審査員研修 その5 改善提言

12.01.07
いかなる制度も良くするも悪くするも、制度関係者である。私は制度関係者ではもちろんないし、制度を利用する者でさえなく、制度によって影響を受けるだけの者だ。だから改善提案などできる立場ではない。でも改善を要求したいし、その要件を提示したい。それで改善提案ではなく、改善提言である。
ちなみに広辞苑によれば,「提案」は案を出すこと,「提言」は意見を出すことである。
私は制度を管理できないし、制度に影響を与えることもできない。だから、私にとって審査員研修制度は環境側面ではない。台風や地震のように、私はそれをコントロールできるわけではなく、影響を与えることもできず、単に被害を受けるだけなのだ。
しかし何もせずにはおられないから、台風に備えて家を補強するがごとく、制度改善の意見を言うのである。

建前から言えば、審査員研修制度は一人前のISO審査員になるように教育することである。間違っても、研修制度を維持継続することが研修制度の目的であるなどと、ホンネを語ってはいけない。
すべての教育機関は、その存在目的は明確である。自動車教習所は運転できない人を運転できるようにすること、航空大学校は飛行機を操縦できるようにすること、警察学校は一般人を警察官に育てることであり、その出身者は目的とする力量をもつことが期待される。そして、審査員研修機関は、審査員になれるように研修を与えることは当然であると期待されている。
だから審査員研修機関の研修を受けると、すごい成果があることがあきらかであれば、審査員になりたい人はもちろん、なろうとしない人も、審査員研修機関の門を叩くだろう。そしてまた審査員評価登録機関が審査員に値すると判断して登録した人は、認証機関が独自に審査員に認定した人よりも、力量があるとなれば、我も我もと審査員登録を希望すると思う。

ISO第三者認証制度の意義と存在価値の関係が、そのままフラクタルのように繰り返される。つまりISO9001であろうとISO14001であろうと、その他のマネジメントシステム規格であろうと、第三者認証を受けた企業は、認証を受けていない企業よりも、その認証範囲において優れているという客観的な証拠があり、それが社会的に認められることが認証の価値である。前述したようにISO審査員についても同じことである。

言い換えれば・・言い換えなくても同じだが・・審査員研修機関にいっても力量の向上がないなら、その存在意義はない。そうであっても研修機関で研修を受ければ審査員になれないなら、存在価値はあった。しかしISO17021が改定されて、審査員になるのに研修を受けることが不要となれば、いよいよ足元が危なくなる。

なぜここまで1000文字もだらだらと書いたのかといえば、前記のことを裏返すことが、存在価値を向上させることであるとご理解いただきたいからだ。
ISO認証の価値を向上させることは、認証している企業が認証を受けていない企業に比較して優れていることが必要条件であり、審査員研修制度の価値を向上させることは、研修を受けた審査員が受けていない人に比べて優れていることが必要条件である。
もちろんそれだけでは、十分条件ではない。優れていることに加えて、それが利害関係者に認識されることが十分条件となる。もちろんいっときだけなら、優れていなくても、優れていると利害関係者に認識(誤認識)されれば十分かもしれないが、それは長続きしない。ぼろが出たら終わりだ。ISO認証のように、

では、優れているとはなんだろうか?
優れているという語を使ったことが誤解を招くかもしれない。正しくは要求事項を満たすことであり、水準以上に優れていることを求めていない。
要求事項とはなにか? JRCAやCEARの基準類を満たすことではない。もちろんJABの基準を満たすことでもない。ISO17021:2011を満たすことでしかない。なぜならISO17021は「適合性評価-マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項」と題しており、ISO第三者認証をするには、これこれを満たさなければならないぞ!とISOが決めたことだから。これが認証制度(審査員研修制度ではない)に対する基本的要求である。要求事項は規格に明確に定義されており明瞭である。それは過大な要求ではないと思う。
ではISO17021で求めていることを、一語一句ちゃんと教えればよいだけのことだ。それは困難なのだろうか?

今現在ISO17021では、認証機関は審査員が力量をもつことを立証しなければならないことを求めている。
7.2.4では「審査員の力量の初回の評価には、力量をもつ評価者がその審査員の実施する審査を観察することによって決定する」とある。
まず大きな疑問であるが、その評価者が力量をもっていることは誰が確認するのだろうか?
私は過去多くの審査を受け、立ち会ってきた。そこでは間違えた判定も多々行われている。その中には、審査員の考えによる誤判定もあったが、認証機関の考えですという説明(言い訳?)も多々あった。調べてみると、それは事実であった。認証機関の中に規格解釈に詳しいと思われている大御所がいて、その審査員が「これはこう理解するのだ」というと、陣笠審査員は○○の一つ覚えでその考えで審査しているようだ。
その原因としてはいろいろあるだろう。そもそも規格の文言を読んで理解していないのかもしれないし、審査員研修機関で誤った考えを吹き込まれたということもありそうだ。あるいは、私のように審査の現場で苦しんだことのない人が審査員になって、真面目に規格を読んで理解しようとするとは思えない。それとも私と同様に、企業でおかしな審査を受けていても、審査員の語る言葉は神の言葉と受け止めれば、その人が審査員になればどうなるかは火を見るより明らかである。
まっとうな審査員になるはずがない。
だから、7.2.6では「認証機関は、審査員(及び必要とされる場合、技術専門家)が、審査プロセス、認証要求事項及び他の関連要求事項に精通していることを確実にしなければならない」とあるが、それはあまり期待できない。それは想像ではなく、私はいくらでも証拠をあげることができる。
だからそのようないいかげんな規格の理解とか解釈ではなく、正しい解釈を審査員全員が持つことが必須要件である。ボスのいう解釈を信じて審査するようなことでは、お金を払って審査を受ける意味がない。

すると、審査員研修制度の改善ということは、改善というのではなく、現状が悪いことを認識して、悪い点を直せばいいわけだ。問題点は明白である。
まず、規格の理解が最重要課題であることは論を待たない。個人的見解であるが、礼儀作法を知らないぶしつけな審査員であっても規格の理解がまっとうなら許す。言葉が丁寧で態度が穏やかでも、規格の理解が間違っている審査員は叩き出したい。
ISO14001においては、多様な環境関連の法律についての知識を持つことが難しいことは認める。そして間違えた解釈、あるいは勘違いで判定することもあるだろう。しかし間違いが判明したならば、その時点で審査結論を見直さなければ異議申し立ては当然だ。判定委員会を通っているので・・というのはそっちの都合に過ぎない。こちらは、合法か法違反かは重大問題である。
そのようなことがあるのかと問われれば、あるのですよ。これも証拠をあげることができる。
つまり、審査員研修機関は、規格を正しく教えることが最重要な責務である。
もちろん研修機関独自の問題ではない。研修機関を認証する審査員評価登録機関の問題でもあり、そこを認定する認定機関の問題でもある。なにごとも偶発的とかスタンドアロンではなく、システムに起因する問題なのだ。
そしてシステムに起因する問題だからこそ、再発防止の是正処置がとれるのだ。
偶発的な問題の再発防止は不可能とは言わないが、困難なことは明らかだ。
どうすればよいのか?
簡単である。
規格に反していることを排除し、是正することである。
JATA(審査員研修機関連絡協議会)をみると、環境マネジメント審査員の研修機関は、LMJ,グローバルテクノ、中部産業連盟、テクノファ、日本海事QA、日科連、日本環境認証機構、能率協会、日本品質保証機構、SGSの10機関ある。実は、小規模な研修機関はJATAに加盟していないところもある。だからCEAR承認コースはもっと多い。
では、はたしてどのようなことを教えているのだろうか。
おかしな具体例をあげる。
「有益な環境側面」なんて語っている審査員研修機関がある。
そんな研修機関でISO規格の解釈を学んだ審査員は、有益な側面を要求する誤った審査をするだろう。それは日本のISO14001認証の信頼性を低下させる。だからそんな審査員研修機関を承認してはいけないのだ。
「経営に寄与する」と称している審査員研修機関がある。
なにをもって経営に寄与するのか明示させるべきだろう。一般人は研修機関の広告を見て、受講を決めるのだが、経営に寄与するとは漠然としていてどういう意味か分からない。大いなる期待を持って受講する人もいるだろう。
しかし待てよ
ISO17021には経営に関してなにごとも規定していない。全文検索してもらうと分かるが、「経営」という語は目次を含めて7回でてくる。しかし、すべて認証機関の経営に関してであり、審査を受ける企業の経営に関する言及は1箇所もない。
ISO14001にも「経営」という語は7回出てくるが、要求事項にはない。
とすると、その審査員研修機関はISO17021に基づいて研修を行っているのではなく、独自の考えで研修を行い、それが審査員に役に立つと宣伝していることになる。もっとも役に立つのか害をなすのかは定かではないが
もちろん、現実に審査員評価登録機関がそのような研修機関を承認しているのだから、それを認定している認定機関は、それについてどうお考えなのかを明確にしなければならない。
そういうことを規格基準に基づいて、はっきりさせればよいのではないだろうか。

審査員研修機関がISO規格を正しく教えるようになれば、審査員はそのとおりの審査をしてそのとおりに適合、不適合を判定するようになるだろう。
間違えた教えを受けてそれを信じて審査をした結果、節穴などとさげすまれることはないのだ。そして審査を受ける企業は、厳しくても正しい規格解釈に基づく審査を受けて、適合不適合を判定してもらえる。経営に寄与すると自称しなくても、結果としてその審査は経営に寄与するだろうと私は考える。
お互いにハッピーではないか。

本日の反省
改善提言と言ったものの、私はなにも提言していないことに気がついた。



続きを読みたい方は → 審査員研修 その6
うそ800の目次にもどる