マネジメントシステム物語76 措置命令

14.09.01
マネジメントシステム物語とは

佐田が朝メールをチェックしていると 大河内部長が佐田を呼ぶ。なにごとかあったのかな?
大河内部長
「佐田よ、トラブル発生だ。○○県にある天叢雲あめのむらくも電子って知ってるか?」
佐田
「天叢雲? ああ、はい、だいぶ前に監査でお邪魔したことがあります。電子機器の基板実装をしていたと思います。従業員は・・100人くらいいましたっけ?」
大河内部長
「そこだ、そこだ。その会社から契約をしないで廃棄物を委託してたのが発覚したって報告があった。まあ、だいぶ前のことらしく、それだけなら大事でないかもしれないが、そこで出した廃棄物が不法投棄現場から出てきたっていうんだ。行政から明日か明後日に公報すると言われたそうだ。」
佐田
「そりゃ・・・一大事ですね。とはいえ、それだけではなんとも・・・」
大河内部長
「上に報告しなくちゃならない。とりあえず速報ってことで説明しておくが、当然より詳細な報告を求められるだろう。
それで、お前すぐに現地に行ってくれ。竹山も連れていった方がいいだろう。あいつも修羅場の体験を積まなくちゃな。そしてだ、お前は今日遅くても7時くらいまでに戻ってきて、今晩中に状況を報告してほしい。わしはお前が戻るのを待っている。竹山は向こうに置いてきた方がいいかもしれないな。今後の連絡係として」
佐田
「承知しました。今・・9時3分過ぎですか、10時の新幹線に乗れば昼には着くでしょう。では、すぐにちます」
佐田は竹山に部長の話を伝え、竹山の仕事の状況を確認した。竹山は昨日まで1週間も監査で出張しており、今朝は久しぶりに出社したところだった。だが佐田から話を聞いた竹山は、状況が状況だからすぐに出かけましょうという。少しは頼もしくなったと佐田は感心した。
二人は東京駅から新幹線に乗る。お互いに打ち合わせしたいことがあるが、1時間半だからガマンした。当たり前だが、社外で仕事の話をしてはいけない。


目的地は新幹線から在来線に乗り換えて更に30分くらいのところにあった。駅から歩いて10分くらい。いつもは車で迎えに来てくれるが今日はお迎えはなく会社まで歩く。小都市だから町並みはなく、両側は畑でところどころに住宅が建つ。
受付で訪問した旨を伝えるとすぐに会議室に案内してくれた。
会議室には二人の男が座っていた。一人村越課長は見覚えがあり、確か村越課長と言ったはずだ。二年前に来たとき佐田が会った記憶がある。
村越が立ち上がった。
村越課長
「佐田さんでしたよね、お世話になっております」
佐田
「状況が良く分りません。まず状況を教えていただき、私どもでお力になれることがあるかどうか・・・」
村越課長
「おい、郡司ぐんじ、経過を説明してやって。おれは社長を呼んでくるわ」
村越は部屋から出ていき、郡司郡司と呼ばれた30を少し過ぎた竹山と同年配の男が立ち上がった。
郡司
「お世話になります。ええとですね、1年くらい前になりますが、隣の県で不法投棄が見つかったのです」
佐田も竹山も、その不法投棄の話はもちろん知っていた。報道を見て、素戔嗚グループの各企業に関わりがあったか問い合わせをしていたが、どこからも関係ないという報告をもらっていた。
郡司
「不法投棄をした会社はウチとは取引がなかったので大丈夫と思っていました。ふた月くらい前に県の環境課の人が来まして、不法投棄された廃棄物の中にウチから出したものがあったということを言われました」
竹山
「ほう、どうして御社だとわかったのですか?」
郡司
「当社の社名の入った段ボールがあったのです。写真を見せられましたが、中身は間違いなく当社の廃棄物でした」
佐田
「なるほど、どうぞ話を進めてください」
郡司
「そしてマニフェストとか契約書とかいろいろと調べられました。その廃棄物は彩重あやしげという廃棄物処理業者に委託したことになっていました。そこは収集運搬も中間処理もしているところですが、その時のマニフェストはもちろんありましたが記載上の問題なく、契約している最終処分場に埋められたことになっていました。ただマニフェストや契約書を調べていて問題が見つかったのです」
佐田
「どんなことでしょうか?」
郡司
「実は契約書を取り交わす数か月前から処理委託していたのです。ああもちろん、マニフェストは交付していたのですが」
竹山
「そのときも郡司さんが担当だったのでしょう。いきさつを覚えていませんか?」
郡司
「おっしゃる通り私が担当でしたが、それについて記憶がありません。業者を替えたときバタバタしていて、ついうっかり契約するのが遅れてしまったようです」
竹山
「うっかりと簡単には言っては困りますよ。それで県の担当官はどういう話になったのですか?」
郡司
「そのときの係官の話では、詳細を調べてから通知するという話でした」
竹山
「そして一昨日連絡があったということですか?」
郡司
「そうなんです」
竹山
「最初に県の担当官が来た時点で本社にご相談いただければ良かったですね」
佐田
「まあまあ、それで一昨日はどんな話だったのでしょうか?」
郡司
「廃棄物処理法違反を公表することになったということでした。事件に結びつかなければ単に警告程度だったかもしれませんが、現実に不法投棄されてしまっていますから・・」
佐田
「竹山さん、記録によると君が2年ほど前にこの会社に監査に来ているがどうだったのだろう?」
竹山
「おっしゃる通り、2年半前に監査に来ています。私も責任を感じておりまして、出かける前にそのときの監査報告書と監査の記録を持ってきました。これですが・・・」
竹山は監査の記録を広げた。紙ファイルで厚さ1センチくらいある。
竹山
「そのとき点検した廃棄物業者のリストがこれですが・・・・今回問題になった彩重という業者はありません」
郡司
「その業者とは前回の監査の時には取引していません。竹山さんが監査に来た後に委託するようになりました」
郡司は廃棄物の契約書を取り出して見せた。
竹山がそれを手に取りながめる。確かに日付が監査の後である。マニフェストの日付には契約書の日付より前のものもあるが、それでも竹山が監査に来たときよりも何か月か遅い。
そのとき村越課長が社長小山社長と一緒に部屋に入ってきた。
小山社長はこの会社のオーナー社長である。天叢雲は素戔嗚グループにいるが、子会社というわけではない。元々が地場の独立企業で、部分組立品の組み立てとかはんだ付けなどをしている内職に毛が生えたような小企業であった。それが30年ほど前、フローやリフロー、それに自動検査装置などを入れて拡大しようとしたとき、仕事を出していた素戔嗚電子が出資して素戔嗚グループの傘下企業となった。とはいえ、社長一族が株の5割以上を持っていて子会社ではない。小山はまだ50くらいだが完璧な禿げ頭で一見ヤクザのようだ。
小山社長
「社長の小山です。佐田さんでしたっけ? 一年くらい前に関連会社向けの環境の講演会でお顔を拝見しました。いやあ、このたびはとんだことを起こしてしまいまして、
まあ、ジタバタしても始まりませんから、しっかりと当面の善後策の実施、原因の究明、再発防止をしたいと思います。善後策についてご指導をお願いします」
佐田
「よろしくお願いします。私どもとしても最大限の支援をするつもりです。本日は状況確認ととりあえずの対策を考えたいと思います。行政が公表すると地域の報道機関などが来ると思いますが、その対応も考えておかねばなりません」
小山社長
「確かにここは田舎町だけど、もしかするとテレビ局とか新聞社が来るかもしれないな
村越よ、それについてはどんなことを考えているんだ?」
村越課長
「はあ、そこまでは・・・」
小山社長
「おいおい、どうするんだよ。佐田さんに対応を教えていただけ。まさか佐田さんはすぐに帰るってことではないのでしょうな?」
小山がいうと凄味がある。
佐田
「正直申しあげますとこの問題が公表されると、私どもの本社にも問い合わせなどがあると予想します。それで私は本日、いきさつの調査と当面の対応について話し合いをして、夕方に帰りまして向こうの対応の準備をする予定です。こちらの竹山は御社に残り、明日以降の対応のお手伝いと私どもとの連絡係する予定です」
小山社長
「わかりました。よろしくお願いします。
ところで村越、経過と原因はまとめたのか?」
村越課長
「ハイ、佐田さんがお見えになる前まで、郡司とその打ち合わせをしておりました」
小山社長
「そうか、俺も詳細を聞いてない。まずどうしてこんな問題が起きたのか説明してくれ」
村越課長
「ええと2年ほど前に・・・」
小山社長
「ほどってことはないだろう。何年何月なんだ?」
村越課長
「ハイ、ええとですね2008年10月にこの業者彩重あやしげ産業という隣の政令市にある廃棄物処理会社が売り込みに来ました。お分かりと思いますが、ウチの廃棄物で一番多いのは廃プラです。チップ部品のリール、部品類のポリ袋、ICが入ってくるトレイやスティックなどが廃プラになります。もちろんメーカーが引き取るものやリサイクルがきくものは、そのようなルートで処理していますが、廃棄物になってしまうものはやはり多いのです。当時、廃プラはこの町の廃棄物業者に頼んでいましたが、彩重はメリットがあると売り込んできたのです」
小山社長
「メリットってどんな? 費用が安いのか?」
村越課長
「そうなんです。収集と処分を一括でしているから安いという説明でした。そうだったよな郡司君?」
郡司は非常に不安そうな顔でうなずいた。
村越課長
「それで郡司君が彩重の会社を見にいきまして、その結果、大丈夫と判断して、ええと、2009年1月から廃棄物の委託を始めました」
小山社長
「どれくらいの金額を頼んでいたんだ?」
村越課長
「そうですねえ〜、月々数万というところでしょうか。2年間に委託した総額で100万ちょっとになりますか」
小山社長
「それ以前の金額はどれくらいだったんだ? まさか倍ってことはなかったんだろう?」
村越課長
「それほどの違いはありません。1割2割の違いでしょうね」
小山社長
「やれやれ、たった10万20万節約しようとしてエライことになったってことか」
村越課長
「ええと、話を戻しますが、廃棄物処理を委託するときには文書で契約しなければならないことになっています。日常の廃棄物処理に追われてうっかり契約書を作らずに、引き渡してしまったのです」
小山社長
「お前な、うっかりって言うけどな、うっかり仕事をされちゃ困るんだよ。現場でうっかり抵抗値が違うものを使ったりするか!」
村越課長
「ハイ、それにつきましては十分認識しております」
小山社長
「それからどうなったんだ?」
村越課長
「はい、それから順調に、いや特段問題なく廃棄物を依頼していました。ところが二月ほど前、いや2010年8月にですね、県の環境課の方が見えまして、例の不法投棄現場からウチから出した廃棄物があったというのです。写真を確認しましたが間違いなく当社が出したものでした」
小山社長
「といってもウチが捨てたわけじゃないのだろう。その彩重が捕まってもウチは関係ないだろう」
村越課長
「実際に廃棄物を捨てたのは彩重が依頼した会社なんですが、問題は二つあります。ひとつはウチが契約書を作成せずに業者に頼んでいたということです」
小山社長
「契約書がなくても契約は成立するだろう?」
村越課長
「確かに民法上の契約は成立していますが、廃棄物処理法では書面の契約書が必要なのです」
小山社長
「契約書を作成しないというだけでなんで罪になるんだ?」
竹山
「それが法律ですからしかたありません。過去にもそういう罪名で多くの企業が罰金を払っています」
小山社長は竹山をにらんだ。
小山社長
「うーん、そういうことになるのか。
それで・・・どれくらいの罪なんだ?」
竹山
「懲役3年罰金300万です、最大でですが」(2010年当時)
小山社長
「うわー、そりゃただごとではないな」
村越課長
「ともかくそのときは事実確認だけで、おって沙汰するということでした。そしてええと、一昨日ですねまたその係官が来まして、当社を廃棄物処理法違反で公表するからそのつもりでという連絡を受けました。それは社長に報告しましたとおりです」
小山社長
「当社を訴えるということはなかったのか?」
村越課長
「ゆくゆくはそうなるかもしれませんが、一昨日はそこまでの話はなかったですね。
あのう、実はそれだけでなくもうひとつの問題があるのです。不法投棄がありますと行政はその廃棄物を処理しなければならないわけですが、その廃棄物を委託した企業の法的な不備があるとその企業が処理費用を負担しなければならないのです。当社が業者と契約書を結んでいなかったことははっきりしているので、費用請求があるかと・・・これは間違いないと思います」
小山社長
「じゃあ善後策としてはどうすればいいのかな?」
佐田
「お話を承りましたが、今までのお話通りであるならば、もうしょうがないですね。不法投棄された廃棄物の処理に協力するので、寛大な処置をお願いするというしかないですね
まあ正直言って、今の話だけだとしてですが、措置命令つまり廃棄物処理費用支払いと社名公表くらいで収まるのではないかと期待しますね。懲役はもちろんないでしょうし、刑罰までにはならないでしょう。措置命令は行政命令であって刑罰ではありません」
小山社長
「佐田さんの言い方に引っかかるんだけどね。今の話だけとしてとはどういう意味かね?」
佐田
「疑うわけではありませんが、これから調べなくてはならないことがあります。相手の許可条件にあった廃棄物であったかとか、委託する単価が妥当かどうかなどですね。あまりに安い金額ですと適正な処理ができるはずがないと問題になることもありますし。
これから実際にどのようないきさつか、いつから廃棄物を委託したのかなど過去の帳票を見て確認させてもらいます」
小山社長
「わかりました。佐田さん、その辺も含めてしっかりと調べていただき対応策を考えてください」
小山社長は頭を下げて部屋を出て行った。
佐田
「ええと契約書やマニフェストそれに彩重との打ち合わせ議事録などありましたら一切を見せていただけますか」
郡司が書類を棚から出して机の上に置いた。
村越課長
「あのう、私も仕事に戻ってよいですか?」
佐田は首をかしげた。どうも社長もこの村越課長も問題の重大性を認識していないようだ。だが郡司はなにか隠していることがあるようだ。上司がいると正直に本当のことを話さないかもしれない。村越課長がいないほうが良いだろう。
佐田
「よろしいでしょう。今は(と腕時計を見て)1時40分ですか、そいじゃ4時に再度打ち合わせをするということにしましょう」
村越も会議室を出ていった。村越の顔には肩の荷を下ろしたという気持が表れている。
佐田
「郡司さん、すべてを時系列に並べてください。
ええと、そうだなあテーブルのこの列に契約書、この列にマニフェスト、この列に打ち合わせメモや現地調査記録を時間的経過の順序に並べて、そのとき縦方向は月日を合わせて、そうそう」
郡司がファイルをほどいて会議室の大きな机に書類を広げ始めた。竹山も手伝う。
佐田は大きな流れがどうなっているのかを把握しようとした。
ファイリングがグチャグチャで、量もけっこうある。打ち合わせ議事録、現地調査記録とその写真、契約書の案がいくつか、契約書の原本、請求書が多数、とはいえ廃棄物のものだけでなく電気工事や水道工事の見積書と請求書、受領書もある。その他何に使ったのかポリタンクとかビニールシートなどの納品書と請求書、支払伝票、マニフェストの交付状況報告書、特管産廃の帳簿もどき、廃棄物業者の一覧表、担当者とか電話番号が書いてある。マニフェストもA,B,D,Eがごちゃごちゃとあり、セットになっているのかどうかも怪しい。
とにかくそれらをひとつひとつ日付を見て順序良く机の上に並べるのに30分以上かかった。並べてみると流れが良く分る。しかし左端つまりそもそもの始まりにおいて既におかしなことがある。
佐田
「郡司さん、初めの頃はマニフェストを交付せずに廃棄物を渡しているように見えますね」
郡司
「はあ〜実はそうなんです。初め彩重は廃プラを買い取るっていう話だったんです。それで実際にできるのかどうか検討してもらうために廃棄物を渡したのです。」
佐田
「なるほど、それは問題ないでしょう。でも後でお金を払っていますね」
郡司
「物を受け取ってだいぶ日にちが経ってから、お金を払えと言ってきたのです」
佐田
「なぜお金を請求してきたのでしょう? 」
郡司
「正直言ってはめられたような気がするのです。売り先を探すからと廃棄物をトラック一台持って行ったのですが、ひと月してから有価物として売れなかったので、廃棄物として処理するしかないと言い出したのです。でも初めからそう企んでいたような気がするのです。廃棄物業者が新しいお客を開拓するとき、今までより処理費用が少し安いだけでは仕事がとれないでしょう。値段が安くても買い取りますとか言わないと・・」
佐田
「そう言われて黙って支払ったのですか?」
郡司
「まあ、1回ならしょうがないかと思いましたので」
佐田
「そのことは村越課長に言ってないようですね?」
郡司
「実はそうなんです。課長に報告すると面倒になると思いまして、私は廃棄物だけでなく副資材購入とか建屋の修理などをしているので、多少は裁量できるので処理してしまいました」
佐田
「でも、郡司さん、それも1度じゃなくて何度もあったように見えますね」
竹山
「佐田さん、どうしてそうわかるのですか?」
佐田
「だって請求書と支払伝票もあるだろう。廃棄物とは書いてないが、相手が彩重で、彩重とは廃棄物以外の取引があったという話はなかったよね。郡司さん、何度も払っているのはどういうことなのかな?」
郡司
「まあ、申しましたように後で請求されて困ってしまったのです」
佐田
「だけど一回頼んでもだめだったなら、翌月以降もそこに頼むというのも変じゃないですか?」
郡司
「実を言って前に頼んでいたところは地元の業者でして、長年の付き合いがあったんです。それで断るときにちょっともめてしまって、改めて頼むのも・・・」
佐田
「なるほど・・・
ところで初めの頃はマニフェストを書かないで、途中からマニフェストを書くようになったのはどうしてなんだろう?」
郡司
「初めの頃は有価物として売れるようになるかなという期待がありましてマニフェストを切らなかったんです。でも二度三度と重なるとなにもしないとまずいと考えまして、マニフェストを書くようにしたんです。」
佐田
「なるほど、でもその時点でマニフェストだけでなく契約もしておけば何も問題はなかったよね。何度もしたのはまずいけど、一度だけなら契約なしで委託して良いという決まりがあったはずだ。」

以前は新規取引の際、契約なしで一度テストしてもよいという記述があったが今はどうなんだろう?

郡司
「契約書を結ぶというのは手間暇がかかって結構大変なんです。それで危ないと気が付いたときからマニフェストを発行しましたが、契約書の方はなかなか・・」
佐田
「契約書を結ぶだけならそんなに時間がかからないだろう。まあひと月あればできたんじゃないの。どうしてすぐに契約しなかったの?」
郡司
「いやなにもしなかったわけではありません。私も彩重に強硬に言って4カ月かかってやっと契約を結びました」
佐田
「契約書を結ぶのを向こうが嫌がるわけもないだろう? 向こうから見れば廃棄物として出してもらえるということだから。
ちょっと待てよ、竹山さん、パソコンを持っているかい? 彩重の許可を調べてくれる?
彩重は県と政令市の許可があると思うけど、いつ取得したのか知りたいな」
竹山
「分りました、お待ちください」
竹山が調べるのをみて郡司はあたりを伺うようなそぶりをしていたが、やがて口を開いた。
郡司
「佐田さんはなんでもわかっちゃいますね、県の係官も課長も気がつかなかったみたいなんですが・・
実を言って彩重は政令市の許可はありましたが、県の許可は申請中だったのです。県の許可証がないと契約書を結べなかったのです」
佐田
「なるほどそういうことか、郡司さんは、契約するときになって先方が県の許可がないのに気がついたの?」
郡司はもうしょうがないという顔をしている。
郡司
「売り込みに来たときから、政令市の許可だけで県の許可はないのは知ってました。ただ何度も言いますけど、有価物として買い取るという話だったので問題ないと考えていたのです。
ところが有価物にできないということが分かったとき、そのまま契約書を取り交わしてもマニフェストを交付すると毎年のマニフェスト交付状況報告をしたときに許可がないことがばれると思ったんです」
佐田
「なるほど、だけど途中から契約書がないのにマニフェストだけ書いているね」
郡司
「もう、混乱していました。課長には知られたくなかったし その後二月くらい経って彩重が県の許可をもらったと聞いて、すぐに契約書を作りました」
佐田は二三度うなずいてまた書類の上下左右の関係をみていく。
30分ほどながめていて、佐田は独り言のように言う。
佐田
「郡司さん、こんなことをしてまずいと思わなかったのかい?」
郡司
「マズイと思ってたんです。でもそれから2年間も問題にならなかったので大丈夫と思ってました。彩重も今では県の許可もあるので合法ですし・・・それに彩重が不法投棄とかその他の問題で報道もされていませんでしたし」
佐田
「今の状態は見た目合法かもしれないが、過去の違法は合法にならないよ。まして現実に不法投棄に関わっているのだから」
郡司の顔色は青かった。
許可のない5か月か6か月の間に委託した金額は約30万だ。もしかすると郡司が彩重から接待とかバックマージンをもらっていたかという懸念もあるが、まずそれはないだろう。業者の売り上げが30万なら、担当者を買収するとか接待するほどの利益がでているはずがない。せいぜい居酒屋で飲ませる程度だろう。それくらいでは郡司が悪事を働く動機にはならないだろう。やはり郡司はミスが重なり気が小さいためにドロ沼にはまってしまったのだろうと判断した。
考えあぐねてもしょうがない。こういうことはサッサと決める方が良い。
佐田
「郡司さん、正直に社長と課長に正直に話した方がいいね。あとで問題が判明すると、社内も社外もよけい心証を悪くする。初めは有価物と考えていたが後で廃棄物だと言われたことで、結果として無許可業者に委託してしまったこと、業者が許可を得るまで契約することができなかったこと、悪いと知っていたがなりゆきでそうなってしまったことなどさ、
ところで確認しておくけど、ほかに変なことはしていないんだろう?」
郡司
「他にはありません。信じてください」
佐田
「信じたいけどその根拠はないんだよね。私たちは対策に協力するつもりだが、隠し事があるなら・・・」
郡司
「ありません、ありません、他にはありません」
佐田
「わかった。私が信じる信じないに関わらず今の情報での最善の方法を考えよう。
とりあえずと、今4時10分前か、郡司さん村越課長を呼んでほしい。」

郡司は電話をした後、しょんぼりとしている。
竹山はどうして佐田は簡単に問題を見つけたのだろうと不思議に思う。竹山は佐田に言われなければ、支払いとマニフェストの関係に、それに許可について気がつかなかった。
数分後に村越課長が部屋に入ってきた。
佐田
「村越課長、実を言ってほぼ状況が分かったので社長にもおいで願えますか。みなさんそろった方が話が早いと思います」
村越課長
「ええ、もう解決策が決まったんですか! そりゃすごい、」
村越は社長に電話して来てほしいという。


全員がそろった。
佐田が口を開いた。
佐田
「郡司さんにお話をお聞きしまして、経過がほぼ分ったと思います。私の感じですが契約未締結で廃棄物の処理委託をしたこと、無許可業者に委託したという二点で廃棄物処理法違反だと思います」
小山社長
「ちょっと待った。無許可業者というのは?」
佐田
「郡司さん、どうしますか、あなたから説明した方が良いでしょうけど」
郡司
「私は筋道立てて説明する自信がありません。佐田さんからお話してください」
佐田はうなずいた。
佐田
「ええと初めから話しますと・・・」
佐田は郡司が有価物として引き取るという話に載って廃棄物を委託した後に金を払えと言われたこと、そのとき正しく対応すればよかったが、相手に言われるまま違法と知りつつズルズルと依頼してしまったこと。相手が許可を持っていないことを知っていて先方が許可を受けるまで契約していなかったことなどを話した。
小山社長
「政令市の許可ではだめなのですか?」
佐田
「ここは政令市や中核市ではないので、県の許可を持っている業者でなければなりません。彩重は政令市の収集運搬の許可を持っていましたが、県の許可を持っていなかったのです。」

収集運搬業の許可証の範囲は平成23年4月1日(2011)に廃棄物処理法施行令が改正になった。以降は県の許可があれば県内全域で仕事ができるようになった。まあ政令市の許可だけでは今でも駄目だが、この物語はその改正前のお話である。

佐田が現時点まで話終わらないうちに村越課長がキャンキャンとわめいた。
村越課長
「郡司君、なんてことをしたんだ! もう呆れて何も言えないよ
クビだクビ、懲戒解雇ですよね、社長?」
小山社長
「村越、おまえ黙っていろ。佐田さん、いやさすがに本社の方は手際が良い。感心しました。
さて、お話はまだありそうですが、手っ取り早く結論を教えてほしい。我々は何をしなければならないのかと、どのような罪になるものでしょうか? いや佐田さんの予想でけっこうです」
佐田
「廃棄物の罰則は両罰規定と呼ばれます」
小山社長
「両罰規定とは?」
佐田
「社員が廃棄物処理法に違反したとき、罰則が実施した個人と法人に科されます。もちろん法人に懲役ってことはありませんから罰金だけです。どれくらいかというのは難しいですが、過去の事例から罰金50万くらいかと思います」
竹山
「脇から口を挟んですみません。最近では相場が上がって100万程度かと思います。この場合、一般人ではなく企業の環境担当者ですから当然法規制を知っているとみなされるでしょう」
佐田
「うーんそうすると、御社と郡司さんにそれぞれ100万の罰金というところでしょう。」
小山社長
「100万とは高くないか? 交通事故で人身事故を起こしても罰金30万くらいだよな? 村越、昨年社員が事故を起こした時はそんなもんだったな?」
村越課長
「そうですね、100万とは驚きです」

竹山
ごみ袋
「廃棄物の不法投棄は罪が重いのです。というか不法投棄の抑止力にならないと罰金の意味がありませんからね。家庭ごみをその辺に捨てても罰金30万とか50万は普通です」
小山社長
「そうなのか!」
佐田
「それだけには終わりません」
小山社長
「とおっしゃると?」
佐田
「措置命令、つまり不法投棄された廃棄物を撤去し適正に処理する費用の支払いを命じられる恐れがあります。これは法人が支払います」
小山社長
「金額としてはどれくらいになるのだろうか?」
佐田
「竹山さん、この不法投棄で既に措置命令が出された会社ってあったよね?」
竹山
「報道では不法投棄した廃棄物処理業者とその役員に1億くらい請求があり、排出者が100数十社ほど公表されていますが、それらへの請求額は30万から100万くらいだったと思います。金額は委託した廃棄物の量で異なりますから」
小山社長
「ウチから彩重に頼んだ総額が100万といったな? まあ、全部が全部、不法投棄されたわけでもないか。仮に4分の1として撤去作業と処理費用でウチも50万くらいと見て良いか・・・」
佐田
「断定はできませんがその程度かと思います」
小山社長
「分った。行政が公表したら謝罪文を出して関係するところに配りましょう。罰金は払わなくちゃならないだろうが、ともかく弁護士に相談しなくちゃならないな。心当たりがないから税理士の大原先生に相談することにしよう。
あとはだな、マスコミの取材を受けたときは村越、お前が説明しろよ、頭を下げるのは俺がするからよ
しかしだな、ウチだってISO14001認証しているんだろう、毎年おごそかな審査を受けているが、あれは役に立たってないのか?」
村越課長
「そうですよね、社長。審査員に責任を取ってもらいたいですね。そういうことはできないのですか?」
竹山
「ISO審査登録証に『法を守っているかを確認していない』って書いてありますよ」
小山社長
「はあ!それじゃ審査を受ける意味がないじゃないか。金をどぶに捨てているようだ」
村越課長
「審査のときは法違反の恐れがあるなんて言っていて、法を守っているかを確認していないということはどういうことなんだ? 審査員の言うことを聞く必要はないということだな」
竹山
「それどころじゃありません。不祥事を起こすと認証取り消しになります」
小山社長
「はあ!問題を起こすと認証取り消しですか。恥の上塗りだな。それじゃ認証ってなんなんだよう〜」
佐田
「そうそう、忘れていましたが、ISOの認証機関に連絡した方がいいですね。法に関わる問題が起きたと説明しておいた方が良いでしょう。いや、いっそのこと認証を辞退してしまった方が良いかもしれない。御社はウチと取引しているだけだから、元々ISO認証する必要がありません」
小山社長
「村越、いや郡司、認証機関にすぐに電話して、昨日付けで辞退するって言え。違反したなんていうことはないからな。今4時半だからまだ間に合うだろう。
それから村越、竹山さんと相談してマスコミ対応の準備をしておけよ。俺の謝罪会見の文案も作っておけ。会見なんてことはまずないだろうと思うけどよ」
佐田
「私の方も広報担当に御社の支援をするよう話をしておきます。そういったことは専門家の方がよろしいですから。そうだ、終業前に広報に連絡しておいた方が良いでしょう」
小山社長
「よろしくお願いするよ」
佐田は本社の広報に電話をして説明した。
郡司も認証機関に電話しているようだ。
佐田
「明日午前中に広報の者がこちらに来るとのことです。それじゃ私はこれで失礼します」
小山社長
「お世話になりました。じゃあ、わしが駅まで送っていくわ。村越は竹山さんとちゃんと相談しておけよ
それから郡司は明日以降も平常通り勤務すること。お前の仕事は環境とISOだけじゃないんだから」

小山は車の中で佐田に話しかけてきた。
小山社長
「郡司が有罪になっても、ここで雇用することは問題ないのでしょうね?」
佐田
「それは御社が決めることですね」
小山社長
「本人の罰金は本人が支払うわけですか?」
佐田
「そうです。当たり前と言えば当たり前ですが」
小山社長
「郡司は貯金があるのかなあ〜、」
佐田
「まだ罰金刑と決まったわけではありません。それから竹山は100万が相場といいましたが、いくらになるかは見当がつきません。ただ通常こういったものはほとんどが略式命令ですから100万以下でしょう」
小山社長
「略式命令とは?」
佐田
「軽い罪の場合、被疑者が罪を認めると裁判所で公判を開かずに処理するのです。例えば交通違反については98%が略式命令で処理されていると言われています。ただこの方法は罰金が100万までなんです」
小山社長
「なるほど・・・・法律で罰金1000万とあっても略式となると100万以下ということになるのですね。仮に100万だとして郡司は払えるだろうか? 貸すか少しボーナス名目で出せばいいのだろうか・・」
佐田
「それは社長さんのご判断ですね。社内的に問題がなければよろしいですが」
小山社長
「わかった、それは私のマターだな。さて駅に着いた。今日はお世話になった」
佐田
「まだ始まったばかりですよ。いずれにしても短期で決着がつくわけじゃありません。決着がつくまで数か月、へたすると1年くらいは覚悟しておいた方がよろしいですね」
小山社長
「ISO認証のことだけどさ、流行に乗り遅れまいとしたけど、とりあえず認証は辞退するとして、もうバカなことはしないよ。毎年々々何十万も払っていたけどさ、少しも役に立たないようだ。 まあ認証をやめれば今年と来年の審査料金で罰金代くらいになりそうだ。再来年の審査費用が措置命令分かな、アハハハハ」


それから三日後に○○県の環境課は、措置命令を出した社名を公表したが、天叢雲あめのむらくも電子はその長いリストのひとつにすぎなかった。テレビも新聞も報道したが、扱いは小さく誰も気にもしなかったようだ。天叢雲にも素戔嗚すさのおの本社にもマスコミの取材はなかった。佐田も関係者もみなホッとした。
そして4ヶ月ほど後のこと、天叢雲と郡司にそれぞれ100万の罰金が略式命令で申し渡された。竹山が言ったように以前に比べて相場が上がっているようだ。
小山社長は郡司の罰金を援助したのだろうか? 佐田は気にはなったが、わざわざ問い合わせはしなかった。
竹山は今回の一件の報告書から固有名詞を省いてグループ企業に配布し、法規制の理解と再点検を指示した。来年度の監査の時に点検結果をフォローするつもりだ。

半年くらいして、竹山が別件で天叢雲に電話したら郡司が出たという。ということは、その後もちゃんと勤めているわけだ。誰にでもミスもあるし、人生は長いからリカバリーする機会もあるだろうと佐田は思う。竹山にもそんなことがあったことだし。

うそ800 本日のバカバカしいこと
法の規制内容も罰則も、毎年くらいに改正がありドンドン変わっています。今回は2010年の物語なので、当時の廃棄物処理法の罪の重さはどうだったか調べました。ところがこれけっこう骨なんです。法律を読むと現時点の規制や罰金額は分りますが、5年前はどうだったか、10年前はどうだったかというのは基本的には分りません。古い条文が載っているものを探すしかありません・・
更にバカバカしいことですが、あまり深く考えずにキーを叩き始めましたが、途中で契約書やマニフェスト交付状況の年月のつじつまが合わなくなってしまい、改めて契約やマニフェスト交付の年月一覧表を作ってから書き直しました。嗚呼アホラシイ

うそ800 本日の疑問
2013年に、当時フジテレビの女性アナウンサーが、ホテルの駐車場で人をひき殺した事故がありましたね。あのときも略式命令で罰金100万だったそうです。個人的には無許可業者に廃棄物を委託して罰金100万と、人をひき殺して罰金100万ではバランスがとれていないように思います。みなさんはどう思いますか?
もちろんひき殺した場合は罰金だけでなく慰謝料を払うわけですが、廃棄物の場合は措置命令があるわけで、それはそれで同じなのですから・・・



外資社員様からお便りを頂きました(2014.09.18)
措置命令、有効性の話しは、多分 御体験に則した判り易い例で、かつ生々しい内容で、大変参考になりました。

<有効性>
ここで出てくる社長は、立派ですね。 中小企業では、人材も限られるので、どれだけ人を活かせるかが重要です。
中小企業では多少問題があっても人を辞めさせずに活かせるかが重要で、その点がとてもリアルに感じました。
ブラック企業などと言いますが、法律に無知なトンデモ社長を除き、大手で無いと出来ない贅沢かもしれません。

私のところは外資系なので、ISOの有効性は、顧客からの要求である場合を除くと、用語と文書体系の統一いう点にあります。
現地語でのマニュアル、英文のグローバル文書など、各国法人ごとの規定や文書が存在して、その国ごとの習慣や文化、言語を理解しないと、正しい判断が出来ません。
しかし、ISOに基づいた文書体系や、用語解釈があれば、その文書を理解する事は、かなり容易になります。
ISOの言う**に相当する文書や規定はと聞けば、対応文書が見つかる点は大変助かっています。
そういう意味では、ISOの規定は、各国用語での文書をつなぐ中間言語のような存在なのだと思います。

当然ですが、不祥事や遵法は、全く別のお話です。
前に、米国系大手食品会社の不祥事が中国政府の意図で国際的に報道され、大騒ぎになりましたが、現地の実態を知っている人からすれば、あの程度は当たり前の事で騒ぐに当たりません。
現地ビジネスを知っている人は、あの報道は、政治的な意図があって行われた事を理解しており、品質問題が本旨では無い事を判っております。
当然にあの企業もISO認証があるし、認証があっても政府系でも、もっとひどい企業は当然に存在します。

外資社員様 毎度ご指導ありがとうございます。
どんな仕事でも10年15年していればドロドロというのはありますが、当然守秘義務もありますし、社会通念もありますから、まあ、そのへんは
なにか失敗したとき、事実関係を確かめずにひたすら謝って対処するという道もあるでしょう。日本ではそういった態度が立派だと思われるということはあると思います。田中角栄の「好きにやれ、責任は俺がとる」なんてのもその一変形でしょう。
 いわゆる「太っ腹〜」というのでしょうか、
他方、人がミスをするとそれを徹底的に叩くという文化の国もあり、そういうところでは完全に自分に責任があっても、ああだこうだと言い訳するという態度が一般的ということになるでしょう。
 いえ、どこだは言いませんが
本当は事実関係をしっかり調べて、責任のある部署、人がそれを改善していくべきだということでしょう。そういう意味では日本人はもっと論理的にならなければなりませんし、某国の人ももっと論理的にならなければなりません。
 おお、なぜか同じことになってしまったぞ!

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