審査員研修 その6 研修機関盛衰

12.01.09
審査員研修についての第6回である。
2012年1月8日現在、CEAR承認のISO14001の審査員研修機関は11機関ある。一番新しいというか、最後の番号は31番である。つまり欠番のところは廃業というか承認を辞退したということだ。
32番目以降があったのかどうか分からないが、仮に31番が最新とすれば生存率というか事業継続率は11/31=35%である。開業したものの、やめたというのが3分の2あるということだ。審査員研修機関というものが、いかに存続するのが難しいかということであろう。
もっとも見方を変えると、ブームに乗って安易に設立しただけともいえる。

ちなみに、認証機関の生存率はどうかというと、マネジメントシステム認証機関の番号が57まであり、現存するのが47機関であるから 47/57=82%である。(2012/1/8時点)
審査員研修機関がCEAR認証となったのも、認証機関のJAB認定が品質、環境別々でなく、マネジメントシステム認証機関というカテゴリーになったのも2006年のはずだ。しかし、JAB認定時代からの移行なので、正確にいつ設立されたかはわからない。
ところで、日本で新規に設立された会社が何年間で、何%消滅するのだろうか?
中小企業庁の統計によると、2000年以降は経済情勢が厳しいせいか20%が消滅するまで2・3年であるが、1990年代は10年くらいである。もっと新しいデータがほしかったが見当たらなかった。
認証機関も研修機関もせいぜい歴史は15年くらいだろう。その期間に認証機関が82%存続(18%撤退)という数字は日本の平均といえる。しかしいずれにしても、審査員研修機関の減少はすごい。審査員研修機関の35%存続(65%撤退)は異常だろう。


廃業あるいは撤退する理由を簡単に言えば、市場規模が小さくビジネスが難しいということだろう。認証機関のビジネスも厳しいだろうが、こちらは一旦お客をゲットすれば継続的に安定した売上が見込めるという期待がある。他方、研修機関は一旦修了してしまうとオシマイである。
審査員に登録すると、3年ごとに審査員研修機関でリフレッシュ研修を受けなくてはならない。しかしリフレッシュ研修の年間の受講者は、単純計算で新規受講者の3分の1、売上単価が5分の1以下であるから、年売上は新規受講料の15分の1、これでは継続的ビジネスとは言えない。これに比べると、認証機関のほうは、毎年維持審査(サーベーランス)がある。初回審査に比べて審査費用は半分以下であろうが研修機関よりは分がいい。
もちろん認証機関の鞍替えはあるが、私の知る限り年に鞍替えする会社は、全体の数パーセントである。それに認証を継続している限り、認証業界全体の売上は減らない。

ところで最近は審査員登録数そのものも、大幅に減少している。品質も環境も最盛期に比べて半分程度の登録数になっている。
2004年頃だったろうか、私はひょんなことから某氏の代理で、JATA(審査員研修機関連絡協議会)の会合に、一、二度オブザーバーとして参加したことがある。はじめ出席者が「ジェイタ」というのが「JEITA」のことかと思ったくらい、審査員研修機関に縁がなかった。
当時の議題など忘れてしまったが、審査員研修機関の代表がみな若く(当時の私に比べて)元気がいいというか、ビジネスがじゃんじゃん伸びているという雰囲気があった。盛衰の激しいビジネスは人の出入りが多いから、あれから7年も経った今では、当時の人はもうほとんどいないだろうと思う。現状は知らないが、活気あふれているとは思えない。どうなのだろうか?

そもそも審査員研修業界とは、どのくらいのビジネス規模なのだろうか。
そのためには審査業界の規模を考える必要がある。2012年1月現在、QMSの登録組織は36,885件、EMSの登録組織は20,058件である。その売上規模がいくらになるかということは、今回のテーマではないが、以前考えたことがある。
この規模で審査員は何人必要かということを推定する。
認証を受けた企業は、毎年サーベーランスを受け、3年ごとに更新審査を受けることになる。基準によれば、毎年ではなく半年毎も選択できるはずだが、私の知る限り半年毎に審査を受ける方を選んでいる会社は、皆無ではないが非常に少ないようだ。1995年頃までは当然QMSだけしかなかったが、半年毎に審査があるのが普通だった。EMSが現れてから、1年を選ぶことができるようになった気がする。既に、記憶は揮発している。

認証している組織のサーベーランスの審査工数は、私の知っている情報では平均して3人日くらいではないだろうか。つまり一人なら3日、3人なら1日ということ。もちろん大きな会社では5人で3日とか、小さな会社では1人で1日というところもあるが、平均するとそんなものだろう。更新審査はこの5割り増しと仮定する。
すると、必要な審査工数は日本全体で年間

 QMS=36,885(2/3×3+1/3×4.5)=128,968人日
 EMS=20,058(2/3×3+1/3×4.5)=70,132人日
となる。
実際には現地審査だけが審査員の業務ではない。現地に行く前に書類を調べたり、現地審査後に報告書をまとめたり、判定委員会で説明したりしなければならない。CEARの基準では現地審査の3倍までそういった業務を認めている。
「環境マネジメントシステム審査員登録更新申請の手引」AEF1103((2011/03/31第10版)
「4.5 環境監査実績記録
監査前・書類・監査後の各々の日数は、実績に要した日数を計上するが、それぞれ現地監査日数を越える計上はできない。」
その他、出張旅費清算やホテルの手配もあるだろう。また定期的に認証機関の会議というか研修なども受けなくてはならない。
一人の審査員は年間何日働くのかということだが、仮に年間250日働いて、4分の1現地審査をすると仮定すると、一人が現地審査できるのは62.5日である。
もちろん契約審査員もいるだろうし、認証機関の幹部は資格維持のためとか、特別のお客さんのところにだけしか審査しないこともあるだろう。まあ、例外はいろいろあるだろう。
実を言って、現地審査の4倍の時間をかけている様子はない。実際は書面審査は現地時間と同じか少し多いくらいだろう。その結果は、ますます審査員が少なくても間に合うということになる。悪い兆候だ・・

審査員が全員フルタイムで働いているとすると、品質は2,063人、環境は1,122人で間に合うことになる。しかしもちろんそうではない。
JRCA登録の審査員の人数は、国家秘密らしく公開されていない。私が知っている情報は、2008年のJRCA誌に掲載されている主任審査員2,802人、審査員749人(2008/10/1時点)が最新である。推察だが、現時点の登録者数はこの8割くらいではないだろうか。
CEAR登録審査員は3月毎に最新情報が公開されており、主任審査員1,581人、審査員が633人(2011/12/15時点)である。
以下、主任審査員と審査員を合わせて考える。

審査員は何年働けるのかということになるが、私の知る限り、一般の企業で50歳くらいまで働いた後に、諸般の事情で50代前半に認証機関へ出向・転籍して、定年の60歳まで働き、その後63歳くらいまで認証機関の嘱託とかその子会社に在籍するというのが一般的のようだ。
もちろん認証機関に所属せず契約審査員をしている人もいるだろうし、定年後も契約審査員として70歳くらいまで働いている人も多い。
とすると常時仕事をしている審査員は登録者の半数で10年間、後の半数は契約審査員として10年間の期間に年に数回〜10回ということになるのだろうか。
審査員や主任審査員といっても、第三者審査をしなくてもなれる。社内で内部監査だけしていてもよいし、コンサルタントをしていても資格登録も維持もできる。そういう人も確かにいるが、全体の1割もいないことは間違いない。
しかしそういう人が審査員登録するという意味は、プライズでしかない。私にはわざわざお金を払って審査員登録する気が知れない。

以上を前提にどのくらいになるかと推定したものを下表にまとめると

 品質環境
人数稼働日数総工数人数稼働日数総工数
年間審査日数  128,968  70,132
審査員数3,551  2,214  
フルタイム1,70062.5106,25090062.556,250
パートタイム1,85112.322,7181,31410.613,882

これから審査員だけで食っていけるのは、品質が1700人、環境が900人ということになる。もし全員がフルタイムとすると、先ほど述べた品質は2,063人、環境は1,122人になるが、その場合はパートタイムの契約審査員は存在できない。
はたして契約審査員というもので食っていけるのかとなると、職業としては難しい。定年退職後に契約審査員をしている方が、年に10日も仕事がないと言っている。日当7万なんて今は昔、現時点4万もらえれば御の字だろう。すると、10日かける4万で、契約審査員としての年収は40万にしかならない。これでは職業としては成り立たない。小遣い稼ぎである。

とりあえず、フルタイムとパートタイムの審査員の割合が上記とすると、現在の審査員の人数分の仕事はあることになる。(というか、現状から逆算したのだが)
そのとき審査員が20年で一巡して新陳代謝すると仮定すると、年間補充が必要なのは品質3,551人が177人、環境が2,214人で110人となる。
これを補充するための審査員研修を行うにあたり、基準いっぱいの20人のクラスで行うなら、毎年、品質は9回、環境は6回審査員研修コースを開催すればおしまいである。
現実には双方に審査員補というあまり価値のない階級が大勢いる。これをあわせると品質が12,020人(2008/10/1)、環境が7,156人(2011/12/15)である。今後も審査員補に登録する人がいるのかいないのかは定かでないが、この人数が常に一定と仮定すると年間の開催回数は、品質が年間600名、環境は357名育成する必要がある。これは品質が30回、環境が18回となる。先日試算したら、研修コース開催の損益分岐点は10人参加くらいだから、それを元に10人で開催するとすれば、品質が60回、環境が35回となる。
審査員補はリフレッシュコースを受ける義務はない。
環境の場合、現在11も研修機関があるのだから、単純割り当てで毎年1社あたり3.5回となる。損益を計算するまでもなく、これでは事業として成り立たない。ましてグローバルテクノのようなメジャーが過半を占めているのだから、マイナーな研修機関は年1回とか2回になるだろう。
審査員研修コースも審査員評価登録センターの維持審査を受けなければならず、もし毎年数回の開催がなければ維持費用もでないだろう。登録費用、維持審査費用はインターネットに載っているが、通常のISO認証よりは安いとはいえ40万近くになる。
過去より設立された研修機関の65%が撤退しているのは当然だろう。言い換えれば、今まで撤退していない小規模研修機関は経営方針がおかしい。それとも研修機関だけでなく、認証機関とかコンサル会社もしていて、それらとのコラボレーション効果で元を取っているのだろうか?

ともかく、ISO17021にもかかわらず、今後も審査員になる人はみな審査員研修を受けるとして、更に審査員補も継続して登録者が途切れないとして、研修機関は3社もあれば間に合う。そのときでも1社当たり年間10回、毎回の参加者は10人ということになる。
新陳代謝がはげしくて、上記推定の半分の10年とすると、この倍になるが、それでも研修機関は6つ、今の半分で間に合う。いずれにしても厳しいことだ。

観点をガラット変えてみよう。
絶対金額で考えてみる。
審査員研修費用は5日間コースで20万から23万程度が多い。品質の審査員が環境の審査員研修を受ける場合、5日間でなく3日間でよいとか、会員制をとっていて会員価格など例外は多々あるがここで簡単に20万としよう。
毎年受講する人が、品質環境都合2000名受講するとして、総売り上げは4億である。リフレッシュ研修とか一般の内部監査員研修などを合わせてこの倍の8億としよう。それを10数社が分け合うのだ。1社あたり5000万そこそこ。もう単独の事業ではありえない。普通の商店なら、メインの商品ではなく、ついでに扱っている程度のものでしかない。
2011年11月度のコンビニ1店舗の平均売上は、1600万だそうだ。(日平均54万)
つまりISO研修ビジネス業界の規模は、コンビニ4店舗レベルということか・・・
あとは何も言わない、みなさんのご想像に任せる。

本日の〆
審査員研修制度について考えてきたが、とうとうこのシステムは事業継続が困難な業種であるという結論になった。これにて本件は終了である。
ちょっと待てよ、BCMS(事業継続マネジメントシステム)の審査員研修事業は、継続できるのか?
これは新たな検討事項である。
BCMS審査員の研修事業が事業継続できないなら、それは悪い冗談だ。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012.01.09)
6回にもわたって審査員研修・登録制度について考察いただき、ありがとうございました。いかにカネを出す価値のない存在かがよくわかりました。
タダでない限り、受講することは金輪際なさそうです。

駄文を6つもお読みいただき、感謝申し上げます。
しかし、こう見てみますと、ISOに関するビジネスというのは儲からないものですね、
もっとスケールメリットがないと、うま味がありません。
ISOが経営に寄与すると語る人たちに、どうしてISO業界が儲からないのか、ぜひともお聞きしたいです。


うそ800の目次にもどる