力量って何だ? 09.09.13

還暦も過ぎ定年で職場を去る日も近いのであるが、私自身いまだ未熟であると認識している。いやそう認識しているつもりであったが、数日前改めて未熟を感じた。
もちろん人間は完成しなければならないとか、円熟するのが当然というわけではないし、すべてを知らなければならないわけでもない。まあ、そんなことは十二分に自覚しているのだが、未熟と感じたのはつまりこんな場面だった。

若手・・といっても40代であるが、法律をめくっていてどうにもわからないとこぼしている。放っておいてもかまわないのだが、親切な(お節介ともいう)私は「どうしなすった?」と声をかけたのである。それが発端である。
実は話は非常に簡単であって、その者がナントカ法の「第63条の2」というものを「第63条2項」と勘違いしていただけの話であった。
法律では漢数字だが、めんどくさいので算用数字でかんべんしてくれ

法律は第何条第何項何号というふうに項番がつけられる。制定時は当然だが順序良くきれいに並んでいるが、その後改正があるのもまた当然で、条文と条文の間に新しい条文を追加したり、削除したりすることはよくあることだ。
そんなときに後ろの条文を全部番号をずらして項番をつけなおすなんてことになったら、それはもう大仕事になってしまう。法律というのはそれだけでクローズしているものはなく、その子供の施行令や規則は上位の法律を基に作られているのでドミノ倒しになるし、また多くの法律は他の法律で引用されている。
例えば下水道法では、水濁法やダイオキシン類対策特別措置法の特定施設を引用したりしている。
第63条
第63条の2
第63条の2の2
第63条の2の3
第63条の3
第64条
だからそういう場合は、たとえば第63条と第64条の間に追加するときは「第63条の2」と番号を振られ、第64条は従来通り第64条のままである。
ところが改正がさらに続き「第63条の2」と「第64条」の間に追加することもあり、その場合は新しい条文は「第63条の3」になる。
更に「第63条の2」と「第63条の3」の間に追加すると、「第63条の2の2」となり「第63条の2の3」となる。
よく四の五の言うなというのはここから出たのか? ウソですよ
更に「第63条の2の2」と「第63条の2の3」の間に追加するとどうなるのだろうか?
ルールがあるのかどうか知らないが、調べた限りでは「第何条の2の2の2」と三つ重なった条文のある法律は現実にはないようだ。

実を言って、私はこんなことは誰にも習わなかった。法律をたくさん読んでいるうちに、ああそうなんだ!と気がついたのである。だから後で見当違いだったと気づくこともある。
そんなことはたくさんある。
一番目の項には1がつかない。他の条文で「第何条第1項による」と書いてあっても、いくら目を凝らして見ても第1項がない。そういう約束になっているということも知った。
ところがところがである。最近の六法には第1項と番号が振ってあるものもある。そりゃないぜ 

非常に話がずれにずれてしまったが、力量とか未熟とはどうつながるのだという声が聞こえてきそうだ。
つまり私はそのとき、40歳の若者にどう言おうかと決めかねたのである。カッコよく言えば逡巡したのであった。
【逡巡】(しゅんじゅん)決断できず、ぐずぐずする、ためらうこと

法律の読み方にしろ、pHの計算にしろ、困っていたらすぐに教えた方がよいのか、何も言わずに自ら悟らせた方が良いのか?
以前も書いたが、ペーハー9とペーハー10の水を等量混ぜたらペーハーは9.3になるという人をほっといた方が良いのかもしれない。
pH9 + pH10pH19?pH9.5?pH9.3?pH9.7?
そんなことに迷ったので、自分自身未熟なりと思ったのです。

私は過去40年以上、現場でいろいろな仕事をしていて、そのコツとか要点を文章にして残すということを得意としてきた。ものすごい技能者だと言われている人のコツがほんのちょっとしたことだったということは多い。そういうのを皆が共有することは良いことだろうと思った。(過去形である)
そんな標準化の初歩みたいなことを40年もしてきたのだが、最近はあまり親切丁寧に教えることはかえって良くないのではないかという気になってきたのだ。

私がNCプログラムで神技と言われたのはもう30年も前のこと。仕事を変わる時後任に事細かくノウハウを書いて渡した。しかし彼は私のテクニックを覚えようとはしなかった。覚えることはできなかったのかもしれない。しかし仕事をしなくてはオマンマの食い上げである。彼は彼なりに、私から見ればエレガントではないが自動プロを駆使してなんとか仕事ができるようになった。
私から見たら、あの機械はこの部分は精度が悪いから精度を要する加工は別の場所にセットするべきだとか、ワークの配置を変えて切粉の流れを良くすると加工スピードが3%上がるのにと脇から気をもんだこともあるが、岡目八目、そんなことは言わぬが花だと思い至った。

人に教えるといっても種々ある。
手とり足とりして教えるのが良いのか、概略を教えてあとは自分に考えさせるべきか、あるいはなにも教えないのが一番よいのか?
もちろん相手により、場によりけり、緊急度によりけりだ。

力量ってなんだろうか?
ISO19011:2002では「実証された個人的特質、並びに知識及び技能を適用するための実証された能力」となっている。
しかし単純に、著しい側面を適切に運用できることではないと思う。自らが考えて運転方法を身につけ、最適な方法を見つけ標準化していく能力ではないのだろうか?
なにしろここは日本だ。言われた通りするだけの人はいらない。自らが改革し改善していく人が望まれるはずだ。

まあ、そんなことを考えるようになったのは老化ではないが、いよいよ職場を去るにあたって思い残すことがないようにしたいと考えているからだろうか?
うーん、未練があるようではやはり未熟なり 



あらま様からお便りを頂きました(09.09.16)
佐為さま あらまです
還暦を迎えて職場を去られるという佐為さま。
まずは、お疲れさまでした。
戦後の高度成長時代を邁進し、日本を世界一の技術立国に導いたのが、「アラ還」と呼ばれる団塊の世代の人たちです。
まさに奇跡の人たちです。
ところで、還暦と言っても、壮年と変わらないほどの体力や気力を持っておられます。
それに加えて、豊富な経験を持っておられますから、「アラ還」世代は、「アラフォー」世代を圧席しています。
( その「アラ還」と「アラフォー」世代の間に埋没しているのが、小生の世代です。)
また、定年延長ということで、還暦を過ぎても現役を続行される人たちが多い中、佐為さまが勇退されると言うことは、後進に席を譲ると言う意味でも、意義深いと思います。
さて、小生も、いつまでも“若手”と言われることを許されない世代になっていました。
そこで、色々なことを相談されます。
どうすれば、うまく加工できるかという技術的な相談から、心配事まで。
その技術的なことについては、いつの間にか、何でも応えられるようになっていました。
そこで思うことは、日本の若い人たちは、分らないことがあるとすぐ相談してきます。
ところが、今まで小生が会った海外の人たちは、自分で色々と試してみて どうしても分らないとなってから相談してきます。
また、外国の人は、相談もしないで勝手に自分で判断して、行き詰ることがあります。
ところが、日本人の場合は、何でも他人の判断に委ねる傾向があると思います。
どちらがいいとは言いませんが、小生は、質問を受けた時は、どうしてそういう質問に至ったのか、そのプロセスを問います。
ほとんどの人は、そこで振り返って自問自答し直して、解決するようです。
つまり、回答は自分が持っているものですから、最後まで頑張れば、問題なんて解決するものだと思います。

ところで今、日本の空洞をアジアが埋めています。
それを回避するには、他力本願的な若者思考を、自力型に切り替える必要があると思います。
そのためにも、佐為さまには、休んでもらっては困るわけです。

あらま様 毎度ありがとうございます。
うーん、実を言って定年という実感がないのです。諦念を持てずにさまようだけなのでしょうか?
アジアの空洞よりも私の空洞・・・心じゃなくてお財布の空洞をいかにして埋めようかというのが最重要課題であります。
考え中・・・考え中

タイガージョー様からお便りを頂きました(09.09.19)
力量
拝啓佐為様
いつも為になるお話をありがとうございます。佐為様の先日のコラム、「力量」を拝読させていただきました。「高いレベルの後進を育てる。」これこそが先人に共通した悩みでありましょう。
そういえば、このたび民主党は下記のような政策を提唱しております。
http://www.asahi.com/politics/update/0919/TKY200909180379.html
雑多な議員のいる民主党では土屋さんのような暴走議員を防がなくてはなりません。また、党首以外の議員の発言の機会が少なくなれば失言の機会も減少します。このシステムでは議員の力量が無い議員が多くいても、少数のまとめ役がいれば国会は機能します。さらにこのシステムを慣習化し、国会全体に制度化したら、平沼さんのような独善議員も力を失い、日本の一部勢力の力量はさらに向上するでしょう。(棒読み)

ところで佐為様は後進の方の力量向上のために、彼の者にどのような励ましや心理的アプローチをされていますか?例え朝から悲しいことがあったときでも・・・。
    タイガージョー拝

タイガージョー様 毎度ありがとうございます。
議員立法禁止ですか・・絶句
国会議員が法律を作らなくては、存在意義は何でしょうか?
アメリカでは予算以外はみな議員立法・・・日本は、いや民主党は民主主義からもっとも遠い政治団体なのでしょう。きっとお手本は中国共産党か、ソ連の共産党なのでしょう。

朝から悲しいことがあったとは・・なにか深刻ですね
ところで後輩に悲しいことがあったのか? 私自身に悲しいことがあったのか? イマイチ不明です。
非常にお好みに合わないかもしれませんが、会社は会社、仕事は仕事、非常に悲しいことがあったなら休みを取って心の整理、あるいはできることをすべきだと思います。
ひとたび職場にあれば、家庭の事情、個人的事情など顧みることはならず
そう信じております。
 


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