事務局講座 その21
教育訓練 
08.11.24

私が認証機関に行って審査員教育をしたことは一度もない。私はぜひ一度、力量のない認証機関で審査員教育をしたいと思っている。
というのは、知り合いから「審査でどうみても不適合ではない不適合を出されたんだけど、是正処置をどうしたらいいんだろう」なんて相談を受けることがあるからだ。見れば法違反でもないのに「法違反である」なんて書かれているではないか!
法違反と断じるなら、その根拠となる法令と条項くらい書くべきなのだが、その不適合には「・・は法違反である」とはあるが根拠が書いてない。不思議なこともあるものである。
そういう不適合の是正処置は、認証機関に行って審査員教育を行うことしか私には思い浮かばない。はたして認証機関がそういう是正処置を適正と認めるか大いに興味がある。
過日相談に来た人と共に認証機関に行き、その審査員に「こりゃ指摘自体が間違いですよ。取り消してください」とお話しした。審査員いわく「あなたのおっしゃることはわかりました。しかし審査報告書は判定委員会で承認され、認定機関まで行っていますので変更できません」とのこと。それが真実か否かは知らない。だが不適合を取り消さず、次回審査でその是正処置を確認するというのには、あきれてものも言えない。これでは負のスパイラル一直線である。
スパイラルを一直線とはどういう意味だ!などと突っ込んではいけない 
ともかくその件について企業側としては是正のすべがなく、知り合いはなにもせずに次回審査を受けるという。はたしてどうなる事やら・・(現在進行形なのだ)
認証機関に行って審査員教育するのができないなら、この場合の是正処置は審査員を忌避することか? それがだめなら認証機関を変更することかもしれない。

私は審査員教育をする立場にはないが、私が勤める会社とか知り合いから頼まれればどこにでも出かけて、内部監査員教育や環境法規制の教育などをしている。そんなことを少し語る。
現在私は環境一筋なのでISO14001と環境管理に限定する。
私は仕事においても個人で何事かをするにしても、常に目的を確認してそれに対応した成果というか期待するアウトプットを想定する。そしてその成果を出す計画を考える。もちろん誰でもそうするとは思うが、いつの間にか目的から離れた実施計画となることも多いのではないだろうか? 目的を超える手段は無駄だし、十分リソースを投入しないで成果を出そうとするのは無理である。

例えば内部環境監査員教育を頼まれたとする。より具体的にISO14001規格の教育をしてほしいと頼まれたと想定しよう。みなさんもそういうケースは多々あるだろう。さてそのときどんなことを考えて、どういうことを教えようとするだろうか? あなたはどんな教育のプログラムを考えるだろうか?
私が考えるときは常に、講習を受ける人の役に立つか、その会社にとって貢献するかということを基準にする。管理者クラスが講習を受けるとなると、その人件費だけでも大変だし、人件副費も考えれば一時間数千円になるだろう。仮に1時間7千円、4時間、10人として講習のために拘束するだけで28万円もお金がかかるのである。会社はこの費用を回収しなければならない。当然、教える方はそれだけの成果を出す責任を認識しなければならない。
私は無償のボランティアなので私の人件費は考えることはない 
そういう前提でISO14001を教えるとすると、対象者の職階、ISOをどのくらい知っているのかということ、与えられた時間、どの程度までどのように伝えるべきかということを真剣に考えなければならない。
規格項番順に4.1から4.6まで「ここはこういう意味ですよ、分かりましたか」なんて十年一日のごとく進歩のないどこでも使える講習では会社に貢献するはずがない。そのようなことをしている講師は恥と心得なければならない。実を言ってお金をもらってそんな講習会をしているコンサルを何人も知っている。

私は講習を聞いた人がISO規格なんて覚えることはないと考えている。そもそも企業の人がISO規格を知る必要があるのだろうか?
これは暴論ではない。私の尊敬する某認証機関のエライさんがいつも審査で言っている。「みなさんはISO規格など覚えることはありません。みなさんは会社のルール通り仕事をしていることを説明してくれればよいです。私たちが規格に適合しているかを判定してあげます。」と、
審査の手順として、認証機関は品質であろうと環境であろうと会社業務と規格の対照表であるマニュアルを受け取って、マニュアルの内容がISO規格に適合していることを確認してから実地に来ているはずだ。(cf.JAB RE300-2006)
だから実地での審査は、企業がマニュアルのとおりに仕事をしているかを確認することに過ぎない。現場で改めてISO規格と実態を照らし合わせて確認する必要はさらさらない。ということは審査員が聞くことは「あなたは会社規則を知っているか?そのとおりしているか?」ということであり、「あなたはISO規格をしっているか?そのとおりしているか?」ということではない。
企業側ではマニュアルを書く人(多くの場合ISO事務局であろう)だけが、ISO規格と会社業務のつながりを理解していればよいのである。
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最近ISO審査を受けた某社の課長から聞いた話である。「審査員がISOの用語で質問するので、外国語を聞いているようで頭が真っ白になった」とのこと。
その審査員はそういう審査をすることによって、企業の人をいじめてうれしかったのだろうか?あるいは課長がISO規格も理解していないレベルの低い会社だと思ったのだろうか? あるいはそういう審査しかできなかったのだろうか?
私は審査員の力量がないと嘆く。審査員としてお金をいただいているなら、相手に合わせた質問をし、その回答から規格適合なのか否かを判断できなくてはならない
もっとも私はその課長に「私にわかるように話してほしいとなぜ言わなかったのか」とも言っておいた。

じゃあISO14001教育では何をすればよいのだろうか?
実を言って今某社からISO規格の説明を頼まれて、どのようなことをしようかと考えているところだ。
対象者は現場の課長クラス10名、時間は半日、お題はISO14001規格の解説である。本当を言えばISO14001なんていうお題ではなく、業務における環境配慮とコスト低減とかいう方が私の好みである。
しかしそのお題であるのは実は理由がある。その会社もISO14001を認証しており、内部監査員のための教育をしなければならないのである。つまり審査の際に見せる内部監査員教育の証拠作りなのだ。
まあ、どのような理由であろうとよい。動機が不純ではいけないなんて正論を語ることもない。私は与えられたいかなる場であっても、私のISOの理想を実現するために使わせていただく。
私の方が動機が不純かもしれない 

今考えている講義のストーリーは次のようなものである。
まずその会社の社内規則を読んでおいて、会社の規則を基にISO規格要求を説明していく。
お断りしておくが会社の規則というのは読みなれている人なら、初めて読む会社規則であっても一時間もあれば大体の構成やつながりを理解してしまう。
そして慣れた人が一時間で理解できないものなら、その会社規則のストラクチャには重大な欠陥があるはずだ。
図面を読むとき、ここの寸法はここに書いてあると想像したところに書いてなければならない。そういうものなのである。
ふつうは規格要求があって、それに会社の規則をあてはめて説明していくはずだ。マニュアルも規格要求順に該当する会社の規則や指示書を参照する形式がほとんどである。
これとは逆に会社の規則がいかにISO規格と関わっているかということ、だからしっかり社内ルールを守ることが規格を満たし、社外に対して環境管理の信頼性を確保することであるという筋としようと思う。
こんな方法は従来から私の勤めている会社ではしていたことだが、よその会社ではなかなかできない。というのは会社規則集というのは通常門外不出であり外部の人は見せてもらえないからだ。今回の場合は私に依頼してきた方にそんな進め方を説明して了解を得た。

次回は環境法規制について、その会社の設備や事業からどのような環境法規制が関わり何をしなければならないかを説明しようと思う。それこそが「4.3.2 b) これらの要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかを決定する。」ことだと思う。
「さあ〜みなさん、環境法規制にはこんな法律がありますよ。これらの法規制をしっかり認識して仕事しましょう」なんて講習会は腐るほどある。これもアプローチの仕方が逆ではないかと思っている。
そういう順序ではなく、「あたなの職場のこの作業、この設備にはこのような法規制が関わりますよ、だからこれこれをしなければならない」というべきではなかろうか?
実を言ってこれは新しい考えでもなんでもない。「a) 組織の環境側面に関係して適用可能な法的要求事項」というISO規格そのままである。
言うまでもなく、その会社自身が内部でこのような教育を行えば良いわけだが、それができないから私にお鉢が回ってきたわけだし・・・

本日のジャーナリスト宣言
私は朝日新聞のようにうどん屋の釜ではない。
言う(湯)だけでなく、やることはやるのである。 



Yosh師匠からお便りを頂きました(08.11.25)
Mr.Yosh




とうた様、
私は朝日新聞のようにうどん屋の釜ではない。
朝日新聞は風呂屋の釜でせう?
アカが浮きて居ります故。

Yosh師匠!
座布団を一枚でーーーーーーーーーーーす
大喜利に座布団追加しておきます
うどん屋の釜というのはよく言われる言い回しですが、風呂屋の釜は前代未聞

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(08.11.25)
企業側ではマニュアルを書く人(多くの場合ISO事務局であろう)だけが、ISO規格と会社業務のつながりを理解していればよいのである。
同感です。
ウチもぜひ、おばQ様が尊敬する“某認証機関のエライさん”に審査していただきたいものです。

しかしそのお題であるのは実は理由がある。その会社もISO14001を認証しており、内部監査員のための教育をしなければならないのである。
つまり審査の際に見せる内部監査員教育の証拠作りなのだ。

これがどうも腑に落ちませんなあ。
組織が自身の意思でもって目的を持って“内部監査員のための教育”なるものをやるというのならわかるのですが、規格が要求しているから、あるいは審査員が求めているから“教育をしなければならない”のですか。
審査員氏は、規格要求事項のどこにそう書いてあると言うんでしょうかね?
目を皿のようにしてJIS規格票を読み直しましたが、見つけられませんでした。
特に4.4.2と4.5.5は念入りに調べましたが、“内部監査員のための教育を実施すること”とはやっぱり書いていませんね。
もしウチがその認証機関で審査を受けたら不適合判定をくらいそうです。

あ、そもそもウチには資格認定とかで任命された内部監査員なるものがおりませんから、これは不適合判定どころか認証停止になる可能性大です。
普通は認証機関が主催する内部監査員講習を受講させたり、規格要求事項の勉強会をやって試験に合格した人を内部監査員として資格認定登録するのでしょうが、アホらしくなってきたので廃止しました。
というのも、ウチの内部監査では審査でボロを出さないためにJIS規格票を手に手順や記録をチェックするというようなことは一切やっていません。
どうすればもっと仕事の効率が上がるかとか、どうすれば品質の維持向上や環境負荷の低減ができるかといったことを主眼に、そのヒントを探し出すためにやっています。
従って、内部監査をする人はJIS規格票に何が書かれているかを知っている必要はなく、自社の仕事の仕組みを熟知していて、それが最善のものかどうかを分析・評価できる能力が必要です。その能力と経験ノウハウを持っている人、つまり部署の長が内部監査をしています。
そうした人にもし教育するとすれば、規格要求事項の解説などではなく、仕事に関連する法令の解説や分析手法の紹介といったものになります。

ISO9001の方は2008年版が出て間もなくJISの方も改正されますが、認証機関は登録組織に対してレターを送り、内部監査員に改正点の教育をすることと、改正点に沿って適合を確認するための内部監査をせよと求めています。
もちろんそんなムダなことをする気はないので放置しますが、さてどうなりますことやら。

たいがぁ様 おっしゃるとおり、
弊社でも内部監査員の登録とかそのための教育はしておりません。そして内部監査そのものが規格に沿ってなど行ってはいません。
でもですよ、知り合いから内部監査員教育をしてくれと頼まれたら、まあそりゃいい顔を見せないと付き合いもあるじゃないですか・・
そう厳密に問い詰めないでくださいな

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