緩和する処置、是正処置、予防処置 10.02.28

いつもバカなことを書いているが、今日もバカなことを書く
何のこっちゃ?

ISO14001:2004 4.5.3では
「不適合が起きたら、不適合を特定し、修正し、その環境影響を緩和せよ」
「不適合が起きた原因を特定し、再発を防ぐ処置をしろ」
と小難しいことを語っている。
それどころではない、
「不適合を予防する処置をとれ」
と不可能と思えるようなことまで求めている。
ISO9001:2008でも8.5で同様のことが書いてある。本当を言えば基本的な規格要求事項はまったく同一でなければおかしいのだが、MS規格ごとに異なっているのが現実である。あげくにISOはそれらを統合するための方法を示して、更に更にお金を儲けようとしている
 ヤレヤレ
是正処置とか予防処置についての要求は一読すると正しいように思えるが、本当に正しいのだろうか? あるいはあるべき姿なのであろうか?
まず、規格に書いてあるようなことが理想であり、それを神ならぬ人間が実行・実現できるのか、はなはだ疑問である。特に予防処置というものは難しい。ISO-TC委員でさえ、「予防処置というものが可能なのだろうか?」とおっしゃる人もいる。
予防処置として予防保全や日常点検、あるいはさまざまな管理指標の傾向監視など考えられるが、神ならぬ人間だから、いまだかって発生していない事象を予測できるはずはない。FMEAであろうとFTAであろうと、考えられるものしかとりあげないのは当たり前だ。考えつかないものを取り上げることは不可能だ。ということで、厳密に言えば予防処置と言われているものはすべて是正処置である。
仮に是正処置とか予防処置というものが可能だとしても、そういった対応をすることがベストなのか?という疑問がある。
では本日はこの是正処置とか予防処置という手段が正しいか否かを考えてみたい。
本当を言えば妄想を語るだけなんだけどね

会社で仕事をしていると、ルーチンワークだけではなく、規定に定めていない定型外の問題、予想外の状況、あるいはいまだかってない問題などが発生することは珍しくない。いやスタッフの仕事というのは本来そういうものの連続であろうと思える。ルーチンならば定められた手順に従い粛々と実行するラインの仕事である。ルーチンでない仕事だからこそスタッフが存在するのだから。
そのようなとき、どのような対応をすれば良いのかと考えると、絶対にISO規格の要求通りの仕事をしてはならないように思える。

私の過去の経験からつまらない例を上げる。いずれも以前働いていた会社でのことだ。
品質とか生産上の問題が起きると、張り切って大きな声でまわりの者に指示し、不具合の処置にまい進する男がいた。もちろん彼は能なしではなく、毎度発生した問題をなんとか鎮火し、ことなきというか、まあ被害拡大を防ぐことをした。
でも彼は火消しには手腕をふるったが、是正処置ということはからっきしだった。だから類似の問題が何度も起き、そのたびにまわりを指揮し叱咤激励をした。そういう仕事をしている自分に酔っていたのかもしれない。
しかしその男は上からそういう活躍を評価され部長になった。しかしまあそこまでというか、結局部長のお仕事は務まらず自ら転身を図り職場を去った。

もうひとりの例を上げる。
今では田舎で囲碁三昧の暮らしをしている私の元上司だった方は、それとはまったく違っていた。その方は現場上がりだったが、考えが論理的で、問題は何かと把握し対策すると共に、原因は何かと究明し、そしてそれをしらみつぶしにしていった。
彼が管理している部門では類似の問題は再発せず、トラブルの少ない平穏な職場で、言いかえれば目立つ活躍をする場がなく、元上司に対する上役の評価は高くはなかった。
私はその方を尊敬し真似しようとしたが、もちろん不可能であり、能無しのゆえにリストラされ、今に至る。 

軍隊の勲章の話である。旧日本軍では戦死しないと勲章はもらうことは困難だったらしいが、アメリカ軍は生き残った人にしか勲章を与えなかったと聞く。アメリカ軍で勲章をもらうためには「上官に見えるところで、手柄を立て、そして生き残ることが必要条件」と本で読んだことがある。
ところでこの場合、準備万端で圧倒的勝利を収めた場合、それは高く評価されないように思える。準備つまり予防処置が不足して、苦しい戦いののちに勝利をつかんだというストーリイが一番高く評価される完ぺきなシナリオではないだろうか?

野球でファインプレイというのは限界ぎりぎりという状況で達成することである。あらかじめボールが飛んでくるところで待ち構えていれば、ファインプレイではなく、カッコいいとも思われない。
じゃあ、敵の術を予測でき、未然に防ぐ選手あるいは監督は一見平凡に見えてしまうではないか?
長嶋と野村の違いはそこだと思う。もちろん野村が天才でファインプレイにも名指揮官にも見えないのだ。

そんなことを考えると、企業内においては予防処置はもちろん、しっかりした是正処置を講じることをせず、緩和処置程度で終わらせておくことが処世術としては最善ではないだろうか?と思えてくる。
そもそも完ぺきな予防処置をしていたら、問題が発生しないために予防処置をしていることさえ示すことができないではないか!

これはISO審査においても同じことが言える。
「御社では予防処置としてどのようなことをしていますか?」
「予防処置ですか? そうさねえ、当社では当たり前のことをしているだけで・・問題が起きようがないからねえ〜」
「はあ? 具体的な予防処置としてどんなものがあり、その有効性はどのようにレビューしていますか?」
「現実に問題が起きていないから有効なんだろうなあ〜」
【この会社は、予防処置というものを理解していないようだ。不適合にはできなくても観察事項に・・】審査員の心の中

「御社では予防処置としてどのようなことをしていますか?」
「設備については予防保全をしっかりと行っており、管理指標を常時監視しており逸脱や不具合の気配があればすぐさま手を打っております。業務についても管理者は部下の業務の遂行状況が規則からの逸脱しないよう管理を行っております。具体例としましてはですね・・・」
「すばらしい。おお! 有効性のレビューもしっかりしていますね」
【規格通りに予防処置が取られていると・・】審査員の心の中

本日の迷言
アーサーCクラークは「進んだ科学は魔術のように見えるだろう」と語った。
その伝でいけば「完ぺきな予防処置はしていないように見えるだろう」
と言っても、何もしないことが予防処置ではありませんが・・



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(10.02.28)
たいがぁです。
予防処置に関する14001の文言には常々違和感がありました。

まず、規格に書いてあるようなことが理想であり、それを神ならぬ人間が実行・実現できるのか、はなはだ疑問である。特に予防処置というものは難しい。ISO-TC委員でさえ、「予防処置というものが可能なのだろうか?」とおっしゃる人もいる。

4.5.3では「顕在及び潜在の不適合に対応するための並びに是正処置及び予防処置をとるための手順を確立し」とあります。「並びに」の以降はまあいいとして、問題はその前の部分です。
「潜在の不適合」と「起こり得る不適合」とは意味が異なります。「潜在の不適合」は、予見できようができまいが潜在の不適合全てを指すとも文法上は解釈できるわけですが、おばQ様の言うとおりヒトは神ではないのですから、実務上は予見できないことについてまで先んじて対策をとることなどできるわけがありません。
また、「顕在の不適合」には未だ発生していないが「起こり得る不適合」も含まれると考えることができます。であれば、「顕在及び潜在の」という文言は事実上意味がないということになります。
幸いにして私は今まで出会ったことはありませんが、もし「予見できない不適合」への対策までも要求する審査員がいるとしたら、まったく対処不能ですね。^^)

たいがぁ様 毎度ありがとうございます。
規格の原語は「潜在」は「potential」で「可能性のある、潜在的」あるいは「起こりえる」という意味のようです。
決して「予期せぬもの」ではなく、単に「まだ発生していない」という意味と理解します。
つまり自社で起きた事故、報道された事故や違反のように、既に起きた問題で既知のものであって、自分のところでは現実には起きてはいないが起きそうだという問題に対することが予防処置かなと私は思っております。
だって、知らないことは知らないもーん
まあ、是正処置か予防処置かなんて神学論争はどうでもいいことでしょう。
環境先進企業といって間違いないIBMは過去に地下水汚染や流体流出の事故を起こして、その徹底的な再発防止策を行ってきたと言います。そんなことはIBMのウェブサイトに記載してあります。
その結果、無事故や無違反まではいきませんが、事故も違反も少ない環境優良企業になったのです。
IBMの名誉のために申し上げておきますが、IBMは毎年の違反件数、罰金金額などをウェブで公開しています。一般企業ではそこまでしていません。事故や違反が報道されても、翌年の環境報告書でそれについて言及していない会社などザラにあります。
夢みたいな予防処置を考えていては、決して無事故無違反というゴールにたどりつかないように思います。


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本来業務の是正処置 10.03.06

ISO14001で紙ごみ電気は許さん!
目的目標は事業そのものだ
ということになったのは今は昔・・

目標が未達なら、それは不適合であることは間違いない
じゃあ、事業目標が未達ならいかなる是正をするのだろう?

仮定の話ではない
販売会社で環境製品販売を経営目標としている
ISO14001ではそれを環境目的目標とした
さて・・・
突然沸いたのがリーマンショック
拡販どころか真冬だ

審査員「目的が未達ですがいかなる是正をしたのでしょうか?」
課長「経営戦略の見直しとかをして少しでも上積みしようとしたほか、状況に合わせて実際的な数値に下方修正しました」
審査員「それは緩和あるいは当面の処置ですよね。再発を防ぐための是正処置はなにをしたのでしょうか?」
課長「そんなことありえーだろう 怒」

実話です

実はこれ数日前に私のブログに書いたのですが、同志たちの意見をまとめると是正処置は見つかりました。
審査においてこのような不適合を出された事態に対する是正処置は、認証機関の鞍替えか、JABへの異議申し立てではなかろうかと・・



名古屋鶏様からお便りを頂きました(10.03.06)
本来業務の不適合
どうも、鶏です。
「本来業務の不適合」についての、鶏の見解ですが。
そもそも、規格において再発防止を行なうべきと要求されている「不適合」は、「環境マネジメントシステムの範疇」において、ですよね?
名古屋鶏 「環境マネジメントシステム」とは、「経営の規格」ではなく、あくまでも環境側面の管理を行うための仕組みです。
つまり、このシステムで扱う内容は本来、組織が「管理出来る」と宣言したものに限るわけです。この時、本来は管理できる筈だった公害の数値等が基準値をオーバーしたとすれば、それは「不適合」として再び管理下におけるようにする必要があると思います。つまり是正処置です。
しかし、売上高のような不確定要素の強いものは到底自社だけで「管理」できるものではありません。であれば、事実上管理不可能になものに管理システム上の「不適合」をつけるのは筋違いではないでしょうか? 
管理できないものに「再発防止」なんて出来る筈がありません。
また、規格では「目的・目標・実施計画」について、「レビューしろ」と書かれています。
ゴルフのホールインワンのように狙ったところにピンポイントで落とせる改善など、そうそうあるものではありません。大抵は行過ぎか、ほとんどの場合は未達で終わるのが常であります。そうした場合に必要なのは、その結果を受けて「じゃぁ次にどうすればいいのか」を前向きに考える、つまり「レビュー」することだと、鶏は考えます。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
へい、あっしも名古屋鶏様に半分同意です。
後の半分はどうかって言いますと、まだはっきりと決めかねているところがあるものですから・・
とはいえ、これはケーススタディじゃなくて、実際にあった応答ってとこがみそというか、困ったところです。


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