ケーススタディ 監査員教育4

12.05.05

監査が上手になるにはどうすればよいか? 監査員を養成するにはどうすべきか? という質問に、私は簡単に答えることができる。
だって、そんなことわかりきったことです。
新人の教育を依頼されたときというか、新人を使うときの教育カリキュラムを、私は長年の経験から標準化していた。もっとも私のところに来る新人というのは、新人といっても齢(よわい)50半ば以降の、工場の環境課長などを引退したような人ばかりであった。
おっと、「そんな経験者なら教育をしなくても使えるじゃないか」という意見は、残念ながら大はずれだ。ISO19011を見るまでもなく、監査員は、環境管理の経験と法律や環境施設の知識だけでは務まらない。
19011.jpg

これはISO19011:2002年版にあった図である。2011年版にな
ってなくなってしまったが、実際の力量は変わらないだろう。

まず絶対に譲れないのは、個人の特性である。内部監査で知り合いを相手にするのと違い、よそ様の会社に行って初対面の人を相手に監査するには、ちゃんとした挨拶ができて敬語が使えないと使い物にならない。愛想笑いではなく、心から相手に対する敬意をもって真摯に仕事をすることが最低基準である。
「仕事ができる」のではなく、「仕事をする」という違いをご理解いただきたい。
過去、候補者にそのような資質がなくてお断りしたことは何度もある。訪問先で相手と口論になったり、態度が横柄で、ご本人が出先から返ってくる前に、「二度と派遣しないでほしい」なんていう電話が私に来たことは二度や三度ではない。それは私が見る目がなかったためだ。
既に過去形であることがありがたい。退職して、そういうことがなくなっただけでも、精神衛生上きわめてよい。
次に環境に関する知識や技能であるが、これは工場の環境課長などを務めていれば自然と身につくものだ。もちろん課長の下の担当者のほうが、省エネとか廃棄物管理とか排水処理など特定業務に関しての知識・技能は上だが、そういう人は自分が担当している範囲以外のことを知らない人が多く、また全体を見て判断できる人が少ない。悪く言えば専門バカが多い。
あるとき監査報告書をみて、省エネに関して詳しく書いてあるが公害防止について言及していないので「公害防止について点検したのか?」と聞いたら、「私は省エネが専門なので公害防止については見ませんでした」と答えられた経験がある。もちろんその人には、二度と頼まなかった。

監査の技能は正しい教育を受けて、練習を積めば誰でも一定水準になれることは私の経験から間違いない。もっとも正しい教育ができる教師は少ない。そのへんのISO審査員研修コースのレベルではだめです。もちろん中には審査員研修コースにも、優秀な教師もいるでしょう。しかしビジネスとして教えるだけではだめです。
真に監査員教育をしようとするならば、教師は受講者を結果として一人前にしなければならないし、その見込みがないなら、本人にその旨説明して監査員になるのを辞退してもらわなければならない。それくらいの真剣さは必要だ。
そして、LMJではないが、監査員に向いている人も向いていない人もいる。向いていない人を無理に監査員にすることはない。
私の経験からは、やはり環境部門でなくても管理者の経験者がよい。課長を務めた人なら人間関係も他部門の調整も、社外の人との対応はまあ大丈夫だ。実は環境部門の管理者はその職務から職人的な人が多く、人とのコミュニケーションが不得手な人が多く、適任とは言えないことがある。
むしろ広報や営業など日常コミュニケーションが重要な職に就いていた人がよろしい。そういう人は環境法令を知らないだろうと言われるとそのとおりだが、法律や環境管理について勉強することは、コミュニケーション力を身に付けるよりはるかに簡単だと思う。
それにそのへんの講習会でおかしな講師に間違ったISO規格の解釈を習っても、常識でそれはおかしいと考える人が好ましい。その意味でも営業や資材など仕事の上で考えることをしている人が好ましい。
考えるというか、常に疑問をもって仕事をしている人でなければならない。

だらだらと書いているが、監査員を養成する方法はいかなるものか? としびれを切らした人がいるだろう。そんなもの秘密でもなんでもない。次のようなものである。
 1.監査に関する仕組み・手順を教える。
 2.監査の目的、方法論を教える。
 3.監査報告書の書き方を教える。
 4.是正の確認方法を教える。
そんなところだ。
エッ、法規制や環境施設がないって?
そういうものは教えたり教えられるものではありません。自分が勉強するものです。
それと監査の手法は座学では無理ですね。私は新人には先輩格の人について10回くらいオブザーバーとして参加させました。別に先輩というか現在の監査員が優秀でなくてもいいのです。いろいろな人の監査方法をみて良い悪いを知ることが学ぶことだと考えています。いくら優秀な監査員でも、その人だけをみては成長しません。へぼでも数人の監査を見たほうが役に立ちます。反面教師というか、何事も良い悪いが比較できないと勉強にならないのです。
そのような方法で10回くらいオブザーバーをさせたら、本人に監査をさせます。そのときは先輩格の人がオブザーバーでバックアップします。それを数回すればあとはご本人の才覚でやってもらいました。ここまでするのに半年くらいはかかりました。もちろんその間に先様から苦情があればお役御免です。
教育とは見捨てることではないというお叱りを予想します。
これも私の経験ですが、50半ばを過ぎた人を教え育てることははっきりいって困難です。私の場合、教育に2年もかけて仕事に使えるのが2年程度では育成する手間暇や費用を考えると、費用対効果が出ないから無駄だと判断しています。先が長いのであれば育成する甲斐はあるでしょう。もっともそのときでも、LMJのいうように向き不向きは考慮しなければなりません。
監査に限らず、報告は速やかにすることが当たり前だ。仕事をためても気にしない習慣がある人を、報告書は3日以内に出せとしつけることがいかに困難であることか。私は環境法規制を知らない人よりも、仕事をてきぱきとしない人を監査員に不適だと考えている。過去の経験では、監査での判断ミスよりも、報告書が遅いと怒鳴ったことのほうがはるかに多かった。私も人間ができていなかったが、それ以上に会社員としての認識が足りない人間が多い。よくそんなスタンスで30年もサラリーマンをやってこれたものだと・・

ISO14001審査員になるためにCEARに申請できる要件は、過去3年間に4回以上のべ20日以上審査に参加していることである。ここで20日というのは、現地の審査を20日することではない。審査前の検討、審査後の報告書のまとめなどを含めてのこと、実は最低では5日間現地で審査を行えばよい。
参考 環境マネジメントシステム審査員評価登録申請の手引AFE1101(12版)
環境監査実績記録ADF1205(6版)
正直言って、この程度の経験ではものにならないだろう。もちろん認証機関は経験がミニマムでは登録させないとは思う。私の場合、現地に最低オブザーバー10回、そして現地で監査員の弟子を数日させてから、はじめて一人で監査に行かせた。だからこの3倍くらい必要だと考えていたわけだ。
一般企業で内部監査員になる相場はわかっている。そのような経験では天才以外まっとうな内部監査ができないことを保証する。

監査のテクニックをロールプレイで教えることができるのかということは、かなり試行しました。審査員研修でもほんの短時間ロールプレイをしていますが、あんなものでは全く役に立たないでしょう。役に立つことをしようとするなら、ロールプレイでなく、被監査側にご協力をお願いして、実際の監査で多少脇から助言したりして行うことが有効かと思います。

なんだ、もう3000字も書いたのにまだケーススタディが始まらないぞ。
では、はじまりはじまり
例によって、打ち合わせコーナーに森本、横田、山田が集まった。
「では、今日は監査の練習をしましょう。状況ですが、横田さんと森本さんが子会社の環境監査を依頼されました。監査基準は遵法とリスク管理です。その会社にはまだだれも環境監査に行ったことがなく、状況は与えられたことしかわかりません。何をどのように質問するかみなさんの才覚に一任です。
進め方はお二人が監査員になって、私がその会社の人になります。私は誠実に対応しますが、法律のことなどは知りません。では横田さんからはじめましょう」
横山
「私の担当の会社ですが、
携帯電話の販売会社です。本社は東京の新宿の貸しビルです。関東地方に10店舗あります。売り上げ40億、従業員はアルバイトを除き、パートも含めて40名、すべて貸店舗です。旧品の引き取り、商品を入れる袋、展示物の処理などがあります。エアコンの所有状況はわかりません。
これだけしか情報がありません。
当社グループに携帯電話の販売会社なんてあるのでしょうか?」
山田
「あります。もう20年以上前、1990年頃でしょうか、携帯電話やPHSが現れた時に、いろいろな会社がそういったものの販売に乗り出したのです。当社でも社内売店を運営している会社が社員に対して販売を始めて、その後、紆余曲折がありましたが、携帯電話販売会社を独立させて今に至ります。実を言って日本全国では当社の子会社で携帯電話販売会社が3社あるのです」
横山
「へえ、そうなんですか。鷽八百グループ企業に携帯電話販売会社があるなんて知りませんでした」
山田
「では、どうぞ」
横山
「こんにちは、鷽八百環境保護部の横山と申します。本日は鷽八百グループの環境監査にご協力いただきありがとうございます」
山田
「はあ、本社はさまざまな監査にいらっしゃいますが、環境監査というのは初めてです。私どもではISO認証なんてしておりませんので、環境監査というのがどういうものか存じませんのでよろしくご指導をお願いします」
横山
「私がいろいろ質問しますので、それにお答えいただければ結構です。でははじめさせてください。
ここは御社の本社ですが、店舗はいくつありますか?」
山田
「8店舗です」
横山
「あれ、事前に御社のウェブサイトでみましたら10店舗とありましたが?」
山田
「ああ、昨年までは10店舗でしたが、経営方針の見直しで2店舗を閉じました。ウェブサイトのメンテが遅れていましたか。今度担当の者に伝えておきます」
横山は面白くない顔をした。
横山
「ああそうですか、倉庫とかその他の施設はありますか?」
山田
「商品はキャリアから直送されますし、在庫は持たないし、倉庫はありません。その他の施設と言いましてもショウールームなどはいりませんからね」
横山
「わかりました。本社と8店舗ですね。御社の環境管理体制はどのようになっていますか?」
山田
「環境管理体制ですか? それはどういうことをおっしゃっているのでしょうか?」
横山
「環境法規制を守っているのを確認するとか、環境法規制が改正されたときに伝達するとかそういうことですが」
山田
「そういうことでしたら弊社には環境管理体制はありません」
横山
「でも本日、山田さんが環境監査のお相手をしていただいているということは、山田さんが御社の環境管理の責任者ということでしょう?」
山田
「いや私は総務部長です。どの会社でも総務部の職務分掌は他の部門が担当しないものとなっていまして、弊社に環境管理をしている部門がないから私が対応しているわけです」
横山は斜め45度を見上げて、しばし無言
横山
「環境に限らず、御社の事業にはいろいろな法規制が関わると思います。法規制を把握している部門というのはないのですか?」
山田
「当社は携帯を売るだけの会社で社員20数名ですよ。法規制を把握する部門はありません」
山田も取り付くしまもない。
横山
「たとえば毎年産業廃棄物管理票の報告などをされていますが?」
山田
「当社から産業廃棄物はでませんよ」
横山
「そんなはずないでしょう。山田さん、うそついちゃいやですよ」
山田
「横山さん、そう言われましても弊社は携帯の販売会社ですから、産業廃棄物など発生しません」
横山
「山田さん、そんなつれないこと言わないでちゃんと対応してくださいよ」
廣井
「オイオイ、横山さん、その程度で泣きを入れたら実際の監査はできないよ」
../coffee.gif
廣井が突然脇から話しかけてきたので、三人はぎょっとして顔を上げた。
廣井は湯気の出ているコーヒーカップをもって脇に立っていた。
山田
「廣井さん、お見苦しいところすみません。ただいま練習中です」
廣井
「それじゃ、横山さんのかたきをとってやろう」
廣井は横山の脇に座った。
廣井
「山田部長、廣井と申します。すみません横山といっしょに監査をさせていただきます」
山田
「はあ、どうぞ」
廣井
「先ほど昨年2店舗を廃止したとおっしゃいましたが、店舗の内装はどうされましたか?」
山田
「弊社の店舗はすべて借家ですから、原状復帰してお返しすることになります。街の工務店にお願いして内装やパーテーションなどの工事をしました」
廣井
「工事からの廃棄物はどのように処理したのでしょうか?」
山田
「工務店と工事契約しまして、はがした壁紙やケーブル類、展示台などはすべて工務店に処理してもらいました」
廣井
「なるほど、お店には机や椅子、その他オフィス什器があるでしょうし、お客様にお飲物などを出していたと思いますので、給茶機や冷蔵庫などもあったのでしょう?
そういったものはどのように処理したのでしょうか?」
山田
「ハイ、そういうものはなるべく別の店舗で使うようにしているのですが、そのときは冷蔵庫を廃棄しています」
廣井
「なるほど、そのとき冷蔵庫はどのように処分したのでしょうか?」
山田
「はじめは市の粗大ごみに出そうとしたのですが、担当部署から買った電気店に引き取りを依頼するようにご指導がありまして、お店に話したら費用が掛かるというので仕方なく払いました」
廣井
「そのときの伝票はありますか?」
山田
「たかだか数千円でしたので、雑費で処理したと思います。伝票はありません」
廣井
「社内の伝票ではなく、電気店からなにか伝票を受け取りませんでしたか?」
山田
「店舗の担当者が受け取ったかもしれませんが、本社ではわかりません」
廣井
「わかりました。給茶機やコーヒーメーカーなどはどうしましたか?」
山田
「工事を頼んだ工務店にいっさいがっさい処理をお願いしました」
廣井
「ありがとうございます。閉鎖した店舗はおしまいとして・・・
本社やお店からのごみ類はどう処理していますか?」
山田
「本社の店舗もすべてテナントですので、ビル管理会社が処理してくれます」
廣井
「でもパソコンとか机や椅子もあるでしょう。そこにあるコピー黒板はどうするのですか?」
山田
「パソコンはすべてリースです。机や椅子は新規購入時に旧品を引き取ってもらっています。コピー黒板ですか? 今まで捨てたことがありませんが、捨てることになればビル管理会社に相談します」
廣井
「携帯電話ですと、販売したときはお客様がお持ち帰りする袋とか使うと思いますが、それは御社で制作しているのですか?」
山田
「すべてキャリアから支給されます。ロゴなどの関係で販売店が制作することはできません」
廣井
「携帯電話の旧品はどうしていますか?」
山田
「以前は販売するとき旧品を回収していた時代もありました。その後、携帯電話は買い取りということになり所有権は使用者にあることになり、現在はほとんど販売時に回収するということはありません。とはいえ、お客様の中にはリサイクルしてほしいとか捨てる方法がわからないということで、本体や電池をお店に置いて行かれるのが増えています。そういうものは一定期間ごとにキャリアが来て回収しています」
廣井
「回収に当たって、費用は払うのですか、もらうのですか?」
山田
「すべて無料というか、お金のやりとりはありません」
廣井
「キャリアとはその扱いについて、なにか契約していますか?」
山田
「ご存じのように弊社では携帯電話のほかに高速データ通信サービスの取り扱いもしております。それぞれの会社は弊社が回収した各社の機器は必ずその会社に戻すように要請があり、そのような契約をしております」
廣井
「回収した品物は廃棄物になるのでしょうか?」
山田
「おっしゃっている意味が分かりません」
廣井
「各店舗の消費電力を把握していますか?」
山田
「いや把握していません」
廣井
「省エネ法をご存じと思いますが、その該当、非該当を確認する必要があります。それはされましたか?」
山田
「省エネ法の改正があったとき、都の説明会に行きまして、規制対象となるのはおおむねコンビニ30店舗以上の規模と聞きました。私どものような販売店は冷蔵ショーケースなどを使いませんし、なによりも夜間は営業しませんのでコンビニ30店舗ほどは電力を使いません。その説明会でも確認しましたが、8店舗なら電力を調査するまでもないとのことでした。
ただそれとは別に入居しているビル管理会社から省エネ要請がありまして、無駄の排除、定時後の消灯の徹底などのルールの通知がありました。正直言って空調の温度についてはね、対応が・・」
廣井
「エアコンはビルのものですか? 自社で設置しているのですか?」
山田
「すべてビルのものです」
廣井
「山田さん、質問は以上です。
ではこれから、お話の中で問題かなと思いましたものを上げますので、詳細をご確認願いたいと思います。
ひとつ、給茶機はたぶんフロンが入っていると思いますので、フロン回収破壊法での処理が必要です。それをしていないと最悪の場合罰金50万になります。
ひとつ、同じく給茶機とコーヒーメーカーの廃棄ですが、正しくは建設廃棄物ではありません。展示台などもそうです。それらは御社が産廃処理しなければなりません。
産業廃棄物は他人に
処理を頼めませんよ

廣井部長
ひとつ、お話を聞いた限りではオフィスから出るものについて産廃処理していないとのことですが、詳細を当たる必要があります。
ひとつ、家電品・・現在は家電7品目と言われていますが、今後増えるでしょう・・の廃棄方法は認識しておくべきです。排出者は家電リサイクル券の保管義務はないはずですが、社内的には適正に処理した証拠としてある程度の期間保管しておくべきでしょうね。
ひとつ、旧品の携帯電話の回収はキャリアが広域認定を受けているので結果として問題はないと思いますが、その法的裏付けを認識しておく必要があります。
ひとつ、使用しているエネルギーについては二種には該当しないことは間違いないと思いますが、一度確認しておく必要があります。電気料金の控えから集計できるでしょう。
閉店に関わるものについてはやってしまったことは今更どうしようもありませんが、次回に備えて法規制を調べて社内ルールを作っておく必要がありますね。
とまあ、ぶっつけ本番なので漏れが多いとは思うけど、山田先生、こんなものでよろしいでしょうか?」
山田
「廣井さん、ありがとうございます。
まず、横山さんのアプローチ、つまり『お宅の会社が関わる環境法規制は何でしょう?』とか、『廃棄物処理法の産業廃棄物管理票の定期報告をしていますか?』という質問は、初めて環境監査を受ける会社では通用しないというか、意味が通じないでしょう。
少し気が利く相手なら『私どもでは物を売るだけですから、環境の法律なんて関係ありません』と回答するかもしれません。多くの会社では『環境法規制ってなんですか?』と言われるのが関の山です。
だから相手の顔色をみて、相手がわかる言葉と表現で話をしなければならない。
『お宅はどんな仕事をしているのですか?』とまず聞く。今回は携帯電話会社という設定でしたが、それ以外のビジネスをしているかもしれない。例えば高速データ通信サービスの取り扱いもしているという話でしたから、それに伴ってお客様のご自宅の配線や機器の設置もしているかもしれない。もしそうであれば、それに伴う工事に関わることがあるかもしれません。そしてそういう会社は往々にしてそういった工事を下請、孫請けに委託しているから、それに関わる法規制もチェックしなければならない。
産業廃棄物とは
夫のことなり

山田課長
廣井大先生のご質問には、店内の蛍光灯や携帯電話のモックアップの廃棄についての質問がありませんでした。携帯電話の販売会社では展示台やお人形や、余った販促品の処理などがけっこう多いのです。
普通の人、たとえば私の家内なら『産業廃棄物』と聞いて頭に浮かぶのは、得体のしれない化学物質とかごみの日に出したい私のことでしょう。だから産業廃棄物というような言葉を使わないで日常語で聞かなければなりません」
廣井
「いや、参った。だんだんとイメージがわいてきたが、働いている人のお弁当やお掃除の方法なども聞かなければならなかったね。蛍光灯の交換を誰がするのかというのもある。それにサーバーやUPSに聞くのが漏れた。もしUPSがあれば特管産廃になるし、サーバーがあれば夜間の運転について聞く必要があるね」
山田
「そうですね。ともかく相手に分かる言葉で聞いて、その回答を聞くだけでなく、相手の顔色をうかがって、本当か、口先だけかを推し量る。別にうそをついても一銭にもならないだろうけど、いい加減に答えているかをチェックしなければならない」
森本
「嘘をついても一銭にもならないとおっしゃいましたが、それじゃうそをつくことはないじゃないですか?」
山田
「そうとは限らない。相手がこちらを喜ばせようとか、早く帰ってもらいたいという気持ちがあると、相手が監査員の心中を推し量って迎合することは多い」
廣井
「なるほどなあ、ぼくは社内の工場にしか監査に行ったことはないが、子会社、特に環境管理などに無縁なところに行くといろいろと気を使わなければならないんだね」
山田
「廣井さん、そんなこと環境監査に限らないでしょう。営業だって資材だって、相手の語ることを信じては職務を果たせません。相手の言い分に疑いを持たないようでは、オウムや振り込み詐欺にひっかかるのは間違いありません。
証拠をチェックするだけでなく、いろいろな切り口から聞き取りして、その関連を考え整合性を判断した結果、最終的に自分自身が大丈夫か危ないかを確信した『心証』を得るのです。そして監査報告書には見たこと聞いたことつまりエビデンスと、そこから得られた心証を結論として書くのです」
『心証』とは元々は裁判官の事実の存否に関する確信
廣井
「いやはや、正直なところ山田君がそこまで成長したとは驚きだな」
山田
「いえ、いつも廣井さんを眺めていて、ことあるごとに廣井さんならどう考えるだろう、どう判断するだろうかと考えてたどり着いただけです。
今日は予定より長引いたので、森本さんは次週にやってもらうことにしよう」

本日の裏話
私がこのようなロールプレイをしているかという質問に対しては、過去に行ったこともあるがあまり効果がなかった。それで最近は新人教育においては使わなかった。それに私は日常的に環境監査をしていたわけで、わざわざこのような条件を設定してロールプレイなどしなくても、実際の監査に連れて行ったり、すこし慣れてきたら実際にやらせたほうが、手っ取り早いし手間がかからない。
フライトシミュレーターが必要なのは、本物の飛行機を使うと危険だし費用が掛かるからだ。危険性がなく金もかからないならシミュレーターを使う意味がない。昔、私が免許を取った1960年代は自動車学校に行くと説明も何もなしに、すぐに車に乗せられて走れと言われたものだ。あれは危険がなかったのではなく、当時、自動車学校に来る人は事前に十分無免許運転していたからだろう。



外資社員様からお便りを頂きました(2012.05.08)
佐為さま
このケーススタディは参考になりますね。 環境監査だけではなくて、こういうやり方で教育をするのは効果的だと思います。
ところで、少しだけ気になっている点がありますので、ご教示頂ければ幸いです。
確かに法規では、産業廃棄物の処分の再委託は禁止されていますが、賃貸ビルや間借りの事業所のような場合は如何でしょうか?
ビル自体が廃棄物をまとめて処分している場合や、小規模の事業所が複数入っている事業所では、賃貸オーナが物件内での産業廃棄物の処理ルールを定めている場合もあるように思います。
このような場合は、再委託は禁止といいつつ、賃貸物件内部の処分ルールに従って、オーナが適正に処分しているならば 問題がないようにも見えますが如何でしょうか?
実際、とある第3セクターが運営している、中小企業向け賃貸物件では、オーナーである3セク(職員は市役所からの出向)が事業所内で、廃棄物の集積場を設けて そこに店子が分別廃棄して、オーナーがまとめて処分していました。
法規通りに、中小企業 それぞれが廃棄業者と契約するべきかもしれませんが、小規模の事業者では都度処分には費用がかかります。
それよりは、ある程度の量をまとめて、オーナーが処分する方が費用低減にもなります。
前の会社で展示会の担当をした事がありますが、展示ブースなどで膨大な産業廃棄物が出ますが、これらは展示場のルールに従い 定めらえた場所に破棄する事が可能でした。
またブースは委託先の業者が廃棄も含めて実施するのが一般で、大手企業でも そのような方法以外は見ていません。
それとも、広報担当などは、環境関連の規定は知らないから、それが一般になっているかもしれませんけれど...
ケーウスタディの延長で、ご教示頂けると幸いです。  外資社員

外資社員様 毎度ありがとうございます。
外資社員様がすでに正解をご存知ですので、というか外資社員様のメールは現状に対する改善提案とも思えますので、どうこう言うことはないのですが・・
2012年5月時点、ビル管理会社が店子の産業廃棄物をビル管理会社の名義で排出するのは違反です。また、展示会の産廃も展示場の名義で廃棄するのも違反です。
但しそれぞれの店子が廃棄物契約をして、ビル管理会社がとりまとめてビル管理会社の名義で処理委託することは合法です。微妙ですが現時点はそうです。
根拠としては廃棄物処理法そのものですし、行政がそのように指導しています。
出典例
東京都環境局 産業廃棄物Q&A(2012.05.09時点)
下記する事情により今後改訂されるかもしれませんので全文を引用します。
Q13 ビルのテナントですが、管理会社が廃棄物集積場所から処理業者に産業廃棄物を引き渡しています。この場 合、処理委託契約書は誰が交わすのでしょうか?
A13 ビルのテナント( 賃借人)が自己の事業活動から発生させた産業廃棄物は、各テナントが排出事業者として処理委託契約を処理業者と直接結ばなくてはなりません。
ビルの共用部分から排出される産業廃棄物は、原則としてビルの所有者の事業活動から発生した廃棄物とみなし、同様の契約が必要です。
ただし、マニフェスト交付の事務は、個々の排出事業者(テナント等)の依頼を受けて、廃棄物集積場所を提供している管理会社が行うことが認められています。

しかしながら、ビルの入居者の産廃をビル管理会社がまとめて契約できるという公式文書もあります。
グリーンイノベーションWG(第7回)議事次第(平成22年12月22日(水)) の158ページ
改革の方向性(当初案)
・ テナントビル、ショッピングモール、商店街など、複数の事業者が共同して3Rを推進することが適切かつ可能な場合がある。このような場合、マニフェストはビルの管理会社等が自らの名義で交付等の事務を行ってもよいとされているが、委託契約は個々の事業者が締結する必要がある。しかし、個々のテナントが処理委託契約を締結することは現実的ではなく、かつ複数の排出事業者の連携による3Rを阻害している。
・ したがって、当事者間の契約に基づき、これらのグループを代表するものが排出事業者となることで、全体の廃棄物の3R促進および適正な処理委託を可能とするべきである。
改革案
・ テナントビル、ショッピングモール、商店街など、複数の事業者が一定エリアにおいて事業活動を行っている場合等、廃棄物の排出管理が共同で行われている場合、契約締結に関し、管理契約または委任状等方法による委任により、ビル維持管理会社等が一括して自らの名義において委託契約等の事務を行うことが可能であることを周知徹底する。<平成23年度中措置>

23年度中に処置するとありますが、これの対策は私の知る限り2012.4.16までは出ていませんでした。現役を引退して以降は、あまりまじめに官報も環境省の通知や報道発表を見ていません。



ケーススタディの目次にもどる