マネジメントシステム物語3 川田、出向する

13.10.27
マネジメントシステム物語とは

佐田が品質保証課に異動して1年半が過ぎた。今や品質保証課だけでなく工場内で、佐田の実力を疑う者はいなかった。品質保証業務については、明らかに先輩格の人たちよりも詳しかった。計測器管理を引き受けていろいろな問題をあっという間に解決したということは誰でも知っていた。もちろん佐田は製造現場にいた時からいろいろと改善活動をしていたが、それは職場内でしか知られていなかった。品質保証や計測器管理の仕事は、工場の各部門と関わりがあり、彼の才覚を皆が知ったということだ。
本人はそれで満足かと思いきや、常になにか改善はないか、新しい課題はないかと問題意識を持ってものごとを見ている。彼にとって計測器管理は、既に興味の対象外であった。組織上は今でも計測器管理室の責任者になっていたが、すべては浜本が処理しており、佐田は浜本が困ったときに相談相手をするだけだ。

佐田が構内通路を歩いていると、工場の掲示板に時期外れの人事異動が掲示されていた。今11時だから、昼休みには人だかりになるだろうと思いながら立ち止まって掲示を眺める。


人事異動通知 1991年**月**日

氏名前職務新職務
川田 真一製造部 部長大蛇機工 出向
安斉 太郎製造部 製造技術課 課長大蛇機工 出向
鈴田 昇製造部 生産管理課 課長大蛇機工 出向
・・・・・・・・・・・・・・製造部 部長
・・・・・・・・・・・・・・製造部 製造技術課 課長
・・・・・・・・・・・・・・製造部 生産管理課 課長

工場長


佐田はこの異動がどういう事情なのか全然分からない。栄転なのか左遷なのか、それ以外の事情があるのか。
そもそも大蛇おろち機工ってどんな会社なのだろう。
疑問を持ちながら自分の職場に戻ってきた。野矢課長がいたので話しかける。
佐田
「課長、川田部長ほか数名の人事異動が発表されていました。出向だそうです」
野矢
「ほう、川田部長がねえ〜、初耳だなあ、どこに行くんだろう」
佐田
「だいじゃ機工に出向とありました。私は存じませんが課長はだいじゃって会社をご存じでしょうか?」
野矢
「だいじゃ、それはおろちって読むんだ。俺もその会社は名前を聞いたことがあるだけだが、当社の関連会社で、栃木県にあるプレス加工の会社らしい。だけど、品質問題や労働争議など問題が多くてさ、お荷物になっているらしい。この工場にも以前本社から、そこを使うように指示があったらしいけど、状況を調べたところ問題が多くて止めたということを聞いたことがある」
佐田
「じゃあ、川田部長以下どんな目的で出向するのでしょうね?」
野矢
「どうなんだろうなあ?」


数日して川田部長他二名の送別会の案内が回ってきた。会場はこの町では一番のホテルである。普通送別会なら会社の健保会館でするものだが、ホテルとは大したものだと佐田は思った。
あまり恩を受けた覚えはないとはいえ、過去数年間上司であったことだしと佐田は顔を出すことにした。


送別会はけっこうな数の参加者である。ほとんどが製造部であり、上は課長や係長、下は現場の作業者まで200人近くいる。ましてホテルなので会費はいつもより高額なのだ。さすが川田部長の権勢は大したものだと思われた。もし顔を出さないと後が怖いと思って義理で出た人は多いのだろうと、佐田は思う。
本人の挨拶である。
川田
「このたびは私たちの異動にあたり、かように盛大な送別会を催していただき感謝申し上げます。
まずなぜ私たちが出向するようになったかのいきさつを話させていただきます。
川田部長 出向します大蛇機工とは、ご存知かと思いますが当社の関連会社で、従業員200人、プレス加工を行っています。ところがこの会社の生産高は年々減少しております。なぜかと言いますと品質問題、納期問題、そして労務管理上の問題と問題山積のありさまです。
本社もこの事態を重く見て、抜本的改革を考えていました。実を言いましてだいぶ前に、宍戸専務から私にじきじきに対策の依頼がありました。
もちろん私一人でこのような会社の改善ができるわけではありません。いろいろ考えまして、技術的なことと品質的なことについては安斉課長に担当していただくこととしました。安斉課長はプレスをはじめ機械加工のプロであります。彼には品質改善、生産性向上を推進してもらいたいと考えております。
また生産日程と工期短縮については鈴田課長に活躍してもらうことを考えた次第です。鈴田課長は当社においても生産計画と出荷計画を担当しており、ここ1年ほどの間に行ったシステム構築実績はすばらしいものがあり、出向先においても製品に応じたシステム開発を期待しています。
以上の陣容と改善計画書を作成し本社に上申したところ、それでやれというご判断を頂きました。つい先週に宍戸専務と共に栃木の大蛇機工に伺いまして、今後の改善計画の説明をしてまいりました。この会社の改革は一朝一夕にはいかないと考えております。しかしこのベストメンバーで一刻も早く正常化を成し遂げたい、いや成し遂げる決意であります」

川田節が延々と続く。参加者はいささか白けて早く乾杯しろといいながらオードブルを食べ始める。
やっと乾杯となり、座が崩れて歓談となった。
その後、鈴田と安斉の挨拶が続く。
ビール安斉課長鈴田課長ビール
安斉課長鈴田課長
鈴田も安斉も、車で通勤するという。高速を使って片道1時間以上、一般道なら2時間を超える。毎日3時間とか4時間も運転するって、大丈夫なのだろうかと佐田は心配する。
川田は工場の近くにアパートを借りたという。こちらは単身赴任で自炊するという。これも大丈夫なのだろうか。佐田は料理などしたことはないから、そもそも自炊は無理だ。しかし仮に料理ができたとしても、買い物や炊事の時間を考えると不可能に思える。まして会社の問題解決のために日夜業務に励むことを思うと、そのような考えでは三人共甘いとしか思えない。
佐田は名前を呼ばれて振り向いた。計測器管理の浜本がいる。
佐田
「あれ、浜本さんは川田部長と親しかったのですか?」
浜本
「そうではないけど、安斉課長が以前、設備課長だったので、おれの元上司になるわけだ。まあ義理だよ義理」
佐田も特に話す相手もなく、浜本と話を始めた。
佐田
「出向先もいろいろと問題があるようで大変でしょうねえ。まあ、それを解決に行くわけだけど」
浜本
「大変は大変だろうけど、送別会であんな話をするようでは、そのほうが問題だよ。このような挨拶をしたことが出向先に聞こえたらどう思われるだろうねえ」
確かにそうだと佐田も思う。
佐田
「そうですよねえ、いささか失礼な言い方ですよね」
浜本
「ああいうことを口にするくらいだから、向こうに行っても上から目線で仕事するのだろうなあ。おれのように下っ端で働いている者から見たら絶対に協力したくないねえ」
佐田
「専務から工場の部長に相談というか依頼が来たなんて、そんなことってあるんでしょうか?」
浜本
「普通ならちょっと考えられないが、10年以上前、川田部長が係長だったとき宍戸専務が部長だったらしい」
佐田
「ああ、そういう関係なんですか。それにしても出向の挨拶に親会社の専務を連れて行くというのもすごいですねえ」
浜本
「まったくだ。川田流のハッタリなんだろうねえ。俺の後ろには水戸黄門がついているから控えおろうというメッセージだな。葵のご紋か、アハハハハ、でもこれも丁と出るか半と出るか、裏目に出なければいいけど」
佐田
「確かに向こうの幹部から見たら、雲の上の人を連れてきて偉さを見せつけたという印象でしょうね」
浜本
「大蛇の社長にしても、親会社の専務が来たとなると驚いただろうなあ。ひょっとすると社長をすげかえる気かと思ったんじゃないか。いずれにしても反感は持つだろうなあ」
そのとき、鈴田がビールをついだコップを持って二人のところに現れた。
鈴田
「やあ、どうもありがとう。今回出向になったのは意外だったけど必ず成果を出してくるよ。佐田君も今年は試験合格して良かったね」
佐田
「ありがとう。これは鈴田さんにとって実力を発揮するすばらしい機会だから、大いに頑張って来てほしいなあ」
鈴田
「まかしとけって」
鈴田はまた隣の人にあいさつに回る。
やがて川田部長が回って来た。
川田
「おお、佐田君、今日はわざわざありがとう。今週の土曜日に引越しするんだ。もし暇だったら遊びに来いよ。向こうまで一緒に来れば、俺が住むところや会社を見せてあげるよ」
佐田は頭の中で予定を確認した。特に予定はない。
佐田
「川田部長、それではお手伝いになるかどうかわかりませんが、伺わせていただきます」
川田は鷹揚にうなずいて次に進んでいく。
浜本
「オイオイ、わざわざ引越し手伝いに行くのか? もう縁が切れるんだから・・・」
佐田
「面白そうじゃないですか。行ってきますよ。後で土産話を聞かせてやりますから」



引越し当日の朝、佐田は軽のワゴンで川田邸にやって来た。佐田は自分が車を使うことはめったになく、妻の直美が買い物や子供たちの習い事に連れて行くために買った。だから車種も色もすべて直美の好みだ。
川田邸の前には小型トラックが1台、セダンが数台停まっている。部下に声をかけて集めたらしい10数人もの社員がいた。単身赴任だから家具はあまりないが、洗濯機、冷蔵庫、テレビなどの家電品一式と段ボール箱が20個ほどある。荷物は全部トラックの荷台に収まる。30分もかからず積み込みが終わると、一同は分乗して走り出した。
佐田の車に乗る人はだれもいない。佐田は松任谷由美を聞きながら最後尾を気楽に走る。東北高速道を走りながら、毎日通勤するのは大変だと思う。佐田は軽だから高速を走るのは特に辛いが、2リッタークラスだって毎日これほどの距離を走るのは辛いだろう。
何台も連なって走るので制限速度よりもだいぶ遅い速度になり、川田部長が住むアパートに着いたのは出発してからジャスト2時間かかった。アパートはできたばかりのこぎれいな建物だ。6畳二間と台所である。単身なら十分だ。川田部長の指示でトラックから荷物を降ろして所定の位置に置く。梱包材などはすぐさまとりのぞきトラックの荷台に戻る。いやはや川田一派の機動力はたいしたものだと佐田は感心してながめていた。
川田が通勤に使うという自転車を降ろして作業は終わった。
一服してから川田の案内で工場まで歩いていく。歩いて10分程度、遠くはない。
工場は敷地が1ヘクタールもあり、中にいくつかの平屋スレート葺きの建物があり、門のそばに鉄筋2階建ての事務所がある。今日は休日で誰もいない。周囲は特に塀で囲んでいるわけでもなく誰でも入れる。犬を連れて構内を散歩している人もいる。のどかと言えばのどかである。
佐田は一人離れて敷地内を歩いてみた。屋外通路にはプレスの抜きカスらしき細かい鉄板屑がいたるところに散らばっている。整理整頓がなっていないなあと佐田は気になる。そしてもっと問題なのは、たばこの吸い殻が落ちていることだ。燃えやすいものがないとはいえ、これは問題だろう。
そんなことを思いながらあちこちを歩いていて、いつのまにか工場の建物の間のプレハブ小屋の前にいた。
中から一人の男が顔を出した。
伊東
「何か用かい?」
佐田
「いえ、そうではありません」
伊東
「塀がないからってここは私有地だからはいちゃいけないですよ」
佐田
「失礼しました。私の上司がこちらに出向になりました。それで引越し手伝いに来まして、工場を拝見していましたが他の人たちとはぐれてしまったのです」
伊東
「ああ、川田取締役のお手伝いですか。ここは組合事務所で、私は委員長をしている伊東といいます」
佐田
「私は福島工場に勤めている佐田と申します。よろしくお願いします」
伊東
「まあそれじゃ他人じゃない。入ってお茶でも飲みませんか」
佐田
「それじゃお言葉に甘えまして」
入ると12畳ほどのプレハブの中は事務机がいくつかと大きなテーブルがあり、壁には本棚が並び、いろいろなポスターが貼ってあるという、いかにも組合事務所という感じだ。
伊東は急須と茶碗を二つ持ってきた。
伊東 お茶 佐田です
伊東
「佐田さんもご存じかもしれませんが、この会社はもう長いことトラブル続きでね。大変なんだよ。おれは創業時の入社だからもう20年近くになるけど、苦しみばかりだったなあ〜」
佐田
「そうですか。私はたまたま上司の引越し手伝いにこちらまで来ただけで、そういうことは知りません」
伊東
「その川田取締役もこの会社の建て直しに来たという噂なんだが、どういう方なんですか?」
佐田
「福島工場ではかなりやり手で通っていた方ですよ。まあこわもてでしょうねえ、正直、私はだいぶいじめられました」
伊東
「いじめられたか、アハハハハ、その一言でわかりますよ、そんな雰囲気の人でしたからね」
佐田
「伊東さんはもうお会いになったのですか?」
伊東
「いや正式に紹介はされていない。先週だったと思うけど、お宅の会社の宍戸専務という人と一緒に来て、工場視察をしてたのを、私が現場で仕事していた時に見かけただけだ。
後で課長に聞いたらそのようなことを言ってましたんで」
佐田
「伊東さんは専従ではないのですか?」
伊東
「組合員が200人弱じゃ、専従者を一人養うことはできませんよ」
佐田
「不勉強でもうしわけないですが、お宅は総評系ですか同盟系ですか?」
伊東
「こんな会社で総評系なんてないよ。中小企業はみんな民社党支持の同盟系ですよ」
民社党とは民主党とは違う。1960年に社会党右派が分離して民社党となり、1993年に新進党に合併して消滅した。この物語は1990年頃のことだと思いだしてください。
総評とは官公庁、大会社を母体とし、騒ぐのが大好きな連中だった。他方、同盟は中小企業を母体にした穏健派である。当然、総評が支援する旧社会党は体制を打破しようとする真っ赤だったし、同盟が押す民社党は体制内社会主義だった。
佐田
「いや中には過激な組合もありますからね。私は生きて帰れるか心配していました」
伊東
「佐田さんは取って食べてもまずそうだ」
30分ほど雑談をして佐田はおいとました。
佐田を送るとき伊東は
伊東
「佐田さん、なんかまた会いそうな気がするよ」
なんて言う。佐田はその言葉が妙に気になった。
佐田が表に出るともう誰もいなかった。佐田が川田のアパートに戻ると、みなの車はあるものの誰もいない。たぶん川田がみんなを引き連れてどこかで飯を食っているのだろう。運転手以外は飲んでいるのかもしれない。佐田はお先に帰りますとメモを書いて立ち去った。



去る人日々に疎しという。川田も工場にいた時は勢力があり、毎晩取り巻きを連れて飲み歩いていたが、今は川田のことなど口の端にも上らない。
もっともときどき工場に来ているようだ。出向先での状況報告や人事や総務との打ち合わせなのだろう。
あるとき鈴田が佐田のところにきた。特に鈴田とは親しくもなかったので佐田は驚いた。
鈴田
「やあ、佐田君、久しぶりに工場に来たので顔を出してみたよ」
佐田
「おお、鈴田君、久しぶりだね、元気かい」
鈴田
「ちょっと話ができないか?」
佐田
「いいとも、こちらではあまり込み入った話ができないだろうから、計測器管理室に行こうか、あそこなら誰も来ないから」
佐田は少し離れた計測器管理室に連れて行く。浜本は入ってきた二人の様子を見て、ちょっと現場を歩いてきますと言って出て行った。
佐田
「なにか向こうで困ったことでもあるの?」
鈴田
「困ったなんてもんじゃないよ。何か改善しようとすると、ことごとく抵抗がある。それも管理職からも現場からもなんだ」
佐田
「ちょっと状況が分からないなあ〜、具体的にはどういうことよ?」
鈴田
「整理整頓は工場管理の基本てことは知っているよね。あの工場の屋外、屋内にはたばこの吸い殻がザクザク転がっている。それでクリーンキャンペーンをしようとしたんだけど、誰も乗ってこないんだ」
佐田
「クリーンキャンペーンとは何をするんだい?」
鈴田
「昼休みに全員で吸い殻拾いをしようというのが手始めだった。すると組合委員長が勤務時間外にそんなことを強制するのはおかしいという」
佐田
「そりゃおかしいだろうね」
鈴田
「まあ、そうかもしれん。しかし社長以下幹部にも反対されたよ」
佐田
「確かに何事でも一つの行為の意味というか価値を共有できないと、出発点に立つことさえできないからね」
鈴田
「それで我々出向者3名で吸い殻拾いを始めたんだ。ところがきれいにしたところにわざと捨てる作業者がいたりして、ありゃ嫌がらせだよ。悲しくなっちゃうね」
佐田
「正直言って、鈴田君が出向して何日になる? まだふた月も経っていないでしょう。そんなに簡単に工場の意識改革とか改善ができると思っていたなら甘いと思うけど」
鈴田
「まあ、その場にいると大変だよ。とにかくもう俺は嫌になっちゃったよ」
佐田
「それはともかく通勤は大変でしょう?」
鈴田
「そうそう、それにも参ったわ。実を言ってガソリン代が大変でさ、さっそく車をディーゼルに買い替えたよ。サイズも大きくしたからだいぶ楽になったし」
佐田
「居眠り運転をしないように注意してよ」
鈴田
「いやまったくだ。トラブルが多くてさ、残業になることが多いんだ。10時過ぎまで会社にいることもあるんだ。そうなると帰宅は12時だよ。次の日も6時には家を出なくちゃならないのに」
佐田
「大変だね。ところでトラブルってどんなこと?」
鈴田
「つまらんことさ、例えばロット管理しなければならないものを作業者が混ぜちゃって、出荷に間に合わせるために選別するとかさ、
オイオイ、そんなとき一般社員に残業をしろと言っても、残業をしないんだ。協力する気がないんだぜ。だから幹部が残業して選別作業をしなくちゃならないなんておかしな会社だ。あれじゃ改善どころじゃない」
佐田
「普通ならそんなことはないと思う。単純に協力しないのではなく、過去に何か大きなトラブルとかあったんじゃないの?」
鈴田
「多分そうだろうねえ、俺も良く知らないけど」
佐田
「他の二人も大変なんでしょう?」
鈴田
「安斉さんはあまり残業をしないんだ。奥さんがこっちでレストランを経営しているだろう。安斉さんも何かとお店のお手伝いをしているらしく、正直言ってほとんど毎日定時で帰っている」
佐田
「へえ〜、それじゃ川田部長も面白くないだろうねえ〜」
鈴田
「川田さんは出向先では取締役なんだ。まそれはともかく、川田取締役だけじゃなく、社長や他の幹部も安斉さんを白い目で見ているよ。もう少しあちらの会社に本腰を入れないといけないなあ」
佐田
「川田さんはどうなの?」
鈴田
「向こうに住んでいるから俺よりは楽だとは思う。でも最初は自炊するなんて言ってたけど、とてもできないようだ。そりゃ帰りが俺と同じく真夜中だからその頃空いている店と言えばコンビニくらいだろう。買い物なんてできないよ。
酒を飲もうとしても、あんな田舎町では、そんな時間じゃ飲み屋だって開いてないし」
佐田
「そうだろうなあ」
鈴田
「それで今は冷凍食品をチンするだけの食生活らしい。予想と違ったとこぼしているよ。まあ食い物だけじゃなくて仕事も先が見えないからなあ」
佐田
「鈴田君は、出向するときはやる気満々だったじゃないか」
鈴田
「今になって思うと、俺を会社のラインから外すために出向させたとしか思えない。誰か俺に恨みでもあるのかなあ」
佐田
「話を戻すけど、いったいその会社は何が問題なんだろう?」
鈴田
「社員のレベルも幹部のレベルも低すぎなんだろう」
佐田
「そうだろうか? 私は現場を知らないけど、お互いのコミュニケーションが足りないとか、過去の問題が解決されていないとか、そういうことで相互不信になっているんじゃないのかなあ。会社側と従業員の対立はともかく、出向者3名と他の幹部との理解不足もあるようでそう思うんだが」
鈴田
「俺はあの会社はすべてがダメだと思うよ」
鈴田は1時間ほど愚痴をこぼして去って行った。
今日はこのまま自宅に帰れるので、久しぶりに家族そろって夕食が食べられるとうれしそうだった。

うそ800 本日のまとめ
どっかで聞いた話だとか言わないように。フィクションですから・・・




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