刺激である。
 レモンイエローの通常版を選べば良かった、と少しばかり後悔した。色だけで選んではいけない、という教訓だ。
* ヒリヒリを感じることで「剃った!」という達成感のような快感を感じる人には、このクール版がいいだろう。
* 肌に優しくなった分、こういう疑似的な方法で刺激を与えるしかないのかもしれないが、なんだか、奇妙な感じがする。


●替刃寿命が延びた!?

 話はプログライドに遡る。
 プログライド・フレックスボール以降、プロシールドも含めて、公式な宣伝文句として「替刃1個=1ヶ月まで」を前面に出してきた。
* 日本製品では、一ヶ月の根拠として「カートリッジの消費データに基づく使用可能期間」という曖昧な記述がされているが、英語製品の場合「1 refill equals up to 1 month of shaves (based on 3 shaves per week) 」とあり、週に3回剃るという頻度を前提にしている。毎日剃れば、半月弱という計算だ。

 その寿命宣言が気になったので、プログライド・フレックスボールの刃を一ヶ月強ほど使ってみた。
 プロシールドの替刃に切り替える直前の話だ。
* 話が前後しているが、プロシールドもフレックスボール付なので、共通する話である。
 2014年にどこまで替刃が使えるかを試した経験があるので、結果は予想どおり。一ヶ月間まるまる快適に使えたわけではなかった。
 一方、予想外だったこともある。フレックスボール以後は替刃の寿命が延びた、と感じたのだ。使い方も変わらないし、替刃そのものも同じはずなのに、刃がへたるペースが、フレックスボールのない以前のプログライドと比較して、明らかに遅い。
* 2014年に試したフレックスボールのないプログライドでのへたりチェックでは、23日目に「もはやツルツル感を得るのは不可能」と書いたが、フレックスボール付では同じような感触になるまでに 30日近くを要した。
 なぜだろうか?
 ──その答は、すぐに分かった。

 戦いに於いて、勝者もまた傷つく。

 ひげそりは、刃とひげの戦いである。
 刃が勝ち、ひげが負けるが、その過程で刃も傷つく。この戦いには、ひげの他に皮膚が巻き込まれる。刃と皮膚の戦いもあるのだ。これが過剰になることで、カミソリ負けという皮膚の痛みが発生するわけだが、痛みがなくても戦いはある。この皮膚との無駄な戦いを最小限にできれば、刃の傷も減る。
 つまり、肌に優しいほど、替刃の寿命も延びるのだ。
 同じ替刃なのに、フレックスボール付ホルダーの方が寿命が長いのは、それだけ皮膚に優しいことの証明でもあるわけだ。
 一ヶ月もつか否かは個人差があるにしても、メーカーが替刃寿命をキャッチフレーズに使い始めたのには、寿命が延びたという事実が背景にあると見てよい。それだけの自信作、ということだ。
* しかし、「1ヶ月」は言い過ぎだろうし、週に3回という前提も少なすぎると思う。とはいえ、アメリカの本社からそう書けと言われたら、日本法人は逆らえないのだろうな。それにしても、アメリカ人って、そんなにひげそりの頻度が低いのだろうか。深剃りにこだわるようなデリケートな男が少ないイメージはあるから、実際そうなのかもしれないが……その基準で日本も同じ表現にしろと言われても困るわな。