ケーススタディ 10年目のISO事務局 その3

12.10.30
ISOケーススタディシリーズとは

前回までのあらすじ
山田の元上司で現在関連会社の取締役である福原から、その会社のISO事務局が傍若無人で好き勝手をしているので、担当者をいさめてその会社のEMSを役に立つものに見直してほしいという依頼があった。山田は直接その担当者を指導するのではなく、監査で不適合を出して、それを是正させる過程で教育していこうと考えた。
そして定例の環境保護部による環境監査を行った結果、案の定、たくさんの法律に関わる問題やISO規格への不適合などが検出された。
今回は、その続きでございます。
と、これだけではストーリーがお分かりにならないでしょう。ぜひ「10年目のISO事務局その1その2」をお読みください。



山田はグループのメンバー全員を集めた。
山田
「横山さん、藤本さん、五反田さん、大法螺おおぼら機工の監査、お疲れ様でした。監査報告を拝見しましたが、なるほど福原さんがおっしゃったように、現実の環境管理には役に立たない飾り物の仕組みのようですね。
川端さんという方はISO事務局の10年選手だそうですが、これでは一軍選手とは言えません」
藤本
「わしはISO関係はあまり経験がないが、ああいったふうにISOを間違えて解釈している人は多いのでしょうか?」
五反田
「まあ、世の中の事務局の2割や3割はあんなものでしょう。あそこまで極端でないものまで含めれば半分以上はオママゴトISO、ダブルスタンダードでしょうねえ」
藤本
「本当か! それじゃ、五反田君は異常値といえるわけだ。いや言葉の良い意味でいっているつもりだよ」
五反田
「そんなことを言えば、山田さんは異常値の最たるものでしょう。もちろん会社の仕事はなにかという観点から発想すれば、山田さんや私のように異常値になると思います。
実は私は山田さんの前任者の平目さんという方を存じています。私が子会社でISO認証しようとしていた時、平目さんに相談したことがありました。平目さんはまったく正常でしたね。ということは天動説で、川端さんと同じだということです。
藤本さんはご存じないでしょうけど、山田さんは平目さんのママゴトISOを全面的に改革してきた人ですよ。
ともかく世の中の多くの人は、会社のためよりも、ISO審査員に言われたことを尊重して、おかしなことをするばかりです。そしてそれをいさめる管理者もあまりいないのです。だからおかしな考えが大多数となり、それが正常値となっているのです」
藤本
「そういうのが積み重なって、日本のISO認証が下火になりつつあるんだなあ」
横山
「ISOの審査で見せているシステムと実際の運用が異なる、いわゆるダブルスタンダードの会社はかなりあります。
しかし私のつたない経験ではISO審査で見せているものがバーチャルであっても、実際の環境管理担当者がしっかり管理しているところが多く、大きな問題にはなっていませんでした。今回の会社はバーチャルなISO担当者の力が強すぎて、遵法やリスク管理においても問題が起きてしまったということでしょう」
藤本
「横山さんは監査リーダーとして貫録十分だね」
横山
「いやだあ、藤本さん」
 と横山は藤本の背中をドーンと叩いた。
「正直言いまして私が監査で対応する方は社長とか取締役なので、位負けしないようにかなり緊張しますし、本当にこれでいいのかといつも不安を感じてます。藤本さんや山田さんのように、職階が高いと監査で位負けというのを感じないと思いますけど」
五反田
「それは私も感じますね。特に私は子会社からの逆出向の身ですから、鷽八百の工場や支社では肩身が狭いですし、関連会社の場合でも社長とか役員が出てくるとちょっとね。
名刺に逆出向と書いてあるわけではありませんが、茶飲み話で経歴などを話せば相手は私の立ち位置をわかりますからね」
山田
「五反田さんや横山さんが感じることはよく分ります。私も平の時はそう感じていましたから。難しい注文ですが、そうであっても位負けしないで仕事してほしいですね」
藤本
「山田さんが『担当部長』という名刺を使っているように、横山さんや五反田君が『担当課長』とか『課長代理』という肩書を付けてはまずいだろうか。会社規則では上長が認めれば正式な職制ではない肩書を名刺に記載してよいというルールだったはずだ」
山田
「ルールは藤本さんがおっしゃる通りですが、社内やグループ内では私はそういうことをしたくありません。と言いますのは、社外の団体などに行く場合なら体面というか相手に対する礼儀もあります。礼儀と言いますと変ですが、地位の低い人が対応しているというよりも、上位の人であると表明した方が相手も気を良くするというか先方の社内に対して都合がよいということがあるわけです。
しかし鷽八百グループの社員ならイントラで調べれば正式な職制がわかりますから、そんなことをしても意味がありません。
五反田さんも横山さんも、環境管理や監査について十分な力量があります。ですから環境保護部から派遣された監査員として、訪問先の社長や取締役を相手にして引けを取らないと考えています。それに名前だけ課長だとか部長と呼ばれてもうれしくないでしょう。
一等賞の免状は一等になったからこそ価値があるのです。二等の人が一等の免状をもらっても価値がありません」
横山
「わかりました。平であっても鬼の監査員になるよう頑張ります」
五反田
「横山さんは鬼じゃなくて観音様になってほしいなあ」
山田
「本題に戻りましょう。やることがいくつかあります。
まずひとつは、大法螺機工のISO14001を認証している認証機関への抗議をしましょう。当社はISO審査が信頼できるなら、わざわざ環境保護部が監査を行う意味はないですからね。そして役に立たない審査ならISO認証を止め方がコスト削減ができる。
それから・・・すみませんが横山さん、ホワイトボードに書いてください。
ふたつめは大法螺機工の是正指導です。この進め方はよく考える必要があります。
まず最初に福原取締役と川端氏と十分話し合いをする必要があると思います。担当している人が、現状が問題であるということを認識しないとどうにもなりません。特に川端氏の顔をつぶさないで本人が進んで是正活動をするように仕向けることが必要です」
藤本
「現在の問題がどうして起きているのかの原因を、なぜなぜ分析などでISO規格要求事項を満たしていないことを理解してもらうしかないだろうね」
五反田
「先日の監査でも、過去10年間ISO審査で褒められていたと抗議していたから、そう言った方法では、なかなか規格要求を満たしていないということを認めないでしょうねえ〜
藤本
「とすると過去のISO審査が間違いであったと説明する必要があり、認証機関が過去の審査が間違いであったと説明しないとならないことになる。
イヤハヤ、認証機関に抗議してもそんなことは認めないだろうね」
山田
「うーん、どうもまず認証機関と話をする必要がありますね。先方もどんな顔をするやら・・」
藤本
「山田さん、ここはひとつ私と五反田君に任せてくれないか。ちょっと認証機関に行ってくるよ」
山田は考えた。いずれにしてもこの認証機関にはねじ込まなければいけない。その役目は山田よりも藤本の方が適任だろう。貫録と言い、大法螺機工の監査をして実情を知っていることもあるし、
山田
「藤本さん、それじゃお二人にお願いします。大法螺機工に行くのはその結果次第としましょう。こんなことを言っては失礼とは存じますが、こういった交渉は初めが大事です。二回目はないということ、相手に逃げられたらそれで終わりです」
藤本
「幸運の女神には前髪しかないか、伊達に歳を取っていないからお任せあれ」


藤本は五反田と打ち合せた後、大法螺機工を審査している認証機関に連絡を取り、その週に訪問する予定を取った。


予定の日時に二人は訪問した、
先方は審査部長の中根中根部長 と担当の平塚平塚 が対応した。
名刺交換して挨拶すると五反田は即本題に入った。
五反田
「弊社が大株主になっていてまた弊社の調達先でもある大法螺機工に対して、弊社は定期的に環境監査を行っております。このたび行いました環境監査において、多数の法に関わる問題やISO規格への不適合が発見されました。
しかし貴認証機関の過去10年にわたるISO審査においては1度たりとも不適合が指摘されていないという説明を受けました。そして私どもが指摘した事項は認証機関が指摘していないから同意できないということです。正直言いまして、大法螺機工では、弊社の監査員よりも貴認証機関の審査員のご判断が権威があるように思われているようです。
ついては私どもがお聞きしたいことは、貴認証機関は、過去の審査においてなぜかような問題を見つけていなかったのかということです。それで貴認証機関の判断を確認するのが今回の訪問の意図です」
中根部長
「おい、藤本様からお問い合わせを受けて、大法螺さんの過去の審査記録はチェックしたのだろう。どうだったんだ?」
平塚
「はい、確かに過去の審査報告書で不適合は1件も記録されていません。よって過去の審査においてそのような問題は見つけなかったと思われます」
中根部長
「藤本さん、ご存じのようにISO審査は抜取で行いますから、不適合があっても必ず見つけるとは限りません」
平塚
「それからもうひとつとしまして、鷽八百さんの監査で見つけた不適合というのは本当に不適合なのかということを確認しなければ何とも言えません」
中根は重々しくうなずいた。
五反田
「そんな判定に悩むようなグレーゾーンではないと考えております。
貴認証機関ではマニフェスト票などをチェックしているのでしょうか?」
中根部長
「もちろんです。審査員全員にマニフェストの書き方、チェック方法を教育し、審査においては必ず確認するようにしております」
五反田
「それじゃあ記載漏れなどは簡単に見つけますよね」
平塚
「もちろんです。当認証機関の審査員の力量は十二分にあると考えております」
五反田
「今回私どもが行った監査ではマニフェストの記載漏れが複数見つかりました。
その他、危険物保管庫に劇物の表示がない。これはISO事務局が手順書そのものがないことを認めていますから、初めはあった表示が途中からなくなったということではないようです。
特管産廃を通常の産廃と一緒に保管していること。これも特管を種類ごとに分けて保管するというルールがありませんので過去からそうしていたと思われます」

中根中根部長と平塚平塚は顔を見合わせた。
五反田
「ISO規格対応としてですね、力量のない人が著しい側面に従事している事例がいくつもみられました。先ほどのマニフェスト記載も一例です。危険物取扱において、危険物取扱者の資格のない人が有資格者の指導もなく業務を行っている例もありました。これは明確な法違反です。
これらはいずれもたまたまではなく、システムとしてそういうことが発生してしまう仕組みであると事務局が認めています」
中根部長
「藤本様がおっしゃるのが本当だとしますと、規格不適合や法違反であることは間違いありませんから、審査において抜取で漏れたと考えられます」
五反田
「先ほど申しましたマニフェストの記入漏れは少なくありません。過去1年間だけで38枚ありました。過去1年間に当該組織が交付したマニフェストが178枚ですから、全体の21%にあたります。これを抜取で漏らすとすれば、ISO審査における抜取方法がまずいといえるでしょう。私どもでは過去3年間さかのぼってチェックしましたが、ほぼ同じ比率で発生しています」

中根と平塚は顔を見合わせた。
五反田
「それから排水処理施設が著しい環境側面になっていません。これは法律上も特定施設ですし、運用管理が重要で力量が必要ですから、私どもは著しい環境側面に該当すると考えます。
ISO事務局の回答では、過去10回の審査で指摘がなかったので問題ではないという回答でした。この辺については貴認証機関の判断基準をお聞きしたいところです」
中根部長
「弊認証機関の審査が不適切であったということですね。それに対してどのような対応をお求めでしょうか?」
五反田
「先ほど申し上げましたように弊社は大法螺機工の大株主であり、また最大手の顧客でもあります。よって法違反や事故などが起きて当社の事業に影響が及ぶことを懸念しております。その事情はご理解いただけますね。もちろん今後、大法螺機工で事故など起きれば、ISO認証していた御社も大変なことになるわけです。私どもは、お互いの利害関係は一致していると考えておりますが、それにご同意いただけるでしょう。
つきまして私どもが希望するのはISO17021 9.8に基づき、臨時に『認証されたマネジメントシステムの有効性』を検証していただきたいと考えております」

中根と平塚は顔を見合わせた。
中根部長
「ご希望はわかりますが、臨時に審査を行うということは、相手方との調整とか非常に大変なのです。来年の審査において十分に確認を行うということではいかがでしょうか?」
五反田
「万が一、来年の審査までに大法螺で事故や違反が起きたりすると、当社だけでなく御社としても大変なことになると思います」
五反田の言葉はある意味脅迫だ。
中根と平塚はうつむいて黙っている。
刑事ドラマでは初めは下っ端刑事が机をドンドン叩いて脅かして、やがてベテラン刑事が現れて静かになだめすかすことになっている。
ここで藤本が口を開いた。
藤本
「御社もいろいろとレギュレーションがあって大変だということはわかります。私どももあまり無理なことを言いたくありません。そこで相談ですが・・」

中根は身を乗り出して聞き耳を立てた。
藤本
「大法螺機工の過去10年の審査状況について、審査員にヒアリングなどを行い、見逃した原因究明を行っていただき、その調査報告書を弊方にいただけないでしょうか。我々としては単に今臨時の審査を行っていただくとか、来年はしっかり審査しますと言われても、今までの審査がしっかりと行っていてたまたま確率的に漏れたのか、あるいはなにか貴認証機関の審査システムとか手順に漏れがあって発生したのかを確認するほうが重要な点です」

中根は大きくうなずいた。
中根部長
「いやあ、藤本様のおっしゃるとおりです。過去10年間に10回も審査していたわけですから、当社としても何か不具合があったかもしれません。それについては調査したいと・・
おい、平塚君、どうかしたのか?」
平塚
「いや、大したことではありません。過去10年間に大法螺機工を審査した審査員が同じ顔ぶれなので、ちょっと他とは違うなと思いました」

中根が平塚から紙を受け取る。
中根部長
「毎回3名で三日間か、3年は同じメンバーで行うというのが当認証機関の原則ですが・・
なるほど、この会社は主任審査員が過去10年間変わっていない。審査員も出入りはあるが、全部で5名しか参加していない。その組み合わせが入れ替わっているだけだ。ちょっと変だね」
藤本
「それでは中根様、貴認証機関において過去10回の審査において不適合を検出できなかった理由についての調査報告書をいただくということでお願いします。
期限ですが、実は大法螺のISO審査の見逃しはですね、当社、鷽八百機械工業の取締役会でも話題になっております。大法螺が東証二部に上場しているといいましても、当社は実質的に親会社的な位置づけにあり、事業においても非常に密接な関係にありますからね。私どもの立場もひとつご理解、ご配慮をいただきたいと・・」

鷽八百の取締役会で問題になっているという言葉を聞いて中根中根部長の顔色が変わった。鷽八百は1兆円企業だ。その取締役会議で話になっているとは!
藤本
「ついては私どもはこの件について取締役会に調査結果を報告しなければなりません。今日は・・21日ですか、大法螺の監査は先週行っておりますので、来月第二週目の取締役会には報告しなければならないでしょうね。
ということで貴認証機関の原因究明は厳正に早急にお願いしますよ。既に当社でも大きな問題となっておりまして、うやむやにはできない状況です」

中根はごもっともという顔をして
中根部長
「しかと承りました。それでは報告書は来月第1週末の金曜日には提出いたします」
藤本
「いや、それには及びません。ご連絡いただければ、私と五反田がこちらにお伺いいたしましょう」
二人は話を決めて引き上げた。


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帰りの地下鉄での雑談である。
五反田
「意外とすんなりいきましたね」
藤本
「先日あそこに送ったメールに、『貴社にお話すればよいのか、JABにお話すればよいか迷いましたが、とりあえず貴社に』というくだりがあっただろう。あれがきいたんじゃないか?」
五反田
「審査員が10年も変わらないというのは変ですねえ〜」
藤本
「そうなのか? おれはそういうことは知らないけど」
五反田
「私どもの審査では毎年くらい変わっていました。まさかあそこは5人や10人でやっている零細な認証機関じゃないですから、いくらなんでも主任審査員が10年間変わらないということは、まずないでしょう」
藤本
「叩けば埃が出るのは、大法螺だけじゃないのかもしれないぞ」
五反田
「といいますと?」
藤本
「第六感だけど、来週あたり中根先生が当社に泣きを入れてくるような予感がする」


藤本が予想したよりは数日遅れたが、藤本に電話が入った。今の時代、メールでなく電話というのは、おりいった話があるというのが相場だ。
中根部長
「藤本部長様でいらっしゃいますか、ああ、良かった。実は大法螺機工さんの審査について弊社内の調査が終わりまして、その結果についてご相談したいのですが」

藤本は、ハハーン何かあったなとピンときた。
藤本
「さようですか、ではご都合の良いときお伺いいたします。いつがよろしいでしょうか?」
中根部長
「ちょっと込み入った話でして、今からでもお宅にお邪魔してよろしいでしょうか?」
藤本はオヤオヤと思いつつも、了解した。


藤本は、認証機関の二人が来ること、おかしな方向に進展しているということ、もし声をかけたら顔を出してほしいことを山田に頼んだ。とりあえずは藤本と五反田で話を聞くことにする。
中根と平塚の二名が来社した。
中根部長
「藤本様、大法螺機工の審査につきまして過去から審査を担当していた主任審査員他にヒアリングしました。その結果ですね・・・」
藤本
「はい、それで不適合を見逃した原因はなにかわかりましたでしょうか?」
中根部長
「隠してもしょうがないので事実を申し上げますと、その主任審査員は大法螺がISO認証したときからコンサルをしていました。そしてISO事務局担当者とは親しい友人なんだそうです」
藤本
「ホー」
それは藤本にとっても予想外であった。
中根部長
「10年前、大法螺機工の初回審査もその審査員が担当でした。初めて審査を受けたとき多くの不適合があり、その審査員がコンサルとして契約して指導をしたそうです。お断りしておきますが、その審査員は当時から契約審査員でして当社の社員ではありません。また審査員が審査する会社のコンサルをするのが明確に禁止された時期はそれ以降で、当時はそれが違反であったわけではありません。ただそれ以前から大法螺機工のISO事務局担当者とその審査員が知り合いだったということがひっかかります。勘繰れば、現在のISO事務局担当者と主任審査員が二人して謀議を謀ったということも考えられます。もちろん証拠も何もありません。
ともかく、その主任審査員は、それ以降現在まで大法螺機工とコンサル契約を継続していました。これは現時点のISO審査のルールでは違反になります。
その審査員は癒着はなかったと申していますが、癒着していなかったとしても自分がコンサルしている会社に不適合を出すわけにはいかないでしょう。
またその者は初回審査以降ずっと当社の審査計画担当に大法螺の主任審査員は必ず自分が担当すると申し入れて、他の審査員は自分の息のかかった者で組んでいたようです。
真相はどうあれ、そのようなことはISO17021の公平性のマネジメントに反します。
実はその者は、私がヒアリングした後、すぐに当社の契約審査員を辞めてしまいました」
藤本
「いや、中根様、本当のことをおっしゃっていただきありがとうございます。そういうことでしたら私どもも納得いたします。もうそれで十分です。次回からはぜひ通常のといいますか、適正な審査をお願いします」
中根部長
「報告書の件はどうしましょうか?」
藤本
「我々も手ぶらで報告するわけにはいかないので、あまり細かくなくそのようなことと、貴社の再発防止策を簡単に、A4で1ページ程度書いてくれませんか」

実際は取締役会で話題になったのは大法螺機工の環境管理は問題があるということであって、ISO審査が問題だということまでは至っていない。そんなことは藤本の舌先三寸である。
だが中根は藤本の回答を聞いて感謝して辞去した。


環境保護部に戻ってから山田を入れて話をした。横山は今日は監査で出張である。
山田
「なるほど、審査員がコンサルだったのですか。川端氏にしても10年前にISO事務局を担当したいと自分から言ってきたそうですから、その前から審査員と知り合いだったかもしれませんね」
藤本
「わしは、きっとそうだと思う。川端氏はISO事務局になる前から社外のISO研究会とかに属して活動していたというからね」
五反田
「よくいるんですよ、ISOを趣味にしている人が。個人的な趣味ならいいのですが、会社を自分勝手にかき回すようになると問題ですよね。
でも、これで川端氏もおとなしくなるでしょう。脛に傷持つ身なら、福原氏が心配していたように外で誹謗中傷を語ることもないのではないですか」
藤本
「とりあえず認証機関が過去の審査が不適切であったと認めれば、川端氏も反論できないし、これであるべき姿への是正は進められるだろう」
五反田
「福原取締役にはこの件は話してよいでしょうね」
山田
「もちろん、我々が秘密にすることはありません。ただ川端氏の処遇は我々が口をはさむことではありません。
それと審査員とコンサルのコンフリクトは我々にとっても同じことが言えます」
藤本
「は? なんのことだね?」
山田
「監査した人が、是正を指導することはできないということです」

私は実際の仕事で、監査に行った者に是正の指導をさせたことは一度もない。本音をいえばコンフリクトの問題よりも、一人でクローズさせると考えが暴走する危険を考えたからだ。特に正直で誠意のある熱心な人が一番危険だ。

五反田
「そうか、理屈はわかりますが、そうすると環境保護部で大法螺機工を指導するには課長しかいないことになりますね。まさか廣井部長というわけにはいかんでしょう」
山田
「うーん、困ったなあ。私は今後のこともあるから、ぜひとも藤本さんと五反田さんにしてほしいと考えていたのですよ」
藤本
「川端氏に我々の姿勢を示すためにも、ここは山田さんが出馬するしかないね」


山田は今までの進捗をまとめて福原取締役にメールを打った。翌日、福原から返事があり、数日前から川端の様子がおかしい。落ち着きがなく非常に神経質になっていたという。きっと例の審査員からコンサルをしていたことがばれたと情報が入って、自分にも何か沙汰があるのかと不安なのだろうという。
山田は福原に電話した。
山田
「福原さん、メールありがとうございます。それで今後をどうしましょうか?」
福原
「山田さん、話がいくつかある。 確かに例の審査員に認証する前からコンサル料として支払われていた。領収書を10年保管しろという法律もたまには役に立つものだ。
川端の件ですがね、コンサルとの癒着があったかは今となってはわかりません。それに川端も今までの環境管理が不適当であったとしても、10年間頑張ってきたというのも事実でしょう。社長と話をしまして処分はしないことになりました。 それで来週くらいからでも藤本さんと五反田さんに来ていただいて是正について打ち合わせをして順次行動に取り掛かりたいと考えております。なにしろ法違反は早急に対策しなければなりませんから」
山田
「それを聞きまして安心しました。では日程を詰めて進めることにしましょう」

うそ800 本日の思い出
私は過去に子会社や工場のISO審査がいい加減だからしっかり審査してくれという抗議をしたことが何度もありました。抗議に対してそれらの認証機関は節穴審査を認めもせず原因についての返答などありませんでしたね。その後少しはまじめに審査したのかどうかもわかりません。実際にはその後のISO審査でも指摘が出ていなかったので、改善はされなかったようです。
いや真面目に審査しようとしても、審査員に力量がなかったのかもしれません。
2005年以前は審査員のほとんどが副業としてコンサルをしており、自分が指導した会社では不適合を出すわけにはいかなかったでしょう。それに、元々そんな指導をしているようでは、審査員がISO規格を本当に理解していたとは思えませんね。
今でも点数で環境側面を決定するなんて本が売られていますし、講習会で教えたりしているのですから、もうどうにもなりません。一度でも現実の環境管理をしていた人なら、数値の遊びでなにかできるなんて思いもしないでしょう。もちろん有益な環境側面というお遊びもしないと思いますよ。

うそ800 本日の懸念
いやはやこの「10年目のISO事務局物語」1回分は1万字から1万5千字ありますし、連続7回くらいの予定なので、10万字はいくでしょう。文庫本1冊は10万字から15万字といいますから、これだけで文庫本1冊になってしまいそうです。

次回に続く


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/10/29)
なるほど。出来レースだったわけですね。
この審査員兼コンサルは川中・・じゃなかった、川端氏とオトモダチだとか。そうなると、ウラで「大変なことになった」と相談をしているところでしょう。その辺の裏話も面白そうですね。期待していますw

ご期待に応えられるか心配です
なにしろ鶏様はレベルが高杉です


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/10/30)
よくいるんですよ、ISOを趣味にしている人が。

爆笑しました。
でもそういう人たちにすれば、趣味というよりも命綱ではないですかね?

でもそういう人たちにすれば、趣味というよりも命綱ではないですかね?
わかります、わかります
私が経営者なら即刻ISO専従者をリストラして辞めてもらいます。



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