マネジメントシステム物語40 ISO14001指導 その4

14.03.06
マネジメントシステム物語とは

素戔嗚グループの4事業所において、ISO14001の認証を進めてきました。佐田は単に認証すればよいというのではなく、どのような方法が良いのかを見るために、それぞれ認証のためのアプローチ方法を変えて活動してきました。
既に2社が審査を受けました。外資系認証機関の審査を受けたウケイ産業は審査員の規格解釈も素直で審査もまっとうでトラブルなく認証を受けることができました。他方、業界設立の認証機関、ナガスネによる審査は、そのおかしな規格解釈で紛糾しましたが、オロチ機工のメンバーの活躍で事なきを得ました。
今回は残り2社の審査風景です。今回はふたつともナガスネ認証(株)による審査です。大蛇機工の経験でナガスネ認証の審査員は少し成長したでしょうか?

今回の審査を受けるふたつの事業所のISO認証のアプローチを書いておきます。
事業所認証機関方法
静岡素戔嗚すさのおナガスネナガスネの解釈によって、その事業所の仕組みが適合であることを説明する
岐阜工場ナガスネ実体と異なるバーチャルシステムで審査を受ける



静岡素戔嗚
静岡素戔嗚のアプローチ方法は基本的に、ナガスネの規格解釈とナガスネが講習会で教えている方法を採用して審査を受けるということである。但し会社の文書や過去からしていることを変えないという条件である。多少の無駄仕事はやむを得ないが、社内の仕組みは変えずダブルスタンダードにはしないという考えだ。佐田の目論見はナガスネ方式であっても、なるべく無駄を少なくして審査でもめない方法を見つけることにあった。
本当のことを言えば、企業側が何でそこまで気を使わなければならないのかと疑問に思うのが当然ではある。
今回は、2週間後に審査を控えている岐阜工場の川中課長も見学に来ている。佐田も片岡、佐々木両氏と共に立ち会っている。もちろん問題が起きたら陰でバックアップする予定だ。

審査員は大蛇機工にきた柴田審査員柴田取締役技術部長と、 三杉審査員三杉審査員である。柴田氏は後ろのほうに座っている佐田たちには気が付かないようだ。あるいは4ヶ月も前の審査で見かけた顔など覚えていないのかもしれない。
鶴田部長は佐田から連絡を受けていたので、審査員のお話の時は関係者だけでなく総務と資材部に協力してくれとお願いして、オープニングには30名ほど出席してもらった。柴田審査員は出席者が多いのをみていたくご機嫌であった。審査員の挨拶が終わると、サクラは全員退出した。
経営者インタビューで審査員と経営者、双方がエールの交換をして審査が始まった。こちら側は管理責任者は鶴田部長、審査の対応は福井課長である。基本的にナガスネ方式で手順を決めているから問題が起きないはずなのだが・・・さっそく、環境側面から審査が始まった。
柴田審査員
「環境側面はどのように決めているのですか?」
福井課長
「まず当社で使用している物やエネルギー、材料や副資材などを購入費目からリストアップしました。そしてそれらの使用量や保管量、環境影響の重大性、影響の期間を評価しまして、それぞれに配点します。そしてそれら三つの配点を掛け算した積が一定点以上であれば著しい環境側面にすることにしました」

(使用量/保管量)×(環境影響の重大性)×(影響期間)=(点数)

三杉審査員
「いやあ、すばらしい方法ですね。でその結果はいかがでしょうか?」
福井課長
「インプットとして電気の使用、重油、プロパン、原材料が入りまして、アウトプットには製品、排水、廃棄物などが該当しました。一覧表はこちらです」
三杉審査員
「いや、すばらしい。ところで通勤は考慮していますか?」
福井課長
「通勤ももちろん環境側面にとりあげています。ここは公共交通機関もあまり便利でなく、近場の人は自転車やバイク、遠くの人は車通勤が多いです。通勤手段を強制することもできませんし、エコカーに乗れとも言えず、管理できないとして著しい環境側面にはなっていません」
三杉審査員
「柴田リーダー、よろしいですね」
柴田審査員
「評価した記録があればいいんじゃないか」
福井はチラッと佐田の方を見たが、柴田も三杉もそれに気が付かなかった。
三杉審査員
「環境目的はどのようにして選んだのでしょうか?」
福井課長
「著しい環境側面を決める一覧表の右側に、法及びその他の要求事項、技術上の選択、財政上、運用及び事業上、利害関係者と列を設けておきまして、それぞれに必須は5点、関わるものを3点、無関係を1点としまして合計点10点以上を目的に取り上げることにしました」 (参考)

 著しい環境側面の決定環境目的の設定
環境側面使



































電気521105131111
重油24216511119
1111
塗料333275313315
**            
**            

三杉審査員
「いやあ、これはすばらしい方法ですね。ISO規格通りでこれほど論理的な方法は見たことがありません。すみませんが、これは非常に参考になりますから1部いや柴田さんの分もあるので2部コピーしていただけますか」

我々はそんなことを言われると中身の重要性に関わらずすぐにコピーして渡したものだ。後になってそういった資料が審査員がコンサルをしている他の会社に流れているのを知った。コンサルとは情報やアイデアをトランスファーしてお金を儲ける商売だったのだろうか? まして審査員という立場を利用して企業からさまざまな、場合によっては秘密情報まで入手し活用していたとは許しがたいことである。
その一方、認証機関は審査の陪席者から『審査で見聞きしたことを他言しない』という誓約書をとっていたのは、悪い冗談だったのだろうか?

三杉審査員
「目的はみな3年後になっていますね。けっこう、けっこう
あれ、でも感じからいって重油の点数が低いじゃありませんか? 10点に足りませんね」
福井課長
「当社では重油を暖房に使っています。実際問題としてこれが一番安くて設備も数年前に更新したばかりですので、目的に取り上げたくないのですよ」
三杉審査員
「でもそれっておかしいじゃないですか。うーん、それとよく考えると塗料が電気よりも高得点になるというのも常識から考えるとなんか変ですね。ちょっと待ってください、著しい環境側面のほうは掛け算で、こちらが足し算というのは矛盾ではありませんか」
福井課長
「最近は有機溶剤に対する風当たりが強く、当社は二年後に蒸発乾燥タイプから紛体塗装に切り替える予定なのです。それでそういったことを反映して塗料を最高得点に、重油は低得点になるように考えました。いろいろ調整しましたが、うまくいかずこちらは足し算にしたのですが」
三杉審査員
「計算方法が一貫していないのも変ですが、目的にしたいものを高得点に、したくないものの点数を低くというのは、発想が逆じゃないですかねえ?」
柴田審査員
「三杉君、三杉君、あまりそんなことにはこだわらないように。当社の『環境マネジメントシステム構築基礎コース』ではそのように教えているのだよ」
三杉審査員
「そうですか、でも結果が決まっていてそれに合わせているだけのような気もしますが・・」
柴田審査員
「三杉君、余計なことはいいから、いいから、次に行ってくれ」

後の方で、片岡と佐々木は小声で話し合っている。
佐々木
「あの算式を考えるのには僕も関わったんだけど、点数を調整するのには苦労したよ。掛け算と足し算を使い分けないとちょうどにならなくてね」
片岡
「ナガスネがいいというならいいんじゃないですか」
佐々木
「片岡さん、しかしナガスネの考えはわからんね」
片岡
「確かに・・・・結果が良ければ良いなら、面倒なことをしないで結果だけ書いた方が環境に良さそうだ。あの様子を見ていると根源は柴田取締役のようだね。あの三杉って審査員はまっとうかもしれん」
佐々木
「三杉さんは会社に戻ったら柴田取締役にどやされるんじゃないの?」
片岡
「確かに、このような親玉が指導していたら、おかしな考えに染まってしまうだろうねえ」
佐々木
「明日は我が身だよ。我々も柴田センセイの考えに染まると思うとなんともはや・・」

三杉審査員
「教育訓練について伺います。お宅の教育訓練はどのようなことをしているのでしょう?」
福井課長
「当社の一般的な社員教育は、新入社員のとき、社員の資格が昇格したとき、役職に就いたときに行っています。まあそれは当社の事業全般に関わることといいますか、環境に特化したものではありません。
環境に関しては著しい環境側面に従事する場合に、それに関する手順書によって教育訓練をしています。もちろん資格が必要なものは資格取得の指導を行います。公害防止管理者とか危険物あるいは特管産廃などですね」
三杉審査員
「地球環境問題についての教育はしていますか?」
福井課長
「三杉審査員さんは自覚のことをおっしゃっているのですね。今回ISO14001認証にあたってポスターなどで典型7公害とか、地球環境問題・・砂漠化とか地球温暖化ですが・・啓蒙活動をしています。もちろんそれだけでなく勤務時間内に時間を設けて、そういったことについて勉強会をしています」
三杉審査員
「地球環境問題についても教育をしているのですね?」
福井課長
「もちろんです。紙ごみ電気であっても、熱帯雨林保護とか、廃棄物問題や資源枯渇を知らないと行動に生きてこないでしょう。規格にも『自覚させる手順』とありますから」
三杉審査員
「いやまことによろしいですな。著しい環境側面に関わる人には教育訓練をして、著しい環境側面にタッチしない人には自覚教育が必要です。オフィスの人たちが使っているOA用紙や照明だって地球環境と密接な関わりがあり、心遣いで環境負荷を低減できるということを自覚させることが必要です」
自覚とはそういう意味だと理解している人は非常に多い。本当だろか? 

見学席でボソボソと話が行われていた。
片岡
「どうも規格とは違うようなことを言ってますね」
川中課長
「福井課長の話だけでは不足ではないでしょうかね。ウチではこんなものではなく、もっと時間をかけて全員に地球環境問題を教えていますよ」
片岡
「常識で考えて、会社が勤務時間に地球環境問題を教えなければならないという発想は間違っていると思う」
佐々木
「ISO規格ではなくナガスネ規格には、なにがなんでも環境教育をしろと書いてあるのでしょう。とにかくそう覚えておきましょう」

三杉審査員
「緊急事態の対応は、どの手順書に決めているのでしょうか?」
福井課長
「緊急事態といってもいろいろなケースがあります。それで重油タンクからの漏洩対応については、『重油タンク取扱規定』に対応を盛込んでおりまして、排水処理施設の異常時の対応は『排水処理装置運用規定』の中で対応を定めています」
三杉審査員
「お宅のような文書の構成ですと、緊急事態が起きた時の対応が一目では分りませんね。『緊急事態対応規定』といったものにして、いろいろな緊急事態が起きた時の対応を一つにまとめておくべきじゃないですか」
福井課長
「当社では重油タンクの運用と排水処理の運用は別部門ですし、関係する人も異なりますからそれぞれの規定にしておいた方が実用的だと考えているのですが・・」
三杉審査員
「でも事故が起きたとき一つを見ればわかったほうがいいでしょう。お宅も便利ですし、我々が審査するときも分りやすい」
福井課長はどうでしょうかというふうに鶴田部長を見る。
鶴田部長
「規定の構成には、業務を縦割りにするのも横切りにするのもあると思います。その会社が良いと考えた方法でよろしいのではないでしょうか?」
柴田審査員
「いや、ここは三杉審査員が申しましたように、緊急事態としてひとつにまとめておくべきでしょうねえ。ちょっとお宅さんは規定の作成というかくくり方が変なんだよね。こればかりではなく、教育や是正処置と予防処置もそうなんだよね」
鶴田部長
「何か具合が悪かったですか?」
柴田審査員
「悪いですよ。お宅ではいろいろな業務プロセスについて規定を作成していて、その中で教育や緊急事態の処置や是正処置の手順を決めている」
鶴田部長
「それが良いと考えていますが・・・」
柴田審査員
「教育訓練はひとつにまとめ、緊急事態の処置はひとつにまとめ、是正処置もひとつにまとめた方が使いやすいのではないですかね。多くの企業ではそのようなまとめ方をしていますよ」

1997年頃ナガスネのモデルとなった認証機関は、このように要素ごとに規定を作成すべきだと強力に誘導(強制)した。
私の勤めていた会社では過去からそれぞれの設備や作業を決めた手順書でそういったことを記述していたので、かなり強烈に改定するように言われた。だが私は改定するとは言わなかった。審査員はさすがにそれを不適合にはしなかったけれど、だいぶ嫌味を言われた。


文書の区切り方

彼らは実際に社内文書などを作ったことがなく、頭の中で考えただけなのか、それとも実際の運用はどうでもよくて、審査しやすい方が好ましかったのだろうか?
ところで彼らの言うように緊急事態手順書、是正処置手順書、教育訓練手順書という構成にしたとしよう。排水処理施設を担当している人は、それらを全部読まないと仕事ができないことになる。イヤハヤ、効率が悪い以前に、仕事にならないだろう。
ところで上の図で運用管理まで横方向をまとめて作れなんては、まさか言わないだろうなあ!


鶴田部長
「従来まったく規定がない会社が手っ取り早く認証取得するために、そのような形で規定を作成することはあるでしょう。しかし従来から業務の手順書が整備されているならば、そのようなまとめ方ではなく、プロセスに沿って諸事項を盛込む方が実際に使う人からみてごく自然だろうと思います」
柴田審査員
「そんなことはありません。御社のまとめ方がおかしいのです」
柴田は声を大きくした。
鶴田部長
「社内規定、一般語としては手順書というのでしょうけど、そういう文書をどのように書くかということは、会社によって姿かたちは異なると思います。書くべきことが漏れているとか書いていることが間違っているならともかく、プロセスに沿って文書を作るか、要素ごとにまとめるかということは、企業の裁量ではないですか」
柴田審査員
「私どもは会社の文書が役立つようなことをアドバイスしているつもりですよ」
鶴田部長は困ったなあという顔をして、福井課長と小声で何か話し合う。
鶴田部長
「審査員さんのアドバイスは承りましたので検討させていただきます」
柴田審査員
「ぜひとも改定してください」

三杉審査員
「では是正処置にいきます。最近発生した不具合に、どのような是正をしたかをお聞きします。
まず環境マネジメントプログラムを見せてください。
ええと御社では廃プラスチックの削減を目的に取り上げていますが、前月は目標未達ですね。これはどのような是正処置をされたのでしょう?」
福井課長
「これは親会社から注文を受けていた製品Aの売れ行きが思わしくなく、注文が打ち切りになりました。もちろんそれに伴い親会社から補償はありましたが、当社ではA製品に使う部品や材料を処分しました。プラッスチック部品やペレットを廃棄しましたので、それが廃プラスチックの増加となったわけです。ああもちろん板金部品も廃棄しましたが、金属は安いですが売れますので廃棄物にならなかったのです」
三杉審査員
「原因はともかく廃プラが予定数量を超えたわけですね。その是正処置はどうしたのでしょうか?」
福井課長
「正直言って手はないです。」
柴田審査員
「次回から生産変更に伴う廃棄は、廃棄物の計上から除外するとでもしたらどうかね。そうすれば削減努力の成果は成果として表せるだろう」
福井課長
「じゃあ、そのように仕組みを変えます」
柴田審査員
「それがいい、それがいい」
これも実際にあった。そのときの審査員氏はこれと同じことを言った。だが生産変更に伴って発生した廃棄物は除外するのが良いとも思えない。
このときの真の是正処置はどのようなものになるのだろうか。営業努力なのだろうか? 売り上げ予測の精度向上なのだろうか? ペレットなら買い手を探すことなのか?(特殊なペレットは売れないことが多いのだが)

三杉審査員
「内部監査ですが、まずお宅の内部監査員の要件はどう決めていますか?」
福井課長
「内部監査員は外部の内部監査員講習を受けた者、及びその人が講師になって行った社内講習を受けた者としています」
三杉審査員
「外部の講習を受けただけでは講師として不適任じゃないでしょうか」
福井課長
「内部監査員といっても一人二人では足りませんし、10人も外部講習に行くのは大金がかかります」
三杉審査員
「いや外部の講師を頼んで社内で講習会をもつというのもありでしょう」
福井課長
「そういった方法だって大金がかかります。社内の者が講師をしたのではISO規格に不適合ということでしょうか?」
三杉審査員
「いや、そういうわけではないけれど、ナガスネ認証でも内部監査員の出前講座をしていますから、そういう方法を活用してレベルアップを図るべきだと思います」
鶴田部長
「福井課長、次回からそういったことを検討することにしよう」
こういった囲い込みというか勧誘は21世紀になって少なくなった。審査で営業活動することはいけないよと誰かが言ったのかもしれない。
だけどさ〜、認証機関からすれば講習会に参加させれば売り上げになるけれど、企業から見れば費用増加でしかない。なにせ内部監査員教育を受けてもその費用が回収できる見込みはゼロだよ

三杉審査員
「ええと御社では内部監査報告書の宛先が経営者である社長になっていますが、管理責任者には報告していないのですか?」
福井課長
「もちろん管理責任者にも報告書を提出しています。宛先が『写』のところに管理責任者と書いてあります」
三杉審査員
「『写』で良いのでしょうか? 『正』として送る必要があるのではないですか?」
福井課長
「内部監査報告書というのは依頼者である社長に送るのが筋でしょう。ですから『正』は社長で、それ以外の宛先は『写』になると思います」
三杉審査員
「『写』最近はCCというようですが、それは読まずに捨てても構わないということでしょう。それはおかしい。管理責任者には『正』として送るべきです」
福井課長
「当社ではそのような理解はしていないです。報告すべき相手が『正』で、それ以外は『写』としています。例えば上司に提出する文書を他の部門にも送る場合がありますよね。そういったとき他部門宛を『正』として送ることは組織論としておかしいでしょう。もし部下が他の課長と私に『正』で文書を出したら、私は部下を諌めて、報告書を回収させます。それが組織というものです」
三杉審査員
「内部監査報告書は重要ですから、管理責任者が見逃したりしないように『正』として送るべきですよ」
福井課長
「そうですか、検討します」

これも実際にあったやりとりである。
ところで読者の皆さんはこれを、どう思われるだろうか?
これは論理的には間違いだ。そもそも2014年以前のISO9001にもISO14001にも、監査報告書を管理責任者に出せという要求はない。規格ではただ単に経営者に報告せよと書いてある。

このように各項番ごとにいろいろと注文が付いた。
佐々木
「イヤハヤ、ナガスネ方式で環境側面を決めて環境目的を決めても、運用や是正処置でもナガスネ規格に沿わないと不適合が続出だね」
片岡
「ナガスネ方式、恐るべしですね」

初日の審査終了後、鶴田部長、福井課長、佐田、片岡、佐々木、それに川中課長が集まった。
川中課長 福井課長 鶴田部長 佐田 佐々木 片岡
川中課長 福井課長 鶴田部長 佐田 佐々木 片岡

佐田
「鶴田部長さん、今日はお疲れ様でした。私どもの支援が不十分でいろいろ指摘を出されて申し訳ありません。はっきり言いますが本日の指摘を全部拒否することは可能です。もちろん大激論になるでしょう。でも、これらの言いがかりを撤回させる自信はあります。
とはいえ、どうするかは鶴田部長さんのご判断次第です。選択肢としては、ひとつは今申しましたように拒否するというのもありますし、もうひとつはもめるのを避けて相手に言われた通りにするのもあります。どうしましょうか?」
鶴田部長
「佐田さん、気にしなくていいよ。ナガスネで審査を受けた会社がこの近辺にいくつかある。聞いてみたけど、その指摘たるや、こんなものじゃなかったからねえ〜
ところで福井課長は今日の問題をどう考えているね?」
福井課長
「文書の構成になると相当な手間がかかります。とはいえこれも実際に使う文書ではなく、審査の時に見せる文書を新たに作って、ダブルスタンダードにしてしまうのであれば、私とアシスタントの女性が1週間もかければ終わるでしょう。嘘をつくというか事実と異なる書類を作ればいいのですから簡単ですね。といいつつも今後ずっとダブルスタンダードでいくとなると手間が大変ですが。
内部監査報告書の『写』を『正』にするのは、手間もお金もかかりませんから対応しましょう。私は納得しませんが」
鶴田部長
「内部監査員の育成はどうする?」
福井課長
「ナガスネの内部監査員講習は一人3万円くらいですか、10人で30万、交通費宿泊費込みで60万か・・・出前講座について向こうの担当に問い合わせしましたら30万くらいらしいです。それにホテル代とか接待とか・・・
まあ1回限りならやってしまうか割り切りというか判断ですね。どちらにしても、お金をどぶに捨てるようなものです」
鶴田部長はしばし考えていたが、やがて・・
鶴田部長
「よし、わかった。連中のいう不適合を受け入れることにしよう。但し来年はナガスネから別の認証機関に鞍替えだな。ISO9000と同じBB社にしようや。
佐田さん、ということでいく。よろしいか?」
佐田
「鶴田部長さん、福井課長さん、いろいろご迷惑をおかけしました。謝ります。ただナガスネ対応としてはとても勉強になったと申し上げます」
鶴田部長
「ヨシ、じゃあ福井課長、彼らのいう是正処置をしたら、こんなばかばかしいことは忘れるんだ。それとさ、どうせ来年は奴らには依頼しないんだから、是正処置は形だけやればいい。規定の改定も新たなもの規定を作成しなくていい。是正処置を出しても内部監査員講座は受講させない。来年は従来からの方法を見てもらう。BB社ならそれで十分だろう。一段落したらお前、ウケイ産業に行って勉強して来い」
佐田は申し訳ない気持ちでもう一度頭を下げた。
川中課長
「私は今回の審査で問題と言われたことは、岐阜工場の審査までに対応して、問題提起されないようにしておきます。
佐々木と片岡の二人は黙っていた。



岐阜工場
岐阜工場の審査の日がやって来た。今回も佐田は佐々木と片岡氏と共に審査に陪席した。
川中課長は口で言うだけのことはあって、ナガスネがあちこちの工場の審査で不具合だと言ったことについてはすべて対応していた。
環境方針には規格文言すべてを織り込んでいた。そして環境方針カードを作って全社員、パート、ガードマンに至るまで配布し携帯するように指示していた。
そして環境側面は佐々木考案のエクセルのワークシートで微調整して、アヤが付かないようにした。環境側面には通勤はもちろん入れた。しかも著しい環境側面としており、手順書を作って毎月ノーカーデイの参加呼びかけすることをその対策としていた。でも著しい環境側面の手順というものはその程度で良いのだろうか?
環境目的は3年、環境マネジメントプログラムは環境目的用と環境目標用の二つ作る。ナガスネ流の作法とおりである。
文書であるが、完璧なダブルスタンダードである。要求事項対応に手順書を作るのはISO9001のときからしていたことだ。どうせ実際に使う文書ではない。

だがそれでも、審査に入るといろいろなところでいちゃもんが付いた。
おっとやって来た審査員は、ISO審査員研修の講師をしていた須々木須々木取締役ともう一人であった。
須々木
「環境法規制に道路交通法がありませんね」
川中課長
「道路交通法ですか? ちょっと環境に関係しないように思いますが」
須々木
「おおいにあります。もし運搬中に事故などで積み荷が散乱したら環境に影響があるでしょう」
川中課長
「とおっしゃいましても、当社では塗料とか酸などを運ぶことはありません。製品も運送会社に委託していますし・・」
須々木
「お宅は分工場があるそうですね。お昼のお弁当は本工場の厨房で作って、分工場まで運んでいると聞きました。もし運搬中に交通事故でお弁当が散乱すれば、腐敗して悪臭を放つなどの問題が起きるのではないでしょうか」
川中課長
「まあ可能性はゼロではないでしょうけど・・」
須々木
「川中課長さんも可能性はゼロではないとおっしゃる。道路交通法は必須です。追加しておきなさい」
川中課長
「わかりました。追加します」

これは2000年前はJ●▲の審査員が真面目な顔で言っていた。
でもそこまで心配するならば、廃棄物処理契約書には「印紙税法」が関わり、公害を隠したとき告発するために「公益通報者保護法」、近隣ともめたときに備えて「ADR法」や「民事訴訟法」、コンポストしていれば「肥料取締法」を追加しなければ片手落ちではないだろうか? いや、北朝鮮が侵略してくるかもしれないから、その時に備えて「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」も入れておかなくてはならない。もっとありそうなのは、不完全燃焼で煙が出たとき近隣の飼い犬が気分を悪くして「動物の愛護及び管理に関する法律」が関わるかもしれない。
だけど道路交通法だけにこだわったのは、それが重要だからだろうか? それともそれしか知らなかったのだろうか?
ちょっと待ってくれ、道路交通法を記載しておけば、交通事故は起きないのか?
っと、1998年以降制定の法律があるなんてツッコミは止めて

須々木
「規定では、環境実施計画で未達のとき是正をするとありますね。未達とはどういうことでしょうか?」
川中課長
「ハイ目標を達成しないことです」
須々木
「でもほんのわずか目標に届かなかったときは是正しないでしょう。何パーセント未達なら是正をするのか、規定に書いてありません。そういえば、3%以上未達のとき是正を開始するとしている会社もありましたね」
川中課長
「わかりました。そのようにします」


ナガスネのモデルになった認証機関は、西暦2000年以前はこのような理屈を語っていた。ほんの少し目標値を下回ったとき対策を開始せず、3%下回ったときに開始するという理屈もわからない。それじゃ目標値とはなんなのだろう。たぶん、理解できない私の頭が悪いのだろう。

須々木
「著しい環境側面から環境目的を選んでいるのは良いのですが、目的を達成したときは、その著しい環境側面は著しいものから外れるのではないでしょうか?」
川中課長
「そうもいかないのですよ。特別管理産業廃棄物の削減を目的に揚げていますが、削減目標を達成してもマニフェスト票の交付は必要ですし特管産廃の表示板もしておかなければなりません。資格者も必要ですし・・・ゼロにならない限り著しい環境側面からは落せません」
当時マニフェスト票は特管産廃だけ必要だった。産業廃棄物全体に拡大されたのは1997年12月からである。
須々木
「でも著しい環境側面から環境目的を選んだのですから、環境目的を達成したら著しい環境側面からはずさないと、理屈がおかしいのではないでしょうか?」

片岡が佐々木にささやいた。
片岡
「これは結局著しい環境側面から目的を選ぶという間違いから演繹される錯誤なんだろうなあ〜」
佐々木
「須々木センセイは著しい環境側面の意味さえ理解していないようだ。でもさ、電力だって著しい環境側面なんだけど、電力削減が目標達成したら著しい環境側面から落とすのかよ!」
片岡
「川中センセイはどう対応するのだろう?」
だが、川中センセイは悩まず即答しえた。
川中課長
「須々木先生、おっしゃるように特別管理産業廃棄物が目的通りに削減できた時は、著しい環境側面からはずすようにします。しかし管理については法に則って行うという仕組みにしましょう」
須々木
「それがいいですね。では次に行きましょう」


片岡
「何がいいのかわしには分らんね。しかし川中課長もあそこまでやるのかという感じだね」
佐々木
「プライドがないのか、全然考えていないのか、それとも会社を良くすることが目的でなく、不適合を出されないことが目的なのか・・・」
片岡
「うーん、ナガスネの審査が問題というよりも、ナガスネの幹部が規格を理解していないのが問題ということになるのだろうか。ともかくナガスネの審査見学はためになる」
佐々木
「オイオイ片岡さん、こんなのを見学してもためにならないよ」
片岡
「しかしねえ〜、あのセンセイが審査員研修の講師をしているんだよ! 犯罪行為じゃないか」

お昼休み、佐田たちが川中課長と一緒に昼飯を食べようとしていると、須々木審査員から電話があり川中課長が呼び出された。
川中はびっくりして審査員控室に飛んで行った。
佐田たちはなんだろうと言いながら、お昼を食べる。

20分ほどして川中が戻ってきた。
佐田
「川中課長、どうしました?」
川中課長
「お昼の弁当が不味いというのですよ。一応、この町の仕出し屋に1食1000円で頼んだのですが、お口に合わなかったようです」
片岡
「それで、どうしたのですか?」
川中課長
「今日の昼飯はもうどうしようもありませんので、明日から改善しますといってご理解いただきました」
片岡
「大変ですね。今晩は宴席を用意しているのですか?」
川中課長
「ハイ、健保会館ですが・・・・そうだ、料理を良くしないと今夜もまたお小言を頂いてしまう。ランクアップをしなければ・・・」
川中はまだお弁当を半分も食べていなかったが、夜の料理に手を打たないとと言いながら部屋を出て行った。
片岡
「オロチ機工では夜の部がなかったので審査員の機嫌が悪かったのではないかね?」
佐々木
「佐田君、こういったことは本社で昼飯の金額とか、夜の部をするかしないかとか、指示した方がいいんじゃないのか?」
佐田
「イヤハヤ、もうISOの世界ではなく、談合、饗応の世界ですねえ」
佐田は笑った。

午後の部が開始された。
須々木
「おお、この月報を拝見すると、川中課長さんは地域の企業会でISO9001やISO14001について講演を行っているのですか。いや私は先ほどから川中課長さんはISOに詳しい方だとみておりました」
川中はそれを聞いて顔を明るくした。
須々木
「でもですよ。課長さんの社外での講演をコミュニケーションの記録に残していませんね。これは4.4.3の『外部の利害関係者からの関連するコミュニケーションについて受付、文書化する』という要求にはずれているようです」
川中課長
「そうしますと私が社外で講演などをしたときは、記録を作成して報告することが必要ということでしょうか?」
須々木
「そうです。そうすれば川中課長さんの実績も残りあなたの評価につながると思います」
川中はニコニコして同意した。
佐々木
「へえ、環境コミュニケーションてそういうことをいうのかい?」
片岡
「あんな間違いは可愛い方じゃないのか、有名なコンサルは『環境コミュニケーションとは環境報告書を出すこと』って語っていた。わしは危険性や事故の広報や避難勧告が最優先の環境コミュニケーションじゃないかと思うけど」
佐々木
「環境報告書を出すのが、環境コミュニケーションなら、世の中簡単だね」

翌日、いくつかの観察事項が出されたが、川中課長は全部すぐにやりますと応えて岐阜工場のISO14001審査は円満に終了した。ところで不適合があったとき組織側が対応すると応えたときそれを観察事項にして不適合としないのはナガスネのモデルとなった認証機関の常套手段だった。不適合は不適合、観察事項は観察事項だと思う。もちろん、それ以前に、その事象が不適合か否かは検証が必要だ 

佐田たちは終了後、大山部長と川中課長にお礼を言って本社に戻った。帰りの電車では3人とも放心したように黙りこくっていた。みなの思いは同じだった。
このようなISO審査にいかなる意味があり、ISO認証にどのような価値があるのだろうかと!

うそ800 本日の懸念
審査員のお名前は私が過去にあいまみえた方のご芳名をもじっています。もしかして私を名誉棄損で告発するセンセイがいたりして。でも名誉棄損はその人が特定されていることが必要だそうですから、自分だと思い込むだけでは無理のようです。
ところで、「お前はわしが間違ったことを嘲笑ったから名誉棄損で訴えるぞ」という方がいるものでしょうか?



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014/3/6)
審査で営業活動することはいけないよと誰かが言ったのかもしれない

おっと、それではISOの審査中にエコアクションを売り込んだ某審査員は・・・?

鶏様 ISOを推薦するならともかくエコアクションとは・・
ソフトバ●クに買いに来たら、英雄を勧められたようでお客さん困っちゃうわ!


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