「ISO14000入門」[第2版]

12.10.10
著者出版社ISBN初版定価(入手時)巻数
日本規格協会編日本規格協会4-542-92025-52010/01/29900円全一巻

ご注意
同名で吉澤先生の書かれた日経文庫(ISBN4532110602、2005、¥903)があります。ここで取り上げている本は、日本規格協会編集の「やさしいシリーズ」というものの中の一冊です。
お間違いのないように願います。

最近というか、もうここ何年もこういったたぐいの本を読んでいない。1990年代は自分がISO14001認証する立場で、いかに無駄を省いて認証するかというために、こういった本をたくさん読んだ。
2000年代初めも認証指導するために、最近の風潮はどうだろうかと目についた本は買って読んでいた。
2000年代後半になると、もうアイデアが出尽くしたというか、実際こういった本に書かれていることは似たり寄ったりで、買うのは金の無駄と気が付いた。よって先ほど言ったようにここ数年は買うこともなく、本屋で目に入っても手にも取ることもなくなった。
最近、知り合いというほどでもないが面識のある人から、EMSの見直しを考えているのだがこの本は参考になるだろうかとメールがきた。読んだことがないと答えてもよいのだろうが、おせっかいな私はそういうことはできない。読まずにコメントもできないので図書館で探して読んだ。その感想文というか、コメントを書く。

まあ、結論からいえば、こういった類の本の中ではまっとうなほうだろう。では期待できるかと言えば、とてもそんなレベルではない。足し算引き算もできない子供の中に、ひとりだけできる子がいたといった状況といえばイメージが伝わるだろうか。
何が問題なのかといえば、この本に書いてあることを後生大事に実行しても会社は決して良くならないからだ。
じゃあその原因はなにかとなれば、以下説明する。

この本はぶらっくたいがぁ氏のいうところの天動説で書かれているからである。天動説とは、すなわち地球は動かず、太陽が地球の周りをまわっているという考えである。
ISOは地球を回るのですか? いやISOの天動説はその逆で、地球がISOを回っているくらいISOが重要かつ基本、規範、絶対であるという発想から書かれている。
え、そうすると地動説だって? うーん、困ったなあ
まあここでは、地球をISOが回るのではなく、ISOの周りを地球が回るのを天動説ということにしよう。転倒説か動転説かもしれないが
どのようなことがおかしいのか、では、始まり始まり
  1. 環境マネジメントシステムとは、それらの活動(環境管理)を、もっと広く、組織の経営管理に関わる仕組みや活動の中に取り入れたものと言えます。(p.12)
    環境マネジメントシステムとは経営管理の中に取り入れたものなのだそうだ。この考えこそが天動説を明白に表している。 ちなみにISO14001:2004によると、「組織のマネジメントシステムの一部で、環境方針を策定し、実施し、環境側面を管理するもの(3.8)」である。
    何が違うかと言えば、ISOの定義からは、そもそも包括的なマネジメントシステムの一部であり、わざわざ取り入れるまでもない。アプリオリとして初めから存在しているのだ。そこんとこが大きな違いだ。

  2. 面白い絵がある(p.18)
    絵そのものを引用することはできないので、絵に書かれている文字だけを表にして示す。
    部品A
    ISO14001認証企業製造
    982Byte 部品Aを使って
    作られた製品
    982Byte 環境への影響小
    部品B
    ISO14001の認証がない企業製造
    982Byte 部品Bを使って
    作られた製品
    982Byte 環境への影響大

    これではISO14001認証がパフォーマンスを保証することを示している。そしてより問題は認証していない企業が作った製品は環境への影響が大きいと断定していることだ。
    これは重大な間違いであり、正誤表を付ける必要があると考える。「ISO認証企業の製品であれば環境の負荷が小さく、ISO認証していない企業の製品であれば環境の負荷が大きい」という主張は、へたをすると訴えられるだろう。
    この本を書いた人はそんな懸念を持たなかったのだろう。

  3. 環境方針の周知
    「例えば職場の目のつくところ掲示したり、印刷したものを各自に配布したりします」(p.60)
    おお!すばらしい、超古典的であり、そして間違いであり、無意味な行為だ。
    周知ってなんだろうか?
    日本語の「周知」の意味を考えても意味がない。「周知」とは「コミュニケート」の訳である。「コミュニケート」とは「to make someone understand an emotion or idea」直訳すると「感情や考えを相手に理解させること」である。だから環境方針の周知とは、「環境方針の意図を理解させ、それに基づく行動を起こさせること」であり、環境方針の文言、文字面を知ることではない。ましてや環境方針カードを常に携帯していることではない。
    携帯するという方法もあるのではなく、携帯しても意味がないのだ。
    以前もそんなことを書いた
    こんな考えでコンサルしたり審査をしているなら、まあ日本のISOは良くならないわけだ。

  4. 環境側面
    組織の活動のいろいろなところで環境との関わりがありますので、それを一つひとつ確認していきます。(p.62)
    多くの人が、いや私を除いたすべてと言っていいが、環境側面を調べるという。それは本当だろうか? いやそうするのが当然なのだろうか?
    創立以来現在まで、組織は事業を行ってきているはずだ。だから環境側面・・あるいは管理が必要な項目と言い換えても良い・・を今更初心に帰って調べる必要があるのだろうか?
    もし今までそんなことをしていない会社があるなら、きっと法違反や事故が多発しているだろう。
    本当は違う。
    私が知っているすべての組織は、かねてから管理していた項目が環境側面であることを十二分に知っている。しかしISO認証のために審査員にそれを説明するのが面倒だから、いや審査でのトラブルを予防するために、杓子定規に環境側面を調べたふりをしているに過ぎない。
    よって、このセンテンスを添削すると次のようになる。
    「組織の活動のいろいろなところで環境との関わりがあります。それらを環境側面といいます」
    簡単明瞭じゃないか。

    その次のページ(p.63)に、面白い絵がある。小さな灌木を掘るのにシャベルカーを使っているのに「すごく無駄なことをしている気がするんだけど」とキャプションがある。
    この言葉は、分りきっている環境側面をISOのために改めて調べることを意味しているようだ。しかし、この絵を描いた人は、その文章を読んで間違いに気づいて皮肉を込めてこのカットを書いたのかもしれない。

  5. 環境目的・目標
    省エネ目標や廃棄物削減のようなものについて数値目標までいれたものを環境目標として策定します。(p.65)
     ・数値目標があるものが環境目標なのだろうか?
     ・じゃあ数値目標がある環境目的はないのだろうか?
     ・数値目標がないものは環境目標ではないのだろうか?
     ・省エネ目標や廃棄物削減のようなものでなければ環境目標はいらないのか?
    この本を書いた人は、環境目的と環境目標の意味をまったく理解していないように思われる。知らないことについて本を書くとはすごい才能だ。
    しかし、objectiveを目的、targetを目標としたのは、やはりJIS規格への翻訳の時の大きな失策だろう。単なるエラーではなくレッドカードかもしれない。もっともISOの翻訳の実務は日本規格協会がしていると聞くので、さもありなんというところか?

  6. 教育訓練
    必要な能力や知識が何かを調べます。(中略)その結果をもとに教育訓練を計画し実行します(p.69)
    嗚呼、天動説の具現である。
    この文章は病的であり、論理的に意味を持たない。
    もしこのような組織があれば法違反や事故が多発しているだろうから、危なくて近寄れない。(同文を環境側面でも書いた)
    この文章は完璧な間違いだ。添削すれば次のようになるだろう。
    過去より能力や知識が必要な業務において、計画し実行していた教育訓練がこの項目に該当します。
    簡単でわかりやすいじゃないですか。

  7. 運用管理
    著しい環境側面に関する活動を行うために必要な手順を定めて、組織はそれを実行します(p.75)
    この著者に限らず、多くの人は、運用管理を「運用」と理解(誤解)しているのではないだろうか。あるいは「運用管理と運用」と理解(誤解)しているのかもしれない。
    ISO規格ではoperational controlである。JIS規格でも運用管理となっている。良く見てほしい、operationでもないし運用でもない。
    ISO規格では仕事をする上で間違いが起きないように計画しろといっているのだ。私にとっては小さな一歩だが人類にとっては大きな一歩と語った人もいたが、これは小さくないとても大きな違いではないのだろうか?

  8. 環境マネジメントシステムを導入する前に(p.91)
    二つ勘違いがある。
    ひとつは、環境マネジメントシステムなんて導入するものではない。すべての組織は、組織の属性として環境マネジメントシステムというものを備えている。もちろんそれが完璧な場合もあるし、不完全な場合もある。しかし外から導入しなければならないものでは決してない。
    もうひとつは「ISO14001に規定された要求事項を満たす環境管理に関する仕組み、すなわち環境マネジメントシステム」とある。この著者の考えではエコアクション21やKES、あるいは公害防止組織法に基づく体制は、環境マネジメントシステムではないらしい。どういうお考えなのか理屈なのか、その辺をじっくりとお聞きしたいものだ。

  9. 認証を取得する前に理解しておきたいポイント(p.95)
    外部から何らかの指導(コンサルティング)を受けることが効果的、効率的である場合がある。
    なるほど、著者はコンサルさんだったのか?
    本を売って儲け、コンサルの注文を取って儲け、ISOとは金もうけの手段であったのか?

うそ800 本日の結論
私に尋ねてきた方への回答ですが、もうお分かりのように「読む必要はありません」ではなく、「読まないほうが良いですよ」と回答しておきました。変な本を読んで怪しい新興宗教にはまってはいけませんからね。
反省
「読んではいけません」と言うべきだったでしょうか?

うそ800 本日のまとめ
この本は推薦しません。買うまではなく読むまでもありません。
私はこの本を1時間かけずに読みましたが、まさに時間の無駄であった。こんなものを読むなら柳内たくみの「ゲート」を読んでいた方がはるかによかった。



ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/10/11)
めんどくさいのでまだ天動説とは何かを(たぶん)定義しておりませんが、この本は由緒正しい天動説思想で書かれていると認定します。まさに具現化した本であります。
と、推薦の一言を本の帯に入れさせていただきたいです。

たいがぁ様 天動説をぜひ定義してください
ただ、あまり狭義に限定するといろいろと困るので、そのへんはうまく考えてほしいです

Tf_fan12様からお便りを頂きました(2012/10/11)
本家の方です。
偶々、これのひとつ前の版を所持して居ます。
2005年1月13日改訂版発行 となっていますが、著者が 吉村 秀勇 となっています。
当時(2005年)日本規格協会の審査登録事業部長 だったと巻末の著者略歴にあります。
規格協会の2010年版の目次や、引用箇所(ペーヂ番号はずれて居ます。多少何かを入れたのでしょう)から判じて、2005年版の改訂なようです。奥付を見ると2003年版が初版でISO14001の2004年改訂に合わせて2005年の改訂を行った様です。2003年版を見るを得ないのですが多分2005年版は規格の改訂に合わせて記述(節)の順序を変えたりと云う程度の改訂であろうと想像されます。ISO主体主義(天動説)とでも呼ぶべき状況は多分初版からでしょう。

Tf_fan12様 毎度ありがとうございます
私が図書館から借りてきた奥付をみますと
 2003 第1版
 2005 改定版
 2010 第2版
となっています。
改定版と第二版が違うのかどうか私にはわかりませんが、現状の版は日本規格協会編集となっています。
ともかく天動説は第1版からなのは間違いないようです
ただ、本当の天動説・地動説もそうなのですが、2000年ころまで日本ではISOは天動説であったのは事実です。
ですから第1版が天動説であっても、やむを得ないかもしれません。でも改定版ともなれば地動説に脱皮してほしかったですね

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/10/11)
ま、ムリでしょうね。以下、その理由です。
1)認証機関の幹部が天動説で凝り固まっている。
2)だから、審査員を指導することも教育することもできない。
3)仮に地動説に目覚めたとしても、登録組織に対して180度違うことを今更言えない。(審査できない)
4)そもそも、そんなことをすれば「ISOの仕事や文書、記録」が組織からスッパリなくなってしまい、認証取得以前の状態に戻ってしまう。
5)そうすると、別に今の認証機関じゃなくてもいいジャンということになり、登録移転と価格競争が激化して登録機関自身の経営が傾く。

ぶらっくたいがぁ様
おっしゃることは過激すぎます(笑いをこらえるのが・・)
テロリストと間違えられないようにご注意を

ともぞう様からお便りを頂きました(2012/10/11)
おばQ様、初めまして。
先月、某協会(もしかして教会のほうが正しい?)主催のISOの講習会へ参加してきました。ちなみに無料でした。
あえて、「品質目標と環境目的及び目標は何が違うか?」と質問してみました。
そうすると自信満々にobjectiveとかtargetと説明して、目的は3年後の目標です。と言い切りました。
協会がこれでは...
と書きながら当社も今年まではそうでした(改正済み)。
参加者の中には品質目的を作っているところもあるそうで...
ちなみに講習会の後、懇親会があったのですが、これも参加費無料でした。このお金どこから出たのか気になります。
そういえば会場にいろんな本並べてました。たぶんこの本も並んでたかもしれません。買う気がなかったので一切見ませんでした。
今見たら注文書が入っていて載っていました。ISO14000入門。9000入門もあるようです。その他もろもろ。気になります。

ともぞう様 書き込みありがとうございます。
協会ではなく教会、なるほど、あるいは基地外との境界かも
「目的は3年後の目標」いいですね、感動です。
それはどこに書いてありますかとぜひとも聞いてほしかったです。
もっともそんな質問をしても、堂々とお答えになるのでしょうね
品質目的となるとISO9001にはないのですが、不適合にならないのかいささか心配(笑いをこらえきれません)
また笑い話の提供をお願いします。

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/10/11)
目的は3年後の目標だという説を仮に認めたとして、それでも疑問が残ります。
1年経過すると、目的は2年後に実現させるわけですから2年後の目標ということになり、定義に違反してしまいます。また、2年経過した場合は翌年に実現させるわけなので、目的と目標が完全一致してしまい、目的が設定されていないことになってしまいます。
要するに最初から定義として破綻してませんかね?

たいがぁ様
ここは認証機関の考え方次第でしょうね
某J▲COは常に3年後の目標がないと不適合だとほざいていました
バカもいるものです
私は論破しましたが、もし審査員を相手にするのが面倒と思って異議申し立てしたらどうするんでしょう 笑

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/10/11)
協会ではなく、組織に害を成す「妖怪」かも知れません。高炉にオトして溶解させたい。無論、そんなヤツに迎合する事務局は懲戒だ!


鶏様
現実の審査をみていると、ISOとは無縁の思い込みで審査しているとしか思えません。しかし現実の審査とその判定を認証機関の幹部も認定機関も把握しているとは思えませんね
あるいは、ひょっとして、認証機関の幹部も認定機関も目的をそんなふうに理解しているのでしょうか?
それなら納得です。
ISO認証制度は地獄にまっしぐらですね 哀

名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/10/11)
目的(オブジェクト)を「確実に」達成させるためには、目標(ターゲット)が確定している必要がある、というのは現業の人間なら誰でも体験的に知っていますし、実施しているものです。
つまり、それらを「知らない」ということは、現業に就いたことがない人間が・・?
或いはJ▲Bのエライさんはアニマル浜■さんなのでしょうか。

鶏様 これは根源的な問題だと思います。
審査員の多く、特に業界設立のところは、QMS審査員がQCやQAの経験者とは限らず、EMSの審査員が環境など無縁だった人もいるでしょう
そんな審査員が審査ができるのかということが根本原因じゃないでしょうか?
大学の先生などが語っているISOはおよそバーチャルで(以下略)
一兵卒からのたたき上げの士官と、全く無縁なところから流れてきた士官の違いと言いましょうか
おっと、私は一兵卒で終わりましたけど 笑



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