マニュアルってなんだろう? 08.10.01

だいぶ前、マニュアル不要論というのを書いたのだが、ISO9001規格改定でちょっと気になることを小耳にはさんだので、また駄文を加える。
マニュアルとは何か?というとISOの世界ではいわゆるプリンタのマニュアルというような操作手順書みたいなイメージというか意味ではなく、極めて重要な規則のようなものらしい。「らしい」というのは私は過去、品質保証に携わっており、品質保証システムとか品質システム説明書とか、そう言う名前であったが、ISOでいう品質マニュアルもどきをたくさん書いてきた経験があるのでそう感じるのだ。私はそういった客先提出文書を多数書いていたが、それをすごく重要な規則とか憲法のようなものなどと思ったことはない。まあ、街で配るビラ程度のものとしか思っていない。
ビラで悪いならチラシと言おう・・・同じか 
意味するところは、嘘を書いちゃいけないが、捨てられても、鼻をかんでも問題ないしろものである。
なぜって、会社はそんな客先提出文書で動いてはいないからだ。もちろん会社は管理者の思いつきとか、出たとこ勝負とか、行き当たりばったりで動いているのではない。
当然だが、会社は「会社規則」で動いているのだ。
お客さんが「お宅の会社の職制はどう決めているのですか?」とか「お宅の文書管理はどうなっていますか?」とか「計測器管理はどうしているのですか?」なんて問われたとき、「会社規則」をコピーして渡せば一番簡単です。しかし、そうできない訳があります。会社規則はコンフィデンシャルであり、重要な機密だからです。会社が長い歴史をかけて築き上げてきたマネジメントシステムの秘密を、そうやすやすと見ず知らずの人に見せてなるものですか!
だからそういう質問というかお客様の要求があれば、会社規則の概要をあたりさわりなく書いたものを渡してごまかすのです。
品質マニュアルとはまさにそういうものなのです。

ISOの品質マニュアルも環境マニュアルもそういうものなのですよ。
マニュアルとはものすごいものだと語っているコンサルは、単に金儲けのためにそう言っているのですよ!
だまされてはいけません。
ひとつ注意しなければならないのは、ISO9001では品質マニュアルを作ることを要求しているのに対して、ISO14001はマニュアルという単一の文書でなくても複数の文書であっても、規格で定めている事柄を満たしていればいいよということです。
もっとも認証機関(審査登録機関)の多くは、ISO14001においても、環境マニュアルないしは類似の文書を作ることを要求しています。そういった認証機関はお客さんの企業に配る「審査登録ガイドブック」とか「認証ガイド」という名称の冊子の中で、規格の項番に係る企業の文書のリストアップと業務の概要を記述するように定めています。それは審査員がをするためだろうと私は想像します。
その証拠に、「マニュアルの提出なんていらないよ!私たちはあなた方の仕事を観察して規格適合か否かを判定します」とおっしゃる認証機関もあるからです。そういう認証機関はISO規格というより、企業の本質を知っている認証機関だと私は思います。
そうでない認証機関は、ISO規格以前に経営というか会社というものを理解していないのでしょう。 
そういうところに限って、「経営に寄与する審査をします」なんて言ってるのが不思議です。
「審査を受ける会社の経営に寄与する審査をします」でなく「認証機関の経営に寄与する審査をします」という可能性も否定できないが・・

ところで環境マニュアルを要求する認証機関でも、規格文言を皆盛り込みなさいなどと愚かなことは書いていません。ということは書かなくてもよいわけですよね?
しかしほとんどのコンサルは規格文言を盛り込むように指導しています。そして、ほとんどの認証機関のほとんどの審査員は規格の文言、単語すべてがマニュアルに入っていないといちゃもんをつけるのです。
いや、そんな悪い言葉を使っちゃいけません。規格の文言、単語のすべてがマニュアルに入っていないと不適合にするのです。
不適合の根拠は何なのでしょうか? きっと審査員の頭の中の妄想なのでしょう

話があちこち飛ぶのは私がぼけ始めたからではありません。
某認証機関がお客様の企業に配っている2008年改定対応の説明書の中にそんな注意書きを見つけたからです。
従来規格文言が
「4.1e)これらのプロセスを、監視、測定及び分析する。」
だったのですが、2008年改定で規格が
「4.1e)これらのプロセスを監視し適用可能な場合には測定し、分析する。」
と変わったので、マニュアルもこれに合わせて変えなければならない。
だそうです。
規格を縦に読んでも斜めに読んでも裏から読んでもどうも私にはそう思えないのです。
そもそも4.1の第一行は
「組織は、この規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ維持すること。またその、品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善すること。」
と書いてありますが、
「組織は、この規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ維持することと品質マニュアルに記述すること。またその、品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善することと品質マニュアルに記述すること。」
とは書いてないのです。 ご心配な方に品質マニュアルについてどう書いてあるかを確認しておきましょう。
「4.2.2 組織は次の事項を含む品質マニュアルを作成し維持すること。
a) 品質マネジメントシステムの適用範囲。除外がある場合には、その詳細と正当とする理由。
b) 品質マネジメントシステムについて確立された"文書化された手順"またはそれらを参照できる情報
c) 品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係に関する記述」
どう読んでも「規格の文言をすべて盛り込みなさい」とか「規格要求をすべてしますと書きなさい」とは記述していない。
だから文書管理の項番でマニュアルに
「4.2.3 当社の文書管理は会社規則『会社規定管理規定』によって行う。」
だけで必要十分のはずだ。
それが「発行前の承認についてマニュアルに書いてない」「識別についてマニュアルに書いてない」「適切な版が・・」「読みやすく・・」などというのは余計な御世話、審査基準に不適合の恐れがある。 
仮に不適合を出ならば、いかなる文言を根拠として持ち出すのだろうか?
仮にと書いたが現実にはそのような不適合はおびただしくあり、企業側は予防処置としてマニュアルの文言はすべて盛り込むのが日本の常識となっている。
思考実験をしてみよう。
「4.2.3a」項では『発行前に適切かどうかの観点から文書を承認する』とあるが、マニュアルには書いてない。」
というのは不適合にはできないはずだ。
だって考えてみてください。要求と証拠が見合っていません。
規格は「発行前に文書を承認する」手順を確立することを要求しているが、「文書を承認するとマニュアルに書くこと」は要求していないのだ。
規格の意味するところは「会社の決まりでそういうふうにしていないといけないよ。そしてどんな文書でそれを決めているかをマニュアルに書きなさい」ということなのだ。
以前、某審査機関で「マニュアルに規格文言が全て入っていなくても、不適合にはできませんよね」と言ったら、応対した方が「いや、それはだめです」という。
「なぜ、だめなんですか?」と聞くと
「だって規格を満たしているかどうかマニュアルを見ただけでわからないでしょう」という。
ちょっと待てよ? マニュアルを見ただけで規格を満たしているかどうかわからなければいけないのだろうか? そのような要求は規格に書いてないようだ。
私は審査所見に「現象、証拠、根拠の三要素」をしっかりと書けない審査員を不適格とすべきだと考える。この三要素を書けば不適合か否かはっきりする。根拠を書けないなら不適合ではないのだ。

話を戻す。
某認証機関でISO9001:2008対応の変更点のリストを配布しているが、マニュアルにこれを追加しろ、この言葉を書き直せというのはいったい?と首をかしげたのです。

虚心坦懐に考えてみよう。
ISO規格が改定になったとして、会社の仕組みを変えなくてはならないという理由があるのだろうか?
「規格がどうあれ当社には長年培われたマネジメントシステムがあり、それが似合っているのです。規格が変わっても当社の仕組みはその規格を十二分に満たしているはずです」
と考えるのが普通の社会人ではないのでしょうか?
まさか、あなた
「ひぇ!規格が変わったなら、会社の仕組みを変えないといけないよう!早速会社規定を変更し取締役に伺い出なくちゃならない!」
なんて思うはずがありません。
ISOのために会社があるのか? 会社のためにISOがあるのか? 考えるまでもありません。
まして、単語が「参考」から「注記」になったので合わせろとか、言い回しが変わったからそれに合わせろなんて・・ISOとか第三者認証とはそれほどくだらないものだったのでしょうか?
「経営に寄与する」などと大口を叩くわりには、経営を悪くするだけの認証であり認証機関であるようです。
もっとも「審査を受ける会社の経営に寄与する審査をします」でなく「認証機関の経営に寄与する審査をします」というなら、『単語が「参考」から「注記」になったので合わせろとか、言い回しが変わったからそれに合わせろ』ということは十分意味があることでしょう。
なにしろ自分たちが楽になることは十分意義のあることですから
しかし、そんな審査をしている人たちは恥ずかしくないのでしょうか?
私は認証機関のチラシ(ビラと言ってもいい)を読んで、恥ずかしさのあまり顔が赤くなりましたよ 




あらま様からお便りを頂きました(08.10.03)
佐為さま あらまです
「あなたの仕事の内容を、具体的に文章にしてください・・・」
これが、審査員さまとの初めての出会いの言葉でした。
「家庭では家内のご機嫌を損ねないのが仕事。会社では社長のご機嫌を損ねないのが仕事。」とでも書こうかと思いましたが、大人気ないのでやめて、まじめに書きました。
結局、何回も書き直させられて、審査員さまのご機嫌に合った内容で落ち着きました。
小生にとっては、それが「マニュアル」だと今でも思っています。
ちなみに、小生の車は「マニュアル車」です。こっちのマニュアルは小生の思い通りに反応します。

あらま様 毎度ご指導ありがとうございます。
そうか! マニュアルとは審査員様のご機嫌を損なわないためのものだったのか!
会社を良くするのでも、経営に寄与するのでも、社会に貢献するのでもなかったのです。
人生不可解なり
マニュアルの境地いまだたどりつかず・・・おばQ談


しょうちゃん様からお便りを頂きました(08.10.07)
「マニュアルってなんだろう」
おばQ様、いつもお世話になります。
「マニュアルってなんだろう」を考える過程で、マニュアルは誰のため?を考えてみました。
私は今まで紆余曲折しながら、結局マニュアルは「審査員のため」と考えるようになりました。
当社は、製品群や業務は多岐に渡り、規模もそこそこなので、下位手順書の内容もマニュアルに含めるという訳には行きません。
そうなると、審査以外では殆ど使われることがありません。
結局、当社の業務を知らない審査員に、規格と業務を結びつける案内役(美人局?)に使うのが最も意義のある使い方だと考えるようになりました。
(自動放射砲や地雷の設置用架台にも使えます)
ベタベタな規格の裏返しマニュアルは好みではありませんが、レベルの低い審査員は、勝手に理解し、適合を確認した「つもり」になれるでしょうね。

結論:
マニュアルとは、レベルの低い審査員のために作って差し上げている文書であり、規格と業務を繋ぐ役割を持つ。
(「美人局」的な機能を持たすことも可能)

参考:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
美人局(つつもたせ)とは女性が性交や交際に応じる素振りを見せて男性をラブホテルの一室のように孤立した環境へ誘い出し、これを脅して金品を恐喝すること。また夫婦で共謀し、女が別の男と密通し、それを以って男が密通相手を脅すこと。

しょうちゃん様
マニュアルは美人局だったのか! 言われてみればまさにそのとおりですね。
レベルの低い審査員のために作って差し上げている文書
そんな、ホントのことを言ったら、みもふたもありません。
ところで、じゃあ一体審査とは何なのでしょうか?
レベルの高い審査員はちゃあんと適合性有効性を確認しているのでしょうが、レベルの低い審査員には働いた気分にさせて、お金を稼がせているに過ぎないのでしょうか?
新しい謎が生まれました。


しょうちゃん様からお便りを頂きました(08.10.08)
レベルの高い審査員はちゃあんと適合性有効性を確認しているのでしょうが、レベルの低い審査員には働いた気分にさせて、お金を稼がせているに過ぎないのでしょうか?
新しい謎が生まれました。


看板が欲しいダケの組織にとって、レベルの低い審査員をその気にさせて、登録を維持するのは簡単。(審査費用がモッタイナイけど)
そんな組織にとって、レベルの高い審査員の有効性審査は大きなお世話かも。

しょうちゃん様 毎度ありがとうございます。
認証っていったい何のためなんでしょうか? 最近、それがわからなくなりました。
審査員が語るのを聞いても価値があるとかありがたいと思えませんし、返上するのも業界の横並びでそうもいかない・・
ぬるま湯みたいな状態です。


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