ケーススタディ 横山活躍する

12.07.26
ISOケーススタディシリーズとは

山田はメールで送られてくる監査報告書をチェックしている。心の中では「なんでこんなおバカなことを書いているのだろう」と思っても、厳しくではなくマイルドなコメントを付けて見直しを依頼する。なかなかレベルアップはしないものだ。
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オイオイ、まともな
報告書書いてくれよ
森本も1年経った頃はけっこうまともなものを書くようになったが、あれは山田がいろいろ指導したからだろう。やはりそばにいて指導しないとダメなのかもしれない。
しかし藤本部長はともかく、逆出向の五反田は違う。頭角を現す人物は一味違うと感じる。山田だって誰に習ったわけではない。やる気のある人、向上心のある人と、そうでない人があるのかもしれない。
とそんなことを思っていると、重大不適合がありましたと書いてあるメールがでてきた。オイオイ、ただ事ではない。重大な問題があれば、その場で電話してほしいと言っているのだが、言われた通り出来ないのもこれまた世の中というもの。 とにかく報告書をモニターでながめる。
ザッーと不適合の書いてある個所を探す。
なになに、愛知県にある岡崎鷽販売で、エアコンを廃棄したときフロン行程管理票を交付しなかったとある。山田の頭には「罰則なし」と浮かんだ。とはいえ、芳しくないことははなはだしい。内容をみると、だいぶ古いエアコンがあって夏になってスイッチを入れても全然冷えない。電気屋を呼んで修理させようとしたら、もう寿命だという。廃棄しようとすると、フロンガスが抜けているから抜くまでもないと言われて、産廃業者に撤去させたという。まあ情状酌量の余地があるかとは思ったが、この場合でも行程管理票を書いて登録業者がフロンがないことを確認してその旨記載しておかないとならないことになっている。それをしていないのはイカン、
ともかく大したことはなくてよかった。
次を見る。こちらはマニフェストの定期報告を忘れていますとある。電子化していないのかとみると、年に10枚も出さないので、業者が持ってくるマニフェストを利用しているらしい。今は7月末だから、6月末までの期限は過ぎてもすぐに届ければお叱りはないだろう。
次は・・そのとき電話のベルが鳴った。外線で環境保護部の代表だ。
素早く横山が電話を取る。
横山
「はい、鷽八百機械工業 環境保護部でございます。・・・ハイ、替わります。お待ちください。
山田さん、鷽物流(うそぶつりゅう)からです」
横山が転送し山田の携帯が鳴った。
山田
「ハイ、山田に替わりました」
竹下課長
「鷽物流の幕張倉庫の竹下と申します。当社ではカタログや販促品などの保管も承っております。古くなると当然、そういったものは使えなくなりますので、お客様からこちらで処分してほしいという依頼があります。それでどういう風にしたら良いのか相談をしたいのですが」
よくあるケースだと山田は思った。
山田
「電話でもなんですから、訪問して現物を拝見して検討した方がよろしいかと思います」
竹下課長
「こちらとしては一刻も早い方がありがたいのですが、こちらに来ていただけませんか」
山田は予定を見ようとして、横山からいろいろと言われていることを思い出した。それで横山の予定をサイボウズで確認した。何も入っていない。ヨシヨシ
山田
「それじゃ、私は行けませんので担当者を派遣します。本日の午後でよろしいですか?」
竹下課長
「いや、ありがとうございます。ちょっと不便なところでして、JRの幕張か海浜幕張が一番近い駅なのですが、どちらからでも歩いて10分かかります」
山田は場所と担当者名を聞いてメモした。

始業直前に中野が出てくると、横山を今日の午後借りることを話して了解をもらった。


始業後、山田は横山を呼んだ。
山田
「横山さん、いつも横山さんから頼まれていた約束をやっと果たせる。今朝、鷽物流から電話がありましたね。保管委託を受けている物を客先から廃棄するように指示があったのだけど、どうしたら良いかという相談がありました。今日の午後に現地に行って話を聞いてほしい」
横山
「まあ、ザッツサウンズグレイトですね。
喜んで行ってきます。場所はどこですか?」
山田
「総武線あるいは京葉線で行く。どちらからでも駅から歩いて10分だそうです。あの辺は埋め立て地で倉庫などが並んでいるだだっ広いところですよ。最近はマンションも建っているそうですけど」
横山
「詳細は現地で確認ですね。帰りは直帰で良いですか。大宮だと武蔵野線が早いのかしら、東京周りがいいのかなあ?」
山田
「直帰でかまわない。でも武蔵野線は遠回りだよ。
それよりも大事なことだが、横山さんは環境保護部代表でいくのだから、よろしくね。とりあえず話だけ聞いて来てくれても良いから」
横山
「ま、見てなさいって」
横山は11時くらいに出かけて行った。昼飯を幕張あたりで食べるつもりらしい。



横山は広い道路をてくてくと歩いた。10分と聞いたが、不動産屋と違い1分80mで計算していないようだ。15分くらい歩いてやって鷽物流という看板が目に入った。とはいえ、看板が見えてから着くまで更に5分くらいかかった。

無人の受付で竹下課長竹下課長を呼んだ。
竹下課長
「山田部長から専門家を派遣すると聞いておりましたが、横山さんのような若い女性が来るとは予想もしていませんでした」
横山
「山田さんはもう管理職ですから、第一線は私たちに任せていただいてます」
竹下課長
「今、坂本という若いのが来ますので、まず現場で現物を確認してから、処置方法の相談をさせてください」
坂本君坂本登場・・・まだ20代半ばの若者だ。
竹下課長
「では行きますか。特に危険はありませんが、階段の上り下りがありますので覚悟してください」

3人は倉庫のエレベーターの一番上の階に上がった後、更にその上の階まで階段を登った。カタログなどはここに保管しているという。
やっとたどり着いたところは天井が低く、棚がたくさん並んでいる。棚には印刷物や小さなダンボールが種類ごとに置かれている。エアコンはなく、空気は淀んでいる。
横山がその情景にアッケとなっていると、坂本の声がした。
坂本君
「横山さん、廃棄する予定の物はこちらです」
いくつものパレットに段ボールの小箱が山と積んである。
坂本がその一つ二つを開けて横山に見せた。
プラスチックで作られた鷽八百社の製品の模型で、新機能が一目でわかるように作ったものらしい。
横山
「まあ、かわいい、こんなの机の上に置いたらすてきね」
坂本君
「これだけで3,000個くらいありますから、横山さんの机がつぶれますよ。アハハハハ」
別の箱はカタログのDVDらしい。プラケースだけでなく、厚さが1センチほどのDVDサイズの冊子と一体になっている。これも数千個あるようだ。
竹下課長
「こんなものもあります」
本の形式のカタログなのだが、部品の詳細をリアルに示そうと各ページにプラスチック部品が貼りつかっている。それがまた大変な数あるようだ。
竹下課長
「そのほか、一般的な製品カタログがあります。毎年年度首に作るのですが、毎年1割以上、2割以上かな、余るのが恒例で、廃棄するのも恒例なのですよ」
横山はカタログを手に取ってページをパラパラとめくった。Aサイズで厚さ3センチはある。毎年こんなものを何百もいや千か二千かわからないが捨てているなんて環境問題だわ。
横山
「今まではどのようにして廃棄していたんですか?」
竹下課長
「ここにあるものは鷽八百グループ各社から保管と出荷を依頼されている物ですが、所有者は依頼主です。それで法律通りに運用すると、捨てるとなったものは一旦依頼主に返して、そちらで捨ててもらっていました。今回は、依頼されている会社さんが手間暇が大変なこと、運賃も大変だからと、こちらで捨てる方法を検討するように依頼されたのですよ」
なるほど、そういうわけかと横山は納得した。
それから三人は会議室で打ち合わせをすることになった。

横山は椅子に座るとドット疲れが出た。駅から歩いてきたことと、レイアウトを知らない倉庫をぐるぐる歩き回ったので疲れた。ほとんど毎日監査に行っている藤本部長は歳も歳だから疲れるのだろうと思った。
審査員は知りませんが、専業の監査員を10年していた私の経験からは、監査員の必要条件の第一は体力です。法律の知識や目ざとさは二の次でしょう。
竹下課長
「それでは本題ですが、ここにあるものの大まかなリストです」
品目 概要 分類
製品カタログ 本、冊子形式 一廃
製品カタログ 冊子形式でプラ部品付 一廃+産廃
チラシ 一廃
展示用の製品模型 プラと金属 産廃
販促品 プラと金属 産廃
DVD プラ 産廃
DVD付カタログ 紙とプラ 一廃+産廃
置き看板 プラと金属 産廃
室内装飾品 プラと金属 産廃
横山
「うわー、いろいろあるんですね。
では早速ですが、鷽物流さんとしてはどのようなお考えなのでしょうか?
具体的にはともかく、こうしたいというようなアイデアはあるのでしょう」
竹下課長
「一応、私どもも法律を調べたのですが、ここで廃棄することは問題ないようなのです。ただ廃棄物業者とそれぞれのお客様が契約しなければならないのでそれが結構問題です。といいますのは私どもがお預かりしているお客様は10社くらいあるのです」
横山
「一廃はお宅の名前で排出しても良いでしょう」
竹下課長
「そうですが、そのためにはサンプルなどの紙とプラスチックを分解したりしなければなりません」
横山
「それはそれぞれの会社で出しても同じじゃない?」
竹下課長
「それぞれの会社では分離せずに産廃で出してしまい、業者に分解させてます。一廃で出すには分別しなければなりません」
横山
「ビル管理会社などがビルから出る産廃をまとめて処理できるという見解があったけど、あれはまだ実際には動いてないようだし・・
現時点、ここで廃棄するには所有者ごとに契約してもらうしかないわね。でもそれぞれのお客さんは現在契約しているんでしょう。でないと排出できないわけだから」
竹下課長
「そうです。但し排出地は東京がほとんどですね。だいたい本社は東京ですから」
横山
「廃棄物業者の所在はどこが多いんですか?」
竹下課長
「ほとんど・・いや全部が千葉ですよ。千葉県は事前協議がありますから、バカみたいなことが起きるんです。ここにあるものを東京に運んでそこで廃棄物として出して千葉県に持ち込むとなると、県外廃棄物ですから、県知事に事前申請して許可を得ないとならない」
横山
「各社の廃棄物の契約書を見たいな。ここに契約書の写なんてありません?」
竹下課長
「ありませんね」
横山
「ここは千葉市ですよね、千葉市の条例では廃棄物契約書に排出地を書けってなかったと思います。だから現在の契約書でもそのままここから排出できるでしょう。今すぐでも各社の廃棄物をここから排出したら少なくても運搬する手間は省けますよね、そして来年から事前協議もいらなくなるはずです」
竹下課長
「でも各社の担当者が排出するときに立ち会うためにここに来るのは大変ですね。物を運ぶのが良いのか、人が移動するのが良いのか・・
というよりも、お客様にどうこうは言いにくいのですよ」
横山
「お宅が代行して立ち会ったらいいじゃないですか」
竹下課長
「我々が立ち会うのはいいけど、マニフェストはどうするのかな?」
横山
「いろいろな方法が考えられます。
電子マニフェストならお客様の本社でインプットしてもらっても同じですよね。引き渡したリストを送って入力するのもありでしょう。いや本来なら向こうから指示された物を渡すわけでしょうけど。
紙なら竹下さんが記入して渡して、そのA票をお客様に渡すのもありですし、お宅が回収まで請け負うのもありですし・・お金になるじゃないですか」
坂本君
「竹下さん、ボクも一つ提案があるのですが」
竹下課長
「なんだい?」
坂本君
「先ほどの廃棄する物の中に、紙とプラスチックや金属の合体したものがありますよね。あれをここの人たちが暇を見て分解したらどうでしょうか? そうすると産廃の処理も安くなりますし、倉庫から出る一廃はどっちみち量を計っているわけではなく月極めですし、倉庫の人たちの仕事の凸凹を活用することもできます。仕事がないとき休憩所でタバコを吸っているだけってのも、実は辛いんですよ。
もちろん分解費用は売り上げになるじゃないですか。
それに客様にとっても一廃分の費用は減るわけですし、ここからの運搬費用はなくなるし、先ほど出ました事前協議もなくなるし、悪い話ではないと思いますよ」
横山
「まー素敵 それってお宅の新しいビジネスじゃないですか」



翌朝、山田が出勤するといつものように既に横山が働いていた。
山田
「おはよう、昨日はどうでしたか?」
横山
「楽勝よ、ニコニコお話を聞いているだけで先方の悩みは解決です」
山田
「フーン?」

うそ800 本日の手抜き
いくらなんでも今回は手抜きがミエミエ アハハハ
実はストーリーの成り行きで、横山がうるさいので少しガス抜きをさせねばと・・

レベルの低い話ですって?
まあ初回は、横山さんの対応できるレベルで書いてみました。次回は中級クラスにしましょう。
もちろん、彼女が失敗する話も書かねば・・リアルの後輩育成からやっと引退できたと思ったら、今度はバーチャルで若手の育成をせにゃならんとは、ヤレヤレ



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/7/26)
鶏の周りでは電子マニフェストの普及率は2割程度といったところでしょうか?システムを開発したパナ◯ニックはほぼ100%だそうですが、入札で負けた他社では(ry
「御社はどうしますか?」と聞かれましたが、ウチぐらいの中小企業ではあまりメリットがないようです。
花王ぐらいだったらありそうですね・・ってアレはシャンプーか。

鶏様 毎度ありがとうございます。
電子マニフェストの損益分岐点を考えたことがありますが、最低年に30枚くらい交付しなければペイしないと思います。
だから販社とか純粋なオフィスではちょっとメリットがないでしょうね。
シャンプーはラックスが一位、ツバキが二位、パンテーンが三位、メリットは8位でした。やはり電子マニフェストはメリットがないということでオケー?
あ、関係ない、お呼びでない?

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/7/26)
ケース・スタディーへのリクエストいいですか?
審査員又は認証機関との大喧嘩ネタをやってください。

たいがぁ様 毎度ご注文ありがとうございます
喧嘩なんてしませんよ、なにしろ紳士淑女ですから
数日お待ちください


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