ケーススタディ 非製造業の環境教育5

12.08.25
ISOケーススタディシリーズとは

二日目のケーススタディは4グループに分かれて行われている。こちらはBグループである。
Bグループのメンバーは、若い女性の陸奥(むつ)さん、定年間近で穏やかそうな岩代(いわしろ)氏、30代後半のバリバリという感じの出羽氏である。
環境保護部からは五反田が参加している。

Bグループのメンバーでございます。
陸奥 陸奥  岩代 岩代
五反田 五反田 パソコン 出羽 出羽

どこかで見た顔だなんて言っちゃだめです。こちらは画像を使いまわさないと大変なんです 笑
なお、今回は東北地方の旧国名からお名前をいただきました。

五反田
「ケーススタディとはある条件を与えられて、その条件下において最善の対応方法を皆さんで検討してもらうことです。今回は3件程度考えてもらう予定です。
そんなに深刻な問題じゃありません。皆さんが日常行っている現実のお仕事に比べたら、お遊びみたいなもんですわ。ではみなさん最初の事例をお読みください」
五反田はA4サイズに片面印刷のシートを配った。


五反田
「状況はご理解いただけたと思います。では、この問題にどう対応するかについて、みなさんのご意見はどうでしょうか?」
岩代
「あははは〜、五反田さんも、おもしろい状況を考えたもんだねえ〜。
いやいや、ありがちなことですよ。駆け出しの総務屋ですと、こんなことが起きたら、途方に暮れてしまうでしょうねえ」
陸奥
「私はほんとうにどうしたらいいかわかりません。岩代さんは、こんなことに動じないんですか? 尊敬しちゃいます〜」
出羽
「僕は岩代さんほど経験がありません。しかし、やるべきことをひとつずつするしかないでしょう。
まず、表の歩道の状況確認をして必要なら処置をとること、業者を呼びもどすこと、役員への報告をすること、最低これだけをしなければなりません」
岩代
「出羽君のいうとおりだ。しかし総務課長が頼りにできる人がいないとなると、総務課長ひとりでこれ全部をこなすのは大変だねえ〜」
陸奥
「本当に一人何役もしなければならないので大変ですね」
出羽
「まず、誰でもいいから業者を呼びもどすように言わなくちゃなりません」
岩代
「どうせ、すぐには来れないとか、電話がつながらないとかいうことの可能性が高いよね。電話が通じて戻ってこいと言っても、すぐには来ないだろう。逃げ帰ったくらいだからね。
しかし、ともかく誰かに連絡を取らせなくてはならんね」
出羽
「それから、すぐに歩道の現場確認をしなければなりません」
岩代
「まあまあ、出羽君、これは仮定の話なんだからそう熱くならないでよ。
まだ歩道上に汚水が残っているとすると、ふき取るにしても掃きとるにしても、総務課長一人では無理だなあ。総務課には3人いるというので、とりあえず一人に業者への連絡をさせて、残りを課長が率いて下に行くことだろうね」
出羽
「素人には大したことができませんから、専門業者を頼んだほうが良いでしょうか?」
岩代
「そうだね、一番いいのは今日来た下水道業者なんだが、何も言わずに逃げ帰ったくらいだから、あてにはできない。タウンページでもなんでもいいから、適当な業者を探して頼んだ方が良いだろう。ともかく時刻が時刻だろう、あと小一時間して帰宅時間になると人通りも多くなるだろうし、業者の方も就業時間が終われば従業員が帰ってしまうかもしれない。
なにはともあれ、すぐさま現地確認をしてどのような状況かを把握することだ」
出羽
「市役所が来るとなると、その前に総務部長に報告しなければなりませんが・・・」
岩代
「現場確認する前に一言、現場確認後に第二報ということになるね」
出羽
「市役所が来たとき、総務部長に出てもらわないとならないでしょうね」
岩代
「状況次第ということもあるだろうね。問題が大したことなく、また市から来るのが担当者であれば総務課長が対応すれば十分じゃないのかな」
五反田
「私も総務屋なんで、参加させてください。
とりあえずは総務課長が対応するだけでよろしいのではないですか。翌日にでも詳細が分かった時点で、お詫びも含めて総務部長に市役所に行って説明してもらうという方が良いのではないでしょうか?」
岩代
「そうだろうね。それから近隣の方々へのお詫びというかご挨拶をしなければならない。
おっと、その前に、噴出したときの状況をヒアリングして、怪我した方や被害を受けた人がいないかどうかを調べないといけないね。もし被害を受けた人がいれば、すぐさま、どちら様かを調べて、ご自宅にお詫びに伺うべきだ。遅くなっても、そういうことは今日中にしておかなくてはね」
出羽
「いやはや、岩代さん、これはどう考えても人手が足りません。他の部門に頼んで人を出してもらった方が良いですね」
陸奥
「ISO14001認証しているとありますが、ISOでは緊急事態の対応って定めていたはずですよね?」
岩代
「おお、陸奥さんはISOが詳しいんだ」
陸奥
「この会社の緊急事態の対応ってどのように決めていたのでしょうか? ISOでは緊急事態をリストアップして、それぞれについて、こんなときはどうするって決めているはずなんですよね」
出羽
「たぶん、このようなことを緊急事態にはしていないと思うよ」
陸奥
「じゃあ、このような会社で緊急事態と言えば、なにがあるのでしょうか?」
出羽
「ひょっとして『緊急事態はない』としているかもしれないし、あるいはエアコンのフロン漏えいなどを緊急事態にしているかもしれない。いずれにしても実践に役立つようなものではないと思うよ」
陸奥
「それはISOの仕組みと本来の仕組みが異なるという、いわゆるダブルスタンダードですか?」
出羽
「そうだろうね。というよりも、ISOは認証のためのもので、実際に役立つと考えていないからじゃないのか。ISOが実務に役立つことを期待していないと思う」
岩代
「先ほどの出羽君の話に戻るが、他部門の人に頼むにしても、状況を把握し、そして何をするかがはっきりしなければどうにもならんね。どれか一項目を頼むから、適宜判断して対応してくれというわけにはいかんだろう」
出羽
「なるほど、では社内に緊急通報でもして、今後協力を要請する、帰らずに待機してくれという通知をしておいた方が良いですね」
岩代
「適切な業者が見つからず、汚染除去の手がほしいときはそうだろうね」
五反田
「当面の対策はいろいろ出されたようですが、今後の対策としてはどうしますか?」
出羽
「その下水道業者への状況聞き取りをしたいですね。問題が起きたのはやむを得ないというか、不可抗力かもしれない。しかし、問題発生したからには客である当社の総務課長に速やかに報告し、行政にも報告しなければならないでしょう」
陸奥
「まったく無責任極まりないわ、損害賠償請求しなくては」
岩代
「まったくその通りだが、そういったことを事前に協議していたのかも問題だね。本来なら、工事や清掃などを委託する前に、非常時の対応や注意事項などを打ち合わせておかなくてはならない。そうしておかないと約束違反とはいえないよ。
それに一番気を付けなければならないことは、近隣の人々も、コンビニの人たちも、下水道業者の責任なんて考えたりはしない。すべて当社の責任だと考える。それは当社の評判に影響するんだよね」
陸奥
「総務課長も、工事完了確認を聞いただけでOKするのは問題じゃないですか」
出羽
「とはいえ、人がいないなら大変だね。さかのぼると総務部門のパワー不足じゃないのかなあ?」
陸奥
「ビル管理を総務課が直接行っているというのも無理なんじゃないですか? ビル管理会社に頼むとか、担当者を増やすとかすべきですよ」
出羽
「まあ、簡単にはそうだろうけど、実際には費用の問題などあるからなあ〜」
岩代
「設問では簡単に『総務課が直接ビルを管理している』とあるが、現実問題として蛍光灯が切れたとか、ドアの動きが悪いとか、カギをなくしたなんてことに、いちいち総務課が対応できるとは思えない。仮定の話としても、条件設定がちょっと行きすぎじゃないかな?」
五反田
「なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。今後に反映させてもらいます。
ともかく総務部門強化あるいはビル管理方法の改善があるということですね」
陸奥
「ISOの話に戻りますが、緊急事態を実際的なものに見直し、その対応方法を定め、常日頃から対応準備をしておくことが必要ですよね」
出羽
「それももちろんだが、実際にはISOには誰もそんなことを期待していないのではないか?
ISOの仕組みをあまり実際に即して決めて、ややこしくすることはないのではないだろうか?」
陸奥
「じゃあ、ISO認証に何を期待しているんですか?」
岩代
「商売だよ。入札条件にISO取得ってあれば、売り手はISO認証するしかない。そしてその目的にはISOは十分応えていると思うよ」
五反田
「いろいろな案がありましたが、再発防止ということはそれで十分なのでしょうか?」
岩代
「再発防止という観点では、そもそも完璧な再発防止はできないよ。できるのは問題が発生したときに、すみやかに対応することだけじゃないのか?」
五反田
「まあ、そうでしょうねえ。業者に工事を依頼しているわけですから、業者がミスをすることを当方で予防することはできませんね」
出羽
「いや、でも業者を選定するときに、評判を聞いたり、過去の仕事ぶりを調べたりして、良い業者を選ぶよう仕事の基準を設けておくということは必要ですね」
岩代
「おっしゃる通りだ。問題が起きたら逃げていくような業者を使っているのでは、業者の選定が悪いと言われてもしょうがない」
陸奥
「これはケーススタディで仮定の話ですけど、実際にもこんな問題は起きているのでしょうね?」
出羽
「まったく同じ経験はありませんが・・・私の場合、リレイアウト工事を頼んだときのこと、納入業者が建設資材の搬入時に隣の会社に駐車している車に傷をつけて、知らんふりしてドロンということがありましたね。
それとは別の工事でしたが、外壁を塗りなおしていて、近隣の駐車場に駐車していた車に塗料がかかった事件もありました。どちらも業者がこちらに報告してくれないのでトラぶりましたね」
岩代
「出羽君、業者に仕事を頼むときは、事前に予想される問題をあげて、その対応、報告しろとかいうことを明確にしておかないとだめだよ。それから毎朝、毎夕に、状況確認だね。まさか『問題ないか?』と聞けば『問題ない』とうそをつく人はあまりいないし、うそをつけば相当悪質だよ。本来なら工事中立ち会うべきなんだが・・なかなか、そうもいかないしね」
五反田
「工場なら社内で工事をするときは立ち会うのは当たり前ですね」
出羽
「分りました。今後そのようにします」
岩代
「オイオイ、私は出羽君の上長じゃない。それよりもなによりも勤めている会社も違うしね。まあ、先輩と言っちゃ先輩だけど」
出羽
「いや、ここで岩代さんもお会いできたのも何かの縁、ご指導ありがとうございます」
陸奥
「岩代さんもそんなことしてきたんですか?」
岩代
「当然だよ。サヨクの街宣車が来たとか、寄付金をもらいに来る近隣の人、市民からの苦情というか相談やら、上役のプライベートな問題をネタにゆすりに来たヤーさんのお相手とかね。こんな問題を何度も経験して、一人前になるのさ。もちろん数多くの失敗を積み重ねて今があるわけだ。経験が多いことは自慢にはならないよ」
五反田
「失敗を積み重ねなくても良いように、このケーススタディを考えたつもりなんですが」
岩代
「それにしちゃ、ひねりが足りんな」
五反田

「すみません、私の経験不足でしょう」
みんな笑った。


うそ800 本日のネタばらし
私も実は過去にこんな経験が・・・いや、ありません。キリッ

うそ800 マンホールに関わる事故
けっこう多いのです。ご注意を

次回へ続く・・・・


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/8/25)
「み〜んな悩んで大きくなった」じゃないですが業者に泣かされることは多いですよ。ウチの社員に喧嘩を売ったり、ウチの材料を持ち逃げしたり、「マトモに点検して無かった」とか、建物にブツけて逃げるとか。枚挙にいといません。
そうしてひとつ々猜疑心の塊となり・・・(略

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
そうです!
みんな悩んで大きくなったのです
もちろん、悩んでうつになったり、めげたりしてダメになった環境担当者も数え切れず・・・
それが現実です。


外資社員様からお便りを頂きました(2012.08.28)
なるほど、委託先の業者であろうが、問題があれば対応が必要な好例ですね。
名古屋鶏さまの仰る通りで、出入りの業者さんは、思いもかけない事をしてくれる場合があります。
私の会社では、壁に材料をぶつけて穴をあけたのをシランプリ(見れば判るのに、気付かないと思ったのか??)電源配線を間違えてフロア全体のブレーカを落として管理会社に叱られるなど、色々とありました。
下水問題や電力削減要求などを考えると、貸しビルで、良かったと思います。

昨日は、宮城県から帰ってきましたが、東北電力は渇水で電力不足になっています。
大手には節電依頼があり、その会社では総務放送があると、事務所の空調は止まるそうです。
今年は、東北でも外は31−33度くらいで東京と変わりません。
「涼しいのは応接だけなんです」と、会議室から立ち去らない対手側の担当が気の毒でした。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
人間悪い人はいないと思います。しかし、人によって常識が違い、ところによってルールが違います。
他所の会社に行って、ちり紙一枚捨てるのに分別するのか、しないのか、どの分類なのかなど全部違います。業者の人が来たら、まずそういったルールの説明、喫煙場所、トイレの場所、不具合があったときの処置、報告などなどを説明しなければなりません。
工事の人は表で仕事をするので、近くの家庭から覗かれている気がするという苦情がありました。それ以降は「あまり外を見たり、外の人と目を合わせないでください」と頼んだことがあります。
いや、人生生きていくだけでも大変です。
話は変わって、貸しビルで良かったといっても、ビル管理会社の指示に協力しないとならないのは義務ですよ。でも省エネなんて本当にできるのでしょうか? 原発反対を叫んだ大阪の橋下市長も産業界の反対で、最近はトーンが大幅に変わってきました。私は原発推進か廃止かどうかは論を保留しますが、エネルギーなくて生活できないということは間違いないと思います。
学者とか政治家、評論家には「成長と発展は違う」というような禅問答とか、「清貧」なんて騙るお人がいます。そういえば「たかが電気」と騙った芸能人もいました。言うのはけっこう、じゃあ、それで生きていけといいたいですね。
車に乗って、アフリカや南米からきたものを食べ、生産性の低い衣類を着て、かっこいいことを言っちゃいけません。
私はそういうお歴々とは違い、清貧で生きていますが、自分が生き物の命をいただいて、かつ大きな自然破壊をしているということを認識しているつもりです。きっとそんなことを語った坂本龍一の1割程度のフットプリントだと思います。
なお、私は暑いときはスーパー、デパート、図書館、お店をさまよって、自宅のエアコンをつけません。公共の場所は私がいなくても空調しているので、一人増えてもお許しください。


Yosh様からお便りを頂きました(2012.08.29)
委託先の業者
電気工事屋、水道工事屋、大工は勿論、塗装や内装工事等のどんなに小さな仕事でも請け負ふのにもこちらでは州政府に供託金を納めて、保険をかけて免許を得なければなりません。其れも毎年更新せねばなりません。
業者が仮令小さな問題からでも発注者(近隣に迷惑をかけて生じた場合でも)に損害を与へたら業者は保険で支払ふことになります、其の場合次の更新時には保険の掛け金が極端に跳ね上がります、最悪何処の保険会社も受付ないことにもなります。
若し業者が問題に対応せずなど悪質な場合政府は供託金を押さへて仕舞ひます。
其の場合には事業を継続出来ません、また新たに免許のを得るのが勿論非常に難しくなります。(出来ないと言ふたが早くあります)
だから工事を委託させるには先ず業者の免許の有無を調べます。政府に問合せれば直ぐに判明します。
免許が無い業者に請け負はぜることは違法でもありますが、責任は頼んだ側がとらなければなりません。

Yosh師匠、毎度ありがとうございます。
日本では現実には、問題を起こしても黙っている業者があります。それで問題がよけいに大きくなることもあり、発注者も困ります。
最終的には、その人が正直でないとどうにもなりません。
ともかく、引退した今の私はそういうことに関わりないのが幸せです。


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