ケーススタディ 認証に関するビジネス

12.07.30
ISOケーススタディシリーズとは
山田が環境監査の事務局の仕事をするのは1年ぶりになる。今までは森本が森本が監査する工場や関連会社の状況や規模に応じて、工場の環境担当者から適切と思われる監査員を選んで派遣依頼をしていた。また提出された監査報告書の内容をチェックして、監査部に報告すること、及び監査員が使えるか二度と頼んではいけないか、あるいは環境担当者として教育が必要かなどを判断し、その処置を行ってきた。
監査事務局も、それはそれで面白い仕事ではあるが、山田は1年ぶりに実務を行うと、かったるいというか、こまごました実務はご遠慮したいという気になった。山田も手を動かすよりもハンコ押しの方が楽になってしまったのだろう。とはいえ、五反田は1年後に出向元に帰るのは決まっているし、藤本もどうなるかわからない。もし二人が同時に抜けたら困るなあということも頭にある。だからこの仕事を任せてしまうのも問題だなあと思う。まあ、そのへんはなるようにしかならない。
そんなことを考えて今日も仕事をしている。


五反田
五反田が声をかけてきた。
「山田さん、今日いつでもいいのですが、ちょっと相談したいのですが・・」

山田
山田はサイボウズを見てから回答した。
「午後3時からなら空いてますよ。ところで、どんなご用件なのですか?」
五反田
「ISO認証に関するビジネスのことなんですがね・・」
山田
「了解しました。もしよろしかったら藤本さんにも入ってもらってよいかな。私のグループはなにごとも情報を共有して仕事を進めたいから」
五反田
「それは願ったりです。私から声をかけておきます。では3時ということでお願いします」



約束の時間に3人は打ち合わせコーナーに集まった。
五反田   山田
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藤本
五反田
「私のためにみなさんの貴重な時間をいただいてすみませんね~」
山田
「この職場はいつもワイワイガヤガヤでやってますから、そういうお気遣いはいりません。それにいろいろな情報に触発されて新しいアイデアが生まれます。忙しくないときはなるべく情報交換や思考実験をしたいと思いますよ」
五反田
「ありがとうございます。では本題ですが、ご相談したいのはISO認証に関するビジネスについてです。既にISO14001認証は飽和というより衰退期に入っています。そういう時期ではあるのですが、認証している企業がすぐさまヤメタとなることもないと思います。ですから今認証している会社を相手になにかビジネスがないかということを考えました。
ISO認証に関わるビジネスというと次のように分類されると思います」

時期 内容 需要 提供者
ISO認証段階 ISO認証支援
ISO教育
審査支援


ISOコンサル
研修機関
ISO認証後 事務局代行(運用代行)
内部監査代行

事務局代行業
ISOコンサル他
ISO改善段階 ダブルスタンダードからの脱却
パフォーマンス向上
内部監査員教育
内部監査員検定



ISOコンサル


内部監査員検定協会
認証機関に対して 審査員教育
契約審査員

審査員研修機関
契約審査員
藤本
「五反田さんが説明する前で恐縮だが、見ただけで新しいビジネスはないようだね」
五反田
「まあ、そうです。でもアフリカに靴を売りに行った二人のセールスマンのジョークがあったでしょう。一人は誰も靴を履いていないから見込みがないといい、一人は誰も靴を履いていないから有望だといったという、新規ビジネスがないように見えるからこそ、なにかあるかもしれません」
山田
「まず説明を聞きましょう」
五反田
「えーと、ISO認証段階においては、情報提供や教育、そして審査を受ける手伝いといったビジネスがあります。いわゆるISOコンサルというものですね。しかし、今ではISO認証に関する情報はタダでいくらでもありますし、新たに認証しようという企業は非常に少ないのでこのゾーンはビジネスになりにくい。
認証してから維持の段階を考えると、社内では手におえないから認証維持や審査の対応をしてほしいという会社はあります。そういうのを事務局代行といって、だいぶ前から商売として存在していました。これは入札などにおいてISO認証という看板がほしいという場合はそういう選択もありなんでしょうね。
また内部監査が機能していないということがよく言われています。そのため内部監査員を養成したり、内部監査の仕組みを改善することがふつうですが、そうではなく専門家に内部監査を外注した方が良いという発想から内部監査代行というものがあります。これは実はISOコンサルや親会社の担当者にとっては、CEARに審査員登録するための実施経験になるので、そちらにとって甘い仕事でもあるのです。
ISO認証して、会社を良くしようとするという段階になると、いわゆるダブスタから脱却して、パフォーマンス向上という経営のツールにするためのコンサルになると思います。
ちょっと毛色が違いますが、内部監査検定というビジネスもここに該当するのかと思います」
山田
「途中で茶々入れてすまないが、それで五反田さんが提案するのはどんなビジネスなんですか?」
五反田
「お金を払うのはそれ以上に利益が出るときだけです。だから具体的な効果が見えないことより即物的なもの、つまり売り上げが100万伸びたら50万払うとか、省エネで500万削減できれば200万払うのは納得できると思うのです」
山田
「パフォーマンス向上というのがISO認証と関係するのかといえば、関係ないのではないだろうか。ISOとは仕組みにすぎない。省エネでも廃棄物削減でも、仕組みじゃなくて行動だからね」
五反田
「でもISO14001の4.3.3で推進するのではないですか? それはISOによる成果だろうと思いますが」
藤本
「私もそれは疑問に感じている。ただ私は五反田さんとは違い、ISO14001は仕組みにも特化せず、活動にも特化せず、どちらにも言及していながら実効性もあやしいし、他のシステムとの整合もあいまいで、問題だという認識だ。そういったことは2015年版では整合が図られるのだろうか?」
山田
「私はパフォーマンス向上とはISO認証とは無関係のビジネスだと考えてます。省エネ診断やそれによる改善提案、あるいは廃棄物コンサルなんてのは過去からありましたし、ISOとは無関係です。だから先ほども言ったけどISOという枠組みの中でパフォーマンス向上を考えるのは変な気がする」
藤本
「そういうビジネスというのは元からあるが、ISOと関係ないというのは山田さんに同意だ。もう一つ問題があり、それはそういう改善提案が実際にできるのかということがある。それはシステムじゃなくて固有技術に依存するからね」
五反田
「どうも私の説明が不足ですみません。私もそういう固有技術を提供する力がありません。しかしそういう発想、アイデアを提供することはできると思うのです」
藤本
「というと?」
五反田
「ボストンコンサルティンググループだってマッキンゼーだって、固有技術があるとは思いませんが、経営の考え方を提案するというビジネスをしているわけです。我々もISOの使い方という情報提供によって対価を得るということは可能だと思います」
山田
「五反田さんの言うのは、本当の意味のISOコンサルということになるのだろうけど、現実にはISOに嫌気がさしている人や会社が多いから、今の時点でそういう需要があるとは思えないな。そういう空気を一掃して新ビジネスが受け入れられれば素晴らしいとは思うけど、どうでしょう?」
藤本
「ボストンの連中と比べられるほどの力量があるとも思えないし、ISOという切り口からではできることは限定されているよ」
山田
「環境という切り口からはいろいろと面白いものが考えられるように思う。しかし、ISOとなるともう手垢が付いていて、そしてISOはだめだという評価も多いから、新鮮味がないと思う」
五反田
「やはりパフォーマンスを上げるにしても、ISOという切り口じゃだめですかね」
山田
「はっきり言って10年遅かったと思う。10年前ならまだいろいろと手があったのではないだろうか。私もISO14001の考え方ということをもっと知らしめれば良かったということには同意です。しかし既に時期が過ぎて、その間にISOの評価は地に落ちてしまったと思う」
五反田
「山田さんの考えるISOの考え方というのはどういったものですか?」
山田
「今はJIS用語も大きく変わってしまったけど、昔は広義の品質管理は狭義の品質管理、品質保証、品質改善から成っていると説明されていた。言葉の定義も変わったし、使い方も変わり、今は広義の品質管理は品質マネジメントと言うようですけど、その基本的な考え方である3つの要素という根本は間違いないと思う。だから環境経営とは・・」
藤本
「まった、私に言わせてくれ、環境経営とは環境管理、環境保証、環境改善のみっつからなるということだね。私は品質保証的なことをずっとしてきたからそういうアナロジーで言われるとすぐピンときたよ。それはつまりこんなふうになるのかなあ?」

藤本はホワイトボードに絵を描いた。
QMS関係図
EMS関係図
藤本
「QMSにおいて品質管理(QM)とは品質管理(QC)・品質保証(QA)・品質改善(QI)で構成される。これは昔から言われている関係図だ。
これを環境管理(EM)で考えると
環境管理(EC)遵法や規格要求事項を満たすEMの部分、つまり廃棄物処理や公害対策、省エネといった工場管理やオフィスの管理
環境改善(EI)環境要求事項を満たす能力を高めるEMの部分、つまりエコファクトリー、エコプロダクツ、社会貢献などの推進
環境保証(EA)環境活動が適正であると確信を与えるEMの部分
と言えるんじゃないかな」
そして、ISO14001は環境マネジメント全般ではなく、環境保証の部分だけだったのではないだろうか?

実はこれについてはもう8年も前に書いている。誰も気にもしなかったろうけど。そういう発想・・つまりISO14001は環境マネジメントの規格ではなく、環境保証の規格であると定義して、育てていけばISO認証制度ももう少し生きながらえたかもしれない。
私はISO14001が環境マネジメントの規格とか要求事項なんて思っていない。それはそんなに大層なものじゃないんだ。仕組みの規格というか、具備すべき条件を示したものにすぎない。ISO14001を万能だと売り込んだのが間違いだろう。ISO14001は役には立つが限定的なのだ。それはISO9001も同じだ。
だが、ISOのマネジメントシステム規格がものすごい能力があるように宣伝したものだから、その期待に応えず、信頼を大幅に失ってしまったのだ。
ISO9001は品質保証にすぎない。だけどバカどもが、会社を良くするなんて嘘をついたから、逆に信頼を失ったのだ。ほめ殺しなのか、ひいきの引き倒しなのか、まあ、大失敗だね。


山田
「おっしゃるとおりです。私もそう考えています。 ISO14001が始まったとき、ISO14001は環境マネジメント全部を担うものだと考えたのは間違いだったのではないかと思います。ISO14001は環境保証だと言い切ればよかったのではないでしょうか」
五反田
「話がドンドンそれていきますが、まあ結論を得るためよりも思考実験と考えればどうでもいいんですけど・・
ISO14001は1996年版であってもISO9001の1994年版とは守備範囲が違い、広かったのではないでしょうか? だからISO9001は品質保証から脱皮して品質改善までを含むために2000年改定があったと思いますが」
山田
「ISO9001まで含めた議論になるともう乱戦ですが・・
ISO50001ができたのはISO14001が品質改善のゾーンを網羅していなかったということになるのでしょうか? それともそもそもISO50001なんて無用のものだという見方が正解かもしれませんね。私はそう考えています。
いや、情報セキュリティだってISO9001で間に合うように思います。
おっと、議論は避けませんが、とりあえずISO14001に関するビジネスを考えるという土俵に限定しましょう。
ISO14001はそもそも藤本さんが図に書かれたように環境保証に限定されていたと思うのです。その点では五反田さんのいうようにISO9001:1994よりも守備範囲が広いということはあっても、環境マネジメントの全範囲を網羅していたわけではない」

QMS改定関係
ISO9001は2000年版も2008年版も品質経営をすべて網羅しているわけではない。
品質改善の一部、狭義の品質管理の一部を含むように拡大しただけだ。

藤本
「だから環境パフォーマンスを向上させるには、ISO50001などの鬼っ子が必要になったということだと思う」
山田
「いや、その逆でISO14001をリファインしていくことにより、ISO50001なんてものは不要だったのかもしれません」
五反田
「えーとすみません、どんどんと話がずれていってるように思えるのですが・・」
山田
「いやそうではないと思う。ISO14001認証に関わるビジネスを考えると、ISO14001とはなにかを考えなければならない。ISO14001が環境保証に限定ならパフォーマンス向上というビジネスはISO認証とは無縁だろうし、ISO14001が環境改善までを包含するなら意味がある。今のところ藤本さんと私の見解は合っていませんけど」
藤本

「オフザケではないんだけど、五反田さんの表は不足部分があるのではないか?」

藤本はそう言って表の一番下に追加した。

時期 内容 需要 提供者
ISO認証段階 ISO認証支援
ISO教育
審査支援


ISOコンサル
研修機関
ISO認証後 事務局代行(運用代行)
内部監査代行

事務局代行業
ISOコンサル他
ISO改善段階 ダブルスタンダードからの脱却
パフォーマンス向上
内部監査員教育
内部監査員検定



ISOコンサル


内部監査員検定協会
認証機関に対して 審査員教育
契約審査員

審査員研修機関
契約審査員
審査員研修機関に対して ISO14001規格を教えること

藤本
「要するに教育すべきは審査を受ける企業じゃなくて、審査員でもなく、審査員研修機関ではなかったのかな? 有益な環境側面という珍説も某審査員研修機関が言い出したというし・・」
山田
「おっしゃることはわかります。しかしそれならそういう審査員研修機関を承認した審査員評価登録センターの力量がなかったのでしょうし、そんなCEARを認定したJABの力量がなかったということになります。
つまりさかのぼるとそういうことになりますか・・」
藤本
「それじゃ、ISO認証に関するビジネスとして、認証機関教育あるいは認証機関改革コンサルというのはどうだろうか? 手っ取り早いのは認定機関教育かもしれないね。
ISO-TC委員教育というのもありかな? ウハハハ、恐れ多いが笑ってしまう」
山田
「しかし我々は認証制度の外側にいるわけで、そこまで認証制度にこだわることはないと思います。我々は認証制度が崩壊しても困りません。認証制度というものが利用できるなら利用する、使えないならそれまでと考えるべきでしょう」
五反田
「山田さんはISO認証制度にこだわらないのですね?」
山田
「こだわりませんね。ISO14001の意図は遵法と汚染の予防です。その意義を否定はしませんが、それを実現するための手段はISO規格ばかりではないのは間違いないし、認証制度とは無関係です。
具体例を挙げれば、公害防止組織法が日本の公害対策、事故防止に果たした役割は、ISO14001認証制度とは比較にならないと私は思う。いや、ISO14001なんてものにうつつを抜かしていないで、公害防止組織法を改正して、守備範囲を広げて公害だけでなく環境経営全般について規定すればよかったのにと思うね」
藤本
「私はISO認証に関わるか否かはともかくとして、真に環境管理それも環境保証という観点から幹部を教育することが大事なんじゃないだろうか。それは環境コミュニケーションやリスク管理などよりも上位概念だと思う。
審査員教育はリフレッシュ教育、認証機関内の研修を受けているはずだが、その結果として現実のISO審査のレベルを見れば有効ではないとしか思えない」
山田
「環境保証という概念は非常に重要だと思います。本来その役目はISO認証が行うべきだったというか、認証制度は保証つまりアシュランスそのものを目的としていたわけです。しかしその効果を出せないというかアシュランスは制度の信頼性によって担保するわけですが、認証制度はその信頼性を獲得できなかったのです。だから我々は一般社会に対する環境保証をみずから立証しなければならない。現実としてそうなっているわけです。
だからそういうことを踏まえるとISO認証に関連するビジネスを考えるまでもないと思います」
五反田
「今、山田さんの話から思いついたのですが、我々が、ISO14001規格でない独自の認証制度を立ち上げたらどうでしょうかね?」
山田
「その実現性は、認証制度が出すお墨付きが、いかほどの価値があるかということに尽きると思います。
世界的な組織であるIAFであっても信頼性が向上しない、いや信頼性が低下しているということは、こういう制度そのものが成り立つのかどうかという根源的な問題になります。ULやその他、現物のある認定制度、あるいは現物がなくてもより即物的な審査基準に基づくものでなければ、マネジメントシステムなんていう曖昧模糊なものでOK/NG判定なんて意味がないのではないでしょうか。
CSRの規格ISO26000は認証を行わないとなったが、当然だろう。そんなカテゴリーで認証制度があったら非常に危険だ。
危険とは、誰にとって?
認証機関にとっても、審査を受ける組織にとっても、社会にとっても、
万が一の時、利害関係者はどのような行動をとるだろうか?
認証を信頼して投資や融資をしていた人は怒り狂うのか?、斜めに見ていた人は笑うのか?、認証を受けていた組織は笑いものになるのか?、認証機関は石を投げられるのか?、訴訟沙汰になるのか?、まあ、ただでは済まないだろう。
では環境なら認証制度が成り立つのかということを考えてみると、どうだろう?
そしてもうひとつの視点、事業としてみたときの認証制度の収支はどうでしょうかね? 例えば、エコアクション21やエコステージのようなものを立ち上げたとしても、とてもペイするとは思えません。そういった簡易認証制度の運営がどんな状況かご存じですか?
それらの制度は審査員で飯を食っていない人のボランティア活動によって動いている。審査員ばかりではない。事務局も大変だ。社会貢献に対する熱意と犠牲がなければ存在できない制度はビジネスじゃないだけでなく、長続きしないよ」
五反田

「・・・・」
五反田は斜め45度を見上げて黙ってしまった。

うそ800 本日の締め
だんだんと一般企業担当者のためのケーススタディから道を外れて、認証機関あるいは認定機関のためのケーススタディに変質してしまった。まあ、日本の認証制度が先細りなのは某認定機関の力量がないためなのは間違いなさそうだ。2012年に専務理事も認定委員長も代わったから今後は期待できるかもしれない。

うそ800 本日の危険な仮説
ISOの審査員は規格を理解していないのではないだろうか?
例えば、ISO9001の意図は顧客満足と言われているが、根本は品質保証である。さて、ISO審査員のはたして何割が品質保証の規格であると理解していたか?
そもそも品質保証とはなにかを理解しているのか?
ISO14001の意図は遵法と汚染の予防と語る人は多い。
じゃあ、遵法と事故の予防が達成できるシステムであるかを審査してほしい。
だが現実は、何も知らない審査員が規格の文言を拾うだけの審査しているから・・・今があるわけで



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