ケーススタディ 不法投棄

12.07.24
ISOケーススタディシリーズとは

転勤していった森本は早朝から会社に来ていたが、今度異動してきた五反田は始業時間間際にならないと出勤してこない。別にそれが良い悪いということではないが、横山は朝の話し相手がいなくなり、つまらなそうだ。その分山田に話しかけてくるかと思いきや、山田にも話しかけなくなった。
山田はコーヒーをついで座るとメールのチェックをする。今朝はメールが少ない。メールボックスにたまったメールが始業前に片付かるはずはないが、山田は件数を見て少し安心した。コーヒーを飲んで少しはゆっくりできるだろう。

そんなことを思っていると社内用携帯が鳴った。
山田
「はい環境保護部です」
大林
「総務の大林ですけど、山田さんですか?」
以前、大林とはオフィス省エネ活動で一緒だった。
山田
「ハイ山田です。ご無沙汰ですね」
大林
「山田さん、大変なことが起きたのよ、助けになってほしいの」
山田
「どうしたのですか?」
大林
「本社で廃棄物処理を委託している廃棄物業者が不法投棄で捕まったのよー」
山田
「それはただ事ではありませんね。詳細を教えてください。どうしましょう、そちらに伺いますか?」
大林
「いえ、私が今行くから付き合ってちょうだい」


大林はすぐに現れた。顔色が良くない。
山田は打ち合わせコーナーに大林を案内した。
山田
「まず状況を教えてください」
大林
「昨夜テレビを観たんですよ〜、本社で産業廃棄物を委託している中間処理業者の洞蕗(ほらふき)クリーンが捕まったって昨夜放送されたんです」
一応「洞蕗クリーン」という会社が存在するかどうか調べた。なかった。
山田
「大林さん、落ち着いてください。詳細を教えてください」
大林
「ネットに載っています」
山田はインターネットのニュースを探した。
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洞蕗クリーン不法投棄で関係者逮捕


 都内でオフィスビルを相手に手広く営業している産業廃棄物業者である洞蕗クリーンが、什器その他オフィスからの産業廃棄物を、山林に大量に不法投棄したとして、警視庁は同社社長 洞蕗大輔(ほらふきだいすけ)(62歳)と同社専務 割井康太(わるいやつた)(51歳)を廃棄物処理法違反の疑いで逮捕した。


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不法投棄されたのは丸の内、大手町に所在するビルから排出されたものがほとんどとみられる。
警視庁は今後排出者責任について調査を進めるという。
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これを作るのにどういう方法がいいか小1時間も考えてしまったバカな私です。
おっと、絵にしてしまうなら簡単ですよ。でも可能な限り、画像にしないで表示するというのが私の信条ですから・・
でもこの形を見て、すぐに思いついた人っているかな?


山田
「分りました。大林さん、それで当社はこの洞蕗クリーンにだいぶ頼んでいたんですか?」
大林
「そうなのよ。毎月くらい。特に人事異動のある4月と10月は、オフィス机とか入れ替えるし、異動する人たちが私物や書類を整理するので廃棄物が大量に出るのよ。
ここには写真がないけど昨夜テレビで放送した山林に積み上げられた廃棄物の映像を見て私は本社が出した廃棄物って一目でわかったわ〜。
山田さんご存じでしょう。措置命令って、当社の名前が出るでしょうし、いくら請求が来るのかしら〜、あ〜、あたしの責任だわ〜」
もうかなりヒステリー状況だ。
山田
「そんなに簡単に措置命令が来ることはありませんよ。措置命令って年に何件出ていると思うんですか。せいぜいが30件くらいですよ」
大林
「ひょっとしたら罰金や懲役かもしれないわ〜」
山田
「まず当社が法規制を遵守していたかどうかが最大のポイントです。法的に問題がなければ刑罰が科せられることはありません。とりあえず状況は伺いましたので、始業後に総務に伺います。そのとき詳細を打ち合わせましょう」
大林
「山田さん、よろしくお願いしますね」
大林が消えてから、山田はメールのタイトルをざっと眺めて大した問題がないことを確認した。それからサイボウズで予定を確認したが、藤本部長と教育の打ち合わせをすることだけだ。他に工場に再来月の環境監査への派遣依頼をすることがあるが、一日二日遅れても問題ないだろう。監査報告書の督促をしなければならないものもない。山田は藤本部長と五反田を一緒に連れて行こうと考えた。


始業のベルが鳴ると山田は二人を連れて総務に行った。
総務の会議室には、大林 の他に中村総務課長 、それに実際の廃棄物管理をしている子会社の鷽ビル管理(株)の富永課長 がいた。富永は課長といっても実際は平社員の実務担当者だが。
大林中村課長富永課長
大林中村課長鷽ビル管理の
富永課長
中村課長
「山田課長、お忙しいところまことにすみません。状況はお聞きと思いますが、我々は何をしたらよいのか、そのへんから教えてください」
山田
「中村課長さん、とにかく当社の遵法状況を確認することが必要です。行政は洞蕗クリーンに委託している会社をたどって、やがては当社にも調べに来ると思います。大林さんが措置命令をご心配されていますが、当社の遵法が確実であれば心配はいりません。逆に不適切なところがあれば、措置命令では済まなくなる恐れもあります」
中村課長
「措置命令で済まないとなるとどうなるのですか?」
山田
「内容次第ですが、最悪の場合、懲役や罰金もあり得ます。まあ通常は違反があれば、それを根拠に措置命令ということになるでしょう。まずは現状を確認することが必要です。今しなければならないことは次のようになります」
山田は立ち上がりホワイトボードに書きだした。
項目 実施事項 対象文書・帳票 担当
遵法確認 法で定められていることの実施状況点検 契約書
マニフェスト
WDS
現地調査
法的届出
資格者(届出)
藤本
五反田
富永
洞蕗クリーンへの委託状況 委託した廃棄物の処理状況確認 マニフェスト回収状況 大林
山田
(富永)

報道されたものの調査 映像の確認 画像入手できないか 大林
山田


山田
「まあ上記項目は明確に分けられず重なるところがありますが、とりあえず現状調査を行って、当社に問題があるかないかを把握しなければ次に進めませんね」
中村課長
「山田課長、私の理解するところ、まず部屋を一つ確保して、書類を一式集めること。ここにいる全員がすぐ仕事ができる体制を作ることですね」
山田
「そうしていただければ仕事が早いですね。でも部屋を確保するなんてできるんですか?」

中村課長
中村課長はすぐに携帯をかけた。
「おお、おれだ。あのさ、会議室ひとつ1週間くらい必要になった。・・10人くらい入れるのが良いな。・・4階の第403会議室? それでいい、じゃあ、そこを工事中にして予約不可にしろ。うんうん、ヨッシャ」

それを聞いて山田は総務の連中はこんな自分勝手なことをするのかと苦い顔をした。他の部門で会議室を確保したいときは、それは大変な手続きを要求されるのだ。まあ、こういう人たちと仲良くなっていれば便利なときもあるだろう。
山田
「それじゃ、富永課長さん、とりあえずここに書いた書類をその会議室に持ってきてくれませんか。すぐにお願いします」
富永が退出していく。
山田
「五反田さん、書類が全部そろえば遵法確認はどれくらいでできるかな?」
五反田
「量にもよりますが、工場ではないのでそんなにないと思いますので2日あれば終わるでしょう」
山田
「じゃ、藤本さん、五反田さんは今からチェックをしてほしい。五反田さんが指揮を執って行ってほしい。と、そのまえにチェックする項目をまとめてチェックリストを作ること。また点検の記録をとっておくようにすることをお願いします」
五反田
「了解しました。私はいったん事務所に戻りチェックリストを作ります。1時間位ください。
藤本部長はその間、富永さんが持ってきた書類を、品目ごと、年度ごとに分けておいてください。ええと法律では5年が時効ですから、過去6年間チェックすることにしましょう」
藤本
「了解した。じゃあ、僕は403会議室で富永さんから受け取って書類の内容確認と年度ごとの振り分けをしておく」
二人が退席
山田
「大林さん、テレビでご覧になったと言いましたが、そのテレビの映像をみることができませんか?」
中村課長
「既に広報課に頼んでその映像をテレビ局から入手している。コピーしたのがここにある」
へえ、総務は力があるものだ、それにすることが早いと山田は感心した。
山田はコピーを手に取った。
大林
「そこに捨てられている段ボールが写っているでしょう。その段ボールに『鷽機械工業』って印刷されているのが見えるでしょう」
山田
「当社の段ボールなんていくらでもあるでしょうけど・・・」
大林
「その段ボール箱に『本社4階』ってマジックで書いてあるのわかります?」
なるほど、そう言われるとそのように見える。
大林
「それを書いたのは私なのよ」
なるほど、そういうことなら間違いはない。
山田
「じゃあ、ホワイトボードに書いた3番目はもう完了ですか。それじゃ次に進みましょう。中村課長さん、失礼ですが課長さんはいても仕事がありません。お忙しいでしょうから、とりあえず午前中は本来のお仕事をしていていただけますか。進展があれば都度報告します」
中村課長
「山田課長、大変申し訳ない。よろしくお願いします。大林君、人がほしいとかなにかあれば連絡くれ」
大林と山田は403会議室に移動した。


403会議室に入ると、藤本と富永が二人で机の上の書類をえり分けている。
藤本
「山田さん、今過去6年分のものを年度ごとに机を分けておいています。年度は紙に書いて貼ってあります」
なるほどよく見るとA4サイズの紙にマジックで「〇○年度」と代書してセロテープで止めている。そしてその机の上に更に「契約書」「マニフェスト」などと紙が貼ってあり、それぞれに小山ができている。

2008年

廃棄物契約書
一式

2009年

廃棄物契約書
一式

2010年

廃棄物契約書
一式

2011年

廃棄物契約書
一式

2012年

廃棄物契約書
一式
山田
「いや、大変わかりやすいですね。もうあらかた終わったのですか?」
藤本
「7割方は終わりました。富永課長、もう漏れはないですね?」
富永課長
「各年度に依頼した廃棄物のリストがあります。それを基にマニフェストの漏れがないか確認すれば大丈夫です。
契約書はマニフェストに記載してあるものが全部あるかをチェックすればいいと思います」
山田
「契約書は自動継続で長年有効なものもあるでしょう」
富永課長
「当社では自動延長の条項を設けていないのです。ですから年度ごとに一対一で対応します」
山田
「それはすばらしい管理状況ですね。マニフェストは電子も紙もあるのですか?」
富永課長
「現時点両方使っています。洞蕗クリーンはまだ紙です」
山田
「ではまず今回の件のマニフェストを見たいのですが」
藤本
「山田さん、今年発行のものはこの机だよ」
山田と大林はその机に向かう。
山田
「富永さん、今回の洞蕗クリーンに頼んだものはどれでしょうか?」
富永課長
「洞蕗クリーンに委託したのは今年5回ありまして、5回分ここに揃えています」
山田は洞蕗クリーンのマニフェスト5件を手に取った。他のメンバーが取り囲む。
山田
「はあ、5件ともE票までみんな戻ってきているのですね。大林さん、例の段ボールはどのマニフェストでしょうか?」
大林は日付をみて一つを選んだ。
大林
「ああ、これだわ・・」
山田
「中身は廃プラで、最終処分地はと・・・○県で破砕後、同県で埋め立てになっていますね。書類上は問題なしと・・
このダンボールに入っていた物が何か分りますか?」
大林
「富永さん、把握できます?」
富永課長
「各階ごとにまとめて段ボールに放り込んでいましたので、詳細はわかりませんね」
山田
「中身は廃プラだけでなく、紙の書類などはありませんでしたか?」
富永課長
「基本的に秘密でない書類は通常の古紙回収業者に出しています。機密扱いは特に契約した業者が製紙会社に運ぶことにしています。だから紙の書類は入っていないはずです」
山田
「となるとこの箱に入れた産廃というのはどんな代物なんですか?」
富永課長
「今現在、オフィスにあるものというと、分類はほとんど産廃それも廃プラになるのですよ。プラスチックの定規、CD、DVD、USBメモリー、今でも机の片づけをするとフロッピィなんても出てきます。はさみ、カッター、ホチキス、クリップ、ボールペン、マーカー、消しゴム、指サック、文鎮、ステック糊、壊れたマウス、マウスパッド、VDT用エプロン、モニターの前に付けるフィルタ・・電磁波の悪影響はないっていうことになってますが、女性の方は気にして自費で購入して使っている人って結構いるのですよ。
その他パソコン掃除用のブラシ、USB扇風機、USB電源のLED照明・・省エネがきつくなって昼休み消灯になってからこれを付けている人が多いんですよね、ほんとの省エネになっているのかね?
その他お人形さん・・フィギュアっていうんですか、今時の人は机の上にそんなのを置くのが趣味みたいでね。お人形といってもガンダムだとかワンピースだとか、わしのような年寄りの者にはわからんね」
山田
「なるほど、そう言われるとオフィスの机の上は一廃ではなく産廃ばかりなのですね」

五反田
五反田がプリントした紙を抱えてはいってきた。
「遅くなってすみません。藤本さん、富永さん、ちょっと打ち合わせ、いいですか?」
五反田が3人に手順を説明している。
大林
「これからどんなことになるのでしょうか?」

山田
山田は大林に話を始めた。
「これから調べることによって分岐が多くあります。それによって判断も変わり扱いも変わります。
まず不法投棄された物が当社のものと判明したとすると、中身が問題です。一廃とはご存じでしょうけど紙や残飯あるいは木製品などですが、そういったものがあれば一廃を産廃業者に処理委託したという問題になります。先ほど富永さんが説明したように紙類は古紙回収業者に行っているとすれば問題ない。残飯などは弁当は弁当業者が回収して、コンビニ弁当などはビル管理会社が一括して処理していますから心配ないでしょう。だから中身が産廃だけであれば、まずはそれはパスします。
マニフェスト伝票上は適正処理していることになっているので、それも問題ない。返却までの日数が妥当かどうかなどこれから細かく見る必要はあります。
さて、洞蕗クリーンに頼んだ廃棄物に関して当社の問題はないとなった場合ですが、それでおしまいになるわけではありません。行政は洞蕗クリーン以外に委託した廃棄物についても当社の廃棄物管理状況や、契約書やその他をチェックするでしょう。そして、瑕疵があればそれを問題にします。だから廃棄物管理全般について遵法を確認しなければならない。それはこれから五反田さんたちが確認します」
大林
「洞蕗クリーン以外の、契約書、マニフェストなどに問題があればどうなるのでしょうか?」
山田
「建前から言えば罰金や懲役刑があります。ただ私の経験からは、事件がない場合そういう瑕疵があれば罰則などなく単に指導とか、せいぜいが保険所長名か市の環境部署長名で事業所長に改善命令が来る程度です。そして事件に関係した場合、契約書を締結していないような重大問題であれば処罰されるでしょうけど・・おっと、その場合でも略式命令つまり罰金100万以下というのが99%ですが。それほど重大でない、契約書の要件漏れなどであれば、処罰しないで、洞蕗クリーンの廃棄物処理について措置命令ということになるでしょうね。こちらだって刑事罰より行政命令で手が打てるならうれしいでしょう」
大林
「ではこれからのチェックで問題がないことを祈ります。それで問題がなければ・・」
山田
「基本的には全く問題なしとなります。但し、洞蕗クリーンに大金があるとはおもえません。だって儲かっているなら不法投棄なんて危ないことしませんよ。だから不法投棄された廃棄物の撤去をするには行政が、つまり自治体がお金をかけて行うわけです。そのお金は元々予算があるわけではありません。まあどちらにしても税金なんですが。それで不法投棄した廃棄物業者にそれまで処理を委託していた会社に協力金を求めることになるでしょうね」
大林
「つまりまったく法違反をしていなくてもお金を払う事になるということですか?」
山田
「まあ払うというか寄付するというか」
大林
「理屈から言えばおかしいけど、一般市民からみれば委託していた会社はそれまで安く処理委託していたのだから当然という感覚にもなりますね」
山田
「もちろんそのとき払う、いや協力するかしないかは当方の判断でしょうし、そもそも行政から話が来るかどうか全くわかりませんよ。今まだ状況が分からないのですから、仮定を積み重ねた話をしてもしかたありません」


五反田をリーダーとしてチェック作業が行われた。山田もチェックを手伝い、大林は部屋をうろうろしていた。富永は仕事があると言って外に行ってしまった。
それでも廃棄物業者が数多くないこと、大林と富永が契約書などの書類をきれいに分けていたので順調に進んだのだ。
定時30分前に山田は五反田に今日の仕事はいったん終了し、今までのチェック結果をまとめるように言った。五反田は集計し、山田に報告した。
山田は確認後、大林に中村課長に来てもらうように頼んだ。


山田
「本日、チェックはほぼ7割終了しました。申し訳ありませんが、残業は各自、自席で急ぎの仕事などの処理をさせてもらいます。よって本日はこれで終了とします。続きは明日朝から開始します。明日の昼には全件チェック完了予定です。それによって対策を明日午後に打ち合わせたいと思います。
本日のチェック結果ですが、洞蕗クリーンに委託した件については法的に問題はありません。ただ行政は不法投棄に絡んだ会社に来て、廃棄物管理に関して洞蕗クリーンだけでなく、それ以外の業者に委託したものについても調査して、瑕疵があるとそれを問題にします。現在その他の廃棄物関係の書類を全数チェックしているところです。
今までのところ、契約書の不備が数件、マニフェストの記載漏れが数件、回収期限超過が数件あります。この対処はあわててもしょうがありませんし、明日最終的な結果が出てから考えましょう。修正などは有印私文書に該当するのでできません。
本日は以上です」
中村課長
「わかりました。申し訳ありませんが明日もよろしくお願いします。そしてその今お話のありました不具合の処理についてもアドバイス願います」



山田たちが事務所に戻ってくるとツカツカと横山がやってきた。
横山
「山田さん、ひどいんじゃないですか!」
大声だったので、廣井も中野も顔を上げて横山と山田の方を見た。
山田
「横山さん、ちょっとちょっと、私が何か悪いことしましたか?」
横山
先日地下水汚染があったとき、これから問題が起きたら私も参加させてってお願いしたでしょう」
そう言えばそんなことがあったと山田は思い出した。
横山
「それなのに今回は本社の中なのに声もかけてくれないってひどい!」
山田はうっかり忘れていたと思ったものの、横山も大人げないと思った。彼女だって30だろう。
山田
「今日は突発的だったからね。私が横山さんに直接指示命令はできないでしょう。中野さんの了解を得なければならないのはわかりますよね」
横山
「朝、総務の大林さんが来たときいたのは私だけだったでしょう。私は声がかかるかと期待していたんですよ」

山田
山田はヤレヤレと言う顔をして、向かい側に座っている中野に声をかけた。
「中野さん、すみません、申し訳ありませんが明日一日横山さんを私のグループの応援をお願いできませんか」
中野
「やむを得ないでしょう、横山さんも自分中心ではなく、もう少し周りを見て考えないといけないよ」


翌朝は始業時から昨日の続きのチェックを行った。今日は横山が参加したので点検者は藤本、五反田、横山の三人だ。山田が横山を見ると、五反田の指導を受けてなんとかやっているようだ。
富永はまた何か言い訳をして姿を消してしまった。
山田はホワイトボードにそれまでのチェック結果をまとめ、仮の対応案を書いてみた。

項目 状況 結果 重大性 対策案
契約書 許可証不添付 1件
数量記載漏れ 1件
問題あり 懲役罰金あり
現状はOKなので手を打たない
マニフェスト 最終処分地記載なし 5件
回収期限超過に手を打っていない 2件
問題あり 懲役罰金あり 問合せしておく

これはどうするか?
WDS 全部交付済 OK    
現地調査 調査内容がプア 努力義務
罰則はない
手を打たない
マニフェスト交付状況報告 実際の交付枚数と報告の誤差あり 2件 問題あり 罰則はない
特管産廃資格者届出 届出済 OK    
特管産廃帳簿 法改正前のものあり OK    

チェックが終わったのは、予定をオーバーして午後3時頃になった。
山田は五反田の報告を聞いてリアルタイムで加除修正していったので、チェック作業がおわったのとまとめが終わったのは同時だった。
山田は大林に中村課長を呼んでもらった。ほどなく中村課長と富永課長が登場。
山田
「まず法では時効が5年ですが、措置命令は時効がありません。ただ措置命令は具体的被害の発生若しくは発生の恐れがなければ出されません。形式犯にはないということです。今回は過去6年間について点検しました。その結果、洞蕗クリーンについて書面上の問題はありませんでした。
他の廃棄物業者との契約書の不備が2件、マニフェストの不備が9件ありました。
そのうち契約書については過去のものに記載不足があったもので、現時点有効なものは問題がないので、これは手を打つ意味がないと思います。というより手の打ちようがありません。過去にさかのぼって覚書を締結しても偽装にしか見えません。
マニフェストについては最終処分地の記載なしは今から書くのは改ざんになってしまいますので、中間処理業者に該当のマニフェストのものをどこに処分したかを問い合わせ、二次マニフェストの写しなどを入手してこちらがそれを判断した書面を作って添付・保管しておくことを薦めます。
回収期限超過は、どうしましょうかねえ〜、期限が過ぎても返ってきていること、それと2年前ですからね。法律では30日以内に行政に報告しなければなりませんが、今更行政に報告してもしょうがないでしょうねえ。
マニフェスト交付状況報告の枚数間違いですが、これ2年前ですからね〜、これも今更修正報告してもどうでしょうかねえ? 罰則はないけど一応しておいた方が後腐れないでしょうかねえ〜」
中村課長
「分りました。ありがとうございます。まとめていただいたものを法務部に相談して対応を決めたいと思います」
山田
「それが間違いありませんね。法務部と顧問弁護士に相談しておけば、総務としての対応に問題はないでしょう。なにかありましたら環境保護部にも声をかけてください」
中村課長
「すぐさま対策しましょう。大林さん、富永課長、予定を立てて進めてください」
大林
「富永課長、環境保護部のメンバーが見つけた不具合は、そもそも鷽ビル管理会社のミスのわけですよね。それについて、お宅ではどうお考えなんでしょうか?」
富永課長
「そう言われましても、私どもは言われた通り業務を行っているつもりでして・・」
大林
「でも当方から、マニフェストの記載漏れがあってもよいとか、定期報告のマニフェスト枚数が間違えても良いと、指示しているわけではありませんよ」
富永課長
「しかし定期報告はお宅様の総務部長さんが決裁印を押して東京都に報告しているわけでして、最終的な責任は総務部にあるんじゃないですか」
大林
んなー、じゃあ、もう今後お宅にお仕事を頼むことはありませんよ! 覚悟してちょうだい」
中村課長
「大林さん、それはまた別途、総務部と鷽ビル管理との間でお話をもちましょう。
山田課長、いつまでに対策すれば良いのでしょうか? 一日二日ではできないようですので」
山田
「中村課長さん、もし行政が立ち入りに来るにしても数か月か半年先ですよ。
ともかく今日以降は遵法を徹底して運用してください。それから書類の保管期間は5年ですから、期限が過ぎたら即廃棄することですね。証拠書類はあったほうが良いものとないほうが良いものがありますから、法で定める保管期間が経過したら廃棄しておいた方がいろいろとよろしいでしょう」
中村課長
「いろいろとね、了解しました」



環境保護部のメンバーが事務所に引き上げてきて山田が言った。
山田
「やれやれ、お疲れ様でした。ちょっと休憩しましょう」
四人は、打ち合わせコーナーに座りこんでコーヒーを飲んだ。

五反田   山田
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藤本 横山
五反田
「いや、今回は大変ためになる経験をしました」
山田
「五反田さん、ここに1年いればいろいろなトラブルの経験ができますよ。バラエティに富んでますから楽しみにしてください」
藤本
「五反田さんは廃棄物に非常にお詳しいですなあ〜、やはり経験のたまものですね。昨日と今日、ご一緒させていただいて大変勉強になりました」
五反田
「いやとんでもありません。私は廃棄物なら詳しいと自認していましたが、とても山田さんには及ばないことがわかりました。今回もいろいろな問題があって、どう判断するのかと思ってましたが、私たちがチェック終わったときには山田さんは対策案を決めちゃってましたからね」
藤本
「しかし、本社の廃棄物の実務を委託している鷽ビル管理の富永課長のやる気のなさというか、責任感のなさには恐れ入ったね。あれは問題だね」
五反田
「おっしゃる通りですね。ちょっとというか大いに問題です」
藤本
「五反田さんの考えているビジネスで、こんな事件が起きたらどうするのでしょうか?」
五反田
「うーん、正直なこと言って想定していませんでしたね。でも鷽ビル管理のように、責任転嫁するわけにはいきませんね。というのは鷽ビル管理は、廃棄物管理の仕事を返上しても清掃や照明・消火器の点検などで食べていけるでしょうけど、環境管理会社は環境管理がレゾンデートルそのものですから逃げることができません」
山田
「五反田さん、このような事件からビジネスのタネを考えてくださいね。
それと藤本さん、今回の非製造業教育にも今回の件も含めて過去の事故事件が反映されているかを再確認してください」

廣井
../coffee.gif 給茶機のところでコーヒーを飲んでいた廣井が言った。
「おい山田君、非製造業の環境教育の対象には、本社総務部とその下請を忘れずに入れておくんだぞ」
山田
「承知しました。灯台下暗しですね」
廣井
「それを言うなら、蛇の足より人の足というんじゃないか?」
蛇の足より人の足 ( へびのあしよりひとのあし )とは、足もとに気をつけよということ。

うそ800 本日のご質問の予想
こんな問題がいつも起きているのかという疑問を持たれた方へ
こんなことが日常的に起きていたらヘトヘトになってしまいます。せいぜい年に数件くらいに止めておいてほしいですね。
おっと、まったく発生しないと環境保護部のありがたみが薄れてしまいますから、ゼロでも困ります。



外資社員様からお便りを頂きました(2012.07.24)
おばQさま いつもながら、生々しい、リアルな内容で、関係者の対応やセリフも含めて、いかにもありそうだと感じました。
また、ホームページも、広告まであって、思わずクリックしそうになりました。
いつも、人物の絵が、とても面白いし、一見で どんな人か予想できる雰囲気です。
もしかして、シナリオ作成などは、お得意なのでは?

内容でリアルと思ったのは、当然 私自身も似たような経験がある部分です。
1)親会社の社員が、直接の責任が無いにも関わらず 委託先子会社に「もうお宅とは取引しない」と叫ぶ。
大手の会社の人は、子会社や委託先の立場や気持ちには無頓着ですね。
掛け声では、下請け保護だの、コンプライアンスだと言いながら、気分で対応する人は多いです。
これは、その人の問題というよりも、下請けという立場の経験がないからなのでしょうね。
ケーススタディでは、それを聞いていた他の人が止めましたが、普通は こういう大人の対応を期待できません。
多分、「善意の第三者」などと言っても、聞いてすらくれないでしょうね。

2)廃棄業者のモラル
信頼できる廃棄物処理業者かの判断は、大変 難しいですね。
仰る通り、経営が厳しくなると不法投棄をして、結局 倒産というサイクルです。
不動産取引では、更新回数の明示がされているので、これが大きな業者は信頼できるというとりあえずの目安にはなります。
廃棄物処理業者は、まだ歴史が短いせいもあるし、殆どが中小企業です。

>洞蕗クリーン: やはりホラフキと読むのでしょうか(笑)

リアルかは不明ですが、さっそうと問題を捌く山田課長 素晴らしいですね。
こういう人は、会社の宝ですね。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
私の現役時代トラブルはたくさんありましたが、トラブルがあるほど鍛えられました。だからトラブルがない方が良いと願うべきではありませんね。
それとやはり最終的には人、人格だと思います。問題があったとき責任を負えるかどうかということが必須要件であり、技術とかアイデアでは代替えできないことだと思います。
参謀が指揮官と違うのはそこでしょう。乃木将軍の実態は知りませんが、ひたすら耐え、最後に全責任を負うということが将軍の役割と割り切るしかないように思います。武士道とは死ぬことのようです。
会社名とか人名を考えるのは結構時間を食います。洞蕗(ほらふき)ではなく、安藤クリーンでも山下クリーンでも良いわけですが、多少は遊び心があったほうが良いかと
 アッツ、石を投げないで・・・


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