統合マネジメントシステム 2006.10.26
私は職業柄、毎月ISOの名前が付いた雑誌をいくつか読んでいる。そんな雑誌のひとつで「統合マネジメントシステム特集」があった。それを読んでうーん、とうなってしまった。
ここ数年は環境一筋ではあるが、もともと私は品質保証屋である。品質保証については一人前という自負はある。ISOなんてものができる前から品質保証というものに関わってきたし、それ以前は製造部門であったし、品質管理の経験もある。 しかし、私は自分のそういった業務に従事した体験から、会社の経営を知っているなんて口が裂けても言えない。
品質保証とは会社の機能のほんの一部にすぎず、そしてもちろん環境管理も会社のほんの一部分にすぎない。会社の経営とはもっともっと包括的なものである・・・と考えている。

という前提(思い込み?)で話を進める。
ISO9001やISO14001の認証・・正しくは審査登録なのだが・・をしている審査登録機関は、これからは統合マネジメントシステムの時代である、そして統合認証をしますと語っている。
☆☆ほんとうか? そのようなことができるのだろうか?
☆☆そもそも、統合マネジメントシステムというものは何なのか?
☆☆何をもって統合マネジメントシステムが適合・不適合と判断するのだろうか?
☆☆統合マネジメントシステムが適合とはその会社のシステムすべてを保証するのか?
いろいろと思いはめぐる。私には想像もつかない。
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最近、世界的に有名な計測器メーカーが北朝鮮に不正な輸出をしたと摘発されたが、仮に品質とか環境とかだけでなく、統合マネジメントシステム認証をしていたとすると、輸出管理も含むだろうし、このようなケースでは審査登録機関はいかなる刑事責任をとるのだろうか? などと心配してしまう。
ケースとは事例だけでなく訴訟にかけてみました 
おっと、更に想像は果てしないのだが、統合マネジメントシステム審査で適合と判定された会社が倒産したりすると、こんどは経営責任を見逃したとして株主から集団訴訟を起こされるかもしれない。
そのようなことは仮定の話でもない。ディミング賞が創設された当初、ディミング賞を受賞した会社が倒産した事例があると聞く。それ以降、ディミング賞の審査に当たっては品質だけでなく、経営状態も調べるようになったとか・・・
しかし、特集号を読んでいると、統合マネジメントシステムとは、ISO14001とISO9001を合わせて審査することだったり、せいぜいがそれに加えてISMSや安全衛生を合わせて審査することのようである。
man7.gif 会社のその他の機能、たとえば知的財産権管理、人権・セクハラ、独占禁止法、財務・経理、輸出管理、人事管理・労働関係、安全衛生・健康管理、個人情報・企業機密管理、製品安全、株主対策、最近流行の子会社を含めた社内統制、その他たくさんあるマネジメントの諸機能を忘れてしまったのでしょうか?
審査機関やISO事務局が考えている統合マネジメントシステムとはそのような包括的かつ真に企業の社会的責任を負うものではないようだ。 ならば、それは羊頭狗肉ではなかろうか?

笑ってしまったのは他にもある。
ある会社の事例だが、今まで7つのマネジメントシステムを運用していたという。それを統合してひとつにしたそうである。そんなこと、とてもしらふの人の言葉とは思えない。
woman6.gif ひとつの企業に7つのマネジメントシステムが存在することが可能ですか?
もし本当なら、それは精神分裂症の会社であり、まともに機能するはずがない。
あなたの人格が7つあったとしたら・・・・よく多重人格なんてオハナシがあるが、それらは時間的に分割してその人を支配しているのであって、同時に複数の人格が存在したら、もう精神分裂以前の話です。
この統合マネジメントシステム特集号を編集した人も、審査機関の人も、事務局の人も、精神分裂症なのかしら 
おそらくというか間違いなく、この会社にマネジメントシステムはひとつしかない。しかし今まで顧客によって要求が異なるので、それに合わせて説明するための文書も含めた管理体系が7通りあったということだろう。それを7通りの体系を維持するのは面倒だから、どのお客様にも満足いただけるような、一種類の体系にまとめなおしたに過ぎないのだろうと想像する。
違いますか?

そんな疑問点をまとめると・・・
ひとつは、環境マネジメントシステムとか品質マネジメントシステムとか、あるいはその他いくつかのマネジメントシステムなんて会社本来のGMS(ゼネラルマネジメントシステム)をそれぞれの側面から見たものに過ぎないのに、その事務局が統合マネジメントを語るなんてのは身の程をわきまえていないとしかいいようがない。
例えて言えば、射撃のうまい兵士が師団を指揮したいという妄想なのか?
兵士といっては失礼ならば、せいぜいが有能な小隊長が戦略を考えるようなものと言えばよいのだろうか?

ひとつは、統合マネジメントを論じている方々は、会社の機能というのを理解しているのだろうかという疑問である。
マネジメントというのは、「組織を指揮し管理するための調整された活動」とISO9000では定義している。環境とか品質に限定されてはいない。この定義は間違いない、その通りだと思う。そして過去よりこの世に存在するすべての企業は社会の規制に対応し、良い製品サービスを提供し、従業員を養い、株主に配当を出そうとして、マネジメントシステムを備えているのである。
いま構築しようとか、統合しようとかいう以前に、ありてある統合マネジメントシステムは有機的にかつそれなりの方法で会社を動かしてきたのである。
仮に7つのマネジメントシステムを持っている会社があれば、しょっちゅう動かなくなるはずで、独裁者が現れて処理しなくてはならないだろう。もっとも独裁者が現れるならそういう統合マネジメントシステムを有していることになる。本当に7つのマネジメントシステムがあったなら、会社は労務倒産ならぬ組織倒産(そんな言葉があるはずがない)に至るだろう。

ひとつは、監査法人でさえ見逃し、癒着で訴えられている時代、マネジメントシステムの審査登録機関がそのような危ない火中の栗を拾う商売を始めるまでもないのではないかという気もする。
その前に、品質や環境のマネジメント規格への適合審査でも完璧でないのに手を広げることができるのであろうか?
完璧だ!という声はないと思う。だって審査員のコンピタンスがどうたらといういことで、審査員の資格認定の方法も変わっているのだから、不十分であったのは証明済である。
いずれにしても適合性審査なのであるが、基準となるマネジメントシステム規格がないとき、最低限として遵法を確認するのだろうか? そうすると弁護士法との関係も心配してしまう。

ひとつは、もっと基礎的なベーシックなことなのだが、品質保証とか労働安全衛生とか公害防止組織などを理解しているのだろうか?ということ。安衛法で要求している総括安全衛生管理者とか、公害防止組織法で定めている公害防止統括者というものを、会社職制と関わりない組織を設けるとでも思っているのだろうか?
ふと頭に浮かんがが、ISO規格で手順書を作れと書いてあるので、会社規則とか規定というのがあるにもかかわらず、一生懸命「手順書」なる文書を作っていた会社があった。 
ISO14001の管理責任者とISO9001の管理責任者を、同じ人物が務めた方が良いなんて思想がどういう理屈で出てくるのだろうか?
一般の会社なら、取締役あるいは委員会等設置会社なら執行役が、それぞれ会社の機能を担当している。
例えば人事担当取締役、財務担当取締役、品質担当取締役、環境担当取締役などなどというふうに、
おっと監査役を忘れてはいけない・・・それは取締役になれなかった人の席ではなく超重要なポジションである。
管理責任者とは日本語訳が稚拙であったのだが、原語は management representative であり、まさに経営層を代表する役員であって、環境なら環境担当役員、品質なら品質担当役員と訳さなければならないところであった。もし、部長とか課長がその任にあるのなら、そのQMSあるいはEMSはバーチャルでその会社の本当の姿を現していないことになる。
だって、部長や課長が品質や環境について会社の代表(representative)として社会にコミットメントしたり、マスコミに対応することができるのでしょうか?
exp.gif そういう実態を踏まえると、「環境の管理責任者と品質の管理責任者を同じ人物が務めた方が良い」という理屈はどこから出てくるのだろうか?
そしたらもちろん、財務担当取締役も、人事担当取締役も、広報担当取締役も全部同一人物の方が良いですよね? そしたら社長一人がフル出場で他の取締役はいらないということか? 

似たようなことはたくさんある。
品質の内部監査と環境の内部監査を統合しようと考える前に、従来からある監査部とか監査役あるいは監査委員会が行う内部監査で品質も環境も点検するのがまっとうではないのか? 今までの内部監査がISO規格を満たしていないなら、もともとの内部監査が会社の内部牽制機能の要件を満たしていなかったと判断すべきだろう。品質や環境の内部監査の有効性を上げようという前に、従来からある内部監査の点検項目を見直し、ISO規格を満たすようにすべきではなかろうか?
ISO9001の発祥時の考えは、はじめから会社に備わっている品質保証のシステムを顧客に示すこと、あるいは顧客が要求する品質保証要求事項を会社が備えていることを立証することであったはずだ。
quest.gif しかし、品質保証要求事項を満たしたら品質が上げるはずだという思い込みが、品質保証であったISO9001の性格を変質させた。しかし誰がなんと言おうと、品質マネジメントが会社の統合マネジメントシステムの幹になりえるはずがない。そして2000年版になろうとも品質ひとつ上げることができない品質マネジメントシステムと、環境事故を減らすこともできない環境マネジメントシステム風情が合わさったところで、統合マネジメントシステムであるとか、会社の経営を良くすると語ることはお笑いではないのでしょうか?
事務局も審査登録機関も身の程をわきまえるべきである。
統合マネジメントシステムとまでいかなくても、審査機関は「付加価値のある審査をします」とか、「プラスアルファのサービスを提供します」なんて大口を叩かず、「当審査機関は規格適合判定一筋です」といった方が信頼性が持てるというものです。
審査登録機関の審査できる範囲、責任を負える範囲なんてのは考えるまでもなく、有限であり、現実には有言の範囲でさえ完璧にはできていない。
認定停止、認定取り消しという事態が毎年発生しているのだから異議は認めない。
もちろんとまっとうなことを語っている審査機関もある。私は大口を叩かない、適合判定に徹している審査機関に期待している。

しかし考えてみると、個別の認証から統合マネジメントシステム認証の時代になったと語ることは、案外そういう本質的大げさなことじゃないのかもしれない。
ISO9001もISO14001の市場もシュリンクしているという。審査機関も増加から減少傾向になったきたし、登録している審査員も頭打ち、審査員研修機関は廃業するところ出ている状況
そんなこんなで手持ちの商品が陳腐化してきたので、モデルチェンジして新しい商品として売り出そうとしているのだけなのかもしれない。


本日のひとこと

統合マネジメントシステムの審査をするという審査機関
統合マネジメントシステムを構築するという事務局
なにか、勘違いしてるんじゃないですか?

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宇瑠斗羅 万太郎様からお便りを頂きました(07.03.07)
それでもシステムの統合が必要な時は?
こんばんは、ISO18001関連資料を探していてたどり着いてしまいました。
おっしゃられることは最もなことですが、既にISO9001も14001も取得している状況で、トップダウンで18001の取得を進めることになりそうです。現時点でも、二つのシステムへの対応で製造現場は、四苦八苦している状況ですので、何とか負担を減らした形で18001の導入を進められないかと苦悩しつつあります。良い知恵があればご教示いただけませんでしょうか?
忘れていましたが、9001と14001のシステムとは別にTPMを永年続けており
このシステムとの整合性をとることもやっかいなことになりそうです。(会社トップからの18001取得に対して工場トップは前向きに取り組む状況とは言えない状態では無理ですかね)

J

宇瑠斗羅 万太郎様 お便りありがとうございます。
たどり着いてしまったと言われては、もはや絶海の孤島か地獄の一丁目という感じですね 
まず私の認識と宇瑠斗羅様の認識が異なっているのかわかりませんので確認したいと思います。
どの会社にも会社規則とか規定と呼ばれている文書があります。貴社にもたくさんの規則があると思います。交際費の処理、輸出管理、固定資産の廃却手続き、環境管理、品質保証・・・・そりゃたくさんあるはずです。
このときこれらは同じ文書体系に位置しているのでしょうか?
通常の会社であれば、会社規則というファイルがあってその中の1000番台は経理、2000番台は人事、3000番台は営業なんて決めているはずです。
違いますか?
そして環境マネジメントであれば環境マニュアルで4.1から4.6の各項目でこれらの会社規則の中で関連するものを引用しての概要を記述するのが普通です。
同様に、品質マネジメントであれば品質マニュアルで4.1から8.5の各項目でこれらの会社規則の中で関連するものを引用しての概要を記述します。
もし文書管理規則というものがあればどちらのマニュアルでも引用されることになります。
整合したひとつの体系の複数の文書をストックしていて、必要に応じてその在庫から選ぶということなのです。
ここまでよろしいでしょうか?
ISO審査というのはこういったマニュアルを元に、その会社の仕組みが規格に適合しているかを外部の審査機関に判断してもらうことを言います。
そうなりますと、いったん品質を見てもらい、また時期を変えて環境を見てもらうのはお互いに面倒だし、要求事項が双方でダブっているものは二度見てもらうより一度で済ませられれば手間ひまがかからないという発想が生じます。
これを通常、複合審査などといいます(審査機関によって呼び方が異なる)

ですから元々会社のシステム(簡単には文書体系といっても良い)はひとつしかないものをばらばらではなく、そのままみてもらうということです。
二つのシステムへの対応で製造現場は、四苦八苦しているされているということは私が述べたような状態ではなく、規則体系がふたとおりあるのでしょうか?
こっちの文書管理規則とあっちの文書管理規則は書いていることが違うなんてことであれば困ることは間違いありません。
でも私の知る限りふつうの会社はひとつの文書管理規則で、安全に関する規定も品質に関する規定も廃棄物管理の規定の制定や配布や廃止を決めているのではありませんか?
「ISO18001をやるぞ!」といっても過去より労働安全衛生についても社内の決まりを規定にしているはずですから(さもないと安衛法違反になりそうです)それを引用してマニュアルを書くだけのことです。
もちろんどの会社も完璧なんてありませんから、従来からの決まりを見直して不足しているところをチョチョット追加して、ハイ出来上がりとなるはずなのですが・・・

もし私が申し上げたのが貴社の状況と全然異なるならまず貴社の状況を知らないとそれ以上のことは言えません。
仮にですよ、文書管理も記録管理もあるいは計測管理も別の規定があるんですよ、文書番号体系も違うんですなんてことがあれば、そりゃマネジメントシステムの統合以前の話でしょう。
その場合は、貴社の仕組みを再点検して、二重となっているところをひとつにすることが必要でしょうね。

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