審査員物語9 環境側面とは

14.12.04
審査員物語とは

三木は昼前に会社を出た。今日はISO14001を認証しようとしている千葉にある関連会社の様子を見に行くのだ。
ところで昨日のことだが、氷川がこれからもいろいろあるからこのままではまずいだろうと、環境管理部のISO担当である本田に三木のことを話してくれた。本田も、今まで自分が好き勝手にやっていた審査員の出向者の決定権がとりあげられたときはだいぶ怒っていたが、今ではしょうがないと思うようになっていたし、三木に対して憎しみがあるわけではない。本田は三木がISO審査に立ち会うことについて特段反対はしなかった。ただ三木の指導については業務多忙を理由に断った。本田が了解してくれたので、氷川も三木もホッと一安心した。
さて総武快速で千葉駅まで約40分、千葉駅に着くと1時少し前だ。駅前で腹ごしらえをする。千葉駅からモノレールに乗って数分だと聞いていた。グーグルマップからプリントしてきた地図を見ると、モノレールに乗らなくても歩いて行けそうな感じだ。天気も良く歩いて行くことにした。

千葉市は政令市といっても駅前から10分も歩くと、もう都会という雰囲気ではない。歩いて15分も行った目指す会社のあたりは工場が立ち並んでいる。三木はモノレールやタクシーで来なくて良かったなと思う。工場や会社の周囲の状況を見ると、その会社が注意しなければならないことがわかるような気がする。近隣に学校や病院があれば騒音やトラックの搬入などに注意しなければならないだろうし、まわりに工場しかなければあまり問題になることはないだろうと思う。少しは見る目がついてきたかと三木は内心うれしく思う。
目指す会社、亜家周防あいえすおう株式会社は敷地が1,000坪くらい、簡単な鉄骨構造の建物が道路際まで建っている。典型的な中企業だ。大きな出入口があり、そこに停めた中型トラックからフォークリフトで荷物を積み下ろしをしている。
ガードマンもいないし受付らしいところもない。トラックから荷物を降ろしているフォークの運転手に聞くと、玄関はここではないと教えられた。工場に沿って少し歩いて入り口を見つけた。
ドアを開けて入ると、銀行のようなカウンターの向こうに事務員が10人ほどいる事務所になっている。三木は氷川から聞いた高橋部長に会いにきた旨伝えた。

事務員が狭い建物を現場事務所の方に案内してくれた。そこは8畳間ほどの会議室で真ん中にテーブルがあり、その上にパソコン、そして大量の本や資料が置いてある。パソコンを若い男が操作し、壁の一面にプロジェクタでエクセルの画面が投影されている。パソコンをいじっている人の他に、50くらいの男が一人、40くらいの男が一人いた。古いプロジェクタを使っているせいか、部屋の照明が半分くらいに落されて暗い。案内してきた人は年配の人になにやら話して去っていく。年配の男が三木の方に向いた。
高橋部長
「工場管理部の部長をしております高橋と申します。三木部長が訪問されることは氷川さんから聞いております」
三木
「始めまして、このたびはありがとうございます。ISOのことを良く知りませんので勉強させていただきます」
40くらいの男と若い男が三木の方を振り向いた。
高橋部長
「いやはや、教えるどころか我々も四苦八苦しております。審査までもうひと月もないのですが、まだ環境側面の決定方法が煮詰まってないのですよ。今それをなんとかしようとしているところです」
三木
「あのう・・・・環境側面というのは一番初めに決めないとならないものかと思っていましたが」
高橋部長
「アハハハハ、いやその通りです。実を言いましてね、既に審査の日取りも決まっていましてね、もうだいぶ前に環境マニュアルなど書類一式を送っているのです。ところが三日ほど前、環境側面を決める方法が不適切だという連絡がありましてね、審査の時までに見直しておかねばならんのですよ。今あわててその対策をしているところなのです」
三木
「ほう!不適切・・・・どのような問題なのでしょうか?」
高橋部長
「あのう、申し訳ありませんが、私は現場に戻らなくてはなりませんので、こちらの山本課長と黒木と話してもらえませんか。山本君頼むよ」
高橋部長はそう言って部屋を出ていった。
山本課長
「三木さん、すみませんね。部長もいろいろ仕事がありまして、このような細かなことまでは手が回りかねまして」
三木
「いえいえ、私は単なる見学ですのでお邪魔しないように努めます。ええと山本課長さん、黒木さん、どうぞお仕事を進めてください」
山本課長
「仕事を進めるって言っても、もうまったくの試行錯誤の単純作業なんですよ。
まず問題はですね、我々は環境側面を決めるのに、それぞれの環境側面について量と影響という二面で評価して、それぞれの評価点を掛け算をしてたんです。
まあ、ご存じのように著しい環境側面なんて元から管理しているものに間違いないのですが、それが著しいってことを理屈をこねなくてはなりませんからね」
三木はわけがわからなかったが黙っていた。それが山本課長には分っているように見えたのだろう。話を続ける。
山本課長
「ナガスネはね、二つの観点からだけでは十分検討したとは思えないっていうんです」
三木
「はあ?」
山本課長
「私も、はあ!ってな感じですよ。彼らが言うには三つの面から評価しなければいけないっていうんです」
三木
「はあ?」
山本課長
「三つ必要だというなら三つにしなければなりません。それで量と影響の他に、安全性とか影響する期間とか回復するための負担などを付け加えようとして四苦八苦というところです」
三木
「三つあればよろしいならあと一つ加えればよろしいのでしょう?」
山本課長
「そうは言ってもあと一つ何が良いのか、そしてなにを三番目にしても、その指標で配点したときに結果が最初に我々が著しいものにしようと決めたものになるのかどうかということが重大なところですわ」
三木
「なるほど・・・」
黒木
「ともかく配点してかけ算してその結果を見てはやり直しという試行錯誤の繰り返しです。先ほど部長が様子を見に来ていたのです。部長から今日中にこれを終えてしまえと言われているのです」
三木
「具体的にどのようなことをしているのですか?」
黒木
「ここにエクセルの表があるでしょう。量と影響のカラムはここです。そして今課長が言った項目をここのカラムにとりまして、この表から数値を見て入力して、掛け算した数値をこのカラムに表示して大小を並べるのです」
電力量配点
○○〜○○kWh5
○○kWh〜4
○○〜○○kWh3
○○〜○○kWh2
〜○○kWh1
危険性配点
5
3
1
影響の継続時間配点
永久的5
1月〜数年4
数日〜1月3
1日〜数日2
〜1日1
三木はエクセルの表をながめた。三つのセルの数値を計算して最後のセルに表示するようにしてあるが、それぞれのセルには別の数表を見て手で入力している。これでは大変手間がかかるだろう。
三木はエクセルが得意だった。かっこいいプレゼンすることや見た目良い資料を作ることは、営業では重要なスキルだった。算式を入れ込むくらいは三木にもできた。
三木
「黒木さん、いちいち手で数字を入れ替えていたんじゃ手間ひまが大変だよ。
ちょっと貸してごらん、私がやってみよう」
三木は各セルの数値を別の数表を参照するようにした。電力の数値を変えるとその電力にみあった配点を数表から読み取ってそのセルに表示させ計算させるのだ。ひとつのセルの数式を決めたらあとはドラッグすればおしまいだ。
三木
「そうら終わったぞ。ええと黒木さん、こうすれば数表の配点を変えると自動的に評価点が変わる。数表の配点だけ見直せば結果が自動的にわかるから後は希望する点数になるまで繰り返せばいい」
黒木
「なるほど、これは簡単だ。三木部長はすごいですね」
山本課長
「黒木、せっかく三木部長さんが手間を省いてくれたんだ。早いところいい点数を出してくれよ」
黒木は10回くらい配点を見直した。
山本課長と三木は、壁に映したエクセルの表をながめている。
黒木
「影響の及ぼす期間の配点をこんなものにすると、その結果がナガスネに提出した著しい環境側面と同じになりましたね」
山本課長
「うん、そのようだな。そうすると著しい環境側面を決める方法を二つの指標でなく三つにしただけで、その他をいじらなくて良いということになるのか?」
黒木
「そうです。ええと、ナガスネに提出したマニュアルの4.3.1の部分の文章を見直すのと、環境側面登録表の差し替えだけですかね」
山本課長
「それに環境側面決定手順書の改定があるだろう」
黒木
「そうそう、そうです。いやあ、思ったより早かったですねえ〜」
山本課長
「バカ、三木部長さんが手伝ってくれたからだろう」
黒木黒木は舌を出した。
三木
「なんか分りませんがお役にたてたならうれしいですよ」
山本課長
「おい黒木じゃあ忘れてしまわないうちに、この算式と結果をセーブしておけ。そしたら夕方部長に報告してと・・・残業でナガスネに提出する差し替え分は作れるか?」
黒木
「大丈夫ですよ。もう単純作業ですから」
山本課長
「そうか、それじゃとりあえず一休みしよう。黒木、すまないがコーヒーを持ってきてくれ」
黒木は部屋を出ていく。
山本課長が立ち上がって部屋の照明を明るくした。
三木
「あのう、審査準備として今はどのような作業をしているのでしょうか?」
山本課長
「正直言って見込み発車していますから、今は足りないものを作っているという感じですか」
三木
「見込み発車といいますと?」
山本課長
「審査する前にすべてが整備され記録があれば万々歳ですが、まあそんなことはないですよね。
例えば内部監査にしても現実には何度もしてますが、審査で見せられるようなちゃんとしたものがありません。やったはいいけど報告書に書けないほど中身がないとか、不適合が多すぎるとか、是正確認までしていないとか・・だからちゃんとした内部監査の記録を1回だけは作っておかないと。
文書も最低限の物だけ制定してはいますが、ナガスネに提出しなくても良いものはまだ作っていませんのでそれらを審査までに間に合わせるとか、記録なんかも同じですよ」
三木も営業でドタバタした経験はたくさんあるからそんなことはよく分る。
三木
「なるほど、文書の不具合なんかは何度も改定をしているのでしょうか?」
山本課長
「ありますねえ〜。とはいえ、その都度というわけにもいきませんから、これもある程度まとまってからまとめて改定しています。正直言って最終改定は審査の前日かなと覚悟しています」

黒木がコーヒーを持って部屋に入ってきた。

黒木
コーヒーコーヒーコーヒー
山本課長
「やあ、すまない。仕事はきりも限りもないが、少し休憩しよう」
黒木
「いやあ、環境側面が決まっただけでも一安心ですよ。ところでどんなお話をされていたのですか?」
三木
「今しているお仕事とか、どんな問題があるのかを伺っていました」
黒木
「どんな問題があるかなんて状態じゃなくて問題ばかりですよ。環境マネジメントプログラムの進捗をフォローしたり、順守評価をしたり、とにかく手が足りません」
注)
このときはISO14001の1996年版であり、環境マネジメントプログラムという名称だった。
山本課長
「実を言いまして、黒木の本業は生産技術なのですよ」
三木
「生産技術と言いますと?」
山本課長
「そりゃ大企業では高度な自動機とか加工プロセスの検討などがあるでしょうけど、ウチでは自動機のメンテとか稼働率を上げることとか・・」
黒木
「いや環境担当でもあるのです。廃棄物の処理委託とか、電気関係とか、上水も下水もありますし、コンプレッサーや恒温槽の管理とか」
三木
「そういった通常業務の他にISO認証活動ですか! 大変ですねえ〜」
山本課長
「私も環境もISOも無縁なのですが、アハハハハ」
三木
「いやあ、頭が下がります。近辺の企業とか同業他社はISO認証はどういう塩梅なのでしょうか?」
山本は黒木を振り向いて
山本課長
「そういえば最近はISOも下火になったのかなあ〜」
黒木
「大きなところはもう20世紀に認証してしまいました。でも中小は今認証活動しているところが多いですね」
三木
「山本課長さんや黒木さんは、既に認証した会社さんを訪問して聞き取り調査などをされたのでしょうか?」
黒木
「お互いに仕事では競争していますが、こういったことは秘密でもありませんから助け合いはあります。私たちも数社に相談に行きました。
でもねえ〜、認証機関によって違うことが多く、他の会社でしていることをそのまま真似してもうまくいかないんですよ」
三木
「ほう!どういうことでしょうか?」
山本課長
「先ほどの環境側面の決定方法ですが・・・・隣の会社は半年ほど前に認証したのです。その方法を聞いて利用させてもらいました。そしてナガスネに提出したのですが、先ほど言いましたようにダメということで・・」
三木
「はあ?その会社が依頼した認証機関では二つの指標で良いということだったのだが、ナガスネは三つないとダメということだったということですか?」
山本課長
「そういうことです。そう言われると対処しようがありません」
三木
「認証機関を変えるということはできないのですか?」
山本課長
「親会社、つまり三木さんの会社からこの認証機関を使えと言われていますから・・・」
つまり本体だけでなく子会社、関連会社にナガスネで認証しろと指示して、それによって三木のような者が出向できるという、日本的というか、談合的というか、つまりそういうことなのだ。三木は肩身の狭い思いをした。もっとも、山本課長も黒木も、三木の心中など思いもよらない。
いろいろ話を聞くと、法規制を調べるのは近隣の認証済みの会社に行って資料を見せてもらえばほぼ完成してしまうようだ。また環境目的・目標とそれを展開した環境マネジメントプログラムというのは従来からしていた省エネや廃棄物削減などをそのまま使うことにしたので、新たな活動をしてはいないという。
そしてそもそも一番重要というか難しいという環境側面は従来から管理していたことを充てることにしたが、それを著しい環境側面にすることがなかなか難しいという。特にナガスネは数値計算でないとならないので、種々の指標をなんとかつじつまを合わせるのが大変なのだという。
三木
「しかし元から管理していることを、そのまま著しい環境側面ですと言えないのも変ですねえ〜」
山本課長
「我々がなにを言っても無駄ですよ。お宅の環境管理部にいる、ええと何とおっしゃいましたかISOご担当の方がいましたね」
三木
「本田でしょうか。私もあまり付き合いがありませんが」
山本課長
「そうそう、本田さんです、本田さん。その方に別な方法で環境側面を決めてはダメですかと聞いたのですが、ナガスネではこれしかないということでした。長いものには巻かれるしかないと言ってました。
ナガスネ流と言いましたね。なかなか難しい理屈のようです」
三木もそう思う。環境側面の決め方がどんな理屈があるのか来週の研修で良く聞いてこようと思った。
休憩後に環境目的目標とそれを展開したマネジメントプログラムなどの説明を聞いて、5時前においとました。帰りは東京方面なので電車はすいているだろう。そう思うと少しほっとする。とはいえ帰りはJR千葉駅まで歩いて行く元気はなかった。モノレールの駅まで歩きながら三木は考える。
イヤハヤ、環境側面を決めることはとんでもなく難しいことのようだ。しかし環境側面を決めたら終わりではない。環境側面を決めたらその手順書を作り、そこから環境目的を決め、活動がスタートするわけだ。
だが今日の話を聞いていると、あの会社はもとから環境管理はしていたのだ。しかもいろいろな環境改善活動もしていた。そしてそれらが著しい環境側面になるように考えた。だけどその関係のつじつまを合わせるのが大変だったという。環境側面を決めるのが難しいのではない。従来から環境管理をしているものを著しい環境側面にすることが難しいという。それって主客転倒というか、なんか変じゃないかと思う。元から法律で規制されていることや事故が起きる危険があるものを管理している。それじゃそれをそのまま著しい環境側面とはこれらですと言えばいいように思う。だが、それではいけないのだ。なぜいけないのだろう?
来週の講習では、この辺りをよく聞いてこなければならないな。


翌週である。三木はまた新橋駅で降りてナガスネ環境認証機構のビルまで歩く。もう来るのは慣れたという感じだ。前回と同じ会議室に入ると、やはり前回と同じく既に受講者が10人ほどいた。見渡しても見覚えのある顔はなかった。そりゃそうだろうなあと三木は思う。
例によって机に受講者の名前を書いたカードが置いてあり、三木は自分の名前を見つけるとカバンを置いて後ろにおいてあるコーヒーを飲む。
三木が外堀通りを眺めながらコーヒーを飲んでいると声を掛けられた。
男1
「私はISOはまったくの素人なのです。あなたは環境側面の決め方について詳しいですか?」
三木
「いやいや、私もまったくの素人ですよ。だから今日はその方法を習いに来ているわけです」
男1
「いやまったくそうですよねえ〜。ウチでも認証しようと決定したのが春でしたが、あれから二月以上、環境側面をどうして決めるのかわけもわからずちっとも進みません。そのために今日来たわけで・・」
三木より早くからコーヒーを飲んでいた男が話に入ってきた。
男2
「ウチはナガスネで認証する予定ですので、この講習会で習った通りにします。いろいろ聞きますと、ISO規格では環境側面を決める方法はこうしろとは決めてないようです。しかし認証機関によって流儀があって、それ以外は実質的にだめなそうなので余計なことを考えるのは無駄でしょう」
男1
「なるほど、ということはナガスネでない認証機関ならこの講習を聞いても役に立たないということでしょうか?」
男2
「まあまったく役に立たないということもないでしょうけど、習ったものをそのまま使うことはできないでしょうね」
三木
「ナガスネの方法とはどういうものなのですか?」
男2
「いやいや、だから私も習いに来たわけでして」
三木
「アハハハハ、おっしゃる通りですね」
定刻になって講習は始まった。例によって講師は須々木取締役で後ろの監視役は早苗審査員であった。三木はここも大して人数はいないのかなと思う。

今回の講習も1日コースであったが、環境側面の特定と著しい環境側面の決定方法については、ほんのわずかしかなかった。薄い冊子のテキストの中のほんの数ページである。しかもその方法は概念だけで、具体的な点数の配分や計算式はあいまいに載っているだけである。三木はナガスネの教えるものそのまま使えると思っていたが、とてもそのような具体的な手法まで教授していないのだ。
男1
「先生、質問です」
須々木取締役
「ハイ、なんでしょうか?」
男1
「この講座を受けると環境側面の計算式が教えれもらえると聞いていましたが、このテキストだけではどのような計算式にしたらよいのか、配点をどうしたらよいのかわかりません。具体的なものを教えていただけませんか」
須々木取締役
「環境側面を評価するには客観的で誰がしても同じ結果にならなければなりません。しかしその方法はこうだと決められているわけではないのです。その会社、その会社が、自分たちにあった方法を考えて使わなければなりません」
男2
「すみません、そう言われてもとんと見当がつきません。せっかく講習会に来たのですから、具体例を一つ示してもらえませんか。このままですと会社に帰っても環境側面を評価決定できません」
須々木取締役
「そうですねえ、それじゃ一例だけ具体例を示しますので、それをご参考にして細かいところはそれぞれの会社さんで決めてください。
ええと、早苗さん、みなさんに例の資料を配ってくれませんか」
皆が後ろを振り向く。早苗が立ち上がりA4の一枚ものを参加者に配る。
三木は配られるとすぐに手に取ってながめる。まず、電気、水道、重油、廃棄物などの配点表がある。その数字はかなり大きなもので、電気はエネルギー指定管理工場の何倍もある。最近は三木もいろいろ勉強しているので、電気使用量を見ただけでそんなことが頭に浮かぶようになった。
須々木取締役
「これはあくまでも例です。電気使用量が大きくて、みなさんのところでは1点くらいにしかならないかもしれません。そういうときは配点を変えてみなさんのところの実績が表に入るようにしなければなりません」
男1
「大変参考になります。
追加の質問ですが、使用量が少なくて電気の配点を倍にしたときは、廃棄物の配点も倍にするのですね?」
須々木取締役
「いや、そうはなりません。その会社の実績が入るように使用量の範囲を決めて、配点は適宜調整することになります」
男1
「でもこの数表で重油100トンが5点、廃棄物300トンが5点ですから、当社の使用している重油が10トンですからこれを5点にしたときは廃棄物30トンが5点にならないと矛盾しますよね?」
須々木取締役
「数字が全部、比例関係にあるわけではないのです。御社が重油の年間使用量が30トンとしても、廃棄物が30トンになるわけではないでしょう。仮に100トンであれば100トンを5点にするのが妥当でしょう」
男1
「でもこの例では重油20トンが廃棄物60トンと同等の環境影響があることになっています。そこは比例関係にしないとおかしくありませんか?」
須々木取締役
「そんなことは気にしなくてもよいんです。お宅の会社で評価した結果、妥当だと思われる結果になればよろしいのです」
男2
「ちょっと待ってください。そうしますと、結果が妥当になるように評価方法を調整するということですか?」
須々木取締役
「まあ、そういうふうにも言えるのかな・・・」
三木は前回もそんなやり取りがあったように思った。結局、ナガスネ方式とはいいかげんなのだ。論理的でもなく、確固たる信念があるわけでもない。あらかじめ自分たちがしたいという結果になるようにいいかげんにプロセスを決めることにすぎない。
しかし亜家周防社で評価点が二つではダメで三つ欲しいというのはどういう理由なのだろうか?
三木
「すみません、違う質問ですが、評価するのはいくつかの観点が必要かと思いますが、二種ではだめで三種以上必要とか条件がありますか?」
須々木取締役
「良い質問ですね。客観的な評価をするためには、多面的に評価しなければならないとナガスネでは考えています。それで我々は最低三つの観点、配点を三次元でつけてそれらを考え合わせて評価するべきとしています」
三木
「ありがとうございました」
須々木取締役
「今の質問は大変良い質問です。電気の評価を量だけで評価するのではなく、重要性とか危険性などの観点からも点数をつけることがよろしいですね」
三木
「すみません、もう一つ質問です。各項目の配点は必ずしも掛け算でなくてもよろしいのですか?」
須々木取締役
「掛け算でなくてもよろしいです。但し、足し算などの場合、論理的な説明がつくかどうかご検討してほしいところです。法規制のようなものは、規制があれば義務となりますから足し算かもしれません。しかし量と危険性は足し算ということにはならないでしょうねえ」
男2
「質問です。掛け算の代わりにべき、つまり2乗とか平方根を使っても良いのでしょうか?」
須々木取締役
「まあ悪いとは言えないでしょうねえ。そのような必要がありますか?」
男2
「実を言いまして、いくら係数とかをいじっても期待する結果にならないんですよ。それで2乗とかルートを使って調整しているのです」
須々木取締役
「まあ、そういうこともあるでしょうねえ。それが悪いとは言いませんよ」
三木はそのやり取りを聞いて、結果が決まっているならそんな手間暇をかけずとも好いだろうという気がしたが、これがナガスネ流の神髄だなと感じた。神髄というのもおかしいが、ようするにナガスネがこだわっているところはちゃんと押さえておかないとだめなのだ。ここがポイントのひとつなのだろう。
環境側面というのは一大事業というか、難関であるらしく、質問は終わらなかった。受講者の中には質問するためにここに来ている人もいるのだろうと三木は思った。

しばらくその1枚もののシートをながめていて、はっと気がついたことがある。
このシートには、社名も名称も日付も、なんの表示もないのだ。
ナガスネはこのシートを環境側面の教育テキストに入れていないのは、後で問題になったとき、そのような資料は正式な教育テキストではないと言い逃れをするためにわざわざテキストに入れずに別途配布しているのではないだろうか?
タイトルも日付もないのもそのためではないのだろうか?
三木はそんなふうに思うのだった。

うそ800 本日の説明
環境側面を点数で決めろなんてもういないなんておっしゃってはいけません。ナガスネのモデルになった認証機関は2012年の夏までは間違いなくそうでなくちゃいかんと言ってました。
おっと私はそんなことを是認しませんよ。そんなアホどもと10年以上戦ってきたのです。


initiall_A様からお便りを頂きました(2014/12/5)
今回、本編部分9990字でしたね。素晴らしい。
でも個人的には長くても楽しいので歓迎ですが。

initiall_Aさん お褒めいただき感謝です!
文字数をピタリにするよりも面白いお話が書けたらいいんですけどね・・・


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014/12/5)
いやぁ〜懐かしいなぁ。こんな、しょーもない事で頭を痛めてた時期が鶏にもありしまた。アレはいったい何だったんでしょうね。

名古屋鶏様も頭をひねった時代がありましたか、
私も環境側面のつじつまを合わせるためにパソコンを叩いて過ごした日々がありました。
ありゃ、電気エネルギーの浪費、PPCの無駄使い、会社員の人件費のロス、日本のISOは環境に良くなく、経済に良くなく、生産性を低下させるばかり
今もあまり改善されていないようで・・・

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2014/12/6)
同感です。懐かしいですねえ。今となっては、「アホか」としか言いようがありません。
それ以前の話として審査準備? 何ですか、それは?
準備なるものをしなかったらどうなるんでしょうか?
不適合指摘がたくさん出て困る? 何で困るの?
準備不足で審査員が審査ができない? 審査員に審査する力量がないだけでは?

ぶらっくたいがぁ様 毎度ありがとうございます。
はっきりいって理解不能なのがISOです。
いや、理解できる人は異常です。
アハハハハ


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