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「山田課長、小林様とおっしゃる方から山田課長にお話したいと電話が入っていますが・・」
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小林? ありふれた名前で、すぐに思い浮かぶ小林だけでも10人近くいる。 山田は誰だろうと思いながら携帯電話を受け取った。 | |||||
「山田に代わりました」
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「山田さんですか。私は20年くらい前、山田さんと一緒に仕事していた小林ですが、覚えてらっしゃいますか?」
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山田は思い出した。当時直属上長だった小林課長に違いない。今はたぶん、62・3歳になっているだろう。
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「おお、小林課長ですか? もちろん覚えてますとも。今はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
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「もう10年くらい前に関連会社に出向してさ、2社ほど転々したんだけど、今は長野にある長野鷽販売って会社にいるんだ」
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「懐かしいですね。ところで突然どんなご用件でしょうか。もし東京にいらっしゃるなら今日の夕方でもいかがですか?」
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「いや、今長野から電話しているんだ。そういう話じゃなくてお願いなんだけど」
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「はあ?」
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「数日前に山田さんにメールを送ったんだけど、返事がないもんで電話したんだよ」
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「それはすみません。ここんところ出張しておりまして・・見ていないメールがたくさんあるのです」
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「忙しそうだね。たまたま会った大法螺機工の福原君から山田さんの活躍を聞いてね、当社もISO14001認証してだいぶ経つのだけど、その見直しの指導をしてもらえないかと思ってね。 実は当社では認証するとき地元のコンサルに依頼して、その指導でシステム構築したんだけど、文書や記録が多すぎてね、大変なんだわ。 それで今、見直そうとしているんだけど、社内にはそのコンサルの考えに染まった人がいて難儀しているんだ。福原君に相談したら、山田さんならアットいうまに改善してくれるって推薦していた」 山田はヤレヤレと思った。 | ||||
「小林さん、ちょっと待ってください。私の仕事はISOの指導が本務ではないのですよ。当社グループには鷽機械商事に環境やISO認証の指導を行っている部門がありますので、そちらにご依頼することはできませんかね?」
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「福原君は環境保護部に依頼すればしてくれるという話だったのだが・・・」
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「福原さんのところを指導したメンバーは当時、環境保護部にいたのですが、当社の政策もありまして、その後、鷽機械商事に移ってコンサルビジネスを開始したいきさつがあります」
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「そうか、わかった。それじゃ一度、山田さんがその鷽機械商事の方と一緒に来てくれないか」
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山田は防戦に努めたが、最終的に一度行くことになってしまった。
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それから10日後、山田は川端と一緒に長野新幹線に乗っている。窓の外は吹雪いている。● ● 山田は藤本に長野鷽販売の小林専務からの依頼を伝え、ひとつ手伝ってほしいと頼んだ。藤本はビジネスになると喜んで二つ返事だったが、川端も一人前になったので川端に担当させようという。山田は川端に山田のやり方を勉強させようという魂胆だと思ったが、反対もできない。 ということで今日初めて長野に行くところである。 ![]() 山田たちは応接室に通されて小林が出てきた。 | |||||
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「やあ、遠くまで来ていただいてすまん。山田君から見ればつまらないことだろうけど、今ちょっとトラブっていてね」
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「小林さん、乗りかかった船ですから力になりますよ。状況を教えてください」
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「昨今、ビジネス環境は大変厳しい。無駄なコスト削減は至上命令だ」
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山田はよく分る。環境保護部でもこのところ購読している環境関連の雑誌、新聞、参加している団体などを必要最小限にするように見直しをしている。まして営業の第一線である販売会社は大変だろうと思う。 安倍さんが首相になって、今までの民主党政権と違ってデフレ対策、景気対策に力を入れてくれると期待しているが、効果が出るのはまだまだ先のことだろう。 | |||||
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「今までにも、新聞や雑誌の購読の削減、各種団体への参加も見直ししているし、地域の行事への寄付なども削減している。課題のひとつとしてISO1401についても認証維持のための社内の手間ひまを削減しなければと考えているんだよ。商売上認証を止めることはできないのでね」
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「ISO14001のシステム見直しであればそんなに難しいものではないと思いますよ。一番簡単なのは、認証したときに頼んだコンサルに因果を含めてシンプルにしてくれと言えばよいと思いますが」
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「実は山田君、その池田というコンサルを呼んで当社の意図を説明して簡略化を頼んだのだよ。そしたら融通のきかない人のようで、環境側面や法規制の調査などは必要最小化しており、今以上手間を減らしたら審査で不適合になってしまうという。だからそのような依頼はうけられないといって断られてしまったんだ。とはいえ今当社ではISO専任が1名いるし、毎年訳の分からない調査に各部門が大変時間を取られている。月々の紙や電気の数値を把握するのも大仕事でね。なんとかせねばならない状況なんだ」
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山田はチラリと川端の顔を見た。川端は小林の言葉を聞いて、どんなことを思っているだろうか?
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「ISO認証するのに大げさな文書も記録もいりません。しかし現状を知りませんが、改革というか仕組みを見直すのはけっこう大変な仕事になりますね」
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「それは文書の書き直しなどの手間ということかね?」
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「うーん、そういったことよりも関係者の気持ちを切り替えることが大変なことでしょうね。お金の壁や手間の壁ではなく、人の壁あるいは心理の壁といいましょうか・・・」
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「実はね、当社のISO専任者、久山というんだが、その男が今まで依頼していたコンサルとまったく同じ考えで、今以上に軽くすることはできないと強硬に反対しているんだよ。まずは久山を説得しなければ進めないんだ。それが問題だな」
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「えーと、今何時でしょうか? 1時50分か、私はすぐに動く男なんで、それじゃこのように進めたいのですが。 まず御社の環境マニュアルと関係書類、つまりマニュアルで引用している文書の意味ですが、それらをここに一式持ってきてくれませんか。 そしたら川端さんと私がその内容をザッと拝見します。そうですねえ、1時間あればよろしいでしょう。 3時くらいから小林専務とその久山さん、その他今後の見直しに関係する人がいらっしゃるなら集まってもらって、私の方から改定案を説明し討論するということでどうでしょうか。5時には終わって・・18時の新幹線に乗れば8時前に東京に着きますね」 | |||||
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「山田君はせっかちだね。昔はもっとおっとりしていたと思うけど」
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「時は金なり、仕事は片っ端から片付けないと死ぬまでにやりたいことができませんよ
小林さん、じゃあ今言ったことを頼みます」
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山田と川端は長野鷽販売の環境マニュアルを一読した。典型的な規格の文章のオウム返しマニュアルである。そして引用している文書、記録は、その名称と文書番号をみると、ISOのために作ったと思えるものばかりだ。このシステムといえるかどうかはともかく、見直しをすればあっという間に大きな改善ができそうだ。● ● 次に山田は手順書のファイルをパラパラとながめて、すべてが紙屑だと見切った。 | |||||
「川端さん、どうですかマニュアルなどを見て何か感じましたか?」
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「山田さん、今の私にはまったくの屑だとわかります。半年前まではこんなものをありがたがっていたんですね」
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「さきほどの小林専務はお宅に頼むつもりですし、お宅の藤本事業部長もこの仕事を受けるつもりです。正直言いまして、私はもうここに来ることはできないと思います。川端さん、この会社の見直し作業を担当するのは大丈夫ですよね?」
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「現状の仕組みが屑だということはわかっても、どういうふうに指導していくべきかということは頭に浮かびません。山田さんはもう目鼻が着いたようですね?」
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「まず担当者、久山さんといいましたね、その方を乗り気にさせることが必要です。その次の課題ですが、現状を改善した方が良いのか、リセットをかけて新規に考えた方が良いのか、そのあたりですね」
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「なるほど、そういう意味では後者についてはリセットかけて、新規まき直しの方が良いでしょうね」
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「私もそんな気がしますね。おお、時間ですから討論会でもしましょうか」
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3時になって小林専務と中年の男と、コーヒーカップとポットを載せたお盆を持った若い女性が現れた。
● ● | |||||
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「山田君、時間になったので当社のISOのオールキャストを連れてきた。
まず中井さんコーヒーを・・」 全員着席してひとまずコーヒーをすする。 | ||||
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「山田課長さんはISOのお仕事は長いのですか?」
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山田の値踏みをしているというのがミエミエだ。
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「そうですね、8年くらい前にISOを担当していました。今はISOというよりも環境遵法がメインですね。元々は営業マンです。小林専務は私が若いときの上司でした」
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「私はこの会社が認証したときからISO事務局を担当しており、もう7年になります。コンサルの池田先生にはISOの真髄を習ったつもりです」
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「そうですか、さて、それじゃ、御社のISOシステムの見直しについて考えていきたいと思います」
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「ちょっと待ってください。現状の見直しなんて無理ですよ。今のISO文書や記録は既にミニマムですから、今以上に減らしたりすることはできません」
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「今までお仕事を担当してきた久山さんは見直しという言葉を聞くと、大変だと思われるのはわかります。しかし現在御社の置かれている状況は大変で、無用無駄の削減、効率向上をしなければならない状況であるということはご理解いただけるでしょう。 ISOも聖域ではありません。無用無駄とはいいませんが、従来以上の効率化を図る必要があります。それはご理解いただけるでしょう」 | |||||
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「当社の経営環境が大変厳しいというのはわかっております。しかしISO規格では手順書や記録を必要としており、現行は既に必要最小の状態かと思います」
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「前提条件については、お互いの認識が一致していることがわかりました。では久山さん、手間や文書を可能な限り減らすことを考えましょうよ」
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「山田さんがおっしゃる文書を減らすとは、手順書をマニュアルに盛り込んでしまうという方法ですか。そういう話もよく聞きますが、そうするとマニュアルが厚くなってしまいますし、なにを変更するにもマニュアル改定が必要となってしまい運用上問題がありますが・・」
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「おっしゃることはよく分ります。ではそのへんをいかに簡単にするかということが検討事項ということになりますね。見直した結果、今より手順書や記録が減れば久山さんもご賛同いただけると思います」
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「山田さんが手順書や記録を減らすことができるとおっしゃるなら、その方法をぜひとも教えてほしいですね」
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久山の顔をみると、できるわけがないと思っていることは間違いなかった。
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「御社のマニュアルと手順書類と拝見しました。そこで驚いたのはISOの手順書というものがあることです」
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「手順書というものがあって、なにがおかしいのでしょうか?」
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「ISO14001規格で手順書を作れと書いてあるところがありますか?」
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「たくさんありますよ、環境側面の特定や決定方法、法的要求事項の特定、是正処置や内部監査など」
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「久山さんはISO規格に詳しいですね。しかしよくご覧いただきたいのですが、手順書を作れとはありません。手順を文書化しろとあります」
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「手順を文書化しろとあれば手順書を作るのは当然でしょう」
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「手順を文書化しろとあれば手順を書いた文書を作ることですが、名称は手順書でなくてもいいわけですよね」
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「そりゃそうかもしれませんね。ただ新規に作った文書ですから、わざわざ他の名称を付けることもなさそうですが」
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「御社の会社の規則などにISO規格で要求していることを定めていれば、改めて手順書という名前の文書を作ることはないということになります。あるいは新しく文書を作ったとしても、手順書という名称ではなく、御社の会社の規則とするのが素直な考えかと思います」
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「はあ? 山田さん、手順書と会社の規則は違いますよ」
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「何が違うのでしょうか?」
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「ISOのためにはISOの文書が必要でしょう」
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「それはどこに書いてあるのでしょうか。先ほど言いましたように、従来からの会社の文書がISO規格を満たしているならわざわざ新しく文書など作ることはないでしょう」
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「私はISO用の文書が必要だと思っていましたが・・」
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「序文では『既存のマネジメントシステムの要素を適用させることも可能である』と書いてあります。方法としては会社に任せているわけです。 似たような例をあげますと、『手順を文書にしろ』という言い回しは法律でよく使われます。その意味は、仕事のやり方とか基準の会社の文書で定めなさいという意味でISOの考えと同じですね。決して手順書という名前のものを作れという意味ではありませんし、その法律のための文書を作れという意味でもありません」 冗談抜きに、私は法律で「手順を定めろ」と書いてあったので、一生懸命に「手順書」という名称の文書を作成していた人を知っている。それも一人や二人ではない。彼らが悪いのではない。彼らを指導したコンサルが悪いのである。 いやそのコンサルも悪いのではない。単なる無知なのだろう。しかし無知に関わらずコンサルをしようなんて根性には焼きを入れなければならない。いや焼きではなく鞭を入れるべきか・・ | |||||
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「山田課長さん、質問です。するとISO文書とかISO記録というものはどう結び付くのでしょうか?」
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「はあ? ISO文書とはどういう意味でしょうか?」
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「ISO審査の時、審査員がISOに関係する文書や記録は識別しておきなさいというので当社の文書のファイルには『ISO対象』と『ISO非対象』のいずれかのラベルを貼っているのです」
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「そのようなことをする必要性がわかりません。ISO規格の文書管理で識別と言っているのは4.4.5で c) 文書の変更の識別及び現在の改訂版の識別 e) 文書が読みやすく、容易に識別可能な状態であることを確実にする。 f) 外部からの文書が識別 g) 廃止文書の識別 とありますが、ISO用とそうでないものを識別するという要求はありません」 | |||||
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「そうなんですか、久山さん?」
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「そう言われると、確かにISOに関わる文書とか記録を、ISOに関係ないものと識別しろという要求はないようですね」
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「ISO審査員が要求していたのでしょうか?」
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「どうだったのでしょうか? 久山さん」
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「うーん、審査員の先生がそう言ったのか、コンサルの先生が言ったのか、今となっては思い出せないね」
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「ISO規格では、ISO対象とか非対象を識別することを要求していません。もし表示を止めて問題があれば、その時考えることにしませんか。 さて、ISO規格にある、文書管理とか記録管理については会社の文書管理規則や記録管理規則がそのまま使えると思います。そういうものをそのままマニュアルで引用すればわざわざ文書管理手順書とか記録管理手順書というものを作る必要がありません」 | |||||
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「そんなことでよいのでしょうか? どうも納得いきませんねえ〜」
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「ISO規格をよく読んでほしいのですが、ISO規格で求めていることは4.1から4.6に書いてあることをしっかりしなさいということであって、その方法は指定していないのです。まして文書の名称とか体系について何も書いていません。そんなことは会社の自由です。いや自由というか、その会社の仕組みに合わせて行うということでしょう。 マニュアルを読みますと、ISOのための手順書は『4.2環境方針手順書』から『4.6マネジメントレビュー手順書』まで、合計17件あるようですね」 | |||||
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「山田課長、もっとあります。運用ではコピー用紙の使い方やごみ分別や省エネなどがありますので、全部では30件くらいになります」
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「なるほど、そういったものに該当する会社の規則はありませんか?」
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「ありません。そもそも会社の規則で環境側面や環境内部監査を定めた規則なんてありません。だから手順書というものを作ったのですから。それをなくすなんてできませんよ」
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「会社というものはISO規格が現れる前から、会社の仕事をするためのルールを会社の規則にしてきました。もちろん遵法をしっかりすること事故を起こさないようにすることも定めているはずです。ですから過去からの規則を良く調べれば、ISO規格で要求していることの多くを定めているはずです」
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「そんなことありません。環境側面を把握するとか内部監査をする規則なんてありません」
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「環境側面は確かにないでしょう。しかし行政への届出とか有資格者を置くとか、法で定める記録をとることなどは盛り込んでいるはずです」
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「久山課長、私前から思っていたのですが、ISOの文書管理手順書ともとからある文書管理規則ってほとんどというか全く同じなのですよ。だからISO用の文書を廃止しても問題ないように思います」
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「中井君、じゃあ環境側面はどうするんだ?」
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「環境側面は確かに会社の規則にはありません。でも教育訓練なら人事の研修規則とほとんど同じですし、緊急事態だって重大問題対応規則と同じだと思います。ISOの文書で従来からの文書が使えるなら、重複しているものだけでも統合したらどうでしょうか。そうすれば少しでも改善ができます」
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「ごみの出し方や省エネについては、ISO以前は何もなかったのでしょうか? ここはビルの2フロアを借りているようですが、ビル管理会社から指導とか決まりなどを言われたことはないのでしょうか?」 | |||||
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「実を言いまして、ビル管理会社からごみの出し方や省エネ基準は指定されているのです。私は、それをそのままISO手順書に書き直しているのです」
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「確かに無駄な仕事と思われるかもしれませんが、コンサルの池田先生からの指導でして、それが文書体系としてはスッキリしていいだろうとのことでした」
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「ビル管理会社のルールをそのまま外部文書としたら手間が減りませんか?」
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「それでいいんでしょうかねえ〜? 池田先生に言われたことを尊重してきましたので・・」
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久山はだんだんと自信がなくなってきたようだ。
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「久山課長、ごみの出し方は毎年改定がありますし、省エネ基準は毎年夏と冬に見直しになっています。私はISO文書を改訂するたびに、無駄な仕事だなあって思ってました。ビル管理会社の文書をそのまま使えたら仕事が大幅に減りますよ」
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「あのう、お宅に訪問してゴミ箱とかスイッチを拝見しましたが、どこにも守るべきことが紙に書いて貼ってありますね。いっそのこと、ビル管理会社の文書を外部文書にするのではなく、お宅の文書でごみの出し方や省エネはビル管理会社の指示に従うと定めたらますます仕事がなくなると思いますよ」
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「えー、そんなことで大丈夫ですか?」
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「ISO規格でいっているのは手順を決めるということで、その手順には運用基準を明記しろってありますよね。それを満たせば方法はどうでもいいわけです」
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山田は川端もけっこう考えるようになったものだと感心した。
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「私は4.4の項番はみな従来からの会社の文書で間に合うような気がします。久山課長、今あるISO文書とISO記録を一つずつ会社規則で代用できないか、あるいは省略できないか考えてみませんか」
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「うーん。しかし4.3項や4.5項はどうなんだろうねえ?」
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「久山課長さん、そりゃ全部が全部というわけにはいかないでしょう。でも専務さんが期待しているのは、少しでも現状よりも改善できたらということだと思います。だから環境側面やマネジメントレビューなど、従来からの会社規則にないものは現状でよろしいんじゃないでしょうか?」
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山田は川端の話の持っていきかたもうまいなと思う。こんなことを言いながら結局は全部見直して、いやなくしてしまうつもりだろう。
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「そうだよ、一切合切なくすとか変更するってわけにもいかないだろう。今より少しでも手間ひまを減らせるならそうしてほしい」
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「久山課長さん、私は前から思っているのですが、ISOの文書や記録の作成や維持のために手間をかけているなら、その時間でごみ削減や省エネ活動をした方が良いと思っているのですが」
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それは正論だ。久山もそれには反対はできない。
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「中井君、私もそう思っているよ。今まで池田先生に言われた通りにしていたが、確かに少しずつでも改善していくべきだよね」
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「改善についてお互いの認識が一致したと思いますので、詳細は次回から詰めるとして、今日はここまでとしたいのですがいかがですか?」
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「ひとつお願いですが、やみくもにしても効率が上がりませんから、久山課長さんと中井さんで、現状で手間がかかっているもの、問題と思えること、改善したいことなどを次回までに検討していただけないでしょうか。問題がないことはそのままとしたほうが手間はかかりませんから」
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「そうですよね、私は今までISO文書とか記録の維持管理をしていましたので、そういう改善案はたくさんあります」
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久山は中井がそういうのを聞いてギクッとしたようだった。
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「そうかそうか、川端さん、次回は来週ということでよろしいでしょうか? じゃあ、久山君、中井さん、1週間で現状の問題点を考えておいてほしい」 | ||||
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帰りの長野新幹線の中、川端と山田が話している。
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「今日お邪魔して、マニュアルや手順書を拝見するとまったくISO審査のためのものだとわかりました。私の会社もあんなふうだったのだろうと今思うと顔が赤くなります」
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「川端さん、自分の会社だけ見ているとどの程度であるか分らないのですよ。良い悪いということは比較ですからね。 仕事を変わってから川端さんは何社ものマニュアルや手順書をご覧になったでしょう。いくつも見るとそれぞれ比較できるから長所短所がわかります。そういう意味では一つの会社の中にいてはなかなか改善を思いつかないというのは仕方がないのです」 | |||||
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「なるほど・・でも私は以前から他社の認証の指導や事務局の交流などをしていたのですが・・」
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「同じパターンの会社が多かったのかもしれませんね。まあこれからはそれが仕事ですから知識はどんどん増えていきますよ。ともかく次回よろしくお願いします」
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