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この物語は現在2002年頃であり、当時の1996年版では「実施計画」ではなく「マネジメントプログラム」であった。 2004年改定で社内の文書の呼び名を「実施計画」から「マネジメントプログラム」に変更した会社がどれほどあったか、ご存じでしょうか? え、あんたの会社もそうでしたか! そりゃ乙です。 ネットでは「乙」とはしゃれているという意味ではなく、お疲れという意味です。 しかし「実施計画」を「マネジメントプログラム」に直したとして、いったい何が違うのでしょうか? 会社の利益が増えるわけでもなく、地球環境保護になるわけでもなく、パソコンの電力を使いPPCを消費して、地球環境悪化を促進しただけのようです。
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「やあ、しばらくだね。調子はどうだい?」
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「調子か・・・最低だね。ちょっと話できるか?」
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「時間ならいくらでもあるよ。何しろ仕事がない」
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二人はパントリーに行って給茶機からコーヒーを注ぐ。
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「なにかあったのかい?」
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「あったあった。前回お前に会ったとき話したと思うが、おれは販売会社の立て直しをしろって言われていたんだ。それがさ・・・」
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「それがどうした?」
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「関連会社の販売会社といってもウチの資本が100%じゃない。いや持ち分はほんの2割くらいなんだ。俺が行ったところはなかなか再建がうまくいかず、地場の大株主が嫌気がさして清算するってことになった。まあウチにとっても小さな販社がいくつもあるより、これを機会に集約できるというメリットもあってさ、つまり俺はお役御免というか失業だよ」
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「出向解除で本社に戻りか?」
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「まあとりあえずはそういうわけだ。今は次の嫁入り先を探すというか探してもらっているところだ」
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「いつのことだい?」
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「戻ってきたのが1週間前で、次はまだ不明だ。出戻って来たときここにお前の顔を見に来たんだが、三木は講習会に行っているとか聞いた」
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「実は俺は今ヒマでさ、講習会とかあちこち歩いているんだ。しかし島田君は大変だなあ〜」
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二人はしばし黙ってコーヒーを飲む。
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「ところで三木の方はどういう塩梅だ?」 |
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「とらなくちゃならないと言われている資格試験は受けたが、合格発表はまだ先だよ。合格ならハッピーだが不合格だと先が見えない」
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島田はため息をついた。
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「いやはや、老人三界に家なしか。サラリーマンと言えど、会社の外で通用する能力がないと生きていけないね」
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「だけどどこに行っても通用する能力なんて簡単に身に付くものじゃないし、そもそもどんな力量なら他に行っても通用するのだろう?」
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「能力とか力量って簡単に言うけれど、いったいなんなんだろうねえ〜」
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「結局なんだなあ〜、俺たちは非常に限定された業務を執行する能力しかないのだろうねえ〜」
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「ISO規格ではそれぞれの仕事に必要な力量をはっきりさせて、従事する人にはその力量を身に付けさせることとあるのだけど、まず力量ってのがはっきりこうだと言えるものだろうかねえ〜」
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「必要な能力、三木は力量といったが、それが簡単に箇条書きなんかできるなら簡単だよね。 三木は部下を教えるときどんなことをしたんだ?」 | ||
三木は頭の後ろで指を組み合わせて空中の一点を見つめた。 部下を教えるというよりも、自分が大学を出て営業に配属になってからどんなことをしてきたのだろうか? なにかテキストに書いてあることをひとつずつ身に付けてきたというのではなく、先輩の真似をして仕事をして、失敗したり成功したりして、だんだんと自分のスタイルを作り上げ、それと共に失敗しにくくなり、またいろいろなバリエーションにも応用がきくようになったとしか言いようがない。 | |||
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「確かにそう言われると、マニュアルとか決まりきったことを覚えれば良いというものではないね。 まず自社が置かれている業界の全容、自社製品のラインナップ、競合製品の知識、基本的な法律・・」 | ||
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「相手する代理店の幹部から担当者、それだけじゃないパートの人の顔と名前を覚えなければいかんぞ」
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「そういった人の家族環境とかもあるね」
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「俺たちの頃は相手の担当者の誕生日なんて知ってなにかしらしたものだが、今はどうなんだろう?」
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「精神的タフネスも必要だね。失敗して恥をかいてもまた訪問するというしたたかさも必要だし・・」
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「そういや同期に、断られても毎日行って座り込めなんて言われて、それを信じて警察に通報されたのもいたね、アハハハハ」
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「そういうことは法規制だけじゃなくて、その人のキャラクターもあるし簡単ではないね」
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「まさしく、」
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「ともかく力量を紙に書き表すなんてことはできるのかどうか見当もつかないよ」
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「さっき三木が言ったが、審査で『この仕事の力量は明確になっていますか?』なんて質問して、どんな回答が返ってくるのを期待するんだろう?」
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「うーん、おっしゃるとおりだ。自分が分らないことを人に聞いて、あげくに評価判定するなんて恐れ多いことだ」
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「まあ、俺たちだって製品の環境性能から何から知って売っていたわけじゃないから、多少はいいかげんなところがあってもよいのかな アハハハ」
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島田は当分本社の事業部の片隅にいるという。お互いになにか進展があったら情報交換しようと言って帰っていった。
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12月上旬のある日、美奈子が三木にはがきを持ってきた。
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「三木部長、はがきが届きましたよ♥」
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「えっ」
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三木は美奈子からはがきを受け取ると即座に合否を見た。
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「みなちゃん、水質も大気も合格だあ!」
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三木はついつい大声を出してしまった。 今は公害防止管理者合格通知のはがきはクレジットカードの月ごとの通知のように紙が圧着されたものであるが、私が受験した20年も前は普通の官製はがきに自分の住所を書いて申請時に添付したような記憶がある。三木の物語は2002年頃なのでどちらなのか分らない。 | |||
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「私は合格すると信じてましたよ」
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「おお、正直ホッとしたよ。人事にこれからどうするのか聞いてきますわ」
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「もう出向条件はクリアですね。じゃあお祝いしなくちゃ」
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「そいじゃ、ちょっと行ってくるよ」
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三木ははがきを持って人事に話をしに行った。人事課長は三木をねぎらいナガスネと出向日程を調整するという話をした。ただ話がまとまるには時間がかかるだろうという。今12月中旬だがへたをすると4月以降かもしれないという。人事課長の話では、どこでも人件費の予算があるだろう。三木が出向してもすぐに戦力になるわけではなく、向こうでも人件費の予定があるだろうという。確かにそうだろうと三木も思う。人事課長ははっきりするまで研鑚していてほしいとのことであった。 三木はその足で環境管理部に行った。幸い氷川と本田がいたので三人でコーヒーを飲みながら話をした。 | |||
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「三木よ、お前のような素人が公害防止管理者を一度にふたつも受験して合格なんてすごいと思うぞ」
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「まったくです。これで三木さんも出向ですか」
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「ここに来る前に人事に寄って合格を報告してきました。人事課長がナガスネ認証機関と出向の話を進めるといっていた」
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「これからがまた大変ですね」
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「これから大変とおっしゃいますと?」
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「出向してもすぐに審査員ができるわけじゃないです。認証機関に行ったら規格解釈などの実技面や、倫理や礼儀作法の講習もあると思いますよ。その他手続きや出張手配、勤怠その他いろいろあるでしょうし」
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「本田君、審査員になるまでも大変なんだろう」
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「そう聞いていますね。審査が多数あれば頻繁に参加できるでしょうけど、あまりなければ審査経験を積むのも大変でしょうし」
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「だって審査員補から審査員になるのには審査経験4回、20日以上でしたよね。出向してひと月もすればこれを満たすんじゃないですか?」
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「三木さん、それは甘い。ナガスネには三木さんだけじゃなく新たに出向した人が何人もいるでしょう。審査経験が欲しいという出向者や契約審査員がたくさんいるのです。ああ、もちろん取締役とか幹部は優先的に参加させてもらえるでしょうから、出向して半年もせずに主任審査員になるでしょう。でも、そうでなければ補がとれるまで相当月日がかかりますよ」
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三木はそんなものかと思う。これから大変そうだなあ〜
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「それから三木よ、お前が公害防止管理者ふたつも一発で合格したんで、人事などがあの試験が簡単だと思うかもしれない。あの試験はけっこう合格率が低いんだ。せいぜい2割ってところかな。まあウチでは受験者を選んで先輩がおしえたり講習会を受講させているが、それでも合格率は6割とか7割だ。 お前はまったくの素人だったうえに、ほとんど独学だったんでよくやったと思うよ。 それでだ、お前が今まで勉強した方法や進捗状況などをまとめて人事に提出しておけば次の人に役に立つと思う。もちろん公害防止管理者の勉強だけでなく本社に来てからしてきたこと全般をね」 | ||
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「なるほど、俺も全く何も知らずに試行錯誤だったからなあ〜、今知っている情報があれば無駄なことをせずに効率的にできたはずだ。今までのことをまとめておこう」
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翌週の昼休み、三木は美奈子と氷川そして本田を丸ビルで昼食をとった。初めは美奈子だけと思ったが、変に思われるのもいやだし、今までもこれからもお世話になるだろうと氷川と本田を誘った。● ● 美奈子にその話をするとベトナム料理の店を予約してくれた。 初めは三木が招待するという話をしたが、三人がお祝いだと言うので結局割り勘にした。三木はみんなにお世話になったと心底からお礼を言った。 |
答は → | 本田ですね。偏屈なところは私そっくりです |