ケーススタディ アンケート

12.04.09
山田が出勤すると、例によって森本と横山は既に出社していて仕事をしていた。 山田はパソコンを立ち上げてからコーヒー飲もうと思っていると、横山がコーヒーを持ってきた。
178×145 「横山さん、気を使わなくてもいいですよ。ここでは自分のことは自分でしましょう」
といいつつ山田は横山からコーヒーカップを受け取り、コーヒーをすすった。
「うーん、うまい」
横山は山田と話をしたかった様子で、口を開いた。
「山田さん、アンケートが今朝だけで3件来ています。みな大学生の卒論の資料集めのようですが、どのように対応すれば良いのでしょうか?」
「どのようにって、アンケートの内容次第でしょうね」
山田は自分が環境保護部に来た直後に、アンケートの処理について平目に聞いたことを思い出した。あれから3年近くなる。
「まず僕からの質問させてもらいますが、横山さんは中をご覧になったのでしょう。それでどんなことを思いましたか?」
「正直言いまして、インターネットの検索エンジンでググレばすぐに分かるようなこととか、当社の環境報告書を読めば書いてあることしか質問していません。もう少し相手のことを調べて出すべきです。大学生のすることとは思えません」
山田は横山が持っている数枚のA4サイズの紙に手を伸ばした。
「何々『環境問題への取組み状況に関する社外への情報発信としてどのようなことをしていますか?』、なんだいこれは?」
山田はコーヒーカップに手を伸ばして、また一口飲んだ。そして横山の顔を見た。
横山はニコニコした。
「そうでしょう、山田さん。相手に『環境問題への取組み』を聞くならまだしも、それを『どのような情報発信しているか』という質問は病的じゃないですか」
「病的かどうかはともかく、オバカなことをさらけ出しているね。努力をしないで成果だけほしいということなのかな・・」
山田は目を資料に戻して音読した。
「うーん、お次は『貴社の環境報告書には、次のデータのどれを収録していますか?』、こんなアンケートをもらって怒らない担当者がいるのかね?」
lady.gif 「山田さん、私もそう思いました。いやしくも人様の会社に問い合わせするなら、事前勉強をして質問するのが礼儀というものでしょう。いくら文章に美辞麗句を連ねても問い合わせ先の環境報告書も読まずに、こんなことを質問するのは失礼極まりないですよ」
「ハハハハ、横山さんも厳しいなあ。いや、僕も同感ですよ。問い合わせ先の会社の環境報告書を読めば質問する必要がありませんね」

「山田さん、いくつか疑問がありますがお話してもよろしいですか?」
「もちろんです。私も分からないことや迷うことがたくさんありました。もちろん今でもあります。そんなとき自分で考えただけではわかりませんから、先輩、廣井さん、中野さん、退職された平目さんにいろいろと話を伺いました。一言お断りしておきますが、先輩が語ったからといって、それが絶対とか、正しいということではありません。ひとつの考えに過ぎません。ただいろいろな考えがあるということ、そして自分が思いつかなかったことに気づかされることに価値があります」
「山田さん、それはよく分かります。私も社会人を7年していますから」
横山は自分の椅子をごろごろと山田のとなりまでひっぱってきて座った。
「まず、当面の処置として、このアンケートにどのように対処すれば良いのでしょうか?」
「当社の外部からの問い合わせへの対応の基本的ルールですが、マスコミと行政関係でしたら、総務に回します。総務が回答できない場合はここに相談にきますが、いずれ作成した回答は総務部から発信します。業界団体からのものには、環境保護部が回答します。
学生や大学などからの問い合わせについては、ルールを決めていません。横山さんが回答しようと考えたら、当社の情報管理規定に基づいて、公開してよい範囲で返事すればよいでしょう。もっともわざわざ文章を書くのもなんですから、環境報告書のpdf添付とかURLをメールで返せば済むならそれでよいでしょう。横山さんが回答不要と判断したら即ゴミ箱でけっこうです。学生のアンケートなど時期にもよりますが、多いときは日に10件くらいあります。もちろん内容をよく見て、相手がまじめに研究しているようなケースは、こちらもまじめに対応するのが礼儀でしょうね」
「分かりました。中には当社に入社希望の人もいるでしょうから」
「そうですね、当社の製品は家庭で使うものではないけれど、世の中の評判を落としたくはない」
「こちらを訪問して話を聞きたいというようなケースは、どうするのでしょうか?」
山田は大分前にちょくちょく来ていた社会人大学院生の藤田を思い出した。顔を出さなくなって、もう1年以上になる。無事大学院を修了したのだろうか。修士課程を終えて、博士課程まで進んだのだろうか?
「これも相手がマスコミや行政の場合は、総務マターになる。大学生などの場合、はっきりいって、インタビューを受けることが、当社にとってメリットがあるなら対応しても良い。私たちは会社で1秒いくらとお金がかかっているのだから、無用なことはできない」
「そうですよね、ただ内容が具体的に書いていないようなとき、どのように判断するのでしょうか?」
「正直言ってむずかしいね。どなたかの紹介などであれば、紹介者の顔を立てて会わなければならないし、言い換えると紹介状があればあまり変な人ということはないだろう。でもふりの客ならぬふりの学生とか、名前も聞いたことのないようなNPOなどは、会うべきかどうか決めかねるね。僕の経験でも、会って良い意味でのギブアンドテイクでよかったということもあるし、先方は寄付金もらいに来ただけということもあった。もちろん出さなかったけど」
「見分け方というのがありますか?」
「分かりませんね。ただ一方的に与えるだけでも、相手が真剣なら対応すべきだと考えることもできるでしょう。それもCSRのひとつといえるかもしれません。冷やかしは困りますね」
横山は殊勝にメモを取っている。
「横山さん、私の話はメモするほどの価値はありませんよ。ところで大分前ですが、あるNPOからのアンケートに回答しなかったら、その後、電話でなぜ返事もしないのだと脅しとも取れるような問い合わせがありました」
「まあ、それはどのように対処したのでしょうか?」
「基本的に我々が個別対応するとこじらせてしまうおそれがあるので、すべて総務に回す。そういうものは総務が対応することになっている。総務には専門家がいますから」
「わかりました。そのようなことがあれば総務に依頼します。
ところで、山田さん、アンケートをみると当社の報告書やウェブサイトに掲載しているにもかかわらず質問しているものが多いのですが、当社の情報発信が下手で、外部から分かりにくいということはないのでしょうか?」
「ウェブサイト担当は中野さんで、私はなんとも言えないな。これからは横山さんも社外のウェブサイトの作成や管理に関わることになるでしょう。ただ、どうなんでしょうね、他社に比べて分かりにくいということがあるのでしょうか? つまりアンケートのほとんどは、問い合わせ先に合わせてアレンジしないと思います。だから当社が特別に分かりにくいということでなく、学生がアンケート項目を決めたら、個々の会社のウェブサイトなどに関係なく同じ質問を大量に発信しているのではないでしょうか」
「ああ、そうですね。あまり細かいことを心配することもないですね」
そのとき廣井が入ってきた。山田が腕時計を見ると9時10分前だ。
「横山さん、じゃあ続きは明日にしよう」
山田はそういうと、昨夜入ったメールのタイトルを斜め読みはじめた。

しばらくして、山田の耳に横山の声が入ってきた。
「はい鷽八百社の環境保護部です。ハイ、アンケートを送付されたけど回答がないということですね。弊社ではアンケートのすべてに対応しているわけではありません。なんと言いましょうか、弊社の環境報告書をご覧になられてご質問いただくのであれば対応いたしますが、一般公開している資料をご覧にならずに公表しているデータについてご質問された場合には、まず環境報告書を見ていただくようメールでお願いしております。ハイ、いただきましたアンケートでお求めのデータにつきましては、弊社ウェブサイトに掲示しております。ぜひとも弊社のウェブサイトでご確認ください」
そういって横山は電話を切った。横山の様子を見ていると先方も納得したようである。

本日のネタばらし
少し前、ある学生から環境に関するアンケートを各企業に出しても回答が返って来ない。どうしたら回収率が上がるだろうか、という相談を受けた。何事でも相手の身になって考えればよい。自分のところにアンケートが来たとき、よほど暇人でなければ回答しなくても不思議ではない。回答がほしければ、相手に利益になるようなこと、利益にならなくても関心を持たせることが大事だ。「御社ではウェブサイトにどのような環境情報をアップしていますか?」なんてバカなことを聞いたら「フザケンナ」と言われてもおかしくない。会社はそんなにヒマじゃない。
しかし「御社ではウェブサイトに○○に関する情報をアップしていないが、同業他社ではアップしている。なぜそれについて情報公開していないのか?」ということを問い合わせれば回答がもらえることは間違いない。
同様なものに、同業他社と水や電気が原単位で大きく違うのはなぜかとか、環境レポートの日本語版と英語版では掲載情報が違うのはなぜかというのもある。数値が間違っていますとメールすればお礼が返ってくるかもしれない。
要するに、質問者はまじめに調べて相手の関心を引かなくては回答が期待できない。
ちなみに学生が行うアンケートの回収率は、5%程度と聞く。問い合わせ先の発信情報を良くみて、それに関する質問(ツッコミ)を考えれば、軽く60%くらいいくだろうと思う。(経験あり)
愚妻である
バカ言ってるん
じゃないよ
我が家にもときどきメーカーからアンケートが来る。アンケートに応じればなにかもらえるとか書いてある。だが、我が愚妻はそういうものはすべて即ゴミ箱だ。
家内のテレビを観るのを止めてアンケートを書かせるには、ハワイ旅行か車一台くらいプレゼントしなければならないだろう。今の時代、クオカードとか図書券くらいでは食いついてくる人は少ないだろう。
まあ、そんなことを説明した。その学生は私の説明に納得して再チャレンジしたようだ。単なるアンケートでなく、実際の就活や入社してからの仕事にそういう意識を持って取り掛かってほしい。

ところで、内部監査なども実は同じなのだ。
依頼者(クライアント)から「これこれを調べて来い」といわれた監査員が、言われたことを調べずに、自分が関心があることを調査して報告している例は非常に多い。私たちはお客様(後工程)へ提供する製品(情報を含む)を製作あるいは調査することでオマンマを食べているのだ。それを忘れて独りよがりでは困る。決して大学生のアンケートを笑ってはいられない。



外資社員様からお便りを頂きました(2012.04.10)
佐為さま
アンケート、私の基準は五分以内で出来るかです。
調査したい事をまとめてある場合は、こちらも答えやすいし、ほとんど五分以内に終わります。
(例として、帝国DBの景気調査などは、WEBで短時間で回答できます)
最近は政府系の団体が、お金を使って外部の調査会社に頼んで調査するものが結構来ますよ。
この手のアンケートは、自分の知りたい事が、細かく書かれており、選択肢を選ぶと更に、その理由を書けだの、非常に時間がかかります。 私は5分以上かかると、途中まで終わっていても、ごみ箱に入れてしまいます。
なぜなら、聞きたい事があるなら、相手の都合を考えて限度を決めるべきだと思うからです。
アンケートでダメだと思うものの、もう一つは外国で作られたものを翻訳して未消化のものです。
Yes/Noで答えるのに質問が、「この製品が一万円ならば買いませんか?」とあれば、日本語ではYesが買うのか、Noが買うのか迷いますよね。
英語で”Don’t you buy”、とあればYesは買う、Noは買わないですが、日本語ならば回答を「買います、買いません」にしないと、回答に困ります。この程度の事は、内容を見直せば気づくと思うのに、その程度の事もやらないアンケートですと、アホらしくて、やりません。大学のビジネススクールなどが調査するものでも、回答者の事を考えて内容が良くできて答えやすいものならば回答しますし、社会人の基本が出来ていない無礼な依頼ならば、そのままゴミ箱行きです。
結局 アンケートは、調査するつもりのようで、実はする側も調査されているのですね。
回答率が低いのは、何か原因があるのだと思います。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
おっしゃるとおりですね、結局は相手の身になって考えているかということに尽きるでしょう。
ところで疑問があります。
官公庁は三菱総研とか大学とかいろいろなところに頼んで調査をしているのですが、その結果、どのような成果がでているのでしょうか?
結果じゃありませんよ、調査してそれが日本経済にあるいは国民健康などにいかほど寄与しているのでしょうか?
それが気になって眠れません・・うそです

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012.04.10)
コーヒーがどんな伏線なのかがヒジョーに気がかりであります。

エッツ たいがぁ様 コーヒーって?
全然深い意味はないのですよ
私は会社で仕事をしないでコーヒーを飲んでいるので、日本中のサラリーマンはコーヒーを飲んでいるものとばかり思っていました。


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