内部監査って? 09.06.23

ここでの内部監査はISO9001やISO14001に限定して語る。内部統制としての一般的というか全般的な内部監査を語るほど私は知識がない。

内部監査の目的は経営に寄与することである。それはまったく正しいと思う。しかし内部監査で経営を語るとか、経営レベルについて聞き取りすることが経営に寄与するかといえば、そんなことはないと思う。そんなこと全然関係ないというのが本音である。
よく内部監査を良くするなんて語っている、ウェブサイト、講習会、雑誌の特集などがある。しかし、そんなものを見ると、どうも私は変だなあと感じる。なんか監査というより、茶飲み話としか思えないものが多い。
これはすばらしい と思ったものは、過去出会ったことがない 

プロセス志向の内部監査を目指せと語る方もいる。
その通り!異議はない。しかしプロセス志向の内部監査って簡単にできるのですか?
いったいどういうものをプロセス志向と考えているのだろう。いかほど現実を調査すれば、それを基に規格適合を判定できるのだろうか? 抜取検査ならAQLや検査水準を決めれば抜取数(サンプル数)が決まるだろうが、監査において母数がわからないとき、はたしてどれくらい調査すればサンプルから帰納して母集団の判定ができ、確固たる報告提案ができるのだろうか? プロセス志向の監査をしようと語っている人がいるのだから、少なくともその方はその解をもっているはずだ。ぜひ聞きたい。

私の自宅のメールアドレスには毎日毎日ジャンクメール、宣伝メールが来る。今日来たメールを数えたら80通くらいであるが、必要なメールは10通そこそこである。他は、出会い系エッチメール、バイアグラの宣伝、ウイルスらしきもの、パソコンの安売り広告、困ったものである。
特に最近増えているのがISOコンサルの宣伝である。不況でコンサルも仕事がないのであろう。私のウェブサイトがISO関係だからなのだろうか?
そんなコンサルからのメールの一つに内部監査のチェックリストの公告があった。

経営改善のための『内部監査チェックリスト』
御社のEMSを抜本的に改善するための内部監査チェックリストを、経営コンサルタントであり、ISOコンサルタントである著者が情熱を注いで書き下ろした逸品です。御社でそのまま活用できます。
とある。ほう、サンプルがpdfでみられるとある。これは後学のためにぜひとも・・・
しかし、一目見て屑だと分かりました。
第一問 EMS の適用範囲の決定根拠を説明してください。
 ほう!わしには内部監査で聞くことでもないような気がするが。
第二問 EMS 導入の目的を述べてください。
 まあ、聞いてもいいけど、それに何か意味があるのだろうか?
第三問 環境方針の中で「環境目的、目標設定の枠組み」はどれですか。
 笑うしかない。

どうもみなさんが考えている内部監査というものと、私が実行している内部監査というものはまったく異なるものらしい。
私の考える内部監査というか、自分自身が実際にしている内部監査とは、そんな高尚なものではない。高尚ではないが楽なものでもない。それはひたすら帳票をめくり、膨大な測定記録を見る、現場を徹底的に歩く、日常管理状況をしっかり見る、そういうことをただそれこそ徹底的にするだけだ。
帳票の点検結果や現場での行動、事実を見て、そこに不具合あるいは不自然なところがあればその関係者に来てもらい、どのような管理をしているか、遵守評価をどうしているのか、監視測定は・・と根掘り葉掘り聞き取りをする。そういう切り口で点検をしているのですが、その結果としてシステムにたどり着き、システムの強いところ、弱いところを考えるのです。
膨大な証拠、エビデンスを点検し、そこで見つかった不明点をほじくっていくことによって、マネジメントシステムが適正か、実際に動いているか、改善すべきことは何かが見えてくる。そこで見えてきたものを経営者への報告にまとめる。
まさに帰納法である。
もちろん私の監査が経営に寄与するなどと大言壮語はしない。しかし思いつきでもなく、上っ面だけを見たものでもなく、真実に基づき客観的証拠に裏付けられたものを淡々と報告することに努めている。
私のしている監査のレベルが高いなどと言わないと前にも申し上げた。しかし規格適合であるかを点検するとか、チェックリストを基に聞き取りするとか、あるいはそういう段階を卒業しようとかいうレベルとは全く違うと考えている。
単にプロセス志向だ!とか、経営に寄与する監査とか、テンプレートのチェックリストで監査ができるなんて、私には理解できない。そんなものでまともな監査ができるはずがないのだ。
いやたぶん私が間違っているのだろう。きっと素晴らしいものであろう。

一般の企業(組織)において、十分な時間をかけた内部監査が実行困難だという意見もあるだろう。リソースの問題もあるだろう。監査員の力量の問題もあるだろう。
しかし、理由がどうあれ、企業に役立ち、経営に貢献するものでなければ、内部監査はオママゴトであり形だけ気分だけのものでしかない。たとえものすごい力量のある人であっても、短時間の聞き取りや現場巡回で不具合を見つけ、そこからシステムの強み弱みを提起できるはずはないと私は考えている。
もちろん、天才はいるだろう。
しかしめったにいないはずだ。
技術・科学を始め、いかなる分野においても、発明・発見や研究成果を出すためには、膨大な過去の研究論文を調べ、そして単純な実験の積み重ねが必要である。ひらめきやアイデアだけでは、仮にそのアイデアが正しくても評価されない。内部監査においても、膨大なエビデンスの収集とその分析評価によってはじめて経営層への価値ある提案ができるのである。

ひとつ提案である。
ダサいとか、レベルが低いなんて考えずに、徹底して逐条監査をしてみたらどうですか?
「教育記録がありますか?」でも良い。全部門、組織全員の教育記録をひたすらチェックしてみると、なにか感じるところがあるでしょう。
「こんなもの記録してもしょうがない」、「こんな記録を保管する意味がない」と思うかもしれない。
「役に立つ教育をしていない」と感じるかもしれない。
「こんな記録、紙の無駄」とあきれるかもしれない。
何百件という教育記録を見てはじめて教育システムとか記録管理システムの、規格適合、妥当性、有効性、あるいは馬鹿さ加減、無益であるという結論が見出せるだろう。
あるいはおびただしい記録をめくった結果として、教育システムが、規格適合で有効で効率的であることの確信が持てるかもしれない。
会社の業務の実態、真実、そういったものを知り、そこから何を感じるか、システムに反映すべきことは何かを考えなければ、それは内部監査ではない。経営に寄与するとか、プロセス志向とか、何を語るにしても、そういうしっかりとした調査をしたうえで語るべきだろう。

「環境方針の中で『環境目的、目標設定の枠組み』はどれですか。」と聞くのではなく、環境方針がその会社でいかなる位置づけにあり、どのように受け止められているか、どのように展開されているかを調べなければならない。その結果として、方針が目標設定の枠組みの意味を持つのか、持たないのかが判断できるだろう。
まさかあなた、方針に「枠組み」という文言があるかないかをチェックしたりして 

ISO14001が2004年版に改定されたとき、チェリーピッキング対策ということが言われた。なにごともいいとこ取り、つまみ食いでものごとが成し遂げられるなんて甘いものはない。
実効のある内部監査をしようとするなら、仕組みも大事、プランも大事、テクニックも大事である。しかしテクニックに溺れる前に、愚直に情報収集を行うことこそが監査(audit つまり聞き取り)ではないのだろうか?
ひたすら情報を集めれば、そこから自然となにかが見えてくるはずだ。プアな情報からはプアな結論しか導き出せない。チャットからはチョットした成果しか出ない。
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私が監査するときは軍手と懐中電灯そして指サックが必需品だ。毎回大量の帳票をめくるので、指サックのイボイボはすぐ擦り減ってしまう。監査とはそういうものだ。

本日の教訓
内部監査にはテクニックもあるし、知識も必要だ。
しかしより大事なのは、単純作業を遂行できる愚直さである。

本日のイヤミ
ろくな情報収集もせずにプロセス志向なんて言っちゃいやよ
十分な裏付けもなく経営に寄与するなんて言っちゃおしめーだよ 



外資社員様からお便りを頂きました(09.06.23)
内部監査って? によせて
ひたすら情報を集めれば、そこから自然となにかが見えてくるはずだ。
プアな情報からはプアな結論しか導き出せない

本当に仰るとおりだと思います。
会社の実態や組織は千差万別ですので、まず理解するのに時間が必要ですよね。私の会社でも機器の試験をしていますが、設計品質の試験をするには、相手が望むもの、納期、予算を聞いた上で、試用や試験対象の理解をして試験仕様を作るまででかなりの時間と工数がかかります。やるべきものを決めるのが半分以上の手間がかかると思います。
但し、試験仕様と見積もりを出すまでは仕事を頂けないので、結局発注されないと手弁当になります。(笑)ですから、手抜きテンプレートで試験が出来れば楽でしょうが、お客様から仕事を頂けないことは間違いないです。
お客様は、個別に作ってくれた試験仕様書を信頼して発注してくれるのだと思います。
ISO認証は目的と実態が乖離していること、漢字検定に似ているのかもしれません。中国文学者の高島先生が、「漢検 漢字検定のでたらめ」文藝春秋4月号に書いておりましたが、文字数の制限があるので、またの期待にて。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
金融工学なんてあやしげなしろものがありましたね。わけがわからないのだけど打ち出の小づちらしくお金がジャンジャンとでてきました。
みんなが振り回したら、借金ばかりがでてきましたとさ。
認証なんてわけのわからないものを出しまくっていましたが、みーんな空手形かもしれません。
漢字検定についてはそういう意味ではないのですが、本日駄文を書きました。


名古屋鶏様からお便りを頂きました(09.06.23)
佐為様 お世話になっております。名古屋鶏です。
ウチの工場も丁度、内部監査のシーズンでしたので、「よし、次のブログのテーマは"内部監査"で行こう!」と考えてた矢先でありましたw
人間の考えることは似るものですね(笑)
私は本来、エネルギーと廃棄物の管理を主業務にしているので、言ってみれば毎日が"監視及び測定"と"内部監査"です。
休日の真っ暗な工場をひとりで歩きながら、機械のエアー漏れがヒドくないか、エネルギーの使用量にオカシナ変動はないか・・・と見て廻り、測定されたデータを検証しながら、使用量の妥当性を評価し、毎月にトップへ報告を出しています。
または廃棄物置場に入っているゴミの中身を確認し、許容できない混入があった場合は、それを現場に返して指導するようなこともしております。
何も形式ばった「内部監査会」だけが内部監査ではないと思いますね。
・・・さて、次のネタを考え直そっと。

名古屋鶏様 毎度ありがとうござます。
内部監査って内部監査と称してやらなければならないって、規格のどこにも書いてありません。
要するに客観的で、公平な立場で検証して、経営者に報告せよというだけです。
ちなみに薬事法では内部点検といいます。そのほうがニュアンスがよろしいのでは?

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(09.06.25)
何のために内部監査をするのかが考えられてないからではないでしょうか。
もっとも「内部監査をする理由? 規格が要求しているからに決まってるじゃん」という声が聞こえてきそうですが。

ぶらっくたいがぁ様 毎度ありがとうございます。
きっとそのとおりですね、会社を良くするためとか、儲けるために内部監査をしている会社って少ないのでしょう。
しかし・・・・そんなことイイヅカセンセイ知っているのだろうか?
井口さん・・・知らないだろうな


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