ケーススタディ エコプロダクツ展

12.10.17
ISOケーススタディシリーズとは

ちょっと事務所から出ていた廣井が戻ってくると、中野と山田に声をかけた。
廣井
「すまんが、ちょっと二人集まってくれ」
中野と山田が打ち合わせコーナーに集まる。山田廣井中野
廣井
「ちょっと問題が・・・」
山田
「私になにも連絡が入っていないことから事故ではないですね。なにか不祥事でも?」
廣井
「いや、そういうわけじゃないが。中野君、エコプロ展の準備はどうだい?」
中野
「順調ですよ、開催まであと2か月ですね」
廣井
「うーん、先ほど環境担当役員から呼ばれたんだが・・
今日の役員会議でエコプロ展の話が出たそうだ」
中野
「昨年は社長をはじめ、ほとんどの役員が見学に来ていましたね。どんな話でしたか?」
廣井
「単刀直入に言うと、出展する意味がないという話が出たそうだ」
中野
「意味がないと言いますと、効果がないということですか?」
廣井
「当社は何コマ出すのかわからないが、結構金を使っているんだろう?」
コマ(小間)とは、展示会での広さの単位である。ブース・エキジビションスタンドともいい、展示会の場所代はコマ数かける単価となる。
コマの公式な寸法というものが決まっているわけではなく、多くの場合一コマは縦横3m前後であるが、展示場や展示会によっては2m角、1.8mかける0.9mなどのこともある。
通常の坪は6尺四方であるが、お墓の坪は3尺四方とか、2尺5寸四方もあるのと似たようなものだ・・似ていないか?
 3尺かける6尺のところもあるとお便りをいただいた。(10/19追加)
小さな企業や大学・NPOなどの出展は最小の一コマということもあるが、大手企業になると20コマとか30コマ以上の面積となる。

中野
「直接的な費用だけで1700万というところでしょうか。社内の人件費、出品するものの輸送費などを考えるとその倍や三倍かかっているかもしれませんね」
廣井
「ここずっと景気が低調という状況だし、もし総額5000万かかっているなら、売り上げを15億くらいアップさせないと元は取れないってことか
もう一つの問題はエコプロ展というより昨年(2011)は省エネ展、更に言えば製品の省エネよりも工場や輸送の省エネ展に偏っていたしね。あのあたりがエコプロ展の評価をさげたらしい。というのは当社にとってあまり出展するメリットがない。当社の製品で省エネが図れるとかいうものがないからね、
当社の工場の省エネを宣伝してもノウハウの流出だし」
山田
「昨年は東日本大震災がありまして、原発の停止などの電力事情がありましたから特別でしょうけど」
廣井
「まあ、そうなんだけどさ、
それでさ中野君よ、今になってということもあるが、今年の出展を取りやめるということはできんかね?」
中野
「うえー、今からですか。そりゃ不可能ってことはありませんが、今まで費用的にはかなり使ってますし、止めるとなるとそれなりに手を打たなければなりませんから、お金の節約にはならないでしょうね。現時点となれば、出展してもしなくても流出費用は変わらないでしょうね」
廣井は天井を見上げてしばし沈黙
廣井
「わかった、今年のエコプロ展は続行しよう。俺は上にそのように説明しておく。だが来年はなしという方向で考えておいてくれ。
まだ話がある。待っていてくれ」
廣井は一旦立ち上がって給茶機からコーヒーを持ってきた。 コーヒー
廣井
「俺も役員からエコプロ展を止めろと言われて驚いたんだが、考えてみればエコプロ展に出展して、いったいどんな効果があるのだろうか?
今年は当社製品の省エネ性能と規制対象化学物質非含有をアッピールする予定だったよな」
中野
「そうです」
廣井
「一般消費者には興味がなさそうなテーマだな」
中野
「当社の製品は一般コンシューマー向けじゃありませんからねえ。直接のお客様である企業は環境性能といいますか、規制化学物質を含有していないとか廃棄時に問題が起きないようにとか仕様として我々に要求しています。ですからわざわざそんなことを言うまでもないのは自明ですね。
平ったくいえば、エコプロ展の効果は一般消費者に当社の名前と環境活動を知っていただくということくらいかもしれませんね」
廣井
「そうだとすると何人が当社の名前を知ってくれたと思う? 昨年の当社ブースへの来場者は何人くらいだった?」
中野
「正直言ってカウントしていません。2011年はエコプロ展の入場者は18万だったと公表されていますから、まあその5%が当社に来たとして9000人くらいでしょうか?」
廣井
「まさか、全入場者の5%は当社のブースには来んだろう。3%として5000人、直接流出費用だけ考えても1700万なら一人当たり3500円もかかっているというわけか。入場者の5%の9000人としても、一人当たり1900円もかかっている。街で通行人に2000円ずつ渡して当社の宣伝を聞いてもらったほうがよさそうだな」
中野
「廣井さん、まあ業界の付き合いもありますし、そう単純には・・・」
廣井
「中野君のいうのはわかるよ。ただ昨今の状況を考えるとエコプロ展なんてのどかなことをしている状況ではないというのも確かなことだ。他の企業はどういうスタンスというか、何を目的に出展しているのだろう?」
山田
「単なる展示会で展示即売会ではありませんから、即物的な利益は期待できません。
BtoCであれば、製品の環境配慮を知ってもらう、そしてその会社が環境に配慮しているというイメージを持ってもらうということでしょうね。」
廣井
「BtoBなら?」
山田
「やはり環境に配慮しているというイメージを持ってもらうことでしょう。ブースによっては商談スペースなんておいているところもあります。しかし必要に迫られて探している企業なら、エコプロ展で希望するものを見つけるなんてことはありそうもないですね」
中野
「当社の場合、名刺を置いていった方に手紙とか電話で連絡を取るのだけど、商談までこぎつけたものは昨年はないですね」
廣井
「確かにBtoBであってもリクルートなどを考えると、実態よりもイメージが重要だけど、そのためにはコマーシャルとか環境報告書の充実の方が効果的な気がするね」
中野
「業界の付き合いもありますし、当社独自で行動するのも結構抵抗があり大変なのです。当社のコンペティターがエコプロ展に10コマ出すとなれば、当社もそれと同等出すべきと業界団体が求めるわけでして・・」
廣井
「まあわかるけどさ、今後はなにごとも無条件で前例を踏襲するということは禁止だ。俺も役員から言われたんだけど、すべてにわたってゼロベースで考えなくてはならないと言われた」
中野
「実はね廣井さん、ボクも本音を言えばエコプロ展には疑問を持ってたんですよ。エコプロ展の正式名称はエコプロダクツ展ですよね。廣井さんも会場を歩いたでしょうけど、最近はCSRだかNPOだか工場省エネなのか訳が分からなくなっています。本来のエコプロダクツはメインじゃなくなっています」
山田
「私もつくづくそう感じています。家電製品が省エネといっても、どの会社の製品もすべて省エネなら、それをエコプロダクツというのも変な話ですよね。まあ間伐材から作った製品くらいはエコプロダクツかと思いますが、海面上昇からツバルを救えとか、マングローブの植林をしましょうとなると、エコプロダクツとは言えませんよね」
廣井
「俺もよ、昨年のエコプロ展で歩いていたら、NPOのブースで怪しい木製の置物とか売りつけられたよ。中には宗教がかったNPOもあったね。まあ、環境そのものが宗教じみたいかがわしいものなんだけどさ、エコプロ展の事務局は出展者の内容をチェックしていないのだろうか?」
山田
「元からエコプロ展というのは、内容よりも、出展者の数、入場者の数が重要と考えているように思います。エコプロ展の指標が入場者というのは理解に苦しみます」
中野
「ボクもそう見ているよ。そもそも、もうエコプロダクツという概念は日本に浸透したからこういった展示会の意義はなくなってきていると思うんだ。発展的解消をすべきじゃないのかなあ〜」
廣井
「同じ展示会にしても、もっと我々の製品や会社をアッピールできるもの、できる方法を考えたいと思う」
中野
「環境に関する展示会となりますと、やはりエコプロ展が一番大きいですね。ウェスティックとか環境展とかありますが、規模が違いますね」
廣井
「そういうものだって当社の意図するものとは違うんじゃないか。廃棄物が当社の環境活動のメインじゃないと思う。 要するに当社として何をしたいのかというのをはっきりさせて、それを実現するための手段としてどういう方法が考えられるか、費用対効果を考えてということだ」
中野
「廣井さんのおっしゃることはよくわかります。とすると展示会から撤退して、報告書の充実や大学生への広報とか環境コマーシャルに重点を置くべきですかね?」
廣井
「それは中野君の考えることだ。いずれエコプロ展の効果については役員から言われたことは間違いではないという共通認識だと理解する」


山田は自分の席に戻りながら考えた。まずなにごとも惰性で行うことはいけないこと。常に本来の目的を考えて、費用対効果があるのかを考えなければならない。極論すれば環境保護部という組織そのものだって、存在意義がなくなれば廃止すべきなのだ。
多くのというか、すべての組織は、一旦設立されれば存続することが目的となる。PCB処理のJESCOだって2015年までにPCB処理を完了して解散する予定であったが、PCB処理の遅れから永続すると思われる。
JESCOとは日本環境安全事業株式会社の略で、PCB処理のために設立された国策会社、というか元々は(特殊法人)環境事業団が行革で株式会社に改組されたもの。
山田の担当する鷽八百グループの環境監査だって、事故も違反もなくなったとき業務も組織も廃止するとなると自分自身賛成できるかどうかわからない。他の職務に異動できるならともかく、部門解消即失業となれば重大問題だ。
エコプロ展も幕引きもできず延々と続くのだろう。そういうことを老醜をさらすというのだろう。アジアでも同様なものとして「エコプロダクツ国際展」というものがある。いや、あったと過去形だ。これは予算がないという理由で2010年度のインドを最後に終了したようだ。そういう事情がないと終わるにも終われない。
当社の役員がエコプロ展に見切りをつけたのは賢明だし、環境保護部にとって良いことだろうと山田は思った。

うそ800 本日の言葉
まもなく今年もエコプロ展です。私も過去には何度も説明員などとして参加していました。10年前は名実ともにエコプロ展という感じでしたが、最近はCSR発表会なのか、マングローブ保存会なのか、ツバルを救う会なのか、はたまたエコファクトリー展なのか、全然わからない状況です。
それにもうマンネリですよね。そして入場者もピークを過ぎて減少しているようです。
地球温暖化教祖であらせられます山本センセイが頑張っていますが、さてどうなりましょうか?

うそ800 本日の蛇足
だいぶ前にエコプロ展の終焉を書きましたので、今回はエコプロ展の挽歌であります。次回はエコプロ展の法要になるのでしょうか?
もっとも法要といっても、3回忌の頃は、みなエコプロ展を忘れてしまっているでしょう。

うそ800 更なる蛇足
かえる エコプロ展のキャラクターはカエルです。でも参加者のほとんどはカエルの実物に触ったこともないでしょうね。私が子供の頃、梅雨時になると道一杯、生垣などにはもうたくさんのアマガエルがいました。
エコプロ展のカエルは擬人化されてかわいいですが、現実のカエルは野生動物(?)で、ぬいぐるみと違いかわいくありません。さわろうとするとションベンをかけられます。さわるとぬるぬるしていて、毒か何かあるのでしょうか、あとでかゆくなります。ちょっとした違いですが、カエルをかわいいと思っている人たちはカエルの現物にはさわれないのではないでしょうか?
ところで、数日前マンションの庭でヤマカガシを見つけました。懐かしいなあ、お前も元気かという感じがしました。もっとも、どこかのお母さんが見つけたら悲鳴をあげてマンション中の人を駆り出して蛇退治をするような予感がします。蛇だってマンションの庭に住む権利があると思いますが・・
自然保護を崇高な理念だと信じている人々はどんな対応をするのか、知りたいですね。
蛇足だから蛇の話で見合っていて、ちょうどよろしいでしょう



外資社員様からお便りを頂きました(2012.10.18)
どこの会社も、展示会は見直していますね。9月に CEATECがありましたが、年々 参加会社が減っています。
私も、前の会社では、展示会の担当をした事がありましたが、その時の目的は、顧客へのアピール、一般への企業イメージアップでした。
民生品ならば一般へのアピールも重要ですが、ショー以外にも効果的な方法は色々とあります。
辛いのは、費用と手間(貴重な技術者を貼り付け)にする割には、効果的に生かせない点で、一番 困るのは展示している場所へ、売り込みにくる 客とは言えない参加者です。
学校や企業の新入社員(就職内定者)などを、団体で送り込んでくる場合もあり、これらもビジネスにはつながらないのが明白なので、本音を言えば、嬉しくない参加者です。
あえてメリットを上げれば、業界のキーパソンが集まっているので、会期中に実のある会議や打ち合わせ(もちろん展示とは無関係)が出来る点くらいです。
但し、これは展示会の目的ではなく、無駄にしない為に展示側関係者が考えていたら、そのような習慣が出来たようです。(笑)
私の周りの会社では、不特定の人を相手にする展示会ではなく、特定顧客を招待する「プライベート・ショー」に変わりつつあります。
プライベートショーでは、ホテルの大宴会場を借り切って、それなりに豪華にやりますので、お客への訴求効果(頑張っていますというアピール)は十分です。
場所も、都心のホテル等なので、参加も便利で、担当営業があれば 付き添って説明もしてくれます。
CSRや環境への配慮も、こうした場で 展示の一部分としてやれば、世間への十分なアピールになります。
無駄な客も来ないし、競合会社はショットオフできますので、守秘上の問題も無く、効率が良い展示になります。

エコプロに話を戻すと、プライベート・ショーで不便になるのは、環境関係のビジネスや、そのような部門の関係者でしょうか?
多分、そうした会社は、開催する側からはお客ではないので、招待する可能性は少ないです。
一方で、特定テーマで展示会をやれば、その分野のビジネス(サービス、機器、部品など)をする人にとっては、複数の会社からの情報集めにも、展示会社に売り込むにも便利ですから。となると、本当の受益者は、そうした人なのかもしれません。 ならば、展示の費用を下げて、参加者からお金を取るのが良かろうと思います。
実際に、欧米の展示会は、そのような方法で、数百ドルの見学料なものも普通にあります。
但し、それだけの情報や調査が出来るから参加者もお金を払うのだと思います。
日本の場合には、企業が金を出して見学者はタダ(見かけ上は有料?)という不思議な習慣が根付いていました。
受益者から価値に応じた金をとる方向になれば、もう少しましな展示会になるように思いますが、如何でしょうか?
そうなると、参加者が減るー>参加者が減るから展示会社も減るというスパイラルに陥りますか..

外資社員様 毎度ご指導ありがとうございます。
CEATECも参加者が減っているのですか! それじゃ、他の展示会は推して知るべしですね。
しかし展示会で来客と商談というのは見かけましたが、売り込みに来る人もいるのですか! それは初耳です。すごいんですね。
おっしゃることすべて同意です。
展示会について思うのですが、展示会というものが今の時代にマッチしていないのではないかと思います。
万国博覧会というのがありましたというか、今でもあります。エッフェル塔はパリ万博のシンボルです。大阪万博もありました。1970年頃までは、我々は気軽に外国に行ける状態ではなく、大阪まで行くにも鈍行で一昼夜かけて行った記憶があります。そういう時代だから外国の物産を展示して、それを見るというイベントが成り立ったと思います。しかし時代は変わりました。私の娘は高校の時、カモノハシを見たいとオーストラリアのなんとか動物園まで行きました。そういうことができる時代になったのです。だから万博とか博覧会とか、展示会に行くのではなく、見たいものを見るということが普通のことになりました。
実際、上海万博はともかく、最近の博覧会は下火、下火になってきています。
エコプロダクツでもエコプロダクツ展に行かなくても、自分がほしいもの、知りたいもの、見たいものを見ることができるのです。一堂に集めて展示することにあまり意味はなさそうです。
確かに数が多ければ情報量もあって、一日行けばためになるというかもしれませんが、どこに何があるかわからず、歩き疲れるのが関の山です。
これからはインターネットを活用して、希望するエコプロダクツにたどり着けるようなシステムを考えるとかしたほうがよいでしょう。
それとは別かもしれませんが、ここ数年、エコプロ展の内容が劣化してきています。不景気のせいかもしれませんが、前回と同じ展示物を置いている会社もありますし、ITとか映像などに凝っているけれど、そこで説明している内容は陳腐なものというのが多くなってきています。なにせ私は毎年他社の展示物の写真を撮って比較表を作っていましたので、そういうことは詳しいのです。
ともかく、このままではいけません。イノベーションが必要です。

VEM様からお便りを頂きました(2012.10.18)
エコプロダクツに今も期待しています
価値を持っていたと佐為さまが書かれた頃なのか、エコプロダクツを見学した印象に基づく投稿が業界紙に採用されたことがかつてあります。多くの小学生が元気に走り回る姿に、将来の地球環境への希望を感じたと書きました。近年のエコプロダクツの変化は、展示の方向がますます子供向けになっているとも感じられます。多くの大企業が将来のマーケット確保のために、短期的な損得よりも長いスパンで考えて今の傾向を続けてくれることを望んでいます。
自分自身が小学校6年生の時にデパートの催事場で開かれていた環境に関する展覧会で受けた強い印象が、環境に関する取組の底に今も流れていることを感じるからです。

VEM様 毎度ありがとうございます。
ご意見を否定する気はありませんが、現実はどうでしょうか?
小学生の団体が来ると、彼らはまずお土産は何かと聞きます。お土産がないとそのまま次のブースに走り去っていきます。キーホルダー、ボールペン、ワッペンなどですと物を見て、気に入らなければ次のブースへ走り去ります。オミヤゲがよければブースに入ってアンケートやクイズをしてお土産ゲット、そしてまた次のブースに走って行きます。
もちろん各グループが情報交換して、某社のお土産がいいと聞くと、どんな会社とか展示物に関係なく、明かりにむらがるガのごとく・・です。
展示する側も以前に比べて熱気がありません。大学のブースは、その大学から来た学生がたむろしているだけ、NPOはマングローブを救え、ツバルを海面上昇から救えと叫びます。マングローブを救うエコプロも海面上昇を抑えるエコプロも心当たりがありません。
有明の駅のごみ箱は、展示会で配った資料がドサッと捨ててあります。
企業から見ても、宣伝効果もなく、ビジネスにもあまりつながらないようです。



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