ケーススタディ アウトソース 09.12.23

昼休みである。21世紀の日本では有名無実の京都議定書が怖いらしく省エネが叫ばれており、鷽八百社が入居しているビルでもビル管理会社がテナントの同意を強引に取り付け、全館昼休みは照明を落としてしまうことになった。「真っ暗じゃあ、お客様が来たらみすぼらしくておかしいよ」とか「暗過ぎて歩くのも危険だ」という声もあったが、省エネが正義となった21世紀の日本では『明かりを消しましょ運動』を止めることはできない。陰では映画を上映しない映画館とか真昼のお化け屋敷などと呼ぶ人もいた。
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21世紀では、ひなまつりになっても、ぼんぼりに明かりをつけないのかもしれない。

という事態で、昼休みは真っ暗で将棋を指すこと本を読むことも何もできない。以前山田は昼休みに大手町界隈を散歩していたが、東京といえど1月は寒く外を歩く気にはならない。地下道を有楽町まで歩くという手もあるが、地下道にごろごろしているホームレスを思うとあまり気が進まない。
ということで環境保護部の4人は、薄暮というより真っ暗な部屋でコーヒーを飲んで雑談するのがいつものこととなった。

しかし山田にとって、そんな時間に先輩にいろいろと教えてもらうのがまた楽しみであった。今日はたまたま隣に中野が座っていたので中野に声をかけた。
「中野さん、ISO管理責任者をアウトソースするということを聞いたことがありますか?」
「管理責任者のアウトソース? そりゃなんだい?」
「ISOコンサルというのは多々ありますが、その中には管理責任者を請け負ったり、事務局を請け負ったりしている会社も多いのですよ。
ほらここなんか『管理責任者の請負、組織で決められた、管理責任者の役割を遂行します。EMS/QMSのマネジメント、審査機関との窓口業務、審査の受審対応、マネジメントレビュー支援、社員教育など、価格の見積もりはこちらまで』と・・」
「ワハハハア・・笑ってしまうしかないね。そんなことを考えるというのはマネジメントというものを知らないとしか言いようがない。しかしなんだね、経営に役立つシステムといいながらアウトソースを引き受けますと語るコンサルは詐欺としか言いようがないね。これが最小の費用と手間で認証を維持したい企業のためにアウトソースを引き受けますと語るなら、ぼくは信用するがね。」
廣井がいつの間にかそばに来てそう言った。
「あ、廣井さんも見てました? ぼくもそう思うんですよ。いったい全体、このコンサルは何を目的にしているんでしょうかね? 企業のためになるというより、単に自分の金儲けというだけじゃないかと思うのですよ。」
「そんなの金儲けに決まっているじゃないか。このコンサルが企業のためを思っているなら、苦労をしても正攻法で行くべきだと語るだろう。あるいはビジネスのために認証が必要なら簡単に表面だけのISOをしましょうと語るだろう。企業のシステム改善のために管理責任者を引き受けます、請け負いますというのは論理的に矛盾しているよ。」
廣井は妥協の余地ないという発言である。
中野が笑いながら茶々を入れる。
「廣井さん、まあまじめに考えればおっしゃる通りです。しかしねえ、今の世の中にISOで会社を良くしようなんてお人はいないでしょうから、めんどくさいのは外注とかアウトソースしようとしてもばちは当たらんでしょう。商売のためにISO認証が必要なら一番手間暇のかからない方法を選択するのはまっとうな選択ではないですか?」
「中野君、しかしこのコンサルというかお猿さんというべきかウェブを眺めると『有益な環境側面抽出手順』なんて書いているのだから、もともとISO規格の理解ができていないのではないだろうか? ということは、こんなコンサルには管理責任者のアウトソース以前にどんな仕事でも頼むのは選択の誤りだよ・・」
中野がどれどれという調子でモニターを眺める。
「アチャー、これは痛い、このコンサルはどうなんでしょうかねえ〜、真面目に有益な側面があると思っているのか、商売のためなのか、いずれにしてもこんなところに頼めば、システムの継続的改善というよりも、継続的改悪になりそうですね、」
「ISOコンサルっていってもピンからキリまでですね。このコンサルは主任審査員の資格を持っているので安心とありますが・・」
と山田
「主任審査員がみなまっとうなら、ISO第三者認証制度は崩壊しなかったと思うよ。」
廣井は厳しい。
「それにどうかなあ、ISOコンサルなんてピンがなくてキリだけのような気もするよ。」
中野も冷たい。
「ともかくお二人のご意見は、管理責任者はアウトソースできないというスタンスのようですね?」
「山田君、管理責任者とは何ぞやというところから始まらないといけないと思う。」
中野もなかなか理屈をこねるのだ。
「中野さん、管理責任者というものも人によって受け取りかたがいろいろですが、中野さんはどのように考えているのですか?」
「どのようにって、どのようにだい?」
「私の知っているだけで四つくらいの解釈があるように思います。
ひとつは会社の経営層の一員、環境担当役員あるいは同等の人を意味するというもの
ひとつは単に規格に書いてあることをするだけで管理者であれば下級のもので良いというもの
あるいはシステムの構築・維持というより、パフォーマンス改善の推進者であるというもの
新井さんという人は、管理責任者という言葉そのものが誤訳というか、そもそも管理責任者を決めろと規格には書いてないと語っています。インターネットで探すと、まだまだ他にも説があるようです。」
「うーん、そんなにいろいろな説があるのか!? ぼくも知らなかったよ」
「私の知る限りの会社というか組織では、パフォーマンス向上の中心人物というタイプが多いようです。例えば当社のどの工場でも管理責任者として生産施設部長をアサインしています。当社の場合、生産施設部長は環境管理、エネルギー管理、施設管理を担っていますからマネジメントの仕組みを作るというより、パフォーマンス改善する人と言えるでしょう。
しかし規格を読むとパフォーマンス向上というよりシステム管理者というイメージかと思いますが・・」
「なるほどそう言われると当社の工場の管理責任者はパフォーマンス向上担当なのか。本社の場合は、環境担当役員だから社内の環境行政そのものといえるが・・しかし環境行政といってもまた広いなあ。環境担当役員っていったい何をする人なのだろうか? 当社ではいないがCSR担当役員といった方がマッチするのかねえ〜」
中野もあまり自信はないような口ぶりだ。
「CSR担当役員というのもまた漠としていますね」
「そうだねえ〜、会社によってCSRという意味さえ異なるだろうし、CSRというものは職制の中に溶け込んでいるからそのような部門はないと語っているCSR先進企業もある。
まあ、簡単に言えば『社会問題について、社内外にメッセージを発信すること』とか『それを実現する体制づくり』ではないのかねえ〜、実現するのはすべての職制だろうからなあ〜」
「環境行政というと、CSRの一部であって社会的問題の一部である環境ビジョンや環境計画の推進、事故や違反を含めて環境リスクの取り扱いなどでしょうか?」
廣井が割り込んできた。
「そもそも管理責任者というのもまたいい加減な表現だよね、いったい何を管理する責任者なんだろう?」
「管理責任者というのは日本語訳で、原語である Management representativeにさかのぼらないといけないんじゃないかな? もっともこの語の意味の解釈も山田君が言ったように議論百出のようだけど。」
中野が引き取る。
「単純にManagement representativeといえば、役員レベルの意味じゃないのかな。僕はrepresentativeとは執行役と思っていたが・・」
「前に申しましたが新井さんという人は、管理責任者が特定の個人を意味するのではなく、会社の業務の責任者を意味するので多数のManagement representativeが存在すると語っています。」
山田が口をはさんだ。
「でも私は英語が得意じゃないですから、本当の意味は分かりません。しかし外資系企業、いや海外のウェブサイトを見てもQuality Management representativeの求人広告などを見かけますので個々の業務の責任者という認識はちょっとちがうんじゃないのだろうか? やはり何か品質保証とか環境管理の中心人物という気がしますね。」
山田も自信がない。
「しかし管理責任者を請け負うというからには、その業務がある程度定義されていなければ請け負うなどと語ることはできないよね? つまりこのコンサルは管理責任者とはISO審査対応の仕事と認識しており、システム維持とかパフォーマンス向上の責任者ではないと考えているようだ。」
廣井がいう。
「廣井さん、確かにパフォーマンス向上推進者であるとすれば、そのような責を負いますと語る人はチョットいないと思うね。もっと簡単というか、定型的で才能も努力も不要な職務と考えているとしか思えない。」
フフフと笑いながら廣井は言った。
「部外者が省エネや環境ブランドアップを請け負うなら、ぜひとも頼みたいものだね。だけど認証機関相手だけの仕事にお金を払う気にはならないね」



本日の課題
あなたの組織では管理責任者のタスクは何でしょうか?
管理責任者をアウトソースすることは規格上可能か、500字以内で説明せよ
マネジメントシステムの維持をアウトソースできるか、500字以内で説明せよ



Yosh様からお便りを頂きました(09.12.24)
ご存知でせうが
管理責任者というのは日本語訳で、原語である Management representative


この“representative”は責任者とかでなくて日本語でなら“代理人”が最も適切な訳と思ひます。
日本では、対外的には其の会社の“representative代理人”であるのに、社内での責任範囲にての呼称を対外的に其の儘使用してるのでせうか?
会社組織で会社法人自身が全てを行なふことが出来ぬから人を雇ふて会社の管理を任せる代理人“Management representative”を会社の製品の販売を任せる“Seles representative販売代理人(これをこちらでは単にRep.)”を社内に置く訳です。
個人の商店は別として、対外的には代理人を置かずして営業や販売をする会社法人が日本には沢山あるのでせうね。

Yosh師匠 毎度ありがとうございます。
ええとですね、ISO規格では経営者は(たぶん経営全般で忙しいだろうから)環境や品質をしっかり管理する人を決めなければならないとあります。その人をrepresentativeと呼んでいます。
ところが規格を日本語に訳す時に、経営者の代理者であったはずが、管理責任者という名前に訳されたのです。
ですから 日本では、対外的には其の会社の“representative代理人”であるのに、社内での責任範囲にての呼称を対外的に其の儘使用してるのでせうか? じゃなくて、規格を翻訳したときに誤って管理責任者という名称になってしまったのです。
そして日本語の規格しか読まない人は、元々は代理者のことであったとは思わず、管理する責任者だと思ったわけです。
誤訳が誤解を呼び、もう混乱です。
笑ってください。


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