「日本は世界5位の農業大国」食料自給率の嘘 10.03.20

著者出版社ISBN初版定価(入手時)巻数
浅川 芳裕講談社α新書4-06-272638-22010年2月20日838円全一巻

自給率という言葉がある。エネルギー自給率とか、穀物自給率とか、食料自給率など、いろいろな使い方がある。軍隊であれば武器自給率という指標だってある。要するになにものかについて、自国で調達できる割合であり、自給率100%なら輸入しなくてもよく、自給率ゼロなら輸入100%である。
shokuryoujikyuuritu.jpg さて、日本の食料自給率は40%なのだそうだ。つまり日本人が食べている食料の6割は外国からの輸入だという。と言われてもピンとこない。日本人の食べるものといえば米、お米の過半数を輸入しているとは思えない。もちろん食料といっても米ばかりではなく、麦もあれば野菜もあり、肉もあれば魚介類もある。そして国産牛肉といっても、輸入した穀物とかトウモロコシで育てている場合は自給ではないようだ。
ところで農林水産省は食料自給率が4割では低いからこれを上げようと盛んに宣伝している。食料自給率が上がれば国際紛争が起きても食うに困らないから安心だし、中国で毒ギョウザを生産しても輸入しなくてもすむから心配がないという。

そんなことを聞くと、「なるほど!そのとおりだ」と思う。
が、しかし、ちょっと振り返るとおおいに変な気がしてくる。
私は今では都会に住んでいるが、生まれてから半世紀の長きにわたり福島の田舎に住んでいた。私の子供の頃は白米なんて食えない。麦飯である。もちろん麦100%ではまずくて食えないので、麦と米が半々くらいだった。小学校時代は学校給食はなく、学校に弁当を持っていく。麦飯はすぐに臭くなってしまい、周りの農家の連中が白米のご飯の弁当をもってくるのをうらやましく見ていた。
当時の池田首相が「貧乏人は麦を食え」と言っていた頃である。

白米のご飯が食べられるようになったのは高校を出てからで、1960年代末のこと。その頃になって、やっと我が家では白米のご飯が食えるほど豊かになったのである。カラーテレビを買ったのは私が高校を出て就職して二度目のボーナスだったように思う。もちろん高卒のボーナスでテレビが買えるはずがなく、家族みんなでお金を出しあったのだ。

話がドンドンずれていく。
なぜ食料自給率が4割と聞いて変だと思うかというと・・田舎では耕作を止めた田畑がたくさんある。それも農業をしていた人が農家を止めたり、あるいは高齢になってやめたのではない。米が取れ過ぎるので米を作るなという政府の指示で米を作らないのだ。つまり減反である。作らない田んぼがあって、なぜ食料自給率が低くて大変なのだろうか? 作らなくても間に合うから作るなと農林水産省が指示しているのではないのか?
そんなこと、おばQの頭でも変だなあと思うのである。

日本の農業は3ちゃん農業だと言われたのはもう40年も前のこと。3ちゃん、つまりカアチャン、ジイチャン、バアチャンが細々と農業を営んでいるというイメージである。ここで、いくつかの疑問がある。3ちゃん農業というのは本当だろうか? あるいは3ちゃん農業が事実としても、それはみじめで小規模なものなのだろうか?
私の家内の高校の同級生(当然女性である)の夫はフルタイムで会社で働いている。その同級生は夫が親から受け継いだ田んぼを、もう30年以上の間、彼女一人で農業を営んでいる。と聞くと「女手一つでやっているならせいぜいが5反(50アール、つまり50mかける100m)くらいだろうと思うだろう。もっとも都会人なら農地の広さの想像もつかないかもしれない。
とこがどっこい、彼女はトラクターやコンバインを使って6ヘクタール以上の田を女一人で耕作している。知らない人のために言うと100mかける600mの広さである。今どきは医師であろうと弁護士であろうと公認会計士であろうと県知事であろうと、女性は珍しくない。それと同じく彼女はプロフェッショナルな農業従事者であり、農場経営者なのである。女性であろうとカアチャンであろうと、立派なプロ農家なのである。
もう一つ事例を上げる。
家内の実家の近くで学校の先生を引退した70過ぎの人がいる。この人は定年後、専業農家として近隣の農家の土地を借り集めて大型機械を使って大規模農業を行っている。今の時代、70歳といっても体力はまだまだである。そして孫守りをしているのと違い、作物の世話、市況価格、農業機械の維持管理などを行っているので頭脳もぼけるひまがない。ジイチャンなどとバカにできないのである。
このような実態を見れば、3ちゃん農業なんて侮ってはいけないのだ。

反対の事例もある。
家内の実家は農家である。以前は蚕(かいこ)がメインの現金収入であり、その他に4・5反しかない田んぼで米を作っていた。一時はリンゴの果樹園も持っていたが、家内の父が亡くなったときに手のかかる果樹は止めた。その他、野菜や果物も作っているが市場に出すほどではなく自家消費だけであった。しかし蚕つまり絹はもう中国産に勝てず、義母は10年くらい前に蚕を止めてしまった。家内の弟は農業をしないので義母は田んぼをすべて近所の大規模に農業をしている人にお任せである。義母は畑をいじっているが、すべて自家消費の野菜とかイチゴなどを作っているだけだ。つまり家内の実家は農家というものの、土地を貸して農業をしてもらっている。自分がしているのは農業ではなく、家庭菜園であり、大きめな日曜農園に過ぎない。前述のプロ農家とは業種業態が異なるのである。市場に出すプロ農家に対して、自給農業というのだろう。
そんなふうだからとれたお米も大半は手間賃として支払い、食べる分と少々残る程度であり、その残った分を我が家は過去30年頂いてきた。
農地を借りている人を法的には小作人というのだろうが、今どきは小作人の方が強く、取り分も多いのである。
このように農業と言っても、プロ農家と自家消費の農家があり、食料自給率を上げようという場合、どのような方策をとるべきかということは大局的、包括的に考えないといけない。
自家消費の農家もどきに、大金を払って増産してほしいというより、プロ農家に有利な政策をとって企業の論理、経済性で誘導すべきであることは明白である。

食料自給率 ところで我々は毎日出されたものを100%食べているのか? といえば、もちろん食べていない。私の勤めている会社では給食なのだが、食べ残しもあるし、食べない人が問題となっている。つまり昼飯を申し込んでいても、気が変わって外食したり、突然の出張などで食べないケースが多いのだ。給食を食べない割合が1割以上あるようだ。
またダイエットしている人はご飯を半分以上残す人もおり、また好き嫌いもあり、食べ残しは2・3割になるのではないだろうか。つまり会社に持ち込んだ給食で実際に食べられている割合は6・7割なのだ。食料自給率が4割と言っても、真に食べる量からみれば自給率は7割相当と思われる。
もちろん一企業の給食だけで日本の食料の無駄を推定することはできない。だが多くの調査でも捨てられている食料は4割と言われており、そうだとするとやはり実質的というか潜在的自給率は6割以上なのは間違いない。
つまり、捨てるために輸入している食料が2割あるということだ。
まさにばち当たりな行為だ!

この本は大嘘だらけの食料自給率という副題がある。自給率のうそはその程度ではないという。そもそも自給率100%なら良いのかという根源的な問題がある。戦争中、輸入がないのだから、日本の食糧自給率は100%だった。それで国民は豊かな食生活だったのか?と考えれば自給率という意味が再確認できるだろう。今現在、食料を輸入できなくなれば当たり前だが、食料自給率はアットいうまに上がる。もちろん食うや食わずであることは確かだ。
要するに食料自給率というものが独立した指標でもなんでもない。食料自給率と豊かな食生活というものは関係ないのである。
それに考えるまでもないが、食料があってもそれを炊事するエネルギーの自給率が食料以上に低いのだから食料の自給率がどうこう語るのは大局を見ていないことは明白だ。
著者は食料自給率というものを持ち出した論理は、単に農林水産省の利権であるという。そしてそれは官僚、民主党のたくらみなのだという。
私はそうかどうかは分からない。しかし、減反を無理無理させて、そして自給率が低いと語るのは明らかに矛盾していると思う。
この本が正しいかどうかはわからないが、一読する価値はある。そして真の安全保障、食の安全というものをどう確保するのか、ということを考えるのは大事なことだと思う。
ご一読あれ、


あらま様からお便りを頂きました(10.04.16)
農業技術大国
佐為さま あらまです
小生は本を購入することを自粛していて、図書館で借りることにしています。
拙宅の近所の図書館では、もし在庫になくても、新品でも古本でもリクエストさえすれば、2週間以内に借りることが出来るからです。
さらに、深夜でも立ち読み自由という書店も出現して、購入しなくても良い環境です。
また、最近は、著書も WEB配信される世の中に移行するということで、いよいよ紙の本が売れなくなる時代だと思います。
もしかしたら、新聞も雑誌もなくなるペーパーレスの時代が本当に到来するかもしれませんね。
さて、『日本は世界第五位の農業大国』を読み終えました。
いまのカロリーベースの日本の食糧自給率が、農水官僚の陰謀であることが良く分りました。
実は、小生の住む静岡県でも、数年前から民放ラジオでカロリーベースの計算はオカシイ・・・と言うことを盛んに言っていました。
農水省発表の都道府県別のカロリーベースを見ると、平成 18年度は、北海道は 195%、千葉は 29%、東京は 1%、米どころ新潟は 100%、そして我 静岡県は 18%と言うことになっています。
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/other/ws2.xls
「そんなわけない ! ! 」と言うのが民放の意見で、海の幸、山の幸が豊富な静岡県の食料自給率は、たとえカロリーベースであっても全国の平均以上であろうと言うのです。
そんなわけで、農水省の発表に疑問を抱いていたのは、淺川芳裕氏だけではないようですよ。
同志!あらま様 毎度ありがとうございます。
確かに変です。ひとそれぞれおかしいと思うきっかけは異なってもやはりヘン
私の田舎にあれほど休耕田、しかもお上から作ってはいけないと言われたから作付しないのになんでと思うのが人情です。
政府がドンドン食料増産しろと言って、やはり足りないと言うなら納得ですが・・

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