ISO事務局講座 その11 2006.12.30

マニュアルとはなにか
マニュアルとは「手」という言葉からきたそうでして、手作業、手作り、あるいは手順とかいった意味があるらしい。
反対語はオートマチックでしょうか? その反対語はリボルバー?
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普通マニュアルというと、ソフトウェアの使い方とか機械の操作手順書的な意味合いがあるが、ISOの世界ではマニュアルとはISO適合審査を受けようとする組織(会社・工場など)が『審査登録機関に提出する文書』をいう。
そしてISOに関わる人たちからはマニュアルとは、組織内に強制力を持つ文書でありかつその組織の最上位の文書であると思われている。
それが本当かどうかの検証が本日のテーマである。

ISO9001規格では品質マニュアルを作ることを義務つけている。他方、ISO14001ではマニュアルという言葉はないものの、やはりシステムを記述した文書(複数であっても可)を作成することを求めており一般的にそれをマニュアルと呼んでいる。
私だってISO14001でなぜマニュアルという言葉を使わなかったのかという、ISOTCでの論議の経過くらい聞いている。しかしそのようなことをここでだらだらと書くまではないだろう。
ということはISO審査を受けている会社はもちろん、それだけではなく自己宣言している会社、これからISO審査を受けようとしている会社、あるいは審査は受けないが一応仕組みはあるぞと対外的に表明している会社、対外的に表明していなくても規格を満たしていると自認している会社には、必ず環境マニュアルとか品質マニュアルが存在していることになる。
それどころか、当社には7つの品質システムがあるなんて豪語している会社には7つの品質マニュアルが存在しているのだ。
当然環境マニュアルも半ダースくらいあるに違いない。 
ISO14001規格ではマニュアルという単独の書物ではなく、複数の文書によってでも規格を満たせばよいと定めているが、審査を受けようとすると審査機関からその審査機関の審査の基準から単一の文書提出要求されるのが通常である。
私の知る限り環境マニュアルという単一の文書を作らずに審査を受けた企業を知らない。もちろん審査機関はたくさんあり、わたしの知らない審査機関ではマニュアルは単一の文書でなくても良いというところもあるかもしれない。

はたしてマニュアルとはいかなるものなのでしょうか?
一般的にマニュアルとはISO規格の項番ごとに章立てをして、そこに当社ではこうします、ああしますといったことをだらだらと並べたものである。しかし、この文章の前半はいいとして、後半が要検討である。
多くの会社のマニュアルは規格の文言通りコピーアンドペーストして、規格の語尾「すること(shall)」から「こと」を取り除き、語尾を「する」にしただけのものである。
マニュアルを書くとはかくも簡単なものであったのか! 
これをみるとその会社のカラーというか特徴は全然記されていない。おんなじマニュアルでどの企業にも工場にも商店にも使えそうだ。
man1.gif マニュアルとはこんなんでいいのだろうか?
私は、それではいけないと断言する。
マニュアルとはそんなものではなく、規格のそれぞれの項番に該当する章に会社の実態、過去より会社が実施していたことをありのままに記述するのがあるべき姿であると考えている。

おっと、中身を見るまでもなく、みなさんがマニュアルをどう認識しているかはその書き出しを見れば明白です。
どんな法律でも規則でも報告書でもそうですが、すべての文書はタイトルのすぐあとに己の目的を記しているはずです。当然マニュアルの目次の次にはマニュアルとは何かを説明する文章がある。
ほとんどのマニュアルの書き出しもだいたいこんなふうである。
「この環境マニュアルはうそ八百株式会社(以下当社という)の環境マネジメントシステムに関する最高位の文書である。
環境マニュアルは管理責任者が作成し社長が承認する。
当社社員はこの環境マニュアルに基づいて業務を行う。」
なんて書いてある。
本当かよ? と・・・私は疑り深いのである。
最高位の文書というと会社の憲法か? ISO審査のためにちょちょっと作った文書が最高位の文書とはその会社はたいしたことはないな・・・と思うのは私だけであろうか?
おまえだけだ!という声が聞こえたような気がする。

私の書くマニュアルの冒頭にも目的や位置づけの説明書きはあるのだが、マニュアルが最上位であるという表現は絶対しない。
一例をあげると・・・
「うそ八百株式会社(以下当社という)は法規制・社会通念・業界の慣習及び会社の規則に基づいて、遵法に努め事業を推進している。当社のこれら包括的なマネジメントシステムの一部である、環境マネジメントシステムとその活動がISO14001規格に適合しているかの検証を社外の審査登録機関に依頼する。
この環境マニュアルは審査に当たり審査登録機関に提出する文書として、ISO14001規格項番に対応させて当社の活動の概要と関連する文書及び記録を記述したものである。」
別に審査機関にけんかを売ろうとか、審査員の気を悪くさせようといやみを込めてこの文章を書いたのではない。私は事実しか書いていないのだ。マニュアルとはしょせんそういうものなのである。
会社には「会社規則」とか「規定」とか「手順書」とかいろいろな呼ばれているだろうが明文の、場合によっては不文律の会社のルールがあり、それで動いているのであり、ISOのために規則を作るとか文書を作るなんて口が裂けても言っちゃいけません。
ドーンと構えていなくちゃいけません。
なお、上記文言をみなさんのマニュアルに使用することを無条件で許可する。 
もしこの書き出しでいちゃもんを付ける審査員、審査機関があれば、みなさんが審査機関に意義申し立てするとき同行することをお約束する。
当然であるが、本文である4章以降も規格をオウム返しに「すること」を「する」にしただけのマニュアルを書くはずがありません。
正直言って、仕事で品質マニュアルを書いたり環境マニュアルを書いたのは数年前までである。今は半分趣味(ボランティア)でひと様の会社のマニュアルを書いている。
まずマニュアルを書く前に会社の仕組みを調べる。 聞き取りと帳票の棚卸しには一週間くらいはかかる。しかし上記を調べれば、著しい環境側面も明らかになるし該当する法規制も頭に浮かんでくる。
くどいようだが環境側面の一覧表を作ったり、計算なんか不要だ。
だって私はプロなのである 
調査を完了したら、規格要求事項と調査結果を脇において、二つを参照しながら一気呵成にマニュアルを書いてしまう。
coffee.gif 規格要求項目ごとに、その会社がしている活動、文書、記録などから該当するものを選んで書き込む
調査さえしっかりしていれば、美味しいコーヒーと一日半あれば完成だ。マニュアルを書くだけなら一日で十分だが、推敲というかチェックする必要があり、私の性格では作成とチェックを同日には絶対できない。一晩おかないとミスを見つけられない。
もっとも審査機関や審査員にもいろいろな好みがあり彼らの気を悪くさせないようには相手に合わせないとなりません。そしてそれができなくっちゃプロじゃありません。
会社の仕組みはただひとつであり、会社の業務はそれで動いているのであるが、顧客要求があればそれに合わせてマニュアルを作成するのは当然である。
品質マニュアルといってもひとつの会社にひとつしかないわけではない。顧客によって固有の要求があれば、それに合わせて会社が行っていることを記述しなければならない。
環境マニュアルだってグリーン調達が一般的となってきた現在ではISO14001対応だけではなく、化学物質管理やRoHS対応を含めたり、製品の環境配慮の要求項目があったり(今後EuPも追加になるのだろう)、はたまた取引に関する情報管理をひとつの項立てして要求する客先もある。
ISMSとか労働安全衛生といったところで、私にとっては品質マニュアル作成とか環境マニュアル作成とまったく同じである。というより品質保証要求事項が異なるというだけでしかない。
だって元々マネジメントシステムはひとつしかないのだから・・・

さきほど品質マニュアルが7つある会社の例をあげたが、マニュアルがたくさんあるということが悪いとか間違いということではないのだ。
間違いは品質システムが7つあると勘違いしていることである。
おっと、本日のテーマはマニュアルとはなんぞや? ということでマニュアルの書き方ではない。ただ、マニュアルを書く手順を理解すれば、マニュアルが組織の最上位の文書だなんていう、「著しい勘違い」は決してしないだろうと思ったのです。

ところで、最近知り合いの某社で維持審査がありまして、その後事務局の方が私のところに来まして、茶飲み話をしていきました。
「いえね、佐為さん、先日の維持審査でちょっとありましてね。
mankomatta.gif 私の会社の文書体系ってご存じですよね。私なんかが入社する前からある総務、営業、資材、経理と業務ごとに職掌、権限、手順を決めたあれね、
環境マニュアルでは業務概要を記述して、詳細は会社の文書を引用しているんですが。審査員さんそれを見て非常に不機嫌になりましてね『下位文書を作らずマニュアルにすべてを書き込んでしまえ』と指導するんですよ。
もう何年も認証しているわけだからまさか不適合にはせんだろうとは思いましたがコメントくらい残すのかと思いました。結局はなんにもなし、ただしクロージングでイヤミを言っていきましたね。次回はあの人忌避するつもりです。」
一昨年は、マニュアルに規格の文言が盛り込んでいないとか、読み取るのが難しいなんて言われたとご相談に来た事務局の方がいました。
環境を良くするのも品質を良くするのも形ではなく中身だ。
バーチャルでかっこいいマニュアルを作っても魂が入っていなければ木偶(でく)にすぎません。
事務局は会社の実態をそのままに記述した泥臭いマニュアルを作りなさい。
審査員はそれを読んで、その会社が規格に適合しているか否かを一生懸命読み取り判定しなくっちゃいけません。
仕事ってそういうものなんです。


本日の提言

事務局と審査員がマニュアルについて私と同じ認識していたなら、負のスパイラルは起きなかったろう。

今からでもマニュアルを見直してみませんか?
それがマネジメントシステムの改善ですよ




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