有効性審査 08.12.29

2009年に、経産省やJABその他が、有効性審査について多々論じております。
しかし、この駄文は2008年に書いたものですので、その後の有効性審査の定義(?)や動向を反映しておりません。お含みおきください。
この拙文は同志ぶらっくたいがぁ様との討論にヒントを得たことを明記します。
もちろん内容についての文責はすべておばQにあります。
「マネジメントシステムに係る認証審査のあり方」
(2007年 4月13日)財団法人 日本適合性認定協会
I.マネジメントシステムの有効性の審査
MSの認証審査を行う場合、関連する規格などの規定要求事項への適合、不適合の確認だけでは不十分です。 MSがシステムとして有効に機能しているかは、所定の(期待する)目標に向かって、そのシステムのパフォーマンス(アウトプット、指標又は結果)が向上しているかどうかで判断する必要があります。例えばQMSにおいて「品質の推移」を、又はEMSにおいて「環境パフォーマンスの変化」を考慮することなく、規格の規定要求事項に対する一致のみを確認するような審査では、有効なMS審査とは言えません。
(中略)
すなわち、MS認証機関には、明示した方針及び目標に向けてMSが有効に実施され、一貫して達成できるかどうかのMSの有効性を審査することが求められております。
「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」
(2008.08.01)経済産業省
注9)有効性審査の定義
規格適合性だけでなく、規格がシステムとして有効に機能しているかどうかを、パフォーマンスが向上しているかどうかで判断する審査のこと

このように、これからはISO審査で適合性だけでなく有効性も見るのだそうだ。しかし私には有効性審査とはどういうものかが良く分からない。何せ語る人によって言うことが異なる。
有効性審査とはいったいなんなのか? 本日はそれについて愚行する。

ISO規格に基づくマネジメントシステムの第三者認証にはたくさんあるが、今有効性審査と言われているのはISO9001とISO14001だ。しかしISO9001とISO14001はその性格が若干というか大きく異なる。ISO9001はつまるところお客様との関係であり、その他のステークホルダーも無縁ではないが供給者を除いて関係は薄い。それに対してISO14001のステークホルダーはお客様にとどまらず、行政機関、地域住民、従業員、供給者、銀行、株主、消費者、競合他社、NPO・NGO、さらには社会一般から全世界の人々と利害関係者が広いという違いがある。
本日の愚考はISO14001に限定する。なにせISO9001は忘却のかなたである 
有効性
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さて、有効性と言った場合、まず複数あるステークホルダーの誰にとっての有効性かということを明確にしなければならない。定義なき有効性議論は有効ではない。
いったい、マネジメントシステムの有効性とは誰にとっての有効性なのだろうか? いやマネジメントシステムの有効性とは誰のためであるべきだろうか?

ISO14001におけるステークホルダーには当然認証機関も入る。
審査機関にとってのマネジメントシステムの有効性ということになれば、審査が楽にできること、つまり監査性の高いシステムということか。とはいえ監査性の高いシステムというのは客観的に見てあまり意味のあることではないように思う。監査性が高いと言っても規格との対応が一目瞭然であるとか、手順がすべてわかりやすい文書になっているというだけではない。
パフォーマンスが向上しているかを見るのが有効性とあるが、これこそまさに簡単明瞭ビジブルで、監査を楽にするものはあるまい。「前年より省エネが進んでいないので不適合です」、「不具合が再発しているから是正処置が不十分で不適合です」・・これほど楽な審査はない。しかし世の認証機関はパフォーマンスが上がっているか否かを見るだけと言われたら無念だろう。なにせ組織を指導したくて仕方のない人たちがゾロゾロいるのだから。
認証機関は有効性審査とは、組織のパフォーマンスが向上しているかを点検するのではなく、組織のパフォーマンスを向上させる審査であると考えているだろう。それは経営に寄与する審査とイコールとは言えなくともかなり近いのではないだろうか。
あるいは認証機関に迷惑のかからない、事故・違反が起きたとき累が及ばないような審査が認証機関にとって有効な審査というのだろうか? まあ、そんなことはなかろう。 
そんなことを考えると、間違っても有効性審査というのは審査機関にとっての有効性ではないと思う。

社会にとっての有効な審査とはどのようなものが考えられるだろうか?
一般社会というか総体としての日本国民は、企業の環境活動にどのようなことを期待しているのでしょうか? 日本が京都議定書を達成してほしいと思っているでしょう。 ../packer.gif しかしそういう大局的なことよりも、例えば廃棄物は身近な問題ですから、不法投棄など起きないようなしっかりとした管理をしてほしいと思っているでしょう。PCBをちゃんと管理して、なくしたり漏らしたりしないことを願っているでしょう。土壌汚染・地下水汚染のある工場には浄化してほしいと願っているでしょう。あるいは分解しにくい蓄積性のある化学物質なんて使わないでほしいと思っているでしょう。
そんなことから考えると個々の企業に対する願いというか要請は、やはり広い意味での遵法に努めた事業活動ではないかと思います。従業員の環境意識向上とか省エネをすべきなんて要求する人は、あまりいないんじゃないかな?
とすると一般社会が期待する有効性審査といいますと、法規制を把握してそれを守り、事故を起こさないように管理しているかをしっかり見てほしいということでしょうか?

近隣住民にとって有効な審査とはなんだろうか?
近隣住民は事故が起きたらまっさきに被害を受けますから、最大の願いは絶対に事故を起こさないことです。ですから期待する有効性審査とは事故が起きないようにしっかりと点検することでしょう。
また違反があっても最初に被害を受けるのも近隣住民です。排水基準を超えた水を流したり、基準を超えた排気ガスを出されても困ります。悪臭や騒音や振動もあります。だから審査で組織が法規制をしっかり認識して、それを守って運転しているかを十二分に点検してほしいでしょう。
このように、近隣住民にとっての最大の関心事は事故や違反であって、省エネとか廃棄物削減のパフォーマンスとかマネジメントシステムの向上なんて二の次ではないでしょうか?
近隣住民の期待する有効性審査は、徹底的に事故が起きるリスクを抽出し対策させる審査であり、法違反を見逃さない審査でしょう。

本社から見た有効性とは何だろうか?
いまどき環境を無視しても安く生産しろなんて子会社にいう親会社はありません。排水基準がオーバーしても操業を止めるなと工場に指示する本社もありません。
親会社が子会社に期待すること、本社が工場に期待することは、環境事故・環境法違反・その他の環境問題を起こさないことです。なにしろ工場の一担当者が独断で測定記録を改ざんしただけで、工場幹部の首が飛び本社や親会社の社長が記者会見をして平謝りする時代ですから。
そして認証機関の人は良く聞いてほしいのですが、現在のISO14001審査が頼りにならないのです。有効性審査なんていう以前に審査で適合性を見てほしいのです。しかし、適合性がチェックできないのか?チェックしようとしないのか?不具合を見つけても見逃しているのか?いずれなんでしょうか?
いずれにしてもそのためにISO審査とは別に、本社が工場に対しての、親会社が子会社に対しての環境監査が行われているのが普通です。
本社にとっての有効性審査とは、信頼できるISO審査ではないのでしょうか?

取引先から見た有効性とは何だろうか?
購入者が期待することは事故や不祥事を起こさず、安定した取引ができることです。ある化学品メーカーが火災で特殊なプラスティックが生産できなくなり、世界中の半導体メーカーが青くなったことがありました。
委託先に対しても同じです。排水のデータを偽っていた製鉄所が行政処分で操業をストップしたために、そこに廃棄物処理を委託していた多数の企業では廃棄物は山積みになり困りました。
「無事これ名馬」という言葉がありますが、無事故無違反こそ環境管理の目指すところであり、期待されることです。

ではご本人である組織にとって有効性とは何だろうか?
環境マネジメントシステムが規格に適合していることは組織にとって重要なことだろうか?
まさかね!
企業の環境マネジメントシステムがISO規格に適合していることに価値があるはずがない。環境マネジメントシステムは企業の目的に貢献することが使命であり、ISO規格に適合しているかいないかという観点でなく、企業に役に立つか否かという観点で評価される。
環境マネジメントシステムが適正に運用されているか否かも同じことだ。
ISO14001の第三者認証の意味を再確認しよう。
現実問題としてそれは外部の人に対する環境保証に過ぎない。もし自己宣言でも第三社認証と同じく社会から認められれば明日にも認証辞退が過半を占めるだろう。
環境パフォーマンスが向上することが組織にとっての有効性なのだろうか? 企業は経営方針を実現するために活動しており、その中で環境パフォーマンスを向上させることに価値があれば何をおいても推進するだろうし、価値を見出さなければ力を入れないだろう。
環境パフォーマンスには省エネや廃棄物削減というものもあるし、会社のEMSに従った運用というものもある。審査用のEMSが会社の真のEMSとずれているなら、審査用のEMSのパフォーマンスを向上することはないだろう。
環境パフォーマンスが向上していなければ、それはその組織にとって重要でないということに過ぎない。あるいはいくら頑張ってもパフォーマンスが向上しないというケースも現実にはある。
嘘だと思うなら、なぜ京都議定書を達成できずに、二酸化炭素排出量を買ってこなければならないのですか? 人間にも企業にも努力して達成できることと、努力してもできないことがあるのは自明だ。
当然と思うが認定機関は認証機関に対する認定審査で有効性審査を行うことになるだろうから、ひょっとすると登録組織数が減少している認証機関はパフォーマンスが悪いため認定取り消しになるのだろうか? 
そんなことを考えると、外部から認証機関が来て、仕組みがないとか運用が不適切だとか、パフォーマンスが向上していないなんてのは企業にとって意味のない余計な御世話ではないのだろうか?
そんなことを言う暇があるなら、パフォーマンスを向上させる提案をしてほしいと思うだろう。
どうも認定機関あるいは認証機関が言っている有効性審査というのは、組織にとって有効な審査ではないような気がしてきた。
組織が求める審査とは、有効性を見る審査ではなく、有効性を出すための審査ではないだろうか。パフォーマンスが向上してるかなんてことは言われなくても分かっていることだし、有効か否かだって他人に言われる前に、己自身が良く認識しているのだから。

いろいろ考えてみると、一般社会、近隣住民、親会社や本社、取引先、そして組織自身が考える有効性審査とは「明示した方針及び目標に向けてMSが有効に実施され、一貫して達成できるかどうかのMSの有効性」(JAB)でもなく、「パフォーマンスが向上しているかどうかで判断する審査」(経産省)でもないようだ。
多くの利害関係者が想定する有効性監査とは、事故予防と遵法確認を徹底して行う審査なのではなかろうか?
そもそも最近審査を厳しくと言われるようになってきたのは、方針や目標を一貫して達成しないからでもパフォーマンスが向上しないからでもない。ISO14001を認証していても事故や違反を起こす企業が後を絶たないからではないのだろうか? 素直に考えれば有効性審査とは「事故や違反を見逃さないこと」と定義すべきではないのだろうか?
今巷で言われている有効性を見る審査とは一体誰にとっての有効性なのだろうか?
そしてそれは誰のためになるのだろうか?

私の駄文を有効性審査のなんたるかも知らないアホが語っていると思われた方は多いだろう。実を言って私もそう思いながら屁理屈をこねて書いているのだ。 
正直言って私は、真の適合性審査がまともにできないから、キャッチフレーズとして有効性監査を持ち出したに過ぎないと考えているのです。
有効性審査と語っている認定機関、認証機関、審査員ははたして真にステークホルダーの関心事を考え、どうすればそれに応えるかを考えたのだろうか?

本日の勝負!
有効なんて遠慮せず、技あり、いえ一本をとる審査をぜひともお願いしたい 
judou.gif 実を言いまして私は柔道という
ものをしたことがありません

投げられると痛そうです


さっそく、ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(08.12.29)
呼ばれて飛び出てぇー(以下、略)
有効性審査ですか。なんとも、怪しげで魅惑的な響きのある言葉ですね。
世間一般の理解(というか願望)としては、組織が不祥事を引き起こさないよう有効に機能していることを認証機関が保証するというイメージがあるように思います。もちろん、それは適合性審査よりもハイクラスのものです。
しかし現実には、例えば某大手認証機関が標榜する有効性審査を見る限り、その実態はお寒いもので、適合性審査と何ら変わりありません。それどころか、不祥事を見抜いたことなど皆無のザル審査です。
まさに、玉石混交。どの認証機関も横並びに有効性審査とか、付加価値審査とかを標榜しておりますが、我々受審組織はその真贋をよく見極めなければならないと思います。
では、どうやってそれを見極めるのか? これはもう、真剣勝負(審査員との面談)の回数を重ねるしかありません。たまにテレアポをとってやって来る認証機関との面談が私の密やかな楽しみなのですが、最近はあまりないのが残念です。

組織が求める審査とは、有効性を見る審査ではなく、有効性を出すための審査ではないだろうか。有効か否かなんて他人に言われる前に、己自身が良く認識しているのだから。
まことにごもっとも。
組織にとって有効性審査とは、「有益な不適合を検出する審査」でなければならないと思うのです。もっと平たく言うならば、有効性審査とは、「役に立つ審査」です。
すなわち、組織にとって有益な指摘となる不適合を審査で検出しなければなりません。組織自身では気づかないような、それを改善すると利益が生じるものを見つけ出さずして、カネを取る値打ちはありません。
だいたい、計画通りの結果が出ているかなんてものは、わざわざ大金を払って審査員様に見てもらうまでもなく、十分組織自身で判定できます。
経営者が求める有効性とは、ISO9000が定義するそれではなく、ズバリ、「儲かること」でしょう。

そもそも経産省の定義は、認証制度の意義からしてオカシイというか、意味をなさないのでは。
仮に、計画通りの結果が出ているとして、それを根拠に認証するというのははたして適切でしょうか? 認証制度の最終顧客である市場は、結果そのものを求めているのか?
そうではないでしょう。過去ではなく、今現在、組織が要求事項に適合していて、そして将来も適合し続けることの保証を認証制度に求めているはずです。
優良納税事業所として表彰されたからといって、その会社が、現在そして未来も脱税しないという保証はありません。すなわち、計画通りの結果が出ていることをもって認証するのは不十分というか、あまり意味がないということになります。

たいがぁ様 直接のコメントになりませんが・・ 我々二人が議論する方が、JAB、JACBその他のエライさんが鳩首会談するよりも、建設的、有意義、価値ある結論を導き出せるのではないかと・・
おっと、あまりうぬぼれると経産省からお叱りが来るかもしれません。
来年も、ブットバシマスヨ 


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