環境監査とはなんなのか

12.04.17
環境監査といっても範囲は広い。まず監査をする立場から見ると、第一者監査、第二者監査と第三者審査がある。次に監査で見る対象から、システム監査、遵法監査、パフォーマンス、現場、製品などなど、これまた多様である。更に監査基準から見れば、より細分化されるだろう。
システム監査といってもISO14001だけではなく、エコアクション21、エコステージ、KESなどなど監査基準は多々あるのだ。
おもしろいというか、私にとっては面白くないことだが、監査の種類よってランク付けする人がいる。第一者監査より第二者監査が上で、第三者審査が最上位と考えている人は多い。私の基準で言えば、審査結果に責任を負わない第三者審査が最下位であり、監査者が依頼者に責任を負う第一者監査と第二者監査が上位かと思う。
「問題ありません」と監査報告書を出した後に問題が発覚して、役員などから「何を見てきたんだ」と追及されることは監査員にとって辛いものがある。それこそアウトプットマターズであり言い訳がきかない。監査のミスが多ければ、失速ならぬ失職一直線だ。
反面、ISO審査員の場合はどうだろうか? 不祥事報道された企業を審査した審査員がCEAR登録の更新が拒否されたとか、認証機関をくびになったという話を聞いたことがない。それともそういうことがあっても秘密なのだろうか?

また「環境監査が上手な人は遵法監査ではなく、環境経営とか環境配慮製品やサービスを監査するのだ」などと語る人もいる。私が遵法と事故のリスクを徹底的に監査しているのをみて、「有益な環境側面を監査するのが本来のあるべき姿だ」とほざいたアホがいる。そういうアホを説得しようと考えるのは、豚を競争馬に育てようとすると同じくらいの勘違い筋違いだから、無用なことをせずに放っておくしかない。いつかそんなアホが監査をした後に、被監査部門で法違反や事故が起きて叱責され、罷免されるのを待つしかない。
もっとも有益な環境側面というものがあるとは、私は知らない。きっと頭の中がお花畑なのだろう。

被監査組織のレベルが低くて違反や事故の可能性が高いとき、マネジメントシステム監査をしているなら、はっきりいってバカだ。例えていえば、おぼれている人をみて、泳ぎを教えようとするようなもの。とにかく水に飛び込むなり、ボートを漕いでいくなり、人命救助のために即物的で効果があることをしなければならない。遵法がアブナイ状況なら、法規制を把握する仕組みをチェックしたり遵法を確認する仕組みが適正かを評価するよりも、現時点問題がないのかを点検し、問題があればなにをせねばならないかを考え、要対策事項を提示することが最優先なのである。
では、被監査組織のレベルが高く遵法が安心な状態とか、環境負荷が少なく事故が起きる心配がなければ、システム監査を行うべきであろうか。あるいはそういう場合なら、製品配慮設計やグリーン調達などを監査すべきかということを考えてみたい。
結論的に言えば、その場合であってもシステムを監査するということは無用かと思う。いやそもそもマネジメントシステムが適正か、適切に実施されているかを点検するということは、マネジメントシステムの文書や記録を見ても分からないのではないだろうか。
それが本日の主題である。

仮に問題があるケースを考えてみよう。
重大ではないが、軽くもない事例として、工場長が異動したとき、公害防止統括者の変更届をしなかったとする。公害防止組織法でなく、騒音規制法でも高圧ガス保安法でもいいが、工場長の変更届けを怠ったとする。そういうケースは法律によって金額が異なるが、だいたい20万から50万くらいの金額の罰金がある。もっともほとんどの自治体ではそういう場合は、届けをしてくださいというだけで罰則などは課さない。聞くところによると多くの都市では届出用紙にお詫びと届けなかった理由まで印刷して、会社名と日付を記入すればよいように用意しているという。

ともかくそういう不具合がある状況としよう。
監査でそれを検出し、是正をかけることが必要になるわけだが、前述したふたつのアプローチで考えてみよう。
ひとつは徹底して遵法をみるという監査を行うとする。監査員はその組織が該当するであろうと検討をつけた法規制に関して、それこそしらみつぶしに遵守状況をチェックする。
ISO認証している組織では、該当法規制一覧表なるものを作っているところが多い。・・私の勤めていた会社では作っていなかったが・・そんなものを基に法規制をチェックしてもまったく意味がない。なぜなら相手が認識している法規制を守っているかを確認するだけでは無意味なのだ。もちろん世の中にはアホがいるから、自分が把握した法規制を遵守していないケースもあるだろう。しかし規制を受ける法規制を認識していないことを発見しなければ監査の意味がないではないか。

その結果、工場長の異動の届出をしていなかったという法の遵守不徹底があったとする。そのとき、その対策が必要であるということとともに、その法規制を把握する仕組みが不足しているのか、把握している法規制を遵守していなければ監視する仕組み遵守評価の仕組みが不十分であるということが分かる。それが監査である。
ではマネジメントシステムの監査とやらをしたとしよう。法規制を把握する仕組みはあるか、それを手順に展開しているか、それを実施しているか、法を守っているかを確認しているか・・と会社の仕組み、すなわちマネジメントシステムの監査を行ったとして、行政の届出漏れというものを検出することができるのだろうか?
法を把握する仕組みがあるかを点検するには、単に手順を聞いてそれが適正かどうかを頭で考えても意味がない。把握する仕組みが適正で有効かを判断するには、監査員がその組織の環境側面(一覧表に載っているものではなく、監査員が観察とヒアリングで特定したもの)に適用されるであろう法規制を自分が想定し、その想定した法規制をその会社が認識しているかをコンペアしなければならない。つまりどこまでいってもまず現実があり、それを基に手順すなわちシステムが適切か有効かを判断することになる。

では、システムがプアであって、現時点法違反が起きていない場合、問題ないと判断してよいかということも考えなければならない。
遵法を徹底してみる監査ではそのような場合、問題があるということを発見できないだろうとおっしゃるだろうか。今後問題が起きるか分からないのだから、予防処置をとっていない不適合という発想もあるだろう。だが届出漏れが起きていないなら、起こりえるといえるかどうかわからない。 ISO規格を監査基準に行うならともかく、会社の違反防止、事故防止を目的にする真剣勝負の監査なら、違反も事故も起きていないなら現状は必要十分な仕組みがあると判定してよい。それが実用的判断だ。
もし現状の仕組みで潜在的な不適合があるならば、違反や事故が起きていなくても、近事故といえる事態が複数発生していることは間違いない。突然、法違反をしたり、大問題が起きたりすることはないのだ。
例えば代表者の届出のほとんどは30日以内に届けをすることになっているが、今まで30日目に行っていたり、数日遅れで届けていたりということが散発しているはずだ。過去にそのような事態が起きていなければ、現行は問題ないと判断してよい。だから通常、遵法をしっかり見ていれば、システムが大丈夫かどうかは分かる。私の経験からそういえる。ハインリッヒの法則はすべてにおいて真理である。
ではシステムがプアであって、現時点法違反が起きていない場合、マネジメントシステムの監査を行えば、そのような問題を見つけることができるのだろうか。なんともいえないが、仕組みを一生懸命に調べて、それが有効かどうかを判断するには、仕組みだけではなく、最終的にはアウトプットを見なければ判断できないことは間違いない。仕組みが良いから大丈夫と判断するのはオープンループであり、自動制御でいえば低レベルで安易な方式である。できるだけ後側に検出器を置いてフィードバックをかけるのが鉄則だ。

話をまとめる。
マネジメントシステムの仕組みが適正で、かつ適切に運用され維持されているかどうかを見るには二通りある。ひとつはマネジメントシステムの中身を徹底的に調べて、そのロジックと手順が適正かどうかを判定する方法である。もうひとつはマネジメントシステムをブラックボックスとみなして、インプットとアウトプットからそのブラックボックスが適正に働いているかどうかをみることである。しかし前者の方法ではアウトプットマターズはまた別に調べなければならないだろう。後者であれば、まずアウトプットマターズありきであり、アウトプットマターズさえしっかりしていればシステムが適性であろうと判定できるのだ。
即物的に遵法とリスクを点検することは、決して低レベルなわけではなく、マネジメントシステムが単に適合であるかをみるだけでなく、真に有効であるかをみているということを理解しなければならない。

アウトプットだけでは品質が保証できないことから、品質保証という概念が生まれた。しかしプロセスだけでは品質は保証できない。
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インプット../2009/yamigi.gifプロセス../2009/yamigi.gifアウトプット
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必要なのはアウトプットだ。まずアウトプットが大丈夫かをみなければならない。そして多くの場合、アウトプットが悪ければシステム(プロセス)が悪い。

それから即物的な監査は低レベルだと語る輩は、実は即物的な監査ができないというケースが多い。それにも二通りある。
ひとつは、法規制を知らないので、イチゼロという遵法監査の真剣勝負を避けているタイプである。法規制を知らないで環境監査をしようというのもいい度胸だ。
だがそのアプローチでは役に立つ監査ができないのは必定だ。前述したように、マネジメントシステムを一生懸命、ためつすがめつながめたとしても、仕組みが立派であることはわかっても、それが有効に機能するかどうかはわかるはずがない。
そこで検出できることは、文書管理が悪いとか、教育が計画通り行われていないという指摘がせいぜいだろう。
ISO審査ではこのタイプが多い。だからISO審査で見かける法に関わる不適合は、廃棄物それもマニフェストが主で、あるいは毒劇物法ではラベル表示とか施錠の不備が多い。オイオイ、環境法規制といっても法律は150本くらいあるのだよ。そしてそこで規制されている項目は星の数ほどある。大丈夫か?
最近の例だが、ISO審査で毒劇物法違反として劇物の出納の帳簿をつけていないという不適合を出しているものがあった。これは非常に微妙である。毒劇物法では盗難防止措置を取ること、及び紛失や盗難があったときは届出義務がある。そのためには帳簿が必要と考えたのだろうが、そう言い切っていいのかどうか。帳簿がないというならその不適合の根拠として帳簿をつけるという要求事項がなければ不適合にできないのだ。
オレなら即異議申し立てだが・・・

もうひとつは環境配慮設計、エコロジステクス、あるいはグリーン調達など特定の分野に特化したいというタイプである。このタイプはその分野の専門家である人が多い。
だが、環境配慮設計とか広報活動を一生懸命監査してもあまり意味がない。というのは、そういう華やかなことは言われなくてもするのが普通だし、そしてやらなくても特段大問題にならない。広報を一生懸命にしなければ環境経営度順位に影響するかもしれない。しかしそんなことは企業の環境経営の必須要件ではないだろう。そういうカテゴリーは社会的評価を上げることに貢献するだろうが、社会的信頼を落とさないことにはつながらないのだ。
環境経営で一番重要なことは法違反をしないことと、事故を起こさないことだ。それは私が言うのではない。ISO14001規格の序文に、規格の意図は「遵法と汚染の予防である」と書いてあるし、大分前に環境省が「公害防止に関する環境管理の在り方(2007/3/15)」というのを出している。そこでは「環境問題の関心が、化学物質管理、循環型社会への対応、地球温暖化対策と広がった。それに伴い公害防止対策を定型的な保全業務とみなす場合が見受けられ、1970年代当時に比べて公害防止の重要性に対する認識が相対的に低下してきた」と問題視しているのである。
環境配慮設計をしっかり監査するよりも、遵法をしっかり監査したほうが環境省に喜ばれることは間違いない。いや、社会的評価を上げなくても社会的信頼性を落とさないことに貢献する。
遵法を点検しない監査は、会社の遵法を確実にするあるいはリスクを回避するためという環境監査の目的からの逃避に違いない

本日のタネ明かし
私の後任者に引き継ぐとき、しっかり遵法をみてくれと頼んだら、「私は遵法よりも環境配慮設計やパフォーマンス改善を重点に見ます」と言う。まあ、こちらは引退する身、どうでもいいといえばどうでもいい。後任者が在職中に事故が起きないことを・・私は祈らなかった 



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/4/18)
「私は遵法よりも環境配慮設計やパフォーマンス改善を重点に見ます」

うーん、逆だと思うんですけどねえ。

たいがぁ様 毎度ありがとうございます
いやいや、向こうから見ると我々が逆でしょう

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/4/18)
私は遵法よりも環境配慮設計やパフォーマンス改善を重点に見ます

何処ぞの審□員じゃないですが、仮に環境配慮設計をみるとするならば製品が与える環境負荷の他に製造負荷・コスト・品質・生産性などのバランスを考えることが出来なくてはなりません。また、パフォーマンス改善にしても同じことです。そうでないと全社としての利益になりませんから。
それだけの事が出来るスーパーマン級の力量が・・・もしかすると「無い」ことすら理解出来ていないのかも知れませんね。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます
つまり彼の視野はそれだけということで、問題はそんな人を監査員に選んだ人が悪く、更に遡れば人を育成していなかったことが悪く、
あれ!俺が悪いのだろうか??


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