ケーススタディ 非製造業の環境教育6

12.08.28
ISOケーススタディシリーズとは

環境教育に限らず、講習会などで人の話を聞いているのはつまらない。特に私は人の話を聞くのが苦手だ。講師に代って私が話をしてやりたいと思うことが多い。
だって私の方が同じことをより面白く分りやすく話せるような気がする。いや、話せるつもりだから。私が知らないこと・・そんなことがあるはずがない・・冗談だよ
いやいや、私は特別というか3σをはずれた異常値だろう。でも、たいていの人は講演会などに行けば眠くなるだろう。あるいは、私語、おしゃべりをしたくなる。最近ならスマホでゲームをするとか、あるいはワンセグでテレビドラマを観てるのか? 国民の選良である国会議員でさえ、審議の最中に携帯電話でゲームをしていた例もある。 だからそうなるのを防ぐために、多くの講習会や研修会では、グループ討議とかケーススタディを取り入れている。そうすればみんな発言しなければならず、退屈どころか話すことを考えなければならず、そして講師側もしゃべらなくてすむので楽だ。ところが皆に発言させようとすると、今度は不思議と発言する人はおらず、おしゃべりもしなくなる。そういうのが通例である。
さて、環境保護部主催の環境教育はいかがであろうか?

こちらはCグループだ。
参加者は、50前後の淡路、40くらいの伊予、若い女性の土佐である。環境保護部からは横山が参加している。
土佐と横山は昨夜の酒の席で大いに意気投合したようで、今日はこの二人がタッグを組むとどうなるのか予想がつかない。冷却ファンの壊れたCPUのように、とめどもなく暴走するのではないかという懸念が・・

淡路 160×130 160×130 土佐
淡路 土佐
横山 160×130 160×130 man16.JPG
横山 伊予

今回のメンバーは四国の旧国名で誂えてみました。

横山
「みなさん、昨日から今朝までは、だいぶ眠かったでしょう。でもこれからは退屈することはないと思います。これからは講師の話を聞くのではなく、みなさんに大いに発言していただきますので。
みなさんは現実の環境担当者ですが、これからある状況を示しますので、その状況においてどう対応すべきか検討していただきます」
そう言って横山は資料を配った。

横山
「設問は簡単です。みなさんが日常してることですよね。但し、ここでは省エネ方法を考えるのではなく、働く人に不満を持たせずに省エネに協力してもらうにはどうするかを討議することが目的です」
伊予
「いや〜私の会社そのままですよ。ビル管理会社からは省エネしろと言われているし、空調温度が上がったものだから社員はUSB扇風機を買い込んで来るし・・
参っているのですよ。 USB扇風機を使うなとは言っているけど、強制的に禁止するのも難しいし」
淡路
「私のところもそうだよ。照明を暗くしたものだから、多くの人がUSBの卓上ランプを付けているんだ。ビル管理会社は外光による温度上昇が大きいから、ブラインドを閉めろと言っている。それで暗い中、各人の机上のランプがホタルのように点灯しているのは異常だよ アハハハハ」
土佐
「笑いごとではありませんが、笑ってしまいますね。私の勤務先も同様です。 しかし総務からの省エネ要請に従わない人たちは、業務命令には従うんでしょうか?」
伊予
「どうだろうねえ? 仕事の命令には従わなくちゃならないから、その反発もあってわざとUSB扇風機を使っているような人も見かけるけど」
淡路
「考え方だけど・・・・実際にしている仕事の取引1件が1,000万2,000万、あるいはそれ以上という世界にいると、ビルの電気代が年間数百万と聞けば、あまり本気に省エネに取り組まないのもわかるような気がする」
土佐
「でも紙削減なんてけっこう協力を得てやっているんじゃないですか。紙代を考えると、一人が年間に使う紙はせいぜいが1万円くらいじゃないですか? それに比べたら電気代の方が10倍近くになるはずですよ」

一般的にオフィスで働く人は月にA4で1000枚使う。1枚0.7円として年間8,000円である。そして、オフィスの電気代は一人当たりにすると、月7000円程度、年間10万弱だ。

伊予
「ほんとだね! そう言われると不思議だ。言い換えると紙削減なんてほとんど意味がないことになる。電気代はお金だけでなく、法的な規制だし、それに電力不足は国家的危機だから実行は至上命令だしね。なぜ皆さん協力しないのだろう?」
淡路
「近道理論ってのじゃないか?」
伊予
「どういうものなのですか? その近道理論というのを教えてください」
淡路
「いや、そんな理論があるわけじゃない。私が適当に呼んでいるだけだけどね。例えば建物に行くのが回り道で、その間に立ち入り禁止の芝生があるとする。この芝生を横切って行くか、それともちゃんと道を歩いて行くかというとき、その判断はどんな要素で決まると思うかい?」
つまりこんな位置関係だ
建 物入口




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土佐
「ああ、なんかイメージがわかります。乗り越える障害の大きさと、短縮される時間を天秤にかけて判断するということでしょう」
淡路
「そんな感じだな。なにかするときの困難あるいは乗り気になれない行為と、それによる利益あるいは達成感を天秤にかけて、やるかやらないかを決めていると思う」
伊予
「つまり紙削減は成果も少ないけれど負担が少なく抵抗が少ない、省エネは成果があっても自分が実行するには抵抗が大きいということですか?」
淡路
「私にはそんな気がするけどね・・」
横山
「私はちょっと見方が違います」
淡路
「ほう? 横山さんのご意見はどうなんでしょうか?」
横山
「近道理論の意味することはわかりますが、その判断の前提としての正しい情報をみなさんに伝えていないからだと思うのです。だから先ほど土佐さんが言ったようにみなさんは具体的金額というか効果が思い浮かばず、想像と気分で判断し行動していると思うのです。例えば、PPCの値段と年間の使用量を教えて、紙削減しようと言ったら、あまり協力してくれないでしょう。
電気については、単純なコストだけでなく、経産省からのピークカットの要請や、電力会社の供給能力などの実情を説明すれば、より協力が得られると思いますが」
淡路
「なるほど、情報が与えられていないから協力が得られないか・・・情報と言っちゃ大げさかもしれないが、実態を正確に知らないと正しい判断はできないね」
伊予
「状況を説明すれば協力してくれるとは限りませんよ。例えば、事務机が暗いことは事実です。みなさん、省エネによる問題を肌で感じて困っているから、単に実情を説明すれば済むようなことじゃないと思いますが」
横山
「暗い明るいということは、絶対的なことと相対的なものがあります。確かに現在では、電力危機以前よりは暗いでしょう。しかし安衛法で定める事務所規則などは軽くクリアしています。ほんとのことを言えばですね、安衛法のレベルじゃ快適な仕事はできないと思いますけどね。
それはともかく、今現実のオフィスは暗いと言われても、仕事をする上では十分な照度になっています。そして昔のように手で文字を書いているわけではなく、光源を持つモニターで読み書きしているわけですから現状は、少なくても仕事にならないということはないと思います。そういう事実を教えて、また諸般の事情を伝えて協力をお願いすべきじゃないですか」
淡路
「確かに私の若いときは、今のようにオフィスの照明は明るくなかったね。昔の事務所は大きな部屋のあちこちに、蛍光灯がぶら下がっていただけだからね。それに明るい部屋では日中照明なんてしなかったものだ。今のオフィスの明るさは、私が入社した頃の倍以上あるのじゃないのかなあ。だんだんとオフィス環境が良くなってきて、みんながそれに慣れてしまったということもあるだろう」
伊予
「でもですよ、そういうことを言っても、今の人たちを説得できるものでしょうか?」
土佐
「無い袖は振れないっていうじゃありませんか。まだ制裁というか罰金が課された事例はありませんが、省エネができずに消費電力が増えて、経産局から制裁を受けたなんて報道されたら、その会社の評判はガタ落ちですよ」
伊予
「まさか、そんなあ〜」
横山
「罰金と、電気料金を同列で比較できるかということも問題ですね」
淡路
「確かにね。蛍光灯をLEDに替えると言ってもすぐに何百万もかかる。いや蛍光灯を間引くだけだってただではできない。私の会社ではビル管理会社のメンバーだけではできず、外部の人を頼んで休日何日もかけておこなったはずだよ。そんなことを考えると、100万払った方が省エネ対策をするより安いだろうけど、そういう選択をした会社は知る限り存在しないね。『当社は罰金を払った方が省エネするより費用対効果が大きいと判断しました』なんて言ったら、世間から袋叩きにあうだろう。
横山さんの言うように種々情報を伝えて、状況を理解してもらい、実行してもらうように説得するのが王道だろう」
土佐
「うーん、私は省エネを推進するにはそれだけじゃ不十分と思います。もっと根本的な対策を行わなくてはなりませんよ」
横山
「まあ、土佐さん、情報不足・・・いや情報提供不足が問題じゃないとすると、何が問題かしら?」
土佐
「仕事の方法そのものが問題だと思います」
淡路
「ほう! どういうこと?」
土佐
「そもそも仕事の能率を現状のレベルじゃなくて、もっともっと密度を上げ質も向上させ、時間外ゼロはもちろん、事務員の人数そのものを削減することを考えるべきです」
伊予
「おいおい、仕事の能率向上が省エネだって?」
土佐
「そうじゃありません? だって時間外をしなくて済むなら省エネになるのは間違いないでしょう。まず、ダラダラした仕事を止めて定時内の仕事の密度を上げ、時間外ゼロにします。
それだけじゃありません。空調のエネルギーというのはいろいろな要素があるでしょうけど、フロア面積が小さければ消費電力は少ないことは間違いありません。またOA機器だって人数が少なければ台数が少なくて済みます。要するにオフィスワーカーの生産性向上を推進することが省エネなんです」
伊予
「おっしゃることはもっともなのですが、なんか人減らしのように聞こえますね・・・」
土佐
「人を減らさなくてもよいのです。今と同じ人数でも、売り上げを今以上に上げたり、提供するサービスの向上、拡大を図るということもあります。省エネの指標は各社が考えれば良いのですから、売り上げを人数で割ってもいいわけで、同じ人数で売り上げを上げることによって省エネ法の規制をクリアできます。おっと省エネ法の名目上の省エネだけでなく、現在のピークカット規制にもつながると思いますよ」
横山
「まあ、土佐さん、それはすてきだわ。私もオフィスの有効活用をすべきだと思っているのよ。現在のオフィスでは一人当たり4坪とか5坪の面積を必要としています。それは机と椅子の面積だけじゃありません。書類のロッカーの場所というのはものすごいです。
私のところでは一人あたりのロッカーの棚の幅を1mまでといってますが、実際には2m位使っています。現在の大量ある書類を電子化するとか、無駄をなくせば面積が減り、家賃も下がり、当然省エネになります。オフィスひとり分の家賃は一人当たり月数万円から10万円くらいかかっていると思います。
もし一人当たりの床面積を1坪減らせたら、えーとさっきの話で一人当たり電気代が7000円といいましたよね、それよりもはるかに大きいと思いますよ。」
土佐
「横山さんの言うとおりだわ、私もうちの課長に無駄なスペースがあるって言ってるんですよ。でも課長は無駄じゃなくて余裕だなんて言うのよ」
横山
「それとサーバーはハウジングサービスなどを利用すれば、事務所内の放熱は少なくなるわ。それはエアコンの負荷を軽くします」
伊予
「でもサーバーをハウジング業者に頼んでも、国家全体としての消費エネルギーは変わらないよ」
横山
「ビルは年に1回は電気回路の点検のために一斉停電を行いますので、その対策に自家発電を設けるか、サーバーを止めなくてはなりません。ハウジングに依頼すればそういったことの対応は完璧です。それに当社のサーバーのためにわざわざエアコンを設置して24時間の空調するよりも、ハウジング会社の方が効率的ですし、トータルとして省エネになると思います」
伊予
「会社によって状況はことなうだろうけど、あまりギリギリにするのもどうかと思うよ。それにサーバーが社外にあれば万が一の場合もあるし、どうだろう?」
横山
「中国からの違法アクセスでサーバーの書き換えや情報が盗まれる時代ですから、そりゃもちろん重要です。でも社内のプアなセキュリティ対策よりもハウジング会社の方が信頼できるんじゃないですか?」
伊予
「でもその分アクセスに時間がかかって仕事が遅くなるよ」
横山
「確かに昔ネットワークコンピュータというのがあったけど、通信速度が遅くてだめだったわ。でも最近は伝送速度が速くなってシンクライアントなどが広まっているでしょう。それにオフィスソフトさえクラウドにしようという時代よ」
土佐
「仕事が遅いと言えば、パソコンを使えないような人は努力しなければならないわ。聞いてよ、今でも定年間近の人の中にはブラインドタッチができないで一本指打法の人もいるのよ。あれでは人の3倍も4倍も時間がかかっているわ」
淡路
「そういわんでくれよ。私も一本指入力なんだがね・・・パソコンのスキルだけが会社員の能力すべてじゃない。セールスの能力やトラブルシュートとか、管理能力もあるし、さまざまな要素があるんだよ」
土佐
「淡路さんをどうこういうつもりはありませんが、パソコンを使うことは現代のリテラシーですから頑張ってほしいです〜
楽天という会社では英語が社内の公用語だそうですよ。日産自動車は以前から英語で会議してましたよね。時代はドンドン変わっていますから」
横山
「そんなことを考えると職制も見直すべきよ。管理というのは複数の人を効率的に動かすためでしょう。部長一人、課長一人、担当者一人って組織があるのはおかしいでしょう。役に立たない中間管理職が多過ぎよ」
土佐
「それどころじゃないわ、自分の課もなく部下が一人もいない課長や部長がいたり、結局あれは人事処遇なのよ。
今の組織って、真に管理のためのものとは違うのよ。課長ってほんとうは課のリーダーでしょう」
淡路
「人を動かすには本音と建て前が必要なんだよ。何十年も働いてきた人をそれなりに処遇しなければやる気をなくすじゃないか。ご本人だけじゃなく、それを見ている若い人たちもやる気をなくすかもしれない」
伊予
「そうですよ、私も43になりますが、いまだに部下はなく実質は平社員です。でもやはり課長待遇とか担当課長という名前が名刺にないと恥ずかしいじゃないですか」
横山
「ところでISO14001ではコミュニケーションという項目がありますね。あれはこれに関係すると思うんですけど・・」
土佐
「そう言えば私の会社もISO14001認証しているけど、省エネ推進をISOの目標にしているけど、ISOのコミュニケーションでどうこうという話はきいたことがないわ」
淡路
「私もうろ覚えだが、ISOのマニュアルに書いてあったコミュニケーションとは、環境方針と環境側面と目的目標を周知すると書いてあったなあ〜」
横山
「通り一遍という感じですよね。組織を動かしていくコミュニケーションとは、もっと組織の人々にモチベーションを与えるような、それこそ本当のコミュニケーションであることが必要だと思います」
土佐
「省エネの必要性が認識されていないなら、コミュニケーションが不十分であることは間違いないわ」
横山
「ということは、つまりISO規格不適合だわ。みなさんも自分の会社で省エネが進まないとおっしゃっているのだから、みなさんの会社もコミュニケーションにおいてISO規格を満たしていないのです」
伊予
「あのう、これは省エネを推進するための検討だと思うのですが・・」
土佐
「ですから、その環境作りを話しているつもりですけど」

最近では宇宙もハッブルさんが語ったように、永遠に膨張するのではないという説になっているようですが、Cグループのとりとめのない話も膨張が止まったようです。話が発散するばかりのように思えましたが、なんとなく方向が見えてきました。
横山さん、Cグループの結論がでるように、うまくまとめてくださいよ・・

うそ800 本日の手の内
単にケーススタディをまっとうな内容に書くのではなく、話が発散したり、トンデモナイ結論になるようなしようと考えると、これはこれでけっこう骨なのです 笑

うそ800 次回に続く



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