「国会議員村長 私、山古志から来た長島です」 長島 忠美 hatas.gifhatac.gif

出版社ISBN初版定価(入手時)巻数
小学館978-4-09-387749-72007年11月19日1400円全1巻

この本が出版されたとき広告を見てすぐに買い求めた。といっても私は本を買ってもすぐに読むわけではない。何しろ備蓄している未読の本はたくさんあり、未読の本があるということは出張の電車の中とか暇ができたとき読むという楽しみでもある。
ところで、私の買う本は家内の趣味に合わないらしく、家内は私の本を読まない。私が暇があれば読もうと未読の本を茶の間に置いておくと、じゃまだから本棚に入れろとか、私に断りもなしにどこかに片づけてしまうのが常である。
さすがにゴミに出すようなひどいことはしない・・・と思う。
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私はそんなアホ
ではありませんよ
家内は内田康夫が大好きで、かなり左がかった内田の本に洗脳されないだろうかと、私はいささか気がかりである。
幸いまだ朝鮮人の強制連行だとか、南京虐殺とか、従軍慰安婦などの運動に参加するまでにはなっていない。
さて、正月もあけ会社の通勤時にあまり堅くない本でも読もうかとこれを思い出した。見あたらないので家内にどこに置いたのかと聞くと、驚くことに家内はこの本を読んだという。それで家内の本棚にしまってあったのだ。
へえ、我が奥方が読むとは、きっと難しくない面白い本なのだろうと想像した。なにしろ家内の頭は内田康夫の浅見光彦程度なのだから。
間違っても浅見光彦を名探偵などと言ってほしくない。

私の通勤する路線はかなり混雑する。田舎育ちで混雑が嫌いな私は、勤め先が9時からではあるが毎朝6時半頃の電車で東京に向かう。もちろんその時間帯でも座ることはできないが、ラッシュ時に比べればまだましで吊革につかまって本や新聞を読むくらいの余裕はある。
さて電車の中でこの本を開くと、もうプロローグから、涙と鼻水がでて止まらない。
もし電車の中で本を読んで嗚咽していた初老の男を見かけた方がいらっしゃいましたら、その鼻水男は私でございます。

内容はもちろん実話で、2004年の中越大震災で大被害を受けた山村の村長であった長島さんの行動を書いたものである。
uh60.gif 山奥の村が大地震に見舞われ、その村長である著者は村人の生命と財産と、そして将来を確保しようと一生懸命に働く。
寝食も忘れてただひたすらに3年間突っ走り、そして今彼は代議士として国会にいる。
もちろん、著者ではない関係者が同じ事実について書けばまた違った見解もあるだろうし、この村長への批判や非難もあるだろうとは思う。
uh60.gif しかしこの本の中で彼は一言たりとも批判や愚痴を書いていない。「支援してくれなかった」とか「誰それのせいだ」とか「反対された」とか「辞めたかった」などという文句は一切ない。
そこにあるのは、自衛隊員の献身的行為、マスコミの協力、ボランティや中央省庁の官僚の思いやりに対する感謝であり、村人の自立心への称賛であり、犠牲となった役場職員へのお詫びである。
この本そのものが「山古志復興に尽くして亡くなった星野恵治氏に捧げる」とある。
星野恵治氏とは本文に出てくる、死亡した村役場職員である。

原因となった地震に対してさえ、自分たちが山古志に生まれたことを再確認するための試練というか機会であったという言い方さえしている。
まさに聖人である。

以前、修身の教科書というのを取り上げたことがある。
そこにはいろいろな状況下において社会に尽くした人々の活躍が書いてある。だが、それはすべて過去のことであり、現在のわれわれの身近な物語ではない。
長島村長は同時代の実在の人物であり、その行動はマスメディアによって日本中に報道された。
誤解を恐れずに言う
長島村長は、日本シリーズ優勝に導いた監督よりも、ワールドベースボールクラッシックのイチローや王よりもすごいことをやってのけた。

この中越大震災にまつわる物語を書いた本はたくさんある。しかし、一市民の立場で書いたものと、指導する立場の人が書いた物語は違う。指導者の書物が他より価値があるとは言わないが、己についてのみ関心を持つ人と、人さまに対して責任を持つ人の役割は質が異なる。
ここに一人の人間がいて、たまたま偶然か神のおぼしめしかわからないが、大変な試練を与えられそしてひたすらその使命を果たしたという、ただそれだけ、そのままの物語である。
そのような状況に置かれた人は長島村長ばかりではない。
 雲仙にもその重責を担ったひげの市長がいた。
 WTCのテロのときのニューヨーク市長がいた。
 浅間山荘で指揮を執った男もいた。
彼らはその場の責任者としてものすごい重圧を受けつつその責を全うした。
企業においても昼あんどんと思われていた人物が、いったん事が起きたら突如として全責任を担い、采配を振うのはよく見る。
私が子供の頃、我が家の向かい側の家が火事になったとき、普段目立たなかった近所のおじさんが周りの人を指揮して消火に当たったのを見たこともある。

じゃあ、そのような立場に置かれたら、誰でも理想のリーダーになれるのかといえば、決してそうではないことは明白である。
阪神淡路大震災の時に「はじめてのことじゃきに」と語った首相がいた。
北朝鮮の王子が密入国した時に「早いところ追い返しなさい」と語った外務大臣がいた。
連合赤軍のクアラルンプール事件で、犯罪者を超法規的という美名で解放した政治家がいた。それは事件を収めず更に暴力を拡散させただけだった。
その時の首相の息子が今首相をしている。

ある地位に就くのに、自分から売り込む人もいるし、周りから推される人もいる。
自推が恥ずかしいことだなどというつもりはないが、いくら辞退しても周りから推され、時の首相から請われ、望まれて地位に就くということは最高の誉れであろう。
もし日本でもアメリカのように一州知事であっても大統領選挙に出馬できるような伝統があれば、長島さんは即首相候補になるだろう。
そして長島首相は有事のさいきわめて頼りになる人物であろうと信じる。


ヘリコプターで村民救出に当たった第12旅団長の言葉でこの駄文を締めくくる。
日本に生まれてよかった、正直言ってそう思いました




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