環境側面という言葉 07.12.09

「環境側面」という言葉を聞いて、すぐさまその意味を理解した人がいればすごい人である。いや知ったかぶりをして嘘をついている可能性が大きいかもしれない。
なぜならこの言葉の意味を真に理解している人は日本国内にはISOTC委員の数人しかいないらしく、ISO審査員、いや審査機関も、私を含めた審査を受ける側のほとんどの人は意味するところを理解していないようなのだ。
では本日は環境側面について駄文をひねる。

環境側面という言葉はISO14001規格で定義されている。
「環境と相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素」(ISO14001:2004 3.6)であるそうな。
環境側面
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特段難しくなくさらりと読める文章で、このなかで日常あまり使わない言葉は『要素』だけである。
『要素』ってなんだろうか? これは定義されていない。ISO規格で定義されていない言葉の意味は普通の英語の辞書によることになっている。原語はelementで英英辞典で調べると、複数の部品からなりたっている『もの』を構成する個々の部品・パーツという意味である。『もの』にはハードウェアもあるし、ソフトウェアもあるし、概念もあるだろう。まあ日本語として普通に使われているエレメントと同じようである。
そう考えるとこの定義を読んで、それが意味しているものがわからないという人はあまりいないだろうと思う。会社や企業の活動や製品・役務が持つ数々の特性や影響の中で環境に関わる部分ということだろう。
具体例としては、工場であれば工場内の活動にはいろいろあるだろうが環境に関わるものにはエネルギーや廃棄物などということだろう。運送会社であれば配送の車もあるだろうしその車が消費する軽油などがある。もちろん商事会社でも保険会社でも環境とかかわらないビジネスなどない。

ではこの定義で説明している『・・・の要素』に『環境側面』という言葉を当てはめるのが適切なのだろうか? いやすでに過去のことであるから、適切であったのだろうかと言うべきだろう。
これが本日の論点である。
環境側面という言葉は昔からある言葉ではない。事の起こりは1996年にISO14001規格をJIS規格に日本語訳するとき、environmental aspectという言葉に『環境側面』という言葉を当てたにすぎない。 ../zero2.gif
アスペクトという言葉から私がまっさきに思い浮かべるのは比率であり、特に飛行機の主翼の縦横比である。
Aspectを英英辞典で引けば
(1)a characteristic to be considered
(1) 想定される(考えられる)特性
(2)a distinct feature or element in a problem
(1) 問題(項目)における特徴か要素
(3)the beginning or duration or completion or repetition of the action of a verb
(1) 動詞の動作の始め、持続時間、完成または反復
(4)the visual percept of a region
(1) 領域の視覚知覚対象、平たく言えば「何ものかの見ため」だろうか
(5)the expression on a person's face
(1) 人の顔の輪郭
などが並んでいる。
まあ、上記の(3)〜(5)ではなさそうであるから、(1)とか(2)になるのだろう?
上記(1)と(2)を合わせて考えると、environmental aspectの英語の定義との関連におかしいところはないが、果たしてそういったものを側面と称するのが適切だろうか? aspectを環境側面としたのは訳語としては生煮えというか不適切ではないだろうか?
だって、日本語の辞書で側面を引けば
(1)物の横の面。また、上下・前後の面以外の面。
(2)(数学で)立体の底面以外の面。
(3)脇。中心・正面からはずれた所。「―から援助する」
(4)種々な性質・特質のうちの一つ。一面。「この事業は別の―がある」
なんてのが並んでいる。
確かに(4)で「備えている性質」という意味もあるにはあるが、特殊な場合たとえばビジネスなどで使われることが多く、普通の会話ではあまり用いない。とりたてて英語のaspectに側面をあてることはなかったような気がする。
環境側面という代わりにどのような言葉を当てはめるべきかと、頭をひねっても良いアイデアは浮かばない。でも『環境側面』というよりは、単純・素直に『環境要素』とか『環境特性』『環境影響源』あるいは漢字の熟語にこだわらず『環境に影響する部分』とか『環境に関わる性質』なんて表現したほうが良かったのではないだろうか?
『環境影響』としてしまうと意味が定義と全然違ってしまう。

私はなぜにこの訳語にこだわるのだろうか?
よくぞ聞いてくれました。
環境側面という謎の言葉、魔法の呪文が語られた瞬間に、聞いた人は魔法にかけられて大和言葉で考えることができなくなり、メイズ、青木ヶ原、ラビリンスに迷い込んでしまうのである。
メイズって覚えてますか? 80年頃大流行した迷路のことです。
青木が原は自殺の名所
ラビリンスとは牛の頭をもつ怪物を閉じ込めたあれですよ、あれ

つまり環境側面を、なにかとてつもない概念で、綿密な計算で得るものであるとか、審査員のご宣託によって正統性を得なければならないとか、思い込んでしまうのである。
我々が普段使う言葉で日常の仕事でどんなことが環境に関係しているのかと、裃(かみしも)を着けずに考えることができなくなってしまう。
また審査員も環境側面とは難しい概念であると信じて、話し合いで著しい環境側面を決めるなんて聞くと「とんでもない!」と怒り、詳細なデータを取りエクセルを駆使してでてきたものでないと「認めないぞ」と言いだす。
そもそも著しい環境側面をなくそうとすることもないのだ。環境側面がたくさんあり環境負荷が大きい工場ほど付加価値、つまり儲けが大きいことを知っていますか?
ISO規格では著しい環境側面をなくせとも減らせとも書いていない。
もしあったら教えてください。
ISO規格が要求しているのは著しい環境側面をしっかり管理して事故や問題を起こさないようにしろということにすぎない。
『すぎない』といってもそれは簡単なことではないのだが

先日、知り合いの会社のISO審査に立ち会った。
リーダーのH審査員が語った。
H審査員とは私がかねてよりご指導を賜っている某有名審査機関のおえらいさんである。
不肖おばQ、あなた様を尊敬しております。
もし、H様がこの駄文をお読みになられましたら笑ってお許しください。
「環境側面を特定するなんて考えることはないのです。あなたたちの仕事を分析して、重要なことや関係する法律を認識するだけなのです。そのとき環境に関わるも関わらないもありません。」
環境側面
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そのとおりだ。
私たちは会社で仕事をしているのだから、環境に関わることはしっかり管理して、環境に関係しないことは軽く考えてよいはずがない。
会社の仕事をちゃんとするためには、環境側面の特定なんて過去からしていたはずだよね。そういうふうに環境側面を認識していれば、環境側面の特定とか著しい環境側面の決定などに悩み迷うことはなかった。
まして○○流とか○○方式など審査機関の名前をつけた著しい環境側面の決定方法など不要であったのだ。
著しい側面であるはずのものの点数が低いから算式を変えようとか、係数を変えようなんてこと自体支離滅裂ではないか。
「いくら係数をいじってもPCBが著しい環境側面にならないんです。」なんて人はISOに関わっているなどと語ってはならない。
それはISOに対する冒涜である。
残念ながら私はそういう事務局をたくさん知っている。
仕事を進める上で何が重要か、関係する法律はなにがあるのかと考えるのに、詳細な数値データは不要だし、エクセルも使わなくて済むだろう。それ以前に数値化自体不要である。
はっきり言えば以前からしてきたことがすべてであるはずだ。だって重要なポイントを抑えなければミスは多発するし、仕事にかかわる法律を知らなければ大変なことになる。
環境側面をもっと平たい言葉に訳していたらISO14001の4.3.1項はもっとわかりやすかっただろう。そしてISO14001規格は環境側面を軸にストーリーが描かれているのだから、規格そのものがもっと理解しやすくなり、実際の運用に生かされたのではないだろうか?

環境側面とはなんだろうか?
そりゃ考えるまでもなくISO規格の定義のとおり「組織の活動又は製品又はサービスの要素のうち環境に関わるもの」にすぎない。
環境側面とは完全に翻訳のミスだったのだろうか?
あるいは難しい表現にしてISO規格をおごそかにしてその権威を高めようとか、規格を分かりにくくして講習会でお金を稼ごうとしたのかもしれない。
環境側面をもっと適切に訳せばISO14001の失われた10年はなくてすんだのだろうか?
失われたとかいたが、環境側面の謎は現在も蔓延しており環境側面にまつわる不毛は今後も続くのかもしれない。


ぶらっくたいがあ様からお便りを頂きました(07.12.12)
「環境側面という言葉 07.12.09」への意見
はじめまして、ぶらっくらいがぁと申します。
以前、ミクシィでおばQ様からコメントをいただいたことがあり、それでこのサイト(うそ800)を知りました。僭越ながら共感できる部分があり、参考にさせていただいております。
さて、「環境側面という言葉 07.12.09」に関して、少し自分の考えを述べさせていただきます。
「環境側面」や「著しい環境側面」という用語は、日常で使われることはほとんどなく、これを社員に理解させて覚え続けさせることは合理的とはいえません。
また、ISO14001固有の用語でもあり、EMSが会社の経営システムの一要素にすぎないことを考えれば、いっそ「環境側面」なる用語は使用しないことが一番であると思います。
更に踏み込んで考えれば、経営システムの重大管理要素である品質、環境、労働安全、情報管理の全てに当てはまる一般的な日常用語を使用することが望ましいわけです。
当社ではいわゆる「ISO統合」の準備中ですが、その中では「環境側面」を単に「リスク」、「著しい環境側面」を「重大なリスク」という言葉に置き換えようと考えています。(「有益な環境側面」なる不可解なものは取り扱いませんので、有害要素だけが対象です)
「考えうる環境側面を特定し、著しい環境側面を決定する」なんて書くより、「市場クレーム、環境汚染、労働災害、情報漏えいのリスクを取りまとめ、その中から重大なリスクをピックアップする」とした方がスッキリしますね。
これなら誰にでも理解できます。
ぶらっくたいがあ様のご高名はかねてより存じ上げております。
あなた様のような有名な方からお便りをいただくとは感激至極であります。
おっしゃる通りと思います。
私は勤めていた会社、支援した会社、知り合いの会社で9000でも14000でもISOの教育とかしちゃいけないと言ってました。また文書もISO用語などつかっちゃいけない従来からのもので十分、審査員のためには対照表で説明を基本としてました。
そうでもなくちゃ、それこそシステムが定着しませんからね。
ただ、ぶらっくたいがあ様の唱えるリスクという言葉が環境側面と1対1で対応するかというと、ちょっと違うような気がします。
それこそ規格でいう「有害か有益かを問わず(アネックス)」のニュアンスとは異なるような気がします。
有害要素だけとおっしゃいますが、それだけでよいのかなあ?と思います。
私は「有益な環境側面」否定論者ですが、環境側面は有益なものを有するものもあると考えておりますので主義が違うかもしれませんね。
お互いに道は異なれど、日本のISOを良くするために頑張りましょう。


ぶらっくたいがあ様からお便りを頂きました(07.12.13)
私のようなヒヨッコの洟垂れ小僧に過大なお言葉、痛み入ります。
私は3年前に再就職と同時にまったくの未経験で「ISO」の世界に飛び込みましたので、毎日が勉強の連続でしたし、今も変わりはありません。
そういう意味ではネットであれ、リアルであれ、お会いする人すべてが先生であると思っております。どうぞよろしくお願いします。

有害要素だけとおっしゃいますが、それだけでよいのかなあ?と思います。
さて、少し言葉足らずのようでしたので、補足させていただきます。
実はその指摘は、ウチの社員の中からもありました。
「ISO」は経営システムそのものであるという根っこの部分において、おばQ様のお考えと私のそれとはおそらく同じだと思います。
経営システムの最も重要な機能には、
@顧客満足の向上というプラスの側面の追求と、
Aリスクの低減・回避というマイナスの側面への備えの2つがあると考えます。
簡単に言うと、
@は競合他社に打ち勝つ素晴らしい製品を開発販売してお客様の支持を得ることであり、
Aは環境不祥事、製品欠陥による損害賠償やリコール、労災、情報漏えいなどのリスクから会社を守ることであるといえます。
@には、安価で高性能な製品だけでなく省エネ・省資源をアピールした「環境に優しい製品」も含まれますから、言い換えればこれは「有益な環境側面」です。 「環境側面」という言葉の取り扱いの中で有害要素だけを対象にして有益要素は対象にしないと申し上げましたのは、それは@の範疇のことであるからAには属さないという意味です。まったく考慮しないということではありません。
攻守がそろっての経営システムですから、当然といえば当然の話ですね。
環境側面に関わる問題というか議論がかみ合わない原因は、環境側面と言う訳語がやはり不適切だったのでしょうね。
「事業と環境の接点」とか、「環境リスク要因」とか「環境事業要因」という表記のほうが日本人には直感的に理解できたでしょう。
ともかく、この語をめぐって今も審査の現場では不毛な議論がえんえんと続いているのは現実です。
その時間を遵法を確実にしているか、環境配慮をどう展開しているのかとかいう生産的な話し合いをしてほしいものです。

ばかばかしい例え話ですが、
「著しい環境側面を決定するには使用量、重大性、持続性などを数値で評価してその積を求めて一定基準を越えたかどうかで判定します。」といえば「そうするのか!」と信じる人がいるだろうことは間違いありませんが
「環境事故や違反が起きないように管理しなければならない項目は、使用量、重大性、持続性などを数値で評価してその積を求めて一定基準を越えたかどうかで判定します。」といえばみんな「そんなバカな」というに違いありません。
ちょっと考えればわかることを、わからないということは考えていないんでしょうか?


岩■様からお便りを頂きました(10.10.07)
環境側面
いつも楽しくHPを拝見いたしております。
早速ですが2,3質問をさせて下さい。
大手の認証機関のJxxで定期審査を受審した時のことです。
?審査員の言葉”環境側面抽出、著しい環境側面特定は、目標設定の為の準備です。”、ということをはっきり言われました。これは、規格の何項に書いてあるのか不明です。ご教示お願いします。
?審査員の言葉2”著しい環境側面は、改善により減らせるものを登録しなさい。仕事で使う必要があるものは、なくしたら仕事ができないから。”
??とも、いままで色々な解釈を論ずる審査員がいましたが、今回は極めつけでした。私の理解が不足なのでしょうか。ご教示下さい。
以上
岩■様 お便りありがとうございます。
若干、あちこち文字化けがあるようです、まあ、大勢に影響なさそうですので文字化けは私なりに読んでいきます。
著しい環境側面は目標設定のためです
大手ということと、そのお説を聞いただけでどこだかわかっちゃいます。というくらいその大手ではティピカルな考え方のようです。そしてそれは完璧に間違いでしょう。困ったものです。
ということでそんなことは規格に書いてあるはずがありません。
私に聞くより、次回審査で「それは、規格の何項に書いてあるのか?」と審査員にお聞きなされたらいかがでしょうか。

著しい環境側面は、改善により減らせるものを登録しなさい
うわあ!これまた某大手審査機関のティピカルな論理!
私はそんなアホ審査員を相手にしたくありません。
一番手近な電話をとって「おまえんとこから来ている審査員変えないと認証機関変えるぞ」と審査員の目の前で、先方の責任者にクレームをつけるのが一番かと思います。
私、そんなこと一度だけしたことがあります。

その場で聞くことができなくても、審査の後でも無邪気に先方の責任者宛にご教示願いたいとお便りを出されたらいかがでしょうか。
その前に、ほかの審査機関のふたつみっつ、ISO-TC委員にお問い合わせするとかして、その回答で武装していると確実です。たぶん平謝りになると思います。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(10.10.09)
審査員の言葉2”著しい環境側面は、改善により減らせるものを登録しなさい。仕事で使う必要があるものは、なくしたら仕事ができないから。”

こんなご託をのたまう審査員を目の当たりにしたら吹き出してしまうかもしれません。カンペキに環境影響と環境側面をごっちゃにしていますね。たぶん、両者の見分けがつかないのでしょう。
だいたい「著しい環境側面は改善により減らせる」、つまり改善によって「著しい」から「通常の」環境側面に格下げできるものでしょうか。
例えば「側溝への有機溶剤の漏洩流出」を考えた場合、漏洩流出を防止するための管理を強化することで、その発生の可能性を低減させることはできます。しかし、有機溶剤を保管している以上は漏れ出すという想定事態そのものがなくなるわけではないので、それが著しくなくなるという考え方はヘンです。
それから、「なくしたら仕事ができないから」というのもヘンです。
「保管PCB廃棄物の紛失・盗難」という環境側面は、その保管PCB廃棄物をJESCOに処理してもらうことでなくなります。これによって何の仕事ができなくなるのでしょうか。
TC委員様にご神託を仰ぐまでもなく、この2点で論破できるでしょう。
著しい環境側面がどうたらなんてことは横に置いて、環境負荷を低減させること、事故を発生させないこと、発生した場合にはそのダメージを低減させることを素直に取り上げればいいんじゃないでしょうか。
ぶらっくたいがぁ様 いつもご指導ありがとうございます。
ぜひともぶらっくたいがぁ様に認証機関とか審査員の教育をしていただきたいものと・・
私ですか?
めんどくさいことはご遠慮しておきます。



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