ケーススタディ 非製造業の環境教育10

12.09.08
ISOケーススタディシリーズとは

非製造業の環境教育を行った翌日である。山田は早速メンバーを集めて反省会を開いた。講習会の最後にアンケートをとっていたが、既に横山はそれを集計していた。

山田
「二日間、いや、藤本さんと五反田さんには、もう二月以上作業をしていただきまして、お疲れ様でした。早速ですが、第一回の環境管理教育を行った反省というか検討を行います。非製造業といっても、今回は販売代理店しかも工事なしという会社に限定していました。これからは販売以外のさまざまな業種、例えば建設業や金融、倉庫その他への展開をしていきますので、そういった観点からも意見交換したいと思います」
横山
「まず、受講者のアンケート結果から報告させてもらいます。私なりにまとめた概要をお話します。講習会が無意味とか無駄だったという否定的な意見はありませんでした。別にこちらに迎合したとも思えませんので、全体的には好意的に受け止めてもらえたと思います。
ただ今回が良いというわけではなく、いろいろな要望や提案がありました。
まず、ひとつ教育を初心者向け、実務を何年かしている人向け、廃棄物や行政届出などカテゴリーを分けて行ったらどうかという意見が多数ありました。
ひとつ、一日半程度では十分な教育にならないので、通年で数回行うような形式をとったらどうかという意見が複数ありました。
ひとつ、講義形式ではなく、もっと発言したり議論する形式にしてもらいたいということ。
また環境保護部への要望として、環境保護部にグループ関連会社からの環境管理についての相談窓口を設けてほしいという意見、特に職制を通すのではなく担当者レベルでの悩み事や問い合わせの対応をしてほしいということです。
また逆出向の形で、つまり五反田さんのような立場で、環境保護部で実務を通して環境管理業務の訓練を受ける制度を考えてほしいという意見が複数あります。
その他、環境法改正や事故などの情報を定期的、システム的にグループ企業に発信してほしいという意見などでした」

藤本部長 藤本 coffee 山田 山田課長
横山 横山 notepc.gif coffee 五反田 五反田

山田
「確かに今回の参加者も大ベテランから初心者までいろいろだったからなあ。今後はレベルによって層別しないと話が合わないかもしれないね」
五反田
「いや、私はいろいろな方がいるからこそ集合教育の効果があると思いますよ。各グループの中にベテランから初心者や中堅者がいて、相互に学ぶということも重要です。最後の発表会でもそういう意見がありましたね。研修会だから我々主催者が講師であるということでなく、参加者が相互に研鑚するということもありだと思います」
藤本
「五反田さんに賛成だ。むしろ次回以降は積極的にベテランに入ってもらうということもありじゃないかね。それも講師になるのではなく、受講者として参加してもらい盛り上げてもらうということもいいことだと思う」
山田
「なるほど、そういう効果が大きいですか?」
藤本
「そうでないと講師側が一方的に教えるという形になってしまい、面白味もないし、参加者の相互作用が期待できないと思うがね。いや、私の感想にすぎんがね」
五反田
「今回のプログラムでは法規制の解説などの時間が足りませんでしたね。今回は情報システムの使い方を教えておしまいでした。本来なら、もっと法規制の具体的なこと、そして対応すべき具体的手順を教えなければならないと思います。
ともかく時間が足りませんでしたねえ〜。1日半ではなく、丸二日とか三日間泊まり込みというのはどうでしょうか?」
藤本
「確かにそうだよねえ〜、だけど派遣する方の都合や、費用を考えると難しい。まあ、派遣元が今回の研修をどれくらい評価するかによって今後検討だね」
五反田
「ケーススタディの事例が、ピンとこない人がいたね。取り上げた事例が不適切だったのかなあ〜?」
横山
「私が説明した事例もそうですが、ケーススタディも業種や参加者の会社の実態に合わせたものをより工夫しないとならないと思いました。今回は石油タンクの事例をとりあげましたが、北海道や東北では販売会社でも、暖房用に石油タンクを備えているところはたくさんあります。しかし、関東地方では暖房用の石油タンクを備えている販売会社はあまりありませんし、関西より西になればまずないでしょう。参加者の会社の実態に合わせたケーススタディを用意しないと現実のものというか身近に感じないと思います」
藤本
「講義よりも討議を主にしてほしいという意見があったそうだが、参加者がそうとう積極的でケーススタディの内容を理解していないと議論にならないように思うね」
横山
「それはありますね。そのためにはケーススタディの問題を理解できることが必要です」
五反田
「ケーススタディを考えるのはけっこうめんどうなんですよ。正直言って、現実には不具合事例はたくさんあるのですが、出席者全員に理解できるもの、そこまでいかなくても少しでも多くの参加者に理解できるような最大公約数的なものとなると限定されます。業種に合っていて、参加者全員が理解できて、議論できるものというと非常に限られてしまいますね。製造業なら事故事例や法に関わる事例はもっとバリエーションを考えられるのですが」
藤本
「でも、ケーススタディが一番盛り上がったね。初日のように講師の話を聞くとなると眠くなるのはやむを得ない。眠らせないためには、各人が発言するようなことをもっと取り入れる必要がある」
山田
「横通しのネットワークを構築したいというのも目的の一つでしたが、どうでしょうか?」
五反田
「鷽八百グループの同業者であっても今までは面識がなかったが、今回参加した人たちは名刺交換もしたり、懇親会でも大いに話がはずんだようで、これからお互いに困ったことがあれば相談することは可能でしょうね。ただし、そういう人脈だけでなく、全体的、システム的なものをなにか考えないといけませんね」
横山
「インターネットの世界には最近はあまり見かけませんが掲示板とかQ&Aコーナーがありますよね。ああいったものをグループイントラネットに作れば、環境保護部がわざわざ対応しなくても相互に相談して指導するという仕組みが動くかもしれませんね」
藤本
「とにかく最初でいろいろな問題というか要改善点があり、また予想もしなかったような担当者の実態も分かったし、とてもためになった。しかし、私が得た最大のことは・・」
山田
「最大のこととは、なんでしょうか?」
藤本
「環境教育というものは環境保護部の本来の業務ではないということだ」
五反田
「実は私もそんな感じがしました。もちろん環境保護部の業務をどう決めるかということで、どうにでもなることですが」
藤本
「環境保護部の主たる機能ははふたつしかない。ひとつは対外的環境広報、つまり環境報告書、マスコミや行政への対応、展示会の開催などと、もうひとつは環境行政、つまり公害防止、事故対策や監査に徹すべきじゃないのだろうか?」
横山
「といいますと、今の仕事でそこからはみ出るのはなんでしょうか?」
藤本
「今回行った環境教育とか悩み事相談承り、あるいは環境管理のためのマニュアルのような資料作成などということになるのかな?」
山田
「そういった仕事は連続的というか関連しているので、境界線を引くことは難しいと思いますよ。教育とは、ニーズつまり必要な情報を提供することですが、必要な情報が何かとは、監査や事故などの結果としてわかるわけですし」
藤本
「いや、実はね、五反田さんが環境ビジネスをもくろんでいるわけだが、今回の環境教育のようなものをビジネスとして持っていくということはできないだろうか。そういうものなら環境保護部の業務を補完するもので、環境保護部としても別部門で行って困ることもないだろうと思うね」
山田
PDCA 「監査も教育は別個というか無関係でないのはもちろん、併行的というか同時進行でもないのですよ。PDCAといいますが、それぞれは環境マネジメントのサイクルの一部分に過ぎません。だから環境マネジメントの輪の一部分を別組織が行ったとき、全体が機能的に動くのか、有機的に進むのか、ちょっと何とも言えませんね」
五反田
「実は私も藤本部長がおっしゃることを考えていました。特に情報システムで法規制情報を提供する業務は、環境保護部の仕事ではないと言っても良いと思います」
山田
「うーん、否定的なことばかり言いたくはないんだけど・・・・、
五反田さんのおっしゃることは、確かにそうだろうと思う。しかし、今回の講習会で教えた環境情報システムを作るのには、情報システム構築で1000万、コンテンツ作成で1200万以上、都合2200万もかかっている。そして法改正を反映してそれをメンテしていくのに、法の調査とコンテンツ見直しの工数が毎年500万程度かかるだろうとみているんだ。もし五反田さんがそれをビジネスにする場合、その投資を負担して利益を出せると思いますか?」
藤本
「確かにそれくらいの金額はかかるだろうなあ」
五反田
「なるほど、そういう初期投資を無視してというか、おんぶにだっこではできませんね。環境保護部の場合は、グループ企業の遵法を確実にするために採算を度外視で行っているわけですよね。ビジネスとして行うなら費用を回収して、利益を上げなければならない。
そして一度システムを作ったとしても、OSやアプリの変化でシステムは5年程度しか使えないでしょうから、その投資を5年で回収しなければならず、金利を考えなくても毎年1000万売り上げが必要になる。50社が参加したとして、年20万か。鷽八百グループで契約してくれる会社がどれくらいあるかですね。グループ外の企業に外販するならば、あまり現実的な事故や違反の事例の情報提供はできないだろうし」
横山
「私は興味があって環境法規制の情報サービスをしているものを調べたことがあります。自治体が運営しているのは年額6000円というところもありました。これが最低ラインでした。私企業が行っている、法規制情報提供ビジネスでも2万から5万くらいでしょう。高いところは10万というところもありましたが。もちろん提供する内容はピンキリですけど」
山田
「おいおい、当社のシステムを、そういった世間のレベルと同じとみられては立つ瀬がないよ。一般の法規制情報提供サービスは法規制と改正状況、その要旨などだけだ。具体的な職務において何をするかまでは教えてくれない。当社のものはそういったものよりははるかに有用だと思うよ」
五反田

「何しろ逆引きですしね」

「逆引き」という言葉には多様な意味がある。
ここでは「法令ではどんな規制をしているか」に対して、「仕事を進める上でどんなことをしなければならないか」を知るという意味に使っている。


山田
「法律の相談は責任問題になる。当社の場合、工場や子会社の指導は我々の本来業務であり逃げることもできないし、それは真剣に対応しているつもりだ。教育あるいは情報提供を業とした場合、それにどのくらい責任を持って当たれるだろうか?
実施責任というだけでなく、結果責任もあるからね」
藤本
「山田さんのおっしゃることはもっともだ。
だがそれなら、いっそのこと、情報システムも環境教育も環境保護部が仕切るとして、実際にその仕事をする実務を五反田さんに丸投げするということはできないだろうか?」
山田
「それはありえますね。その場合は、PDCAが一貫して有機的に機能すると思いますし、五反田さんとしても費用負担がない。責任問題も明確になる。環境保護部も実務をする人を抱えてあまり大所帯にしないほうが良いでしょう。
ただ・・」
五反田
「ただとは、まだ何か問題がありますか?」
山田
「今回の環境担当者教育とか情報システム構築は廣井さんのお考えで進めてきた。部長が代われば方針も代わるだろう。要するにそういうコバンザメビジネスは依頼者の意向によって振り回されるという危険が伴う」
五反田
「なるほど、人のふんどしで相撲を取るというのはあまり自慢にはなりませんね」
横山
「人のふんどしで相撲を取るってなんですか?」
藤本
「横山さんが知らんでもいい言い回しだよ。
ともかく、環境管理に関するビジネスのネタとしてなんとかなりそうな気がするね」
山田
「私個人としては、五反田さん、つまり御社に環境教育や情報システムのお守りをしてもらうことに異議はない。ただそれについてはまた別途検討するとして、今日は研修の反省に限定して進めたいです」
藤本
「おっと、これは私が話をそらしてしまって、すまん」
五反田
「全体的なプログラムのこと、コンテンツの内容、講師の力量というか態度などに分けて提起しませんか?」
山田
「そうですね、まずプログラムについて問題といいますか、改善意見などあれば、
すみません、横山さん、ホワイトボードに書記をしてください」

うそ800 本日の疑問
世の中には環境法規制に関する有料の情報サービスを行っている会社がたくさんある。昔の紙の時代からの老舗法令情報提供会社、認証機関、コンサルタントなどがしている。それだけではなく、大手企業は社内でそういったシステムを作るとお金を回収するために外販する。もちろんISO14001が下火となった今は、そういう法令情報サービスビジネスも下火となってきている。
でも、ちょっと待ってくれ、電子政府では環境に限らず法令すべてが掲載され検索することができる。環境省経産省のウェブサイトにいけば、通知や告示がアップされている。
多くの情報サービスの中身は、そういった公的な無料ものと同じレベルであり、お金を払う意味がないと思う。
あなたの仕事ではこんなことをしなければなりませんよと教えてくれなければ、わざわざお金を出す意味がないだろうと思うのだが。
おおっと、金を儲ける方には意味があるだろうが・・・

うそ800 本日の思い出話
私が講師を務めた講習会は星の数ほどある。そのとき、絶対に出席者を眠らせないことに努めた。そのために壇上で話をするのではなく聴講者が座っている机の中を歩き回って話をし、パワーポイントの要所要所で、出席者に質問した。特別な装置がなくてもワイヤレスマウスがあればページ送りも戻しもできる。
そういうことをすると、次は自分が質問されるかと思ってみなさん気が気でないから眠らない。そして30人くらいだったら、出席者全員に2回か3回は質問したし、100人近くでも全員に最低1回は質問をした。いずれにしても原稿を読み上げるだけではお代はいただけない。質問があれば、それに対応して話を変えたり、興味の有無を感じてたとえ話の事例を変えたり、臨機応変に対応できなければ講師なんて引き受けてはいけない。
まあ、私は工夫も努力もしたのだ。
私はうそを申しません(誰の言葉かご存知か?)
私の同僚や、私の話を聞いたことがある方なら、これが真実であることを知っている。

うそ800 本日の告白
実をいってここに挙げたさまざまな施策には、私が実施できなかったものもある。やろうと思っても、企業の中では、権力、いや権限がなければアイデアがあっても実行はできません。
イントラネットでの掲示板などはやろうとしましたが、できませんでした。
なぜかって?
今は企業の情報セキュリティが厳しいので、素人が作ったCGIなんか相手にしてくれません。




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