マニュアル不要論 08.02.29

ISO審査が従来は規格項番ごとに満たしている証拠を探していたのに対して、JABのいうプロセスアプローチ審査では業務を観察して規格を満たしている証拠を探すことになる。既にそういう審査をしている審査機関もあるし、いまだ切り替えていない審査機関もある。(2008年2月時点)
いずれにしてもゆくゆくはすべてプロセスアプローチ審査に切り替わるわけだ。そのとき、品質マニュアルとか環境マニュアルというのはいらなくなると思うがいかがだろう?

そもそも、マニュアルは何のためにあったのか?と考えると、はじめから必要なかったのではないだろうか?
1987年版のISO9001-9003では品質マニュアルを作れなんていう、小学生のようなことは求めていなかった。
ISO14001では初版・改定版ともマニュアルを要求していない。もっとも審査機関によっては、環境マニュアルという名称でないところもあるが、ISO14001規格に対応した関係文書、記録とその組織の仕組みの概要を書いたものの提出を求めているところもある。もちろん求めていない審査機関もある。
プロセスアプローチ審査になると、はじめに文書ありきではなく、現実ありきなのだから、マニュアルが審査の手がかりにならないことは当然だ。規格に適合しているかを確認するのは審査機関であり、組織が積極的に規格に適合していることをアッピールすることはない。審査側の要求を受けて証拠を提示するだけである。

ところで、審査機関、審査員側から考えてみれば、そもそもマニュアルはどのように役立っていたのだろうか?
規格項番とおりの審査なら、その会社がどのような仕組みでどのような文書を作り、どのような記録を残しているかを見ることは、非常に簡単であることは論をまたない。
もし、それさえも大仕事であるという方がいらっしゃるなら、世の中の一般的なお仕事をしたことがないのであろう。だって考えてご覧なさい、組織のマネジメントシステムが規格に適合しているかいないかをみるのと、お客さんを説得して商品を売るという仕事を比較すれば、どちらが分岐の少ないルーチンワークであるかは明白だ。
おっと、その前にマニュアルが規格に適合しているかいないかをチェックするステップがある。聞くところによると、審査員見習いがはじめにする仕事はマニュアルのチェックだという。マニュアルが規格要求を満たしているか否かを一字一句調べるらしい。ご苦労なことである。
そういえば10年も前、審査員の研修でそんなことをさせられた覚えがある。

ところで、マニュアルに書いてあることで規格要求を満たさなければならないと規格不適合になるという理屈はあるのだろうか? そりゃISO9001ではマニュアルを要求しているが、規格文言の一字一句に対応せよとは書いてない。
ISO9001:2000 4.2.2で要求していることは
a)品質マネジメントシステムの適用範囲、除外がある場合には、その詳細と正当とする理由
b)品質マネジメントシステムについて確立された文書化された手順またはそれらを参照できる情報
c)品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係に関する記述

だけである。
まず、a)はお金(審査費用)に絡む事項だが、わざわざマニュアルに書くまでもなく、申請書に書いておけば済むような気がする。登録証にはそれを転記するだけだろう。
b)は規格項番と社内文書の対照表があれば間に合うのではないだろうか?
c)プロセス間とは曖昧模糊(あいまいもこ)、どこまで書けば良いのだろう? ということは細かく書かなくてもOKだ。
どう考えても、マニュアルに書かれていることだけで規格要求事項を満たさなければならないということはないようである。

大変なことに気が付いた。
マニュアルを作るのが必須としても、規格要求をすべて満たす文言が記載されていなくてもよいということになる。現在、品質マニュアルであろうと環境マニュアルであろうと、文言不足という不適合は多々ある。これはいったい何を根拠にしているのだろうか?

もし、今後マニュアルが不要となると新人のお仕事がなくなり、審査費用は減る・・はずはないか。今度からは事前に書面審査ができなくなるので、実地審査の時間を上積みすることになるだろう。なにしろ審査機関の売上は単位時間当たりの費用かける所要時間なのだから。
マニュアルがなければ審査できませんという審査機関はあるのだろうか?
まさか、そのような女々しいことは言うところはないとは思う。 

そもそもマニュアルが必要な理由はなんだろう?
審査を受ける側にとってマニュアルは必要だろうか?
以前、私はマニュアルとは最上位の文書ではなく、単なる提出文書であると書いた。普通の会社なら、仕事の手順を会社規則などで定めているわけで、わざわざ品質マニュアルとか環境マニュアルという文書がなくては仕事が進まないということはないだろう。大昔、1990年頃だが、客先の品質監査などのさいに、会社の品質保証システムを説明するのに会社規則を提出することはコンフィデンシャルだからできず、それらの体系をサラット書いて提出していたものだ。そういう社外提出文書が発展したものが品質マニュアルであり環境マニュアルであると認識している。マニュアルなんてそれ以上でもそれ以下でもない。
だから、ISO審査のためにわざわざ作っているに過ぎない。マニュアルなんて企業にとっては不要である。
しかし、と思うのだが、
環境マニュアルあるいは品質マニュアルがなくなると困る組織もあるかと思う。
例えば、会社の本来のマネジメントシステムが確立していなくて、とりあえず認証するために細かい文書なんて作らないで、環境に関しては1冊の環境マニュアルを作り、品質に関しては1冊の品質マニュアルを作った会社もあるだろう。そういうことを指導しているコンサルタントはいるし、なんと審査員(!)もいるのである。
更にはひな形マニュアルを売っているコンサルもいる。それどころか、ネットでググるとわかるけど、驚くことに、そういう代物をビジネスとして販売している企業もあるのだ!
マニュアルが不要になると、ISOビジネスの危機! といっても本来必要ないビジネスであったならそれもやむを得ない。

そういう会社で、もう審査前にマニュアルは要りませんよ、といわれたらどうするのでしょうか?
もちろん単純にマニュアルを廃止するわけにはいきません。なにしろマニュアルしかないわけですから。そういうところはマニュアルで仕事していますと言い切るしかない。しかしそれも変ですよね? 文書が品質対応とか環境対応しかないというのは変でしょう? 旅費清算、輸出管理、健康診断、交際費・・そういったものを何で決めているのでしょうか? このあたりをどう言いつくろうのか見ものです。
どう考えてみても、マニュアルなんて止めちゃって、本当に必要な文書のみを整備するのが王道、正攻法(成功法?)であることは間違いありません。
あるいは明文化されてはいないがしっかりしたシステムがあり、こまごました文書が要らないのであれば、このさいゼーンブ捨てちゃって、「さあよく仕事振りを見て審査してくれ、理解できないなら審査員の力量不足だ」と迫るのもありそうです。
ISO14001 4.4.6a)文書化された手順がないと逸脱するなら作成せよ
ISO9001 4.2.1参考2文書化の程度は組織によって異なる
とあるので、仕事がしっかりしているなら、文書が不要なことは明白である。
文書管理、内部監査、是正処置など規格で文書化を要求しているものはやむをえない、最小でいこう。

あるいは本当のマネジメントシステムと審査の際に見せるシステムが違っているという会社もある。実際にはそういうのが多いのではないかと思う。そんなところではマニュアルを捨ててしまって、真実のマネジメントシステムを説明して、それで完璧なら良いわけだし、もし不足があれば補強すればよいのではないだろうか?
真のマネジメントシステムが先端的でコンフィデンシャルな会社もあるだろう。そんなところでは業務の全体を見せず審査員を納得させる範囲のみ提示すれば良いのではないか。なんとなれば審査は組織が規格要求を満たしていることを確認することであって、その会社の全貌を知ることではない。

JABが2007年 4月13日に発信したマネジメントシステムに係る認証審査のあり方では、プロセスアプローチ的審査と有効性の審査を宣言している。
「有効な審査」とはいろいろな意味に取れるが、審査が有効であるならばマニュアルは要らないと思う。言い換えるとマニュアルなしで審査できる力量がなければ有効な審査ではない。頭のいい人たちのことだ、そうなると「効率的な審査」をするために必要と言い出すかもしれないが・・


本日の最後っ屁
ISO9001の4.2.2項を削除しましょう
ISO14001では環境マニュアルを要求してはいけません





私は青い鳥!様からお便りを頂きました(08.03.28)
要求事項に適合する必要性?
私は、今マネジメントマニュアルを作成中である。
品質マニュアル・環境マニュアルを統合したマニュアルをつくれとの経営者からの指示によるものである。
それぞれのマニュアルのなかに、”ISOの要求事項に従って”との文言が散見する。
(ほぼ私がいろいろな参考書をもとに当社に合致するようにつくったものですが)
ふと、疑問が出てしまいました。
マネジメントマニュアルなるものに、要求事項があるものか?
経営者が、従業員が、会社関係者が、はたまた社会が安心して暮らせるように、ハード面・ソフト面すべてを網羅したものがマネジメントマニュアルではないか?
故に、お客様の要求事項を満たすための品質、社会の要求事項を満たすための法令遵守、相互の安心を得るための環境改善が要求事項ではあるが、ISO規格は何を目指したものでしょうか?
お教えくださいませ。

私は青い鳥!様 毎度ありがとうございます。
マニュアルなるものがいかなるものであるべきか、という要求事項はISO9001の場合明確です。
4.2.2にありますように
a)品質マネジメントシステムの適用範囲。除外がある場合には、その詳細と正当とする理由
b)品質マネジメントシステムについて確立された「文書化された手順」又はそれらを参照できる情報
c)品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係に関する記述
であります。
そして、環境マネジメントシステムでは環境マニュアルを要求していません。
しかし、IAF及び認定機関のルールでは認証機関が独自にルールを定めても良いことを決めており、その場合、そのルールは文書化して公開しなければならないことになっています。ISO/IAF GAIDE0066にあったと思います。
ですから、青い鳥様はあなたのところの認証機関の審査登録ガイドを良く読んで、相手が何を要求しているかを把握することが第一です。
仮に何も決めていなければ、ISO規格対応だけあればOKです。
「規格要求に対応する文言がない」なんて言う審査員がいますが、あれは無知丸出し。そのような要求はISO規格、IAF基準にありません。
こう言いましょう
「あれえ、ISO規格要求の適用範囲も、文書の対照表も、相互関係も書いてますが、それで何か不足ですか?」
問題ありましたら、青い鳥様とご一緒に赤坂でも丸の内でもクイーンズタワーでも行きましょう。




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