安かろう悪かろう

11.08.16
「安かろう悪かろう」という言いまわしがある。国語辞典を引くと「値段が安ければそれだけ質が落ちるであろう。安い物によい物はない」とある。しかし、私にとってはそういう意味よりも、子供時代に日本製品が海外でそういわれていたことが思い浮かぶ。
私は終戦直後の生まれで、小学校時代は昭和30年頃であった。その頃、日本の工業製品でまともな輸出品はない。学校で日本の輸出品なんて絵があって、扇子とか日本人形などが書いてあった。工業製品とはいえないマッチでさえ、日本のマッチは火がつかないなんていわれていた。そんなことを知って非常に悲しかったことを今でも覚えている。日本が太平洋戦争(正しくは大東亜戦争)で負けたのは技術力・工業力がなかったからなのは明らかだ。
日本では戦争中は大東亜戦争といった。太平洋戦争の呼び名はアメリカが、終戦後に日本にそう呼ぶことを強制したことに始まる。
第二次世界大戦という言い回しは、第一次世界大戦後以降、次に始まる大きな戦争は第二次世界大戦であるという表現は国内外であったそうで、アメリカでは欧州で始まったときからそう呼んだらしい。
ゼロ戦がすばらしいとか、戦艦大和は軍艦としては当時世界一だったなどという説は多々あるが、私はそうは思わない。
戦艦大和だ

日本の戦闘機がまともに活躍できなかったのは、燃料がなくて飛べなかったとか弾薬が不足していたとかいろいろあるだろうが、技術が劣っていたということを否定してはならない。例えばガスケット(パッキン)が悪く油漏れがするとか、電気の絶縁材料の性能が悪いなどなど。それらが当時のアメリカ並みであれば、戦闘機をはじめとする武器の稼働率は歴史よりそうとう良かったはずだ。
何かの本で読んだが、南極探検で有名な西堀栄三郎が戦争末期に薬きょうの不良対策を調べていたら、薬きょうの検査装置が明治の御世に製造されてから一度も校正されていなかったとかいう話が書いてあった。明治何年か忘れたが、仮に明治最後の年としても、大正と昭和で30数年も校正されていなければ、そりゃ精度が狂っても不思議ではない。
薬きょうなんて知らない人もいるかもしれないが、私が子供の頃はアメリカの艦載機が遊び半分で市街地を撃った12.7ミリ機関銃の薬きょうが土に埋まっていた。私は何個も掘り出して宝物にしていたが、引越しでなくなってしまった。

このように、日本の工業は欧米に比べてはるかに遅れていたということは否定できない。戦争で日本の工業が壊滅したのは事実だが、戦争がなくても日本の工業が世界に冠たるものでなかったことは間違いない。そんなわけで日本の製品は安かろう悪かろうといわれていたということだ。だから当時はメイドインジャパンといえば品質が悪いことの代名詞であった。日本製品にメイドインジャパンと表記するとマイナスイメージだから、その代わりにプロダクトオブジャパンと表示しようという意見もあった。50歳以下なら信じられないかもしれない。
もっと時代が下って私が社会人となった1960年代後半になると、なんとか家電製品でも車でも、品質やスペックが欧米並みになり競争できるようになった。それはそんなに古い時代ではない。たった40年前である。今はもちろんメイドインジャパンは高性能、高品質を意味するようになった。中国製品がメイドインジャパンと偽っているものは多数あるし、日本が中国に進出して製造している製品には、加工比率や主たる工程を日本で行うことにしてメイドインチャイナの代わりに合法的にメイドインジャパンと表示して、日本や海外市場で販売しているものもあるのが事実である。
今、安かろう悪かろうといわれているのは、韓国製か中国製だろう。私は1年前、docomoで安い携帯電話を買ったが、帰宅してから見たら韓国製であった。まあ、どこで作ったものでも動きゃいいのだが、こいつがとんでもない代物(しろもの)だった。充電するときに端子部分の接触が悪く、充電されていないことがままある。運よく充電できても電池が1日くらいしか持たない。はじめは私の買ったものの電池が不良品なのかと思ったが、みなそうらしい。要するにそういう仕様なのだ。もちろん安かった。高かったら怒り狂うが、安物だったから「安かろう悪かろう」とあきらめるしかない。まだ1年しか経っていないが、そのうち日本製に買い換えようと考えている。
中国製のすばらしさは過去にも書いた。しかし、私は学習能力がない人間で、だまされてもだまされても中国製を買う。壁に物をつるすのに粘着剤でつけるフックを買ったことがある。何の気まぐれかまったく同じ形で日本製と安いからと中国製を買った。日本製のものは時計を掛けても落ちないが、中国製はカレンダーをつるしたら壁からはがれ落ちた。スバラシイ
お断りしておくがすべての韓国製や中国製の品質が悪いといっているのではない。私が買った韓国製品や中国製品がたまたま悪かったのだ。そして、今まで良い製品にあたったことがないだけだろう。
ここまでは安かろう悪かろうとは、そういう意味だということを説明しただけである。

では本日の本題である。
今、ISOの世界で安かろう悪かろうというのは、外資系でJABの認定を受けていない認証機関を指して使われている。そしてそう語っている人は、JAB認定の認証機関の方が多い。というかそれ以外の方がそう語っているのを聞いたことがない。ではそれは正しいのか否かを考えよう。

まず安かろうということを考える。
安い高いという言葉は、絶対的な意味合いと、相対的な意味合いを持っている。100万円の車は日常の金銭感覚では高いが、120万の車と比較すれば安い。絶対的と相対的とはそういう意味だ。
あるカテゴリーの認証機関を指して安かろうというのは、他のカテゴリーの認証機関に比べて安いという相対的な意味であることは間違いない。
そしてJAB認定に比べてJAB非認定の認証機関が安いことは、明白である。私の知っている会社でも毎年1社くらい、JAB認定の認証機関からJAB非認定あるいは数年前にJAB認定を受けた(といえばお分かりだろうが)認証機関に鞍替えしている。そういう会社に審査費用は変わりましたかと聞くと、みな安くなった、しかもかなり安くなったという。
もちろん鞍替えする方には理由がある。このご時勢に同じISO認証するのに100万払うより70万のほうがありがたいし、70万より50万のほうが好ましい。会社がリストラを推進して、社員から派遣社員にする、50歳以上に早期退職を求める、事務用品や副資材を買わないで工夫(我慢?)しろ、定期購読している書籍・新聞は止めろ、会員になっている団体は止められないか、テナントビルの借りているスペースを少しでもお返しして無用無駄を切り詰めている時代に、審査費用はアンタッチャブルなんて論理が通るわけがない。
それでもまだ認証機関は特別扱いされている。一般の取引なら「大変厳しいとは思うが、現状の10%減でお願いします」なんて言われることもある。もちろん法に触れないように行われているわけだが。
でも「今度の審査費用の見積書は前回の10%引きでだしてください」なんて言われた認証機関の営業マンはいないだろう。そんなことを言われないだけ、認証機関は敬われており特別扱いされているとご認識されなければならない。
もっともそういうことさえ、ご認識されていないだろう
ご認識されていないことを、誤認識というのだろうか?
以前IAFのルールに、審査員の賃金はその国の平均賃金に合わせるという基準があった記憶があるが、今はどうなのだろうか? このデフレ時代で日本の平均賃金が大きく下がっている時代だから、審査員の賃金はちゃんと下がっているのか心配してしまう。
エッツ、そんなこと心配しなくても良いですって?

この段のまとめは、外資系JAB非認定の認証機関の審査費用はJAB認定の老舗認証機関のグループに比べると安いということである。
長々と書くのはめんどくさいし、読むほうもめんどくさいだろうから、以降ノンジャブとエスタブリッシュメントと表記することとする。「エスタブリッシュメント」いい響きじゃないですか。

では次に悪かろうということが事実か否かを考えたい。
悪いというのは質を評する形容詞であるが、果たして質とは何を意味するのだろうか?
認証機関の質といっても一律ではない。たくさんの指標が考えられる。
礼儀作法もあるだろう。礼儀作法といっても、小笠原流とかお辞儀をするときは斜め30度なんてことじゃない。
1年ほど前に、エスタブリッシュメントからノンジャブに変えた販売会社に質問したことがある。
「認証機関を変えたそうですが、何が変わりましたか?」
「こんどの審査員はちゃんと挨拶をします」
推して知るべしである。今まで何年も契約していた認証機関の審査員(複数)は審査に来てもまともな挨拶をしなかったという。そりゃ「おはようございます」とか「はじめまして」という言葉は口にしたのだろうけれど、心からの挨拶をせずにふんぞり返っていたらしい。

いや、挨拶などどうでもいいのかもしれない。問題なのは審査だ。ちゃんと審査してくれるなら挨拶ができなくても許してやろう。
製造業の会社で、エスタブリッシュメントからノンジャブに変えたところに質問した。
「認証機関を変えたそうですが、何が変わりましたか?」
「以前の認証機関の審査員はISO規格にないことを要求しましたが、今の認証機関は規格にないことを要求しません。ものすごく楽になりました」
私も同業者ですから、「ISO規格にないこと」と聞いただけで、もう分かっちゃいます。
一般の商取引において、注文されたもの以外を納入した場合、当然契約違反ですから返品されて、もし納期遅延による迷惑を受けたなら損害賠償請求となることをご存知でしょうか?
ラーメンを頼まれたのに、タンメンの方がうまいからタンメンを持ってきましたなんて自慢げに語る出前持ちがいますか? 「味噌汁で顔を洗って出直して来い」と言われるのがオチでしょう。
おっと、エスタブリッシュメントのみなさま、まっとうに考えれば審査でISO規格以外のことを要求したら即異議申し立てですよ。

建設業の会社で、エスタブリッシュメントからノンジャブに変えたところに質問した。
「認証機関を変えたそうですが、何が変わりましたか?」
「今まで来ていた審査員も建設会社出身だったのですが、現場の実態と遊離したお話をされるので困っていました。認証機関を換えてからは現場的なセンスで見てもらえてトラブルがなくなりました」

正直言って何十社も聞いたわけではない。それでも5・6社の話は聞いている。その中で「やはり安かろう悪かろうでした」と語った会社は一つもない。鞍替えして失敗したと語ったところもない。
眼を転じると、エスタブリッシュメントで認証しているところは、私は何十社も知り合いがいるが、それぞれ問題を抱えている。
付加価値審査なのか経営に寄与する審査なのかわからないが、規格にないことを要求されることは毎度のことであり、骨のある担当者であれば議論になり、弱気な担当者だと余計な仕事はドンドン増える。そういうのが実態だ。

あるエスタブリッシュメントの営業マンが言っていた。
「○○社(ノンジャブ)の審査報告書はひどいものですよ、薄くて中身がありません。」
そうか、この営業マンは自分の会社の審査報告書が3ページとか4ページしかなく、中身もいい加減なことを知らないんだ。不適合の根拠さえ書いてないんだよ。自分が売っている製品を知らないで、他社の製品を批判してたら陰で笑われるよ。

あるエスタブリッシュメントの経営者が言っていた。
「当社は経営に寄与する審査をします」
経営に寄与するとはどういう意味だろうか?
オフィスのお掃除を頼んだとしよう。きれいな職場は社員も気分良く作業もはかどり、訪問されたお客様も快適で商談も進むだろう。そういうのを、経営に寄与するというのだろうか。
ひょっとして、「当社は経営に寄与する審査をします」とは、「当社の審査は経営に寄与すると信じている」ということになのだろうか。それとも・・

あるエスタブリッシュメントの経営者が言っていた。
「海外の認定機関の認定を受けた認証機関も、IAFの基準を守っていただかないと困ります」
社長さん、お宅もIAFの基準を守って、怪しげな改善の機会を乱発するのは止めてほしいな。

本日のお断り
ここに書いたのはすべて私が直接聞いた事例である。うそを書いたら犯罪だ。
エスタブリッシュメントの経営層は、安かろう悪かろうと他人をけなす前に、己が、高かろう悪かろうではないかを心配すべきだと思う。



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