ケーススタディ 監査員教育5

12.05.09
本日の監査のケーススタディは、N様の挑戦を受けて書いた。
挑戦と言っても、N様と私の仲が悪いわけではなく、その反対である。N様が私の現役引退を祝って一席設けてくれたとき、ケーススタディ 監査員教育4を評して「あれは監査側と被監査側が一定レベルにあるから成り立つ会話である。もし被監査側がまったくの無知であれば、監査は非常に困難になる」とおっしゃった。
そう言われれば私はアントニオ猪木のように「誰の挑戦でも受けます。一般の人でも構わない。こっちはプロなんですから」と応えるしかないじゃないか。 
そして「じゃあ、監査で受ける側がまったく法律を知らない事例を書きましょう」と言ってしまったのである。
N様が私の引退祝いをしてくれたということは、彼が現役のISO審査員だからというのは邪推だろうか。いや・・そうかもしれない。(N様 冗談です)
更に付け加えると、N様は森本さんが素直な優等生になってしまったのがお気に召さないとのこと。もっと我を通してもめたほうが面白いという。私は小説家としての才能がないらしい。

今日は、森本と横山に監査を教える日だ。先週、横山のロールプレイだけで時間切れとなってしまったので、今日は森本のロールプレイの予定である。
山田は二人が打ち合わせ場に行くのを見て腰を上げた。
打ち合わせコーナーに行くと、ホワイトボードの前に二人だけでなく廣井がいた。


山田
「廣井さん、どうしたのですか、仕事中に無駄なことをするなというお叱りですか?」
山田は冗談を言った。
廣井
「いや、先週のやりとりをみて面白いと思ったので、聴講させてもらおうとね。でも脇で聞くだけじゃ面白くないので、今日は森本君にお願いして僕が代わって山田君の相手することにした」
山田は苦笑いして
山田
「廣井さん、それは光栄です。廣井さんからは厳しい質問がきそうだなあ」
廣井
「いや、今日は攻守を変えて、山田君が監査員、僕が監査を受ける役をしよう」
山田
「はあ!?、廣井さん、神を試みてはいけませんよ(申命記6.16)」
廣井
「オイオイ、いくらなんでも山田君は神の高みまでは至っていないぞ。ヨシやろう」
山田
「ちょっと待ってください。森本さん、あなたの会社は何でしたっけ?」

森本は資料を山田に渡した。
「僕の担当する会社は、前回の横山さんとは違いますが、またまた特殊な会社ですね。
山梨県の人口10万の都市に所在する工場の諸事を請け負っている会社です。従業員は8名で、男女のパートが10数名います。業務は構内の清掃、構内売店運営、従業員駐車場の管理、工場内の郵便物配送などをしています。売店では日用品、食品、文具などのほか家電品も扱っています。除草には劇物を使用しているかもしれません。
山田さんもいろいろ考えますね。」
山田
「いや森本さん、別にひねって考えなくても、当社グループにはそういう会社はいくつもありますよ。では私が監査員として廣井さんを訪問した設定で監査をやらせていただきます。ちょっとコーヒーを・・」 ../coffee.gif
山田は立ち上がり、給茶機でコーヒーをついできた。廣井には、山田が監査の切り口を考える時間稼ぎをしているのがミエミエだった。
山田
「こんにちは、本日は御社の環境遵法監査におじゃましました、鷽八百環境保護部の山田と申します。ご対応ありがとうございます」
廣井
「私どもの会社は、環境どころか本社の監査は初めてですので、至らないところもあると思います。よろしくお願いします」
山田
「まず御社の概況を教えてください。お宅はこの工場の敷地内だけで事業をしているのでしょうか?」
廣井
「基本的にはそうです。但し管理を請け負っている駐車場は工場から200mくらい離れております。また従業員用のテニスコートも管理しているのですが、そこは500mくらい離れています。それと健康保険組合の会館、まあ飲んだりするところですが、それは道路をはさんで正門の向かい側にあります」
山田
「わかりました。じゃあ敷地内と敷地外3か所ということですね。御社のお仕事はどのようなことをしているのですか?」
廣井
「構内の清掃や植栽の世話それに駐車場の管理に14名、売店が2名、郵便の集配・発送が2名、健保会館が3名、事務所が3名というところですね。それとまだ構想段階ですが、庭木の剪定作業やリフォームなど外販、つまり会社の外の仕事をしたいと考えています。もちろん初めは工場の従業員のお宅からスモールスタートするつもりです。
従業員はパートを含めて全部で25名です。ただいろいろな仕事をしてますので、担当を固定しているわけではなく、お昼は他の仕事の人が売店を手伝ったり、夜は交代で健保会館を手伝います」
山田
「なるほど、お仕事が多岐にわたっているので大変ですね。ではそれぞれについてお聞きしていきたいと思います。駐車場の管理とは具体的には、どういうことをするのですか?」
廣井
「田舎のことですから、無断駐車やいたずらなどはまずありません。もっぱら駐車場まわりの除草、仕切りの線や番号札が倒れたり消えたりしていたら補修する、車から油漏れなどがないかのチェックなどでしょうか。従業員から駐車場の申し込みや辞退があれば、その処理と場所の割り当て見直しなどをします」
山田
「駐車場は舗装してあるのですか?」
廣井
「駐車場の敷地は借地で、舗装しない約束なのです。」
山田
「そうすると除草しなければなりませんね」
廣井
「そうなんです、夏は1週間も放っておくと草ぼうぼうです」
山田
「除草剤などをまかないのですか?」
廣井
「周りの住民から除草剤や殺虫剤を使わないでくれと言われているのです。住宅が隣接しているので駐車場で除草剤を使うと近隣の植栽に影響するのです。それと小さなお子さんがいる家庭ではかなり神経質ですし」
山田
「ではどうしているのですか?」
廣井
「草刈り機で行っています」
山田
「草刈り機がうるさいなどとは言われませんか?」
廣井
「駐車場ばかりでなく、ご近所の道路も草刈りしていますので・・まあ、そこは気を使っています」
山田
「なるほど大変ですね」
廣井
「そうそう駐車場管理で一番大事なのは、近隣の方と良好な関係の維持がありますね。仕事が忙しくなると残業が増えて深夜帰宅する人の話し声とかエンジンがうるさいとか、駐車場の照明がまぶしいとか、結構苦情があります」
山田
「それはどのように対処しているのでしょうか?」
廣井
「総務にお願いして、アイドリングや空ぶかしをしないよう、夜は大声で話さないようにとか社内に通知してもらいました。照明については、以前は人が来ると自動的に点灯するようにしていましたが、深夜は自動点灯しないように改造しました。そういったことを、苦情を言われた方に説明しています。まあ、納得していただくのは難しいですが」
山田
「よくわかります。ところで駐車場がお宅の独自事業でなければ、対外的な交渉は工場の総務部ではないのですか?」
廣井
「建前はそうでしょうけど、日常私どもが清掃や管理をしていますので、顔を見知っている私どもに話がくるのです」
山田
「なるほど大変ですね。駐車場にごみが捨てられたことはありませんか?」
廣井
「普通のごみなどはときどき放置されています。吸い殻などは従業員だと思います。まあそのくらいは、困ることはありません。1年ほど前に冷蔵庫が置いてあったことがありました。今では家電品やパソコンを捨てるのにお金がかかるので、空き地に捨てる人がいるのですね。困ったことです」
山田
「その時はどうしたのでしょうか?」
廣井
「市の廃棄物課に連絡したのですが、当分こちらで預かっていてくれというようなあいまいな話で、あげくに行政が処理してくれるわけでもなく、仕方がないので半年保管して最終的に当方の・・といっても当社ではなく工場の費用で家電リサイクルに出しました。次回発生したら市に談判しなければならないですね。とはいえ工場の総務部は、市に文句を言うなと言います。たかだか1万円くらいで行政とギクシャクすると困るんでしょう」
山田
「いや、よくわかります。テニスコートも同じようなことですか?」
廣井
「そうですね、こちらはアンツーカーなので、雑草ははえませんが、コートの周りとか敷地の外側は除草が必要です。それからごみ箱、吸い殻、シャワールームなど内外の清掃ですね。利用者が限定されているので大きな問題はありません。出入り口は施錠して外部の人は入れませんし、ネットが高いのでごみを捨てられることもありません。放火されても燃えるようなものはありませんし」
山田
「工場の清掃とは、どのようなことをしているのでしょうか?」
廣井
「事務所や現場もそこで働く人がしています。我々が請け負っているのは工場の屋外、敷地の外側も含めてですが、そのほかに建屋内の通路とトイレですね。清掃から出たごみは工場の廃棄物集積場に運んできます。 廃棄物集積場の名目上の責任者は工場管理課ですが、実際は当社のメンバーが管理しています。在庫が一定量以上になると契約している業者に来てもらいます」
山田
「産業廃棄物と一般のごみは違うのでしょう?」
廣井
パッカー車 「あまり細かいことは知りませんが、廃棄物の種類毎に置き場が決まっていまして、掃除のごみとか木くずなどはたまると当社が業者を呼んで運んでもらいます。金属屑や廃プラなどが溜まると、私どもが工場管理課に連絡して、向こうが専門業者を呼んで運んでもらっています」
山田
「廃棄物の種類によって分担が決まっているということでしょうか?」
廣井
「そうですね。金属屑や廃プラの時は、業者に伝票を切るので工場管理課が行うと聞きました。業務委託契約書では仕事のおおまかなことしか決めていませんで、細かいことは工場から作業要領書というものを渡されて、それで動いています。その中に廃棄物の種類ごとに私どもがすることが決めてあります。今ここでは詳細がわかりませんが」
山田
「工場から出る産業廃棄物、つまり廃プラや油などを廃棄物集積所に運ぶのはお宅でしているのですか?」
廣井
「そうです。ターレで工場の各現場から廃棄物集積所に運び、当社で分別しています」
山田
「ターレってなんですか?」
廣井
ターレ 「あれですよ、あれ、丸いハンドルがついていて小回りがきく運搬車のことです」

ターレ ../2009/yamigi.gif
山田
「お宅が市のごみ処理場に運んだりすることはないですか?」
廣井
「私どもは構内だけに限定して請け負っておりまして、市に運んだり、廃棄物業者に運んだりはしていません。業者に頼まず私どもが運べば安くつくと思いまして、以前、工場管理課に提案したのですが許可の関係があってどうこうと言ってました。他社では当社の同業者が市の廃棄物処理場まで運んでいるので問題ないと思うのですが」
山田
「廃棄物を運搬するには、工場管理課が言うように許可が必要なのです。他社の場合は許可を取っているのかもしれませんね。
売店について教えてください。売店の経営責任は御社なのですか、それとも工場から委託を受けているのでしょうか?」
廣井
「売店は当社の独自事業です」
山田
「扱っているものはどんなものがありますか?」
廣井
「基本的に工場内で消費するものです。食べ物では、スナック類、清涼飲料、ドリンク類、カップヌードルなどが多いです。お弁当やサンドイッチは、お昼と夕方の限定で扱っています。これらは売れ残ると困るので毎日一定量を入れて売切れたらおしまいです。近くの農家が野菜や果物を売りたいというときは場所を貸しています。その他扱っているものとしては、文房具、のし袋、マスク、乾電池、など社内で使うものがメインですね。一般のコンビニとはちょっと品ぞろえが違います。タバコの自動販売機は当社のものではなく、場所貸しです」
山田
「家電も扱っていると聞きましたが」
廣井
「実際にはカタログを置いておいて、当社と契約している電気店に紹介するだけで、私どもが販売しているわけではありません」
山田
「そうしますと新規購入したお客さんから、古い家電品を引き取ることもないのですか?」
廣井
「旧品を引き取ってほしいという依頼はありますね。そういうときも契約している電気店にとり継ぎしています。元々町内の電気屋さんからカタログを置かせてくれと頼まれて引き受けただけです」
山田
「よくわかりました。品物はレジ袋に入れてお渡しするのでしょう」
廣井
「そりゃもちろんです。もっともすぐに食べるからいらないというお客様も多いですが」
山田
「容器包装リサイクル法をご存じと思いますが、帳簿記帳と支払いはしていますか?」
廣井
「はあ、知りませんね。その法律はどういうものですか?」
山田
「商品を包む袋とか包装紙を使うときは、使用量に見合ったお金を支払わなければならないのです」
廣井
「冗談でしょう。レジ袋はお金を出して買っているのですよ。そのほかにお金を払わなければならないのですか?」
山田
「申し訳ないですが、日本の法律ではそうなっています。御社の場合、小売りですから常雇いの従業員6名以上、売上7000万を超えると、特定事業者に該当し、容器包装の使用量に見合ったお金を払わなければならないのです。もし今まで支払っていないとすると・・法律では罰則がありますが、普通は過去にさかのぼって費用を支払えば大丈夫です。過去のレジ袋の使用枚数などは把握しているのでしょう?」
廣井
「当社の売店の売り上げは7000万もありません。対象外ですよ」
山田
「残念ながらその金額は小売りだけでなく、法人としての売り上げです。従業員も売店だけでなく、法人として常時雇用する従業員全体なのです」
廣井
「いやはや、まいったなあ。でも、そういう法律があるとしてだ、工場の中で袋を捨てるなら、リサイクルのお金を払わなくてもいいんじゃないかな?」
山田
「すべて工場内で廃棄されるなら、リサイクル費用を払わなくても良いということもあるかもしれません。しかし先ほど廣井さんがおっしゃたように一部でもご自宅に持ち帰るならそうもいきませんね。金額は御社の販売量からすれば年に数千円程度です。いずれにしても帳簿記載義務は逃れられません」
廣井
「わかった。とりあえず商工会議所に相談してみることにしましょう」
山田
「給食のご担当が2名とおっしゃいましたが、どのようなお仕事なのでしょうか?」
廣井
「工場従業員の多くは昼食を外部の弁当屋からとっているのですが、休暇や出張で毎日の発注数が変わります。当社は工場の総務から委託を受けて、日々の発注数をとりまとめて弁当屋へ通知をしています。なお食べ残しもいっさいがっさい、弁当屋が持ち帰ります。環境とは関係ないです」
山田
「わかりました。郵便も工場のお仕事の委託業務ですね?」
廣井
「そうです」
山田
「健保会館の運営としてはどのようなことがありますか?」
廣井
「これはなかなか複雑なのです。建物の所有者は工場、運営の責任は健康保険組合ですが実質的には工場の総務部です。私どもは運営を請け負っている形です」
山田
「具体的な御社がしていることはどんなことですか?」
廣井
「我々の仕事は、お昼と夜は食事や飲み物の提供ですね。売り上げも損益もすべて総務部が管理しておりまして、委託業務というかそんな感じですね」
山田
「健保会館のエアコンなどは御社所有ですか? それとも工場のものでしょうか?」
廣井
「すべて工場所有です。故障しても工場のほうで修理しますし・・」
山田
「食品の残渣などは誰が処理するのでしょうか?」
廣井
「我々は毎朝ごみを出すと、契約した廃棄物業者が引き取っていきます。廃棄物業者と契約しているのは工場です。工場管理課ではなく、総務部が廃棄物業者と契約しているようです」
山田
「健保会館にはテレビやカラオケがありましたが、それらの所有も工場ですか?」
廣井
「そうです。総務部のものです」
山田
「健保会館についてはわかりました。
お宅の事業から発生する廃棄物の処理はどうしているのでしょうか?」
廣井
「私どもの独自事業となりますと、売店くらいでして、売店から発生する廃棄物は売れ残りもほとんどありませんし、若干の梱包用段ボールとか事務所からの一般ごみ程度ですね。
正直なところ、すべて工場の廃棄物集積所に持って行って工場の廃棄物と一緒に処理してもらっています」
山田
「御社の蛍光灯や店舗の什器などはどのように処理していますか?」
廣井
「建屋は工場から借りている形でして、蛍光灯やエアコンなどは工場の所有で修理も交換もすべてしてもらいます」
山田
「パソコンやオフィス什器を捨てるときは、どのように処理しているのでしょう?」
廣井
「すべて、工場の廃棄物集積所に持って行って処理してもらっています」
山田
「そういったことは工場の環境管理課と話をして決めたのでしょうか?」
廣井
「いやしていません。元々はと言いますか、私どもの会社は4年前に工場の環境管理課や総務部の業務の一部を子会社化したものでして、それ以前のやり方を踏襲しているだけです」
山田
「売店には冷凍ショーケースもありましたが、あれを捨てる時はどのように処理していますか?」
廣井
「まだ捨てたことはありません。どうするのかなあ? 工場管理課に聞いてみます」
山田
「御社で保有している車はありますか?」
廣井
「ありません。構内の運搬用のターレは環境管理課のものです。駐車場やテニスコートの清掃などに行くときはリアカーを引っ張って行きます。みっともないなんて言う人もいますが、歩いて10分もかかりませんからね」
山田
「廣井さん、どうも対応ありがとうございました。まとめを報告したいと思います。
まず基本的に環境負荷が少なく、また親会社の中にあり委託業務が多いので環境法規制に関わることは少ないです。
駐車場の管理責任は難しいですが、工場の総務部と連携して対処していただきたいとしか言えませんね。
駐車場やテニスコートの廃棄物を敷地外の公道を運ぶのは、その会社の人か廃棄物業者でないとできないのです。お宅が運ぶのは厳密に言えば違反ですね。これは工場管理課と相談して、行政に非公式に確認しておいたほうがよろしいでしょう。特段問題がなければ行政も違法とは言わないでしょうけど、途中で事故にあったりしたときに問題になる恐れがあります。
容器包装リサイクル法の帳簿は絶対に必要です。費用支払いについては、商工会議所などとよく相談してください。レジ袋を敷地内ですべて回収しているという理屈は言わないほうが良いのではないでしょうか。
御社所有のパソコンなどは御社の廃棄物として処理することが必要です。ただ都市部でなければあまり難しいことを言わない自治体が多いですから、工場の廃棄物と一緒にしてよいかどうかについては、行政に問い合わせる甲斐はあるでしょう。だめならそれまでです。
でも冷凍ショーケースはフロン回収破壊法の規制を受けるので工場にお任せはできません。御社でフロン抜き取りを依頼する手順は決めておかなければなりません。
また今後、工場の外で剪定やリフォームをするようになると、その作業から発生する廃棄物の処理をしっかりする必要がありますね」
廣井
「山田君が変な質問、つまり法律とか専門語を使ったら知らない振りをしようともくろんでいたが、普通の言葉で来られると知らないとは言えないので困ったよ。返り討ちにはできなかった」

本日の反省
N様の注文である「監査を受ける側がまったく知識がないトンチンカンな事例」を書くつもりだったが、とてもその要求に応えることはできないことがわかった。
監査員が平易な言葉で質問すれば、必ずまっとうな回答が得られるように思う。現実に私は、法律を知らない人や監査を受けたことのない人を相手に長年監査をしてきた。そして監査にならないとか、手におえないと感じたことはない。相手に分かる言葉で質問すれば、回答は得られる。それ以前に、難しい言葉で質問する人は自分が知りたいことを理解していないのではないだろうか?
ISO審査で「規格〇○で決めていることにはどのように対応していますか?」というご質問は、私にはまったく理解できない。ご質問ではなく、誤質問だろう。
〇○には4.3とか、5.5.3とかいう番号が入る
規格〇○で決めていることを、その組織が満たしているかどうかは、現実や文書や記録をみて、審査員が考えることだ。相手に満たしていることを説明させようとすること自体おかしなことだ。
ISO審査で、項番を語ったり、ISO用語を使うような審査員は、節穴審査員どころか、トーシロ審査員だろう。おっと、そうするとISO審査員の大多数はトーシロということなのだろうか 
トーシロとは
素人の倒置語。類似なものに、「ねえちゃん」を「ちゃんねえ」、「場所」を「ショバ」、「種」を「ネタ」などの例がある。



N様からお便りを頂きました(2012.05.09)
ケーススタディ 監査員教育5を読みました
考えさせられる内容でした。
審査の時に、先方の担当者と言い合いになり怒らせるとか、指摘した内容の合意が得られないということも聞くことがあります。
会話が成り立つということはどんな意味を持つのだろう。逆に会話が成り立たないとはどういうことだろう。常に考えていることが必要なはずです。
本来ビジネスをまっとうにやっていれば、お客さんとの対峙では当然考えていなければいけないことなのに、できていないということだろうと感じます。
おばQ様の「ケーススタディ 監査員教育5」を読んで、ドラッガーの本に書いてあった言葉を思い出しました。
大工と話をするときは大工の言葉を使え。 −ソクラテス

N様 いつもありがとうございます。
N様のご依頼の「かみ合わない監査」を考えるのが私には難しいことがわかりました。
と言いますのは、私の場合、どんなサーブを出されても、レシーブを返されても、それに合わせてしまうからです。
例えば、時候の挨拶ならいざ知らず、双方に、言いたいこと、聞きたいことがあるならば、コミュニケーションを実現しようと双方が頑張るはずなのです。
大げさなことではありません。昨日、老人福祉センターというところに行ってきました。(私もれっきとした老人なのです)囲碁の部屋がどこか知りたかったのですが、窓口には誰もいません。ロビーで佇んでいるご老人(私より10歳は上)に「すみません、囲碁はどこでしょうか?」と聞きましたら、片手を耳に当てて「はあ?」と・・
これは聞く相手を間違えたかと思いましたが、ほかにいなければ大きな声で改めて囲碁はどこかと聞きました。
つまらないことですが、自分が言いたいことを聞いてもらう、相手の語ることを理解しようという双方向の努力によってコミュニケーションは成り立つと思います。
相手が法律を知らないという状況において、自分は知っているから偉いんだと思ったところで1円にもなりません。自分が語ることを相手が理解できない場合、相手が愚かだと断定したところで何の得もありません。
ISO審査の場合は、審査員は相手が理解できないと、この会社はレベルが低いといって済むのでしょうか?
そんなことはないですよね、なんとかしてその組織が規格を満たしているか、満たしていないかを調査確認しようとするはずです。
だって、ISOの言葉を知らなくても、規格を知らなくても、会社がISOを満たしているならそれは規格適合のはずです。そうかどうかを確認するのがISO審査員で、それを達成してお金をもらっているはずです。
少なくても、ISO9001、ISO14001、ISO17021には組織のメンバーが規格を理解していることを求めていません。ISO審査では、規格を知っているかではなく、ぜひとも規格を満たしているかをチェックしてほしいですね。


外資社員様からお便りを頂きました(2012.05.11)
佐為さま
確かに内容は「大工の言葉」で行われて、判りやすくて突っ込めません。
ということで、変な所にツッコミです。
駐車場やテニスコートの廃棄物を敷地外の公道を運ぶのは、その会社の人か廃棄物業者でないとできないのです。
廃棄物の運搬についてです。これは「産業廃棄物収集運搬許可」の事と思います。
これに関して、許可が必要なのは「業として請け負う」場合ではありませんか?
自社の出した廃棄物を、離れた事業所間や、持ち込みの為に廃棄場まで運ぶのは「業として請け負う」のではありませんので対象にならないと思います。
これは、仕事で出た廃棄物の扱いにも影響されますが、自社の清掃(草刈)で出た自社のゴミと考えれば、自社のものですよね。
委託元の会社のゴミだと考えれば、自社のゴミではなく、委託元の会社の指定場所へ運ぶので、自社が処分する事は無いと思います。
ここで指定場所まで運ぶ事を産業廃棄物収集運搬と考えられなくはありませんが、委託を受けているのはあくまで清掃や管理であり、ゴミ運びは副次的なもので、業と言えないと思います。
如何でしょうか?
産業廃棄物関連は、知らない分野でもありますので、固有の事情や解釈があれば、ぜひ知りたいです
よろしくお願いします。

外資社員様 まいどありがとうございます。
私の駄文をお読みいただき感謝いたします。
おっしゃるとおり私の文章も穴が多いですね。反省します。しっかり考えていないからでしょう。
まず廃棄物の収集運搬は、産廃、一廃ともに許可がなければ運べません。しかし外資社員様がおっしゃるように、雑草の処理全部を請け負ったとすると、自分の業から発生した廃棄物は当然自分が処理しなければならず、それには運搬も含まれますから合法です。
しかしこのケースにおいては、発生した廃棄物を工場まで運んできて、工場の廃棄物として出しています。それで雑草の処理を請け負ったのではなく、単に作業を請け負ったことを意味したつもりです。そうすると工場の一廃を許可のない子会社が運搬していることになります。
この場合であっても、一廃は大家がまとめて処理することは合法ですから、子会社の事業で発生した一廃を親会社がまとめて処理しているという理屈があるでしょう。それで問題ないかもしれません。
ただ、テニスコートの場合、雑草については駐車場と同じ考えができますが、吸い殻やペットボトルその他のごみは、請け負った子会社の事業から発生したとはみなせません。子会社が関わる前からそれは廃棄物だからです。
小泉さんの規制緩和で、下請けの運搬ができるのは環廃産発050325002(平成17年03月25日)では当該事業者の構内又は建物内で行われる場合となっています。
しかしそれについて「規制改革通知に関するQ&A集」(平成17年7月4日)というのがあります。
そこで
Q8.事業の範囲として構外又は建物外で行われる場合で「個別の指揮監督権」が確実に及ぶことはありうるのか。
A.構外又は建物外で行われる場合には、一般的には個別の指揮監督権が及ぶと認めることは難しいと考えるが、実質的に構内又は建物内と同等の指揮監督権が及ぶと認められる客観的要素があれば、本通知が適用可能である。御質問のケースについては、本通知の趣旨を踏まえ、都道府県等により個別具体的に判断されることとなる。

とあります。
つまり最終的には都道府県の判断ということになります。このように雑草、ペットボトル、吸い殻程度を運んでいるケースで、行政の担当官が「許可なく収集運搬しているから違法」というかどうかは定かではありませんが、それは裁量範囲であって、ダメと言われる可能性もあります。
私も現実には確信のないことを断定するようなアブナイ橋は渡らない主義ですので、ここでは 工場管理課と相談して、行政に非公式に確認しておいたほうがよろしいでしょう として、OKか否かを確認してほしいというニュアンスにしているつもりです。
ということでご了解いただけるでしょうか?


外資社員様からお便りを頂きました(2012.05.12)
お答え有難うございます。とてもよく判りました。
吸い殻やペットボトルその他のごみは、請け負った子会社の事業から発生したとはみなせません。子会社が関わる前からそれは廃棄物だからです。
この部分があるのですね。 何となく 吸い殻、ペットボトルは一般ゴミとしてムニャムニャとしたいのですが、
家電や、廃車など不法投棄される場合もあるので、そうした場合には、どうにもならないですね。
ご教示有難うございます。
余談ですが、下請けの立場の経験から言えば、委託先が「判ったお客さん」ならば運搬業許可の無い下請けに無理に片付けろとは言わないのですが、判っていないお客さんは、廃車だろうが「警察に言うなりして、どうにかしてよ」などとトンでも無い事を言います。
廃車は、まず所有者確認をしないと、移動も廃棄もできないのですね。 公道でなく構内ならば警察はどうにもしてくれません。
ましてやナンバーがないと、車両番号から追うのですが...、はては裁判所に申し立てて強制執行が無ければ、合法的には動かす事もできません。
ケース・スタディでの、意地悪質問は、いくらでも浮かびそうです。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
廃棄物に限らず、現場の問題のバリエーションに限りはありません。そして現実の問題は単純明快なものはなく、判断に迷うことばかりです。
私はここでは言いたい放題書いていますが、仕事ではそんなことをしてません。ISOの解釈だって、独りよがりでは恥をかくだけですから、不明なことはISOのTC委員とか認証機関の複数のえらいさんに確認するなどしていました。それは社会人として当然です。
腰が引けているかもしれませんが、法律に関わることは、基本原則は行政の指導を仰ぐということです。
廃棄物専門の弁護士というのもいますが、彼らが言うのが100%正しいわけではありません。「裁判やりましょう」なんていう言葉に乗せられて、裁判するのはアホというもの。だって弁護士が大丈夫と言ったところで勝てるかどうかわかりません。弁護士は勝っても負けてもお金になります。
行政に問い合わせして、それに従っていれば少なくても訴えられることはありません。弱気ですがそれが安全サイドです。 特許とか品質問題であれば、事業そのものですから、裁判という選択肢もあるでしょうけど、廃棄物とか届出などで騒ぐのは戦術としておかしいと思います。
なお、お客様から無理難題というのは・・・ありますねえ。お客様が行政という場合も(ナイショ)


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