審査員になりたいか 11.04.29

私がネットでISOに関するいろいろを書いていると、審査員になれなくてボヤいてるのかとか、ネットでクダをまいてないで審査員になってみろ、なんてお便りされた方も過去に何人もいらっしゃる。
お便りをされないまでも、そうお考えの方は多いのではないだろうか。本日はそんなお考えの方に、そりゃ勘違いですよというご説明でございます。

義憤
1990年代、私は自分が勤めていた工場はもちろんのこと、子会社あるいは取引先に行って、何度もISO9001やISO14001認証の中心となって活動した。その頃、特に1990年代初めは審査員というものはとても希少価値があり、審査に行った先では大変な尊敬を受けるお仕事であった。そして言いたい放題を言っていれば、お仕事は勤まるようであった。
もっとも尊敬のレベルは年とともに低下しており、1990年代後半になるとあまり尊敬されなくなった。そして、21世紀においては・・
尊敬を受けるだけでなく、送り迎えされ、夜は接待、帰りにお土産までいただくという江戸時代のお代官様以上の扱いである。
そんな様子を見ていると、私は審査員になりたくて、なりたくてしかたがなかった。とはいえ、別に尊敬を受けたいとか、接待されたいとか、オミヤゲがほしいとか思ったからではない。その逆である。審査員になりたい理由は、そんな審査を何十回と受けていて、おかしな規格解釈や失礼な態度というものに反感を持ったからだ。それと、私が規格のとおりであり会社に役立つと思う方法を、審査員がだめというと、アホな上長が審査員の言うことをありがたがって承認してしまうという、背任に近い行為に反吐の出る思いがしたからだ。
幼い考えであるが、自分が審査員になればそんなアホなことは騙らない、もっと規格を正しく理解して会社に貢献する審査ができるだろう、それは日本の産業に貢献するだろうと考えたのである。
一歩退いて考えれば、審査員と言えど認証機関の単なる一従業員であり、その裁量範囲は限られており、たとえ審査員個人が正しいと考えても審査会社の方針には逆らえないのは当たり前だ。それにいくら高邁なことを思い実行したとしても、審査員ひとりの影響力は限られており、日本のISOを良くするなんてことは不可能に近い。
90年代末の頃、元上司の方が転身してJ○△の審査員になり結構偉くなっていたので、審査員になりたいので口添えしてもらえないかと頼んだこともある。だめだったけど、

水を得た魚、
その後、訳あって会社を替わり、内部監査という仕事に就き、一年中日本中を歩き回るのが仕事になると、審査員になる気がうせた。要するに私は監査という仕事をしたかったのだが、竹刀で叩きあうようなことではなく、真剣で切りあうような仕事をしたかったのだ。私は現状のISO審査が真剣勝負とは思わない。もちろん会社にも社会にも貢献しているとも思えない。それは審査結果がイチゼロ判定ではなく、あいまいであるからだ。あいまいな審査基準で根拠もはっきりしない不適合が出され、そんなあいまいな不適合が是正可能とは思えないが、みなさんが是正しているという摩訶不思議がまかり通っている。まことに不思議!
そのような審査が真剣勝負であるはずがない。振りが決まっている時代劇のチャンチャンバラバラと同じく、勝負というより踊りに近い。
試合でさえないよ
みなさんはISO審査を受けたり、あるいは審査員の方は日常審査をされているだろう。今の審査がすばらしいものだと思う方は何割いらっしゃるのだろうか?
「第三者認証制度は社会財である」なんて語る人がいるが、辞書にも載っていない社会財っていったいなんだ?
社会財とは、高齢者を雇用することなのか?
そして審査員というお仕事のもうひとつの魅力、つまりあちこち旅行ができるということについては、現在のお仕事は完璧に満たす。しかも審査員と違うのは、行き先と日時をある程度自分が決めることができる。そんなわけで私はこの仕事をとても気に入っている。要するに審査員よりも面白く、やりがいのある仕事なのである。

引く手あまた、
ところが世の中って不思議なことに、私が今の仕事に就いて満足していると、今度は審査員になるチャンスが沸いてきた。私が50代半ばの頃は毎年数回「審査員になりませんか」とかいうオファーを受けるようになった。
はじめて会社に転職勧誘の電話がきた時のこと、丁寧にお断りしてから上長の机に行って、ヘッドハンティングの電話が来たことを伝えて、もし私をリストラしたいならそんな手間をかけずに直接辞めろと言っていただければよいですよといった。
すると「おれがそんな手間をかけると思うか」と言われてしまった。
それ以降、そういう電話が来ても、会社で不要の人物と思われているのではなく、他社から見て価値があると認められたのだろうと考えることにした。
私はズーズーしいのである。 
しかしなぜか、私を価値ある人物と考えている会社や人が多いようで、先ほど書いたように年に何度も審査員になりませんかというお誘いの電話やメールが来たのだ。
私自身、環境法規制や環境管理についての知識を必要程度は知っていると自認しており、監査員の力量は満たしていると思う。また現実の私は結構紳士であり、監査の場でもつれた 怒鳴り合ったことはあまりない。
でも私の知り合いとか、監査を受けた人が認証機関と深い関係があるとは思えないし、そういうところに認証機関の関係者がいるとは思えない。
実は一度、契約審査員をしている人が事務局をしている会社に伺ったことがある。そこの監査結果不適合がボロボロあったので、その方に「ISO審査員をしていてなぜ不適合があるのか?」と聞いたことがある。もちろんご返事は言い訳に終始した。
審査員のオファーを受けたのは、私がアイソスなどに寄稿する前からであるし、アイソス誌に書いた時も匿名だから、どうして私という存在を知り、能があるなどと思ったのだろうか? 未だにどうしてなのか分からない。

おごれる平家は久しからず、
だが、私が60歳になると「審査員に来ませんか」という電話はパタット来なくなった。そりゃそうだろう。審査員に定年がないなんていわれたのは今は昔。今では多くの認証機関は60歳定年で、60を過ぎると、運がよければ子会社に雇ってもらって審査員を続けるというのがパターンである。運が悪いというかその他大勢は、仕事があるときだけの契約審査員となる。契約審査員というのは早い話が日雇い審査員である。
最近は70歳定年(?)といっている認証機関もあり、契約審査員であっても特にお客さんからのご指名がなければ70歳でおしまいらしい。まあ、雇うほうからすれば高齢で出先で万が一のことがあったりしては、お客様にも迷惑がかかるだろうしという懸念もあろう。
審査員の給料も契約審査員の日当も、最近はドンドンと低下しているようだ。そうとう前は契約審査員1時間1万円なんてのが相場だった。しかし外資系認証機関の安値攻勢が激しくなり、1日4万になり2万になり、最近(2011年)では一時間2千円という話も聞く。いくらなんでも最低賃金法までは下らないとは思うが・・
平成22年10月24日発効の東京の最低賃金は1時間821円である。
もちろん審査員の日当も安くなったが、審査費用も安くなる一方だ。以前は、1日13万から14万というのが相場だったが、今では10万を切るのが当たり前。審査費用1件100万といわれたのも今は昔で、最近では60万後半になっている。
もちろん伝聞だから確たる証拠はないが、私が見ている見積書や経産省の報告書などから推測すると大幅な違いはないだろう。
最近は認定なし超安値という認証機関が出現している。かって郊外型大型電器店が現れてメーカー系列のストア店が一掃されたように、業界系列とか財団法人系の認証機関はヤーメタという事態になるのも遠くないかもしれない。そうするとISO審査員も大幅リストラに見舞われるだろう。
もっともそういった事態になると、賃金は安いけど誰でも契約審査員になれる事態になるだろうと思う。今でも安値認証機関は審査員補でOKといって募集しているようだ。
未認定の認証機関であれば、IAFのルールに従う義理はない。
だが世の多くの審査員になりたいと思っている人たちは、審査が好きというだけでなく高い賃金も魅力であったわけで、賃金が安いなら審査員以外の職を目指すのではないだろうか?

振り返れば
先に書いたように、以前は審査員になれば60歳以降も働けるというメリットがあったが、私が定年になる頃からそういうことはなくなった。だから私が審査員にならなかったのは結果として良かったと思う。

本日のまとめ
私がISO審査員にならなかったのは、なれなかったからではなく、なろうとしなかったからである。



N様からお便りを頂きました(11.05.01)
面白いです。
今年から審査員になり、実際の審査現場に行くようになりました。
もともとプライバシーマークのコンサルをやっていた時に、審査を受ける側でおり、非常に不愉快というかよくわからない審査を受けたので、反対側に立つと何が見えるのかと思い始めました。
なるほど、こんなやり方していては個人のバラツキが出るだろうなという気になり、自分自身の戒めもあり、いろいろサイトを眺めていて、ここを見つけました。
すべてが良しとして受け入れられるかどうかはともかく、参考になり面白い内容です。
今後とも継続してご意見を載せてください。
とりあえず、感想です。

N様、お便りありがとうございます。
審査員の方からのお便りはなくはありませんが、多くはありません。私は審査員の立場で読んで楽しいこと・面白いことは書いておりませんから、
とはいえ、過去には某認証機関の社長さんからいつも読んでますなんてメールを頂いたこともあります。メアドは有効でしたから偽物ではなかったようです。
私は1991年からISOというものに関わってきました。今の審査員を草食動物に例えるなら、当時の審査員は肉食動物どころか肉食恐竜といえるようなもので、そりゃ恐ろしかったものです。
冗談抜きに、応対が気に入らないと、企業担当者に灰皿を投げつけたり、机の脚を蹴飛ばし、机をゲンコで叩きつけるというのが現実でした。
あげくに昼飯がまずいなんていわれました。昼飯代などもらっていませんでしたし、田舎ではまっとうな弁当のつもりでしたが・・
我々は欧州へ輸出するためにはしょうがないと、そんなおかしな審査を耐え忍んできました。
最近の審査は、お客さんが逃げないようにマイルドになっています。それは結構なことですが、規格の理解については受査側ほどは勉強していないようにも思います。
お断り
私はプライバシーとかセキュリティについてはまったく知りません。私は知らないことを知ったかぶりに語ることはしませんので、そういうカテゴリーについては一切書いておりません。
2011年時点、ISO14001の審査においては、ISO規格だけでなくIAFやJAB基準類を私ほど理解している審査員はあまりいないというのが現実です。それは悲しいことです。
N様は、ISO規格はもちろんIAF基準、認定機関の基準類を理解して、心温かい審査をされていると思います。
そういう積み重ねで私のようなひねくれた者が再生産されないことになるでしょう。
日本のISOがまっとうになり、興隆することを希望しております。


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