環境側面の相互作用 09.03.19

先日、同志ぶらっくたいがぁ氏より、ISO14001:2004の定義3.6で【環境側面】とは「環境と相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素」とあるが、相互作用とは現実にあるのだろうかというご質問をいただいた。



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この方向の影響は
たくさんあるけど
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こちら方向の影響
はあるのだろうか?



ぶらっくたいがぁ氏からの突っ込み
「環境と相互に作用する」とはどういうことなのでしょうか?
「環境に作用する」ではなぜいけないのでしょうか?
まず、「環境と相互に作用する可能性のある」という部分は、「環境と相互に作用するもの」と「その可能性のあるもの」の両方を指すと思います。
これはまあいいのですが、では「環境と相互に作用する」というのはどういうことなのでしょう?

私はISO規格策定に関わってもいないし、それどころか審査する側でもなく審査を受ける組織でもない単なるISO愛好者であるが、アントニオ猪木と同じく誰の挑戦でも受けることを宣言している。
ということで本日は環境から影響を受けることについて考える。

まずは軽く具体例からいってみよう。
私が30年ほど前に働いていた工場は大雨が降ると工場内に雨水が浸入してきた。当時のことだから高度な電子回路付きの工作機械があるわけでもなく、また当然たびたびある浸水に備えて床面から30センチくらいには書類などを置いてはいなかった。とはいえ雨水が入ってくれば仕事が止まるだけでなく、いったん浸水があれば水が引いたあと泥を除いたり掃除をしたりと数日つぶれるのだった。そのために工場の外には土のうを常備しており、時々土のうの点検や積み方の練習などしたものだ。
普通の工場で土のうは、液体が漏えいした時のためだろうが、私の勤めていたところではその逆であった。
さて、ここで環境側面はなんだろうか?
浸水は環境影響であることは間違いないが、環境側面は浸水を止められない構造の工場だったのか?工場の立地条件なのか?大雨なのか?近くを流れる公共の排水路が大雨に対応していないことだったのか?あるいはなんなのだろうか?
正直いって分からないが、誰の挑戦でも受けるといった手前何とか答えなければならない。

環境側面とは環境と相互に作用する要素とあるが、環境に影響を与える場合と受ける場合とでは側面のとらえ方を変えることがあっても良いのではないかという逃げを考えた。
つまり工場から排水を出す場合、排水そのものを環境側面ととらえても良いが、ふつうは排水設備を環境側面とするだろう。あるいは水の使用を環境側面とするほうが、管理する、あるいは改善するという観点からは適切かもしれない。
しかし雨が降って雨水が浸入するケースにおいては、雨が降ることを環境側面にしてもそれを管理できるわけがなく、公共の排水路を環境側面としても工場はそのようなものを管理することも改善することもできない。
まさか雨あがれと祈祷するとか、あるいは市役所に排水路の工事を陳情することが環境側面の管理ではあるまい。
雨水の浸入あるいは雨水を環境側面とすれば、その管理手順、教育、緊急事態、などは素直に理解できるだろう。ということはこの場合は明らかに環境と相互作用する環境側面であるといってよいのではないだろうか?

おっと、あなたの勤め先は雨が降っても雨漏りも浸水もないですか? いやうらやましい。ではもっとポピュラーで環境から影響を受ける例を考えてみましょう。
工場でもオフィスでも、どこでも環境目標にとりあげているものに電力がある。この電力が人間の努力だけで削減できるならISO事務局の苦労は半減する。しかし、空調の電力は第一義に天候によって使用量が決まってしまう。寒い冬、暑い夏、工場のエネルギー担当者は泣きたくなるだろう。ほんとうに神頼みしたくなるのだ。
さて、電力の使用は環境側面であるが、これはまさしく環境に左右される事例だ。
もっとも賭けてもよいが電力の使用において天候を環境側面とみなしている会社はまずあるまい。よってこの説を一番さきに唱えた名誉は私にあることにしよう。
しかし天候を環境側面とすると、いったいどういうふうにこの管理手順を定め、管理限界に収めればいいんでしょう?
結論は分からないので次のケースに移る 

いまどき、大きな道路のそばに立地する工場は、夜間の騒音規制基準を満たすことは困難である。工場が操業していなくても、道路を走る車の騒音で規制基準を軽く超えてしまうからだ。
もちろん騒音の測定結果に、測定時の条件を記載しておくというのがまあ一般的だ。市役所に相談に行っても、近隣住民から苦情もないからいいですよといわれるのがオチである。もっとも工場が動いていなくて近隣住民から苦情を言われても手の打ちようはないのだが・・
さて、この場合も環境から影響を受けるのだが果たして何が環境側面なのだろうか?
そして一体何をどう管理すればよいのだろうか?

そんな事例はもっともっと考えつく。
がけ崩れがおきて遠回りして、ガソリンを余計に消費した運送会社
資源枯渇で事業継続が困難になった会社
 リン鉱石はまもなく枯渇するそうです。そうなったら肥料会社はどうするのでしょうか?
海面上昇で事業拠点が水面下に沈むディズニーランド・・冗談です
中国から飛来する黄砂によって野菜が被害を受けた農家
鳥インフルエンザによって倒産した養鶏業者

しかしそんなことを考えるとこれは非常に危険なことに気が付いた。
「有益な側面がありませんね」なんていう不適合を出されたら、即オブジェクションを唱えてもよいだろう。しかし、「自然からの環境影響を把握していませんね」なんて言われたら、これはまっとうで反論できそうにない。
私の知る限り、ほとんどの組織はそのような環境影響も環境側面も把握していないようだ。
これはアブナイ!
こんなケチはウェブサイトですが、ここをご覧になっている審査員は結構いるようです。
先日、なんと某認証機関の社長から見ているよというメールをいただいた。
ショックというか感動というべきか!
そんなことを考えると、本日の駄文を読んだ審査員は「環境からの影響を考慮していませんね」なんていう不適合を言い出すのではないだろうか?

たいがぁ様 ISO規格は偉大なり
やはり環境側面は「環境と相互に作用する」ものであることは間違いありません。

本日のリベンジ
環境保護なんて語る人は多いですが、洪水とか天候なんて小さな環境影響も管理できずに、地球温暖化防止なんてできるとは信じられません。

じつを言って、たいがぁ様からこの質問の回答もいただいている。
例えば、環境に市場ニーズや法的要求事項も含むので、それらが変化すれば環境側面である製品の仕様や企画がそれに対応して変化することもあるという。
なるほど、【環境】の定義は「大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織の活動を取りまくもの」であった。
ということは国会議事堂のまわりで騒がしい音をだす宣伝カーも街頭で宗教などの勧誘する人も環境か?
そんな環境は保護したくないが。

2013.02.20追加

あとで気が付いた。
環境側面の定義は「環境と相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素(3.6)」であるが、本文4.3.1b)では「環境に著しい影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)を決定する」となっており、要するに規格要求は環境からの影響については無視しているのだ。
まあ、当たり前と言えば当たり前か・・



Yosh様からお便りを頂きました(09.03.20)
私が30年ほど前に働いていた工場は大雨が降ると工場内に雨水が浸入してきた。
仰せである環境側面には関係ないとは思ひますが。
これはそのやうな場所に工場を建てる際にその場所の環境の調査を惰りたからの結果ではないでせうか?
低地や浸水のおそれがある所は盛り土して建てる建物の地盤を上げることをすれば対処することができます。
強風が吹く場所にては其の吹く方角には建物の開口部を大きく設けない、雨量が多くある場所では軒を深くする、積雪がある地方では屋根の勾配を考慮することや屋根の強度計算を十分にして雪害に対処する、等ができます。
また大きな屋根面積を有する建物は、雨量の予測でその地面に溜まる量が保持できる大きさの溜池を拵へることでその地所から他所へ流れぬやうにするなどであります。
既に建物があるのをその業種に使用してどのやうな影響が出るかは其処にて事業を開始する以前に判断すべきではないでせうか。
違ふた話でしたか?

師匠、えーとですね、おっしゃるとおり立地条件に合わせて建物を検討しなければならないということには全く同意です・・
しかし、言い換えれば建物は立地条件によって検討しなければならないということは、立地条件の影響を受けるということで・・・
まあ、半分ダジャレですから

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.03.20)
なるほど。「環境から影響を受ける組織の活動、製品又はサービスの要素」は考えてみればいくらでもあるけれども、たしかに「管理」できませんね。
でも企業活動において「考慮に入れること」はできるのですから、それでヨシとしましょうか。
おばQ様が挙げられた下記の例は、それが起きてからでは遅いので、起こり得るリスクを「考慮」して事業計画に織り込んでおくということでどうでしょう? どれも苦しいなあ。
がけ崩れがおきて遠回りして、ガソリンを余計に消費した運送会社
料金設定の際に、山岳地帯を通行する場合の割増料金を設定するか、他社との競争上それが困難なら迂回ルートを見越した燃料費を引当金計上しておく。
資源枯渇で事業継続が困難になった会社
採掘可能年限までにリサイクル技術を確立し、需要家から使用済みの製品を回収して再利用する。
海面上昇で事業拠点が水面下に沈むディズニーランド
海洋レジャーランドへ事業転換する。あるいは平野部に移転する。
中国から飛来する黄砂によって野菜が被害を受けた農家
芋類の作付け比率を増やす。
農業試験場(かな?)に砂に強い品種改良を依頼する。
鳥インフルエンザによって倒産した養鶏業者
うーーん、思いつきません。
おやおや、これらはみんなもしかして今流行のBCMSでは?

たいがぁ様 私もこじつけを考えていて、もう環境側面とか環境マネジメントという発想がおかしいのではないかという気がしてきました。
企業には事業側面しかありません。そしてその側面から受ける影響と与える影響を常に考慮して事業を行っていくというのがあるべき姿というより、現実の姿なのです。
もう環境側面をどのように決定していますか? なんて語る審査員は無用ということでしょう。
マネジメントシステムというならば、事業側面を漏れなく把握しているか? その把握方法には客観性など無用です。動物的直観の方が実際に即しているように思います。
教育訓練も文書化も監視も是正もそういう観点から見れば説明の要はありません。
しかし、ますます審査など不可能のように思えます。
経営を審査するなど失礼きわまることですし、もし良いといってもまずいといってもその責任を取ることができるのでしょうか?


我が同志 名古屋鶏様の相互作用についての見解です(10.10.10)
佐為様
確かに佐為様の言われるように「自然からの驚異」については、それを環境側面とするか否かという問題は別として企業防衛上必要不可欠であることに相違はないと思います。そこは完全に同意します。

さて、それはそうとして鶏が思いますにISO14001本来の目的は「環境保護」だと思います。
その時に「自然からの驚異に対しての防衛」が環境保護と直接に繋がるか、というと少々弱い気もします。

では「相互に」とはどういう意味なのか。
あくまでも私見であり、何のソースもありませんが鶏が愚考するに「環境」という概念は相手があって初めて成り立つものだと思います。相手とは自然であり、動物であり人間であります。例え何をしても、影響を受ける相手がいなければ管理を必要とすることはありません。ま、皆無という事は無いのかもしれませんが。

騒音を例にとるならば、その許容値は絶対的な数値によって定まるものではありません。
砂漠のど真ん中であれば飛行機の爆音でもさしたる問題はありません。しかし、これがクラシックの演奏会ならば、くしゃみひとつでも充分に迷惑な騒音です。「聴衆」という「相手」が迷惑しますから。
つまり、「環境」という概念に「相手」が必要であるならば、「環境側面」という概念もまた一方的な片思いで定義されるものではなく、「相手」との関連によって発生するものだ・・・というのが鶏の見解です。



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