超入門 認証の決断 11.02.25

前回の続きである。

今晩は瀬尾社長と今猿と山田が、瀬尾製作所の方向付けを決めることにしていた。
「まず、瀬尾さんの会社が取引先から認証を要求されているかその確認が最初です」山田が口を切った。
「そこですが、なかなかはっきりしないのですよ。先方の資材部門に聞いたところ、ISO認証しないと取引しないというと法律的にまずいらしく、ぜひともお願いしたいというだけで、要するに義務なのか要請なのか希望なのかはっきりしません」
「瀬尾さん、ISOとなるとお金もかかりますし、その他の簡易型EMSではどうかということをお聞きしませんでしたか?」
今猿が言う。
「先方としては、エコアクション21でもエコステージでもKESでもダメとはいわないというような口調でしたが、これもまたはっきりしないのですよ」
「うーん、困りましたね。なにごとも目標がはっきりしていないと計画も立ちません。瀬尾社長のお考えはどうなんでしょうか?」山田も困ってしまう。
「実はもう決断しています。私は取引先からの要求のあるなしに関わらず、ISO14001というのにチャレンジしようと思っています」
今猿と山田は正直息を飲んだ。まさか瀬尾社長がお金をかけてISO認証を目指すとは考えてもいなかったからだ。

「しゃ、社長、それはご決断ですね。でもお宅の規模でも大金がかかりますよ。審査費用がどれくらいかかるかはご存知ですよね?」
今猿が言う。
「はいこの前、今猿さんから教えてもらいましたから。家内と相談したんですよ。その投資で、どれほどの効果があるのか、費用が回収ができるのか考えました。
まず取引先との関係ですが、先方も独禁法とかに差し障りがあるらしく認証が必須とはいえないというか言っちゃいかんと言われているようです。ありがたいことに資材窓口の担当の方は当社をずっと使っていきたいということをおっしゃっていますので、そういう方を困らせないためにもISO認証は必要と思います。
次に、化学物質管理も厳しく言われていますが、私なりに調べますと、欧州の規制も、それに従った国内メーカーの要求も、要するに化学物質管理の仕組みを要求しているのであって、それが存在し機能していれば良いようです。その結果、万が一使用禁止物質の漏洩というか混入があっても仕組みがあればそれほど責任追及もなさそうです。まったくなにもないときの混入は問題になる・・アウトプットマターズなんて言葉がありましたが、それとは逆のようです。システムありきなんでしょう。
第三に私の会社も悪いことをしようとか、義務を逃れようということは考えておりませんが、やはり仕組みがしっかりしていないということは、この前の業務の棚卸しでよくわかりました。
青臭いと思われるかもしれませんが、この際会社の仕組みを見直してみようかと、その手段としてISO認証をしてみるのも手だと思ったのです。よくシステム構築なんていうそうですが、それには大いに違和感があります。自分自身としては長年事業をしてきたので、いまさらシステム構築なんてはいいたくありません。システム構築なんていうのは元はなにもなかったようなように聞こえますから。システムの改善といいたいところです」

../2009/meeting.gif 「瀬尾社長、おっしゃることは良くわかりました。外部から認証すると良いことがあると仲人口に乗せられたということでなく、社長がいろいろと考えて決断されたということを確認したと思います。」山田はそういった。
「私もいろいろな会社でコンサルしてきましたが、あとでお金がかかったわりに思ったような効果がないということはたびたび言われました。あまり期待が大きすぎますとそういうこともあります」
今猿は自身の経験からそういった。
「山田さん、今猿さん、おっしゃることは良くわかります。お金の話ですが、現在の取引きしていただいている金額からすれば、審査費用は必要経費と考えなければならないかと思います。
変なたとえかもしれませんが、当社だって廃棄物を出しています。毎年交付するマニフェストの枚数はわずか30枚くらいでしょう。でも廃棄物を出すには、契約書の作成と締結、マニフェストの記載と回収の日数管理、行政への届けなど、廃棄物にはたいへんな時間がかかっていると思います。計算したこともありませんが、いくら中小企業の人件費が安いといっても、それに要している人件費、人件副費は結構な金額でしょう。電子マニフェストを使えばJWNETの登録にも費用がかかります。
そう考えるとISO認証費用はべらぼうではないでしょう。もちろん新しく設備を導入する時のように製造コストが安くなって何年で元がとれると具体的に効果が見えるわけではなく、そもそも認証にかかる費用を回収しようとするのは無理なのはあきらかですが」
今猿と山田は顔を見合わせた。瀬尾社長が審査費用の覚悟を決めたとしても、審査のためにはそうとうの努力がいる。もちろんISO認証なんて二人にとって大したことではない。山田にとってそれは息をするようなことだし、今猿はまさになりわいとしているわけだ。
しかし、瀬尾社長がこれからしなければならないこと、社内の準備だけでなく特に認証機関と審査員との応酬を考えると、大変だろうなあという思いが強い。
「社長のお考えはわかりました。社長の思いを実現するために応援させてもらいます」
山田がそう言うのを瀬尾はさえぎった。
「ちょっと言いにくいのですが、山田さんのお手伝いは本日限りということにさせてもらいます。」
山田はギョットした。今まで一生懸命に情報提供や支援をしてきたつもりだったのだが、なにか気に触ったことでもあったのか?
「社長、私になにか問題があるのでしょうか?」
そういった山田の声は多少こわばっていた。
「いや、そうじゃないです。山田さんには今まで無償で、何も知らない私にイチから教えていただいてとても感謝しています。これから認証スケジュールを決めて具体的に活動を進めるとなると、いっそう負担がかかるでしょう。だから、もう山田さんに頼むべきではないと考えました。それで今猿さんとコンサル契約をしたいと考えます。」
今度は今猿がギョットした。
「しゃ、社長、それは驚きです。というより私には荷が重いです。お分かりのように、私はISOコンサルですが、ISO規格の理解も会社の仕組みをいかしていくという発想も山田さんに及びません。私が社長のところに来ているのも山田さんのご指導をわきで拝見したいからなんです」
「今猿さんがおっしゃるように、山田さんは会社からみたISOということについてはよくご存知だと思います。同時に今猿さんは今までにコンサルとして多くの会社でISO認証の指導をされてきて、陥りがちな問題とか、審査でのトラブルとか山田さんが知らないことについて経験豊富だと思います。だからぜひ今猿さんにお願いしたい」
意外な展開に今猿は感激してしまった。
「瀬尾社長、私が仕事をさせていただくならいくつか条件があります。ISO認証するということを目的としないでください。審査で不適合があっても契約を解除しないでください。ISOのためとか認証するためということは言わないでくださいね。瀬尾製作所を良くするという観点でのみ考えるということが条件です」
「もちろんですよ、今猿さん。それこそ私の期待するところです」

これで大団円かって?
甘い甘い、あなたが期待しようと、私がおしまいにしようとしても、世の審査員は許してくれません。今猿さんと瀬尾社長が理想をめざそうとすれば、悪の秘密結社じゃなかった、認証機関とその配下の審査員が行く手をさえぎってくれるでしょう。
これから、いかなる展開なるのか・・・そんなこと私は知りません。
というより、この拙文は瀬尾製作所のお話をおしまいにしようとしただけで・・いわば幕引きです。
次回より、超入門講座の初心に帰ってほんとうの入門講座を語りたいと思います。



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