ISOを使いこなす

2012.01.14
私の職場の人や同志は、私がこの「うそ800」という怪しげなウェブサイトを主宰していることをご存知であるが、その他のISO関係の付き合いの方には知らせていない。
このウェブサイトでは私のホンネそのままに、ISO認証制度批判、審査の駄目なこと、審査員批判など、ろくなことを書いていない。そんなわけでいろいろと面白い(?)ことに出会う。

某認証機関で審査員をしている知り合いと会ったときのこと、
「うそ800というホームページを知ってるかい。最近見つけたんだけど、とてもためになる。審査員研修でも審査員になってからの認証機関の講習でも習わなかったような考え方が書いてあるんだ」
「いや、知らないな、そんなことより・・」とすぐさま話題を変えた。
この文章を読めば、その人はすぐにピンとくるはずだ、けんのん、けんのん

もちろん、その反対のケースもある。やはり知り合いの某審査員と会ったときのこと
「おばQさん、知ってるかい?」
「なんでやんしょ?」
「うそ800ってホームページがあるんだよね、ISOに関わることをいろいろ書いているんだけどさ、いやあ我々の悪口ばかりだよ、ありゃいい死に方はしないね」
そんな話ぶりのときは、「そいつはとんでもないヤローだ」と相槌を打つ。もし私だとばれたら殺されるかもしれない。殺されなくても、それ以降は絶交だろう。

最近のこと、同業他社で環境管理をしている知り合いから電話があった。
「ISO14001の改定説明会の案内が来たのだが、講演を聞きに行ったほうがよいでしょうか?」
私は耳を疑ったといえば、文学的な表現であるが、正直言うとあきれた。
「ISO14001の改定って、あなた、2015年まで改定はないってISO-TC委員の吉田敬史さんが何かに書いていたよ」(この駄文は2012年1月に書いている)
「その吉田さんの規格改定の講演会なんだ」
ますます、あきれた。
どこの認証機関なのか研修機関なのか分からないが(実はどこが主催かは聞いた)、そんな海のものとも山のものともまだ決まっていないことを、ISO-TC委員を呼んで一般の企業の人に解説させてお金をいただこうとはぶったくりだ、犯罪行為だ!
そりゃ、JABとか規格改定情報を入手しなければ仕事に差し支える業務の方は、情報収集するべきだろう。しかし、一般企業の人が何年も先に改定を予定している規格が、今どんなことが議論されているかを聞いてなんの得にもならない。
そもそも規格改定になったからといって、企業が何か対応する必要があるのだろうか?
そんな無駄なことをするよりも、自社の省エネとかコスト削減を考えた方が良い。そのほうが、自分の会社にも、国家にも、地球環境にも貢献することは間違いない。
まず、講演会の受講費用の節約になる。それに、講演会への交通機関の環境負荷をなくせる。
そういや、このお方はISO14001の2004年改定のとき、勤め先の「環境マネジメントプログラム」を「環境実施計画」に律儀に名称を変更していた、そんなレベルじゃ、もう少し規格を理解することが必要だ。いや、規格を理解するのではなく、会社の仕事とはどうあるべきかを考えるべきかもしれない。
ちなみに私の勤め先には、「環境マネジメントプログラム」も「環境実施計画」もない。ISO審査では、設備投資計画書、省エネ法に基づく中長期計画、新機種開発計画などを、ISO14001規格の4.3.3に該当すると説明している。そんなわけだから、1996年版の「環境マネジメントプログラム」が改定されて2004年版では「環境実施計画」に変わっても、名称を直しようがない。
../odoroki.gif そう言えば、ISO9001:2008改定のときも、マニュアルのどこを直さなくてはならないとか、会社の規定をどう変えるべきかとか、さかんに議論された。そのための研修会とか講演会というものさえたくさんあった。今でもインターネットでISO9001:2008対応のQMSなんていう残渣を見つけることができる。そういうことを、大のおとなが真剣に語っているのだから、おかしいを通り越して、私にはまったく理解できない。そんなアホなことを真面目に語っている人の頭の構造を知りたいものだ。発想がまったく逆ではないだろうか。
2008年対応を真面目に論じていてアホと言われて怒る方は、ぜひともお便りをください。ISO9001の2008年版対応、いや、一般論としてISO規格改定が、会社にとっていかなる意味があるのか議論しましょう。
ところで、そういう研修会、講習会は、ISO業界の売上に大いに貢献したと思う。つまり規格改定は車のモデルチェンジと同じく、販売促進のためではないのだろうか?
私は、規格改定は一般社会や企業のためでなく、ISO業界の売上促進のためではないかと考えている。規格改定のたびに日本規格協会は安くない規格解説の本やJIS規格票が売れる、研修機関は受講者がドット増える、ISO-TC委員をはじめとする方々は講演会で引っ張りだこ、認証機関は規格が変わりましたので更新時は審査工数が増えますとか言い出して、得をするのはISO業界だけのように思える。
そして損をするのは企業だけのようだ。
つまり一般企業の人たちは、ISO規格を使いこなすどころか、ISO規格に使われているというか振り回されているだけに思える。いや、ISO業界に振り回されているというか、食い物にされているのではないだろうか?
ところが実際には、これを機会に社内に対する発言力を強化しようと思っているISO担当者もいるのではないか?

世の中に、ISOを活用しようとか、ISOを使いこなそうとお考えの方は多い。そういった方は個人でもグループでも、いかにISO規格を活用しようかという情報を発信している。
またISO規格の意味を「ISO規格日本語訳」とか、「口語訳ISO規格」とか、「間違いだらけ」とかと称して本やネットで情報発信している人も多い。
しかし、過去から会社でしている仕事、業務をISOに当てはめるのだ、ISOのために新しい仕事をするということはないという思想を発信している人は非常に少ない。というか、私くらいではないのだろうか。
もっとも、ISO認証のために企業は何もすることがないとか、ISO規格に会社を合わせることがないといっては、審査員も、コンサルも、飯の食い上げになってしまうかもしれない。だからそういわないのだろう。
ということは、世の中の多くの人はISO規格に使われている、そういう言い方が悪ければISO規格に会社を合わせようという発想なのだろうか? 同じことか
もちろん、ISO規格を会社に合わせようというのはナンセンスだ。
あるべき姿は、会社の仕組みがISO規格を満たしていることを説明することだと思うのだが。

そしてISO規格に使われているということは、実は会社のためでないだけでなく、自分の頭で考えずに誰かのISO規格の講釈に従っているということである。つまり審査員が言ったからとか、コンサルが指導したとか、講習会で聞いたからということを基に、自分の会社の手順や文書を作っている人が多いのだ。
どの会社にも過去より会社の文化があり、企業風土があるのだ。それを基に売上を伸ばし、社会に貢献しているのではないのか? たかがISOごときに、企業文化をあわせるなどとんでもないことではないのか?

文書体系を取り上げても笑ってしまう。
ISO9001認証するには品質マニュアルが必須であり(4.2.1)、ISO14001認証するにも環境マニュアルと言わなくてもイクイバレントの文書が必要である(4.4.4)。審査前にマニュアルあるいは類似のものを出さなくて良いと語っているのは、LRQAその他わずかな認証機関しかない。
プロセスアプローチ審査を行う場合、マニュアルを事前に入手しても役に立たないような気がする・・ホンネは役に立たないと言うことだ。
ということはマニュアルを出せと言っている認証機関は、力量がないのかもしれない。
ということでISO認証している企業の大多数は、マニュアルを作っている。マニュアルがいかなるものかといえば、冒頭に「この○○マニュアルは当社の品質に関する最高位の文書である」と書いてある。 アホか? そんな吹けば飛ぶようなマニュアルが、会社の最高位の文書であるはずがない。細かくは少し前に書いたので省略する。

ISOを活用するとはどういう意味なのだろうか? 理解に苦しむ。
そういうことを語る人は、企業とISO規格の関係をどうとらえているのだろうか?
企業は社会に貢献するために設立された。そして利益を出して存続しなければならない。そのために過去より経営の考え方には多々手法や思想が提案された。また管理レベルについても多様な管理手法や改善手法が提案されてきた。ファヨールに始まり、フレデリック・テーラーの科学的管理法から、組織論はルイス・アレンなどが唱えてきた。ISO9001はそもそも品質保証の規格であった。マネジメントシステム規格と称しようとそれは企業より上位なんてものじゃない。企業を運営していくときの方法論の一つに過ぎない。
そんなものに会社を合わせるって? そこまで奴隷根性を持つこともないだろうと思う。

わたしの立場で言えば、勤め先の会社の仕組みは過去よりISOとは無縁に存在してきました。四半世紀前にISO規格というものができましたが、会社の仕組みはそれに関わらず継続して存在しています。
まあ、渡世の義理と言いますか世の中の付き合いもありISO認証しておりますが、弊社の企業文化を変えたつもりはありません。ISO審査においては、弊社の仕組みは企業秘密ですから、ISO規格を満たしていることを示すためにその一部をチラット見せているのです。

本日の弁明
../man1.gif おばQの会社ではISOを使いこなしているのかですって?
残念ですが、私が勤めている会社ではISOを使いこなしていません。それどころかISOを活用もしていません。
「ISOを使い倒す」なんて騙っている人もいましたが、私どもは使い倒すどころではありません。そもそも、使い道があると思っていないのです。

本日のひらめき
ISOを使いこなしているのは、ISO業界に違いない。
そして、一般企業でISOを使いこなしているというのは勘違いだろう。



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